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第3話 魔寄せの娘、王都に着く
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「キヒヒッ、馬車と有り金全部置いていきなァ!」
王都へ向かう馬車は、周りを取り囲む盗賊たちで身動きが取れなくなってしまった。
盗賊はナイフを舌で舐めながら、残虐な笑みを浮かべている。
しかしこの直後、馬車強盗の三人組は後悔するハメになるのだ……。
――話は数時間前に遡る。
「ええと、王都まではあのどのくらいなのかな……」
王都にほど近い街に到着したソフィアは、地図をぐるぐる回しながら四苦八苦していた。
彼女は村から出たことがないので、村の外の方向感覚も地図の読み方もわからないのだ。
今までは「とりあえず大きな道を歩けば王都に着くだろう」と思っていたし、実際それでここまで来れたのだが……。
ここからは王都の他にも大都市への道がいくつも分かれており、どれを歩けばいいか分からなくなってしまった。
宿屋の主人に尋ねると、「王都に行くには馬車の定期便が通ってるから乗せてもらうといいよ」と教えてもらった。
ソフィアはその言葉を信じて、定期的に王都とこの街を往復している馬車に乗り込んだのである。
……そして、不運なことに馬車強盗に遭遇してしまったのだ。
「ひ、ひえぇ……」
馬車を駆る御者はすっかり怯えてしまっている。無理もない。ナイフを持った強盗に囲まれて平静でいられる一般人はなかなかいないだろう。
ソフィアは小さくため息をつきながら、「少し待っていてくれ」と御者に声をかけてから、馬車を降りた。
彼女を見た強盗たちは舌なめずりをする。
「おっ、今回の獲物は女か。身ぐるみ剥がして奴隷市に売るのもいいかもしれねえなあ?」
「おいおい、こんな顔に傷の付いた女が高く売れるとも思えねえぜ?」
「いやしかし、キズモノであることを差し置いてもなかなかべっぴんさんだぜ? まあどちらにしろ、お前の旅はここでおしまいさ。なにせ有り金全部巻き上げられるんだからなァ」
しかし次の瞬間、「ぶげぇっ!?」と悲鳴を上げて盗賊のひとりが豪快に吹き飛んだ。ソフィアが無言で顔のど真ん中を殴り飛ばしたのだ。
吹っ飛んだ仲間を見て、唖然とする強盗たち。
ソフィアは盗賊の鼻血がついた拳を軽く振る。
「お前たちはつくづく、人をイラつかせるのがお上手だな。こっちは道を急いでいるんだよ。私の貴重な時間を使わせるな」
ソフィアはフラストレーションが溜まっているようで、眉間にシワを寄せて強盗たちを睨みつける。
殴り飛ばされた盗賊は鼻血を手の甲で拭いながら、怒りをあらわにした。
「てっ……めぇ、やりやがったな!? 奴隷市に売り飛ばすのは辞めだ、俺らのアジトでペットにしてやる!」
「そうだそうだ、お前の自尊心を粉々に砕いて、くたばるまで俺らのおもちゃにしてやるよ!」
強盗たちは自分たちがナイフを持っていること、そしてソフィアが何も武器を持っていないことに慢心していた。それが敗因とも言えるだろう。
盗賊は三人がかりでソフィアに襲いかかった。
しかし、常日頃から人間よりも遥かに手強いモンスターとの戦闘に慣れているソフィアが、武器なしというハンデがあるとしても負けるわけがなく……。
「お前たちの不運は、私の乗っている馬車を襲ってしまったことだな。日頃の行いのせいなんじゃないか?」
――三十分後には、ソフィアは完全に盗賊三人組を制圧していたのである。
顔から身体からボコボコにされた盗賊の三人は、腕を組んで仁王立ちしているソフィアに土下座して命乞いをしているところだった。
「お、お許しくだせぇ……生活のためだったんです。生きるために仕方なく……」
「ほう。奴隷市だのペットだのおもちゃだの言ってたのはどう弁解するのかな?」
「いやいやいや、それはコイツが勝手に言ってただけで……」
「おいっ! 俺ひとりのせいにするんじゃねえ!」
責任をなすりつけ合い始める盗賊たちに、ソフィアはまたイライラし始める。
「もういいから、黙れ。あんなセリフを吐いて私に襲いかかってきた時点でお前らはそうするつもりだったんだろうが」
「…………」
ソフィアの言葉に、論破された盗賊たちは何も言い返せなくなる。
「ちょうどいいから、このままお前らも王都まで連れてってやるよ。少しでも変なそぶりを見せたらどうなるか分かってるだろうな?」
