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本編
第5話 復讐者・クロガネ
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アヤカシ堂の平穏が崩れたのは、いつもの日常、突然のことだった。
「うーん、今日もいい天気だな」
「爽やかな夏の朝って感じっすね~」
店長と俺は、境内に出て伸びをする。
「今日は一日晴れだって」
「そうか、気持ちのいい一日になりそうだな」
店長の影にトプンともぐった鈴が店長に話しかけ、店長もリラックスした調子で返す。
鈴は普段は店長の影の中にいることが多い。影を操るという特性のせいか、明るい場所はあまり得意ではないのかもしれない。
あとは、この日のように突然の襲撃を受けても反応できるようにとか。
突如、町の方角からブーン、と機械音が聞こえてきた。
「ん?」
耳の良い俺がいち早く気づいて音のした方を見てみると、茂みから何か小さなヘリコプターのようなものがガサッと飛んできた。
――ドローンだ。
そのドローンに銃口がついているのを見た瞬間、俺は「伏せろ!」と叫ぶ。
ズダダダダダダダ。
ドローンが弾丸を連射した。
結果的に言うと俺たちは無事である。もともと半妖の俺は銀の弾丸でも食らわない限りは滅多に死なないし、そもそも店長も俺も、鈴の影の盾で銃弾を防いでいた。
ドーム状に俺たちを囲っていた影が液体のようにぬるりと足元に返っていく。
「おいおい、誰だ? ラジコンで遊んでるやつは」
「店長、あれドローンって言うんですよ」
「知っとるわ、馬鹿にしてるのか」
『ここがアヤカシ堂だな、やっと突き止めたぞ』
俺と店長が漫才をしていると、ドローンから声が聞こえた。どうやらマイクも仕込んでいるらしい。
『天馬百合、山から降りてこい。貴様はそこにいれば安全だろうが、町の人間どもがどうなるかな』
どうやら、同じドローンで町の人間を襲うという脅迫らしい。
「訊きたいことがあるが、お前はアヤカシか?」
ドローンのカメラに向かって、店長が訊ねる。
『ああ、アヤカシだとも。お前が俺を覚えているかは知らんがな』
「覚えてないかもな、私に恨みを抱いてる妖怪なんていくらでもいる」
『貴様のそういうところがますます気に入らない』
「そうかよ」
『……町外れの空き地にて待つ。一時間以内に来なければ町を襲う』
ドローンはそう言い残して空高くへ飛んでいく。
「この神社は結界が張ってあるんじゃなかったんですか?」
「結界はあくまで妖気に反応するものだ。まさか妖怪がドローンを使う時代になるとはなあ」
俺の疑問に、店長は顎を撫でながらのんきなことを言う。
「この店のセキュリティが心配だ……」
「それより早く行かないと。お姉ちゃん、飛んでいったほうが早いんじゃない?」
鈴の言葉に、店長は「そうだな」とうