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ラピスラズリ王国編

第10話 サファイアの街と盗賊団

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私、神崎かんざきあやめ! 二十五歳の新米冒険者! 盗賊には容赦しません!(前世で殺されてるので)

――サファイアの街。
「や、やっと着いたぁ……」
魔車から降りた私はうーんと伸びをする。
そんなに広くない魔車の中で何日も過ごして、身体中の骨がコキコキ言っている。
一緒に旅をしているエルモードさんは、魔車を運転する御者に運賃を渡していた。
魔物が引っ張る車は、そのまま次の客を乗せて出発してしまった。
「さて、まずは宿を取っておこうか」
サファイアの街は王都に近いだけあって、ガーネットの街よりもさらに広大だ。
綺麗に整備された石畳の上を歩きながら宿屋の看板を探せばすぐに見つかった。おまけに簡単にチェックインできた。
「本当に、君と一緒にいると僕まで運がいいね」
二人部屋のベッドに座り、荷物袋を床に置いてエルモードさんは笑いかけてくれた。
「うーん、極運きょくうんの効果なのか、たまたまなのか、私にはわかりかねますけど」
「偶然だって運のうちさ。しかも戦闘以外でも発揮できるなんてもはや敵なしだね」
それは言いすぎだと思うけど。
そう、私は『極運』と呼ばれる人間だ。運のパラメータがカンストしている。攻撃力はからっきしだが、即死攻撃を使えば相手は必ず死ぬ。そんな感じ。
「ひとまずはこの街にしばらくとどまって、また魔王の居場所について情報収集ですね」
「そうだね。ギルドに行く前に装備を整えておこう。回復アイテムもスクロールも底をつきそうだ」
そうして、私達は市場に向かい、いつギルドでクエストを受注してもいいように準備を整えた。
薬草や傷薬、MPポーションなどの回復アイテムを買い、鎧や剣などの装備を新調する。私の武器である毒針(即死効果あり)もメンテナンスしてもらった。裏路地に入るとガーネットの街と同じく魔術工房があって、そこでスクロールをしこたま買い込んだ。
ほうぼうの街を巡ってクエストをこなすうちに、いつの間にかこんなに買い物が出来るほどマニーが貯まっていた。
準備を整えてサファイアギルドへと向かうと、なんだかみんな慌ただしい。デジャブ。
「あっ! 冒険者の方ですか?」
受付嬢が私達に気づいて声をかける。
「おいでいただいて早々申し訳ないのですが、緊急クエストが発生してしまいまして! よろしければご参加いただけませんか?」
「僕たちでお力になれるなら」
受付嬢の言葉に、エルモードさんは二つ返事で了承する。
それにしても、また緊急クエストかあ……。
「それで、内容は?」
と私が尋ねると、
「最近盗賊団の活動が活発になってきているので、鎮圧してほしい」という。
前はゴブリン退治で、今度は盗賊団の鎮圧……うーん、なんでこんなしょぼいんだろう。
私が現実世界でゲームしてた頃は、もっと巨大ドラゴンをみんなでやっつけよう! みたいな規模の大きいものだった気がするんだけど。
「盗賊団……というと、僕たちがサファイアの街に来る途中で出くわした奴らだろうか」
エルモードさんは顎に手を当てて考える仕草をする。
「賞金首になっている盗賊も複数所属している、それなりに規模の大きい盗賊団です。賞金首を捕まえてくださったら更に報酬を上乗せします」
受付嬢の言葉に、冒険者たちは意気揚々と出発し始める。
「僕たちも行きましょう、レディ」
「そうですね。内容のショボさはともかく、盗賊には容赦しません」
なにせ私は前世でコンビニ強盗に腹を刺されて死亡している。コンビニ強盗もまあ広く捉えれば盗賊だろう、多分。
私は道すがら、エルモードさんに緊急クエストについての話をする。