ガックリとうなだれた盗賊たちを馬車に押し込み、御者にそのまま王都まで馬車を走らせてもらった。
馬車は一時間ほど、キレイに整地された道を進み、王都の入り口の門前で停まった。
そこで降りたソフィアは門を守っていた騎士に盗賊の三人を突き出して、あとは任せることにして王都の中に入った。
「あ~……長い旅だった……」
正確な日数は覚えていないが、辺境の村から王都に来るまで徒歩と馬車で一ヶ月ほどだろうか。
王都に来た彼女は、その王都の規模の大きさと人の多さにまず驚いた。
完全におのぼりさんだな、と自分で苦笑しながら、まずは冒険者ギルドを目指すことにした。
「ソフィアさんですか。ここに来るまでにずいぶんモンスターを倒してきたんですね。これだけの実績があれば、すぐにでも依頼がこなせると思いますよ」
ギルドの受付嬢が営業スマイルでギルドへの登録をあっという間に済ませてくれた。
冒険者登録はあっけないほど早く終わって、登録者証を手渡されたソフィアは、なんだか冒険者になった実感がイマイチ湧かなかった。だが、これで正式な冒険者になれたのは確かだ。
「あ、そうだ。ギルドって戦利品の売却もできるんですよね? 私、斧は使わないのでここで売却して宿代の足しにでもなればと思っているんですが……」
ソフィアはふと思い出して、魔法の収納カバンからオークを倒したときに手に入れた巨大な斧を取り出した。
受付嬢はぽかんとしている。ついでに周りにいた冒険者も目を丸くして、そんなどデカい斧を軽々と手に持ったソフィアを見ていた。
(あ、あれ? 私、なにかおかしなことしたかな……?)
戸惑うソフィアに冒険者らしき男が話しかけてくる。
「すまんが、その斧、俺に売ってくれないか? その斧なら金貨三十枚の価値はあるぜ」
「あ、そうなんですか? 私はとりあえずお金になればそれでいいので……」
ソフィアが交渉に応じようとすると、不意にぽんと肩に手を置かれた。
振り向くと、ソフィアの肩に手を置いた男は険しい目をして斧を欲しがる男を見据える。
「ちょっと待った。オークの斧は戦利品の中でもレア物、しかもオークはそれなりに強敵だ。金貨三十枚で足りるわけ無いだろ。不当な交渉はやめろよ」
「チッ……」
斧を欲しがっていた男は舌打ちをしてその場を早足で立ち去った。
ソフィアはそれで、自分が騙されかけていたことを知ったのだ。
「ありがとうございます。戦利品の相場がわからないから危うく騙されるところでした」
「無理もないよ。君、王都の外から来たんだろ? ああいう奴らは世間知らずを食い物にするから、気をつけた方がいい」
「そうですね。田舎者なもので、お恥ずかしい限りです……」
照れ笑いをするソフィアに、男は優しい微笑みを向ける。
「僕の名前はフィロ。君は?」
「ソフィアです」
「ソフィア、よかったら僕と一緒にパーティーを組まないか? 実は僕はパーティーリーダーで、仲間を探していたところだったんだ」
「え、いいんですか? 仲間がいれば心強いので嬉しいです」
ソフィアは二つ返事で了承した。彼女は素直すぎて、さっき騙されかけたことも忘れてフィロをすっかり信用していたのである。
自分が格闘士であることを告げると、ちょうど前衛の役割を担当する人材が欲しかったのだという。
「あ、でも、クエスト受注の前に……この王都で呪いについて研究している施設などはありますか?」
「え、呪い? 呪いなら教会で解ける人がいると思うけど……なんか変な装備でもつけちゃった?」
「実は……」
ソフィアはフィロに自らにかけられた呪い……「魔寄せの力」について打ち明けた。
しかし、フィロはその話を聞いてこう答えたのだ。
「それは本当に呪いなのかな? 君はその力を使ってモンスターとの戦いの経験を積んで、この王都まではるばるやってきたんだろ? 使いようによっては便利な能力だよ。無理にその力を消そうとしなくていいんじゃないかな?」
ソフィアは驚いてしまった。今まで、この『呪い』を良い方向に捉える人間には会ったことがなかったからだ。
「それに、今はある程度その『力』を制御できるんだよね?」
「そうですね、完全に、ではないですけど……」
「よかったら、その力を僕たちに貸してほしい。ちょうどパーティーを立ち上げたばかりで、モンスターとの戦闘の経験を仲間に積ませたいんだ」
「私でお力添えできるなら、喜んで」