「巨大ドラゴン……? ドラゴンなんてみんな山奥に逃げ隠れてしまって、ここ百年は見かけないというよ」
「えっ、百年ですか……?」
不思議そうに首を傾げるエルモードさんに、私はショックを隠しきれない。
私がゲームをやっていた頃はドラゴンなんてしょっちゅういたし、空にはワイバーンが飛んでいた。
もしかして、あの頃から百年経ったのがこの世界……?
そう考えると、ゲームとこの世界の違いというか違和感にも説明がつく。
この百年の間にドラゴンやワイバーンは狩り尽くされ、緊急クエストも小型の魔物が大量発生したり挙句の果てには同じ人間を鎮圧するくらいしか残っていないのだ。
さて、そんな話をしながら、私達は他の冒険者とともに盗賊団が潜んでいるという森にやってきた。
「魔王城? いや、俺は見たことないな」
「そんな目立つ建物があったら、冒険者が群れで飛び込んで魔王なんてすぐ倒しちまうよ」
同行した冒険者たちに話を聞いても、皆一様に首を振る。
「確かに魔王城なんて目印があったら、どんなにレベルが低くても冒険者が束になってかかれば魔王は倒せそうな気がしてきた……」
「ふむ……となると、どこかに潜伏して密かに魔物を増やしている、という可能性が高いな」
私とエルモードさんが話し込んでいると、突然「うわーっ!」と前方から叫び声が聞こえてきた。
「な、何!?」
見ると、冒険者の一人が足に縄をかけられ、宙吊りになっている。
「盗賊団の仕掛けた罠か!」
あれ、これゴブリン退治のときにも見たな。
というわけで、自ら極運であることを名乗った私が、ゴブリン退治のときと同じく罠除けとして先頭に立つことになったのであった。
草木をかきわけながら奥に進むと、不意に草が刈り取られ、木が切り倒されたひらけた場所に出る。
「アーン? なんだお前ら」
ナイフや鎖鎌を持った盗賊と思しき目付きの悪い男たちが私達を睨む。
「ヒャッハー! いきなり賞金首の盗賊様だぜ!」
「お前ら、早いもの勝ちだからな!」
……失礼、こちら側の冒険者達もわりとガラが悪かった。
「サファイアギルドより、あなた方盗賊団の鎮圧を命じられている。おとなしく投降すれば良し、さもなくば――」
エルモードさんの言葉の途中で、鎖鎌が飛んできた。エルモードさんは軽く首を傾けて避ける。
「おとなしく投降すると思うか?」
「よろしい、ならば鎮圧だ」
エルモードさんの言葉が合図だったかのように、冒険者たちが一斉に盗賊団に飛びかかる。
「ヒャハハハハ! 祭りだ祭りだ、血祭りだァー!」
「賞金首は俺のものだァー!」
もはやどちらが盗賊か分からない台詞が飛び交う。
「……どうやら、魔物を狩る機会もなく、血に飢えた冒険者が多いようですね」
エルモードさんが、静かにため息をつく。
実際、サファイアギルドは王都に近く比較的平和な土地であるがゆえに、クエストの依頼もあまり無いようだった。
せいぜい迷い猫探しとか、浮気調査とか。探偵かよ、と正直思った。
そのため、冒険のスリルを味わいたい冒険者にとっては退屈な街ではあったが、報奨金は高いので冒険者を引退した者がつい棲家すみかに選ぶ街のひとつだとも、エルモードさんから聞かされていた。
「エルモードさん、どうします? 私達も参加したほうがいいんですかね?」
「いえ、ここは彼らに任せておきましょう。僕たちは敵の親玉を叩きます」
エルモードさんは盗賊の一部が逃げていく茂みの奥を指差した。
――そういえば、サファイアの街に行く途中で盗賊に襲われたときも、「お頭に言いつけてやる」とかなんとか言ってた気がする。
つまり、この奥こそが本命。
盗賊団の頭ともなれば、報奨金も跳ね上がることだろう。
私達は他の冒険者が気づかないうちに、茂みの奥へと潜り込んでいった。

〈続く〉
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