こうして、ソフィアはフィロという男と知り合い、さらにパーティーという仲間を得たのである。
〈続く〉
王都へ向かう馬車は、周りを取り囲む盗賊たちで身動きが取れなくなってしまった。
盗賊はナイフを舌で舐めながら、残虐な笑みを浮かべている。
しかしこの直後、馬車強盗の三人組は後悔するハメになるのだ……。
――話は数時間前に遡る。
「ええと、王都まではあのどのくらいなのかな……」
王都にほど近い街に到着したソフィアは、地図をぐるぐる回しながら四苦八苦していた。
彼女は村から出たことがないので、村の外の方向感覚も地図の読み方もわからないのだ。
今までは「とりあえず大きな道を歩けば王都に着くだろう」と思っていたし、実際それでここまで来れたのだが……。
ここからは王都の他にも大都市への道がいくつも分かれており、どれを歩けばいいか分からなくなってしまった。
宿屋の主人に尋ねると、「王都に行くには馬車の定期便が通ってるから乗せてもらうといいよ」と教えてもらった。
ソフィアはその言葉を信じて、定期的に王都とこの街を往復している馬車に乗り込んだのである。
……そして、不運なことに馬車強盗に遭遇してしまったのだ。
「ひ、ひえぇ……」
馬車を駆る御者はすっかり怯えてしまっている。無理もない。ナイフを持った強盗に囲まれて平静でいられる一般人はなかなかいないだろう。
ソフィアは小さくため息をつきながら、「少し待っていてくれ」と御者に声をかけてから、馬車を降りた。
彼女を見た強盗たちは舌なめずりをする。
「おっ、今回の獲物は女か。身ぐるみ剥がして奴隷市に売るのもいいかもしれねえなあ?」
「おいおい、こんな顔に傷の付いた女が高く売れるとも思えねえぜ?」
「いやしかし、キズモノであることを差し置いてもなかなかべっぴんさんだぜ? まあどちらにしろ、お前の旅はここでおしまいさ。なにせ有り金全部巻き上げられるんだからなァ」
しかし次の瞬間、「ぶげぇっ!?」と悲鳴を上げて盗賊のひとりが豪快に吹き飛んだ。ソフィアが無言で顔のど真ん中を殴り飛ばしたのだ。
吹っ飛んだ仲間を見て、唖然とする強盗たち。
ソフィアは盗賊の鼻血がついた拳を軽く振る。
「お前たちはつくづく、人をイラつかせるのがお上手だな。こっちは道を急いでいるんだよ。私の貴重な時間を使わせるな」
ソフィアはフラストレーションが溜まっているようで、眉間にシワを寄せて強盗たちを睨みつける。
殴り飛ばされた盗賊は鼻血を手の甲で拭いながら、怒りをあらわにした。
「てっ……めぇ、やりやがったな!? 奴隷市に売り飛ばすのは辞めだ、俺らのアジトでペットにしてやる!」
「そうだそうだ、お前の自尊心を粉々に砕いて、くたばるまで俺らのおもちゃにしてやるよ!」
強盗たちは自分たちがナイフを持っていること、そしてソフィアが何も武器を持っていないことに慢心していた。それが敗因とも言えるだろう。
盗賊は三人がかりでソフィアに襲いかかった。
しかし、常日頃から人間よりも遥かに手強いモンスターとの戦闘に慣れているソフィアが、武器なしというハンデがあるとしても負けるわけがなく……。
「お前たちの不運は、私の乗っている馬車を襲ってしまったことだな。日頃の行いのせいなんじゃないか?」
――三十分後には、ソフィアは完全に盗賊三人組を制圧していたのである。
顔から身体からボコボコにされた盗賊の三人は、腕を組んで仁王立ちしているソフィアに土下座して命乞いをしているところだった。
「お、お許しくだせぇ……生活のためだったんです。生きるために仕方なく……」
「ほう。奴隷市だのペットだのおもちゃだの言ってたのはどう弁解するのかな?」
「いやいやいや、それはコイツが勝手に言ってただけで……」
「おいっ! 俺ひとりのせいにするんじゃねえ!」
責任をなすりつけ合い始める盗賊たちに、ソフィアはまたイライラし始める。
「もういいから、黙れ。あんなセリフを吐いて私に襲いかかってきた時点でお前らはそうするつもりだったんだろうが」
「…………」
ソフィアの言葉に、論破された盗賊たちは何も言い返せなくなる。
「ちょうどいいから、このままお前らも王都まで連れてってやるよ。少しでも変なそぶりを見せたらどうなるか分かってるだろうな?」
ガックリとうなだれた盗賊たちを馬車に押し込み、御者にそのまま王都まで馬車を走らせてもらった。
馬車は一時間ほど、キレイに整地された道を進み、王都の入り口の門前で停まった。
そこで降りたソフィアは門を守っていた騎士に盗賊の三人を突き出して、あとは任せることにして王都の中に入った。
「あ~……長い旅だった……」
正確な日数は覚えていないが、辺境の村から王都に来るまで徒歩と馬車で一ヶ月ほどだろうか。
王都に来た彼女は、その王都の規模の大きさと人の多さにまず驚いた。
完全におのぼりさんだな、と自分で苦笑しながら、まずは冒険者ギルドを目指すことにした。
「ソフィアさんですか。ここに来るまでにずいぶんモンスターを倒してきたんですね。これだけの実績があれば、すぐにでも依頼がこなせると思いますよ」
ギルドの受付嬢が営業スマイルでギルドへの登録をあっという間に済ませてくれた。
冒険者登録はあっけないほど早く終わって、登録者証を手渡されたソフィアは、なんだか冒険者になった実感がイマイチ湧かなかった。だが、これで正式な冒険者になれたのは確かだ。
「あ、そうだ。ギルドって戦利品の売却もできるんですよね? 私、斧は使わないのでここで売却して宿代の足しにでもなればと思っているんですが……」
ソフィアはふと思い出して、魔法の収納カバンからオークを倒したときに手に入れた巨大な斧を取り出した。
受付嬢はぽかんとしている。ついでに周りにいた冒険者も目を丸くして、そんなどデカい斧を軽々と手に持ったソフィアを見ていた。
(あ、あれ? 私、なにかおかしなことしたかな……?)
戸惑うソフィアに冒険者らしき男が話しかけてくる。
「すまんが、その斧、俺に売ってくれないか? その斧なら金貨三十枚の価値はあるぜ」
「あ、そうなんですか? 私はとりあえずお金になればそれでいいので……」
ソフィアが交渉に応じようとすると、不意にぽんと肩に手を置かれた。
振り向くと、ソフィアの肩に手を置いた男は険しい目をして斧を欲しがる男を見据える。
「ちょっと待った。オークの斧は戦利品の中でもレア物、しかもオークはそれなりに強敵だ。金貨三十枚で足りるわけ無いだろ。不当な交渉はやめろよ」
「チッ……」
斧を欲しがっていた男は舌打ちをしてその場を早足で立ち去った。
ソフィアはそれで、自分が騙されかけていたことを知ったのだ。
「ありがとうございます。戦利品の相場がわからないから危うく騙されるところでした」
「無理もないよ。君、王都の外から来たんだろ? ああいう奴らは世間知らずを食い物にするから、気をつけた方がいい」
「そうですね。田舎者なもので、お恥ずかしい限りです……」
照れ笑いをするソフィアに、男は優しい微笑みを向ける。
「僕の名前はフィロ。君は?」
「ソフィアです」
「ソフィア、よかったら僕と一緒にパーティーを組まないか? 実は僕はパーティーリーダーで、仲間を探していたところだったんだ」
「え、いいんですか? 仲間がいれば心強いので嬉しいです」
ソフィアは二つ返事で了承した。彼女は素直すぎて、さっき騙されかけたことも忘れてフィロをすっかり信用していたのである。
自分が格闘士であることを告げると、ちょうど前衛の役割を担当する人材が欲しかったのだという。
「あ、でも、クエスト受注の前に……この王都で呪いについて研究している施設などはありますか?」
「え、呪い? 呪いなら教会で解ける人がいると思うけど……なんか変な装備でもつけちゃった?」
「実は……」
ソフィアはフィロに自らにかけられた呪い……「魔寄せの力」について打ち明けた。
しかし、フィロはその話を聞いてこう答えたのだ。
「それは本当に呪いなのかな? 君はその力を使ってモンスターとの戦いの経験を積んで、この王都まではるばるやってきたんだろ? 使いようによっては便利な能力だよ。無理にその力を消そうとしなくていいんじゃないかな?」
ソフィアは驚いてしまった。今まで、この『呪い』を良い方向に捉える人間には会ったことがなかったからだ。
「それに、今はある程度その『力』を制御できるんだよね?」
「そうですね、完全に、ではないですけど……」
「よかったら、その力を僕たちに貸してほしい。ちょうどパーティーを立ち上げたばかりで、モンスターとの戦闘の経験を仲間に積ませたいんだ」
「私でお力添えできるなら、喜んで」
こうして、ソフィアはフィロという男と知り合い、さらにパーティーという仲間を得たのである。
〈続く〉
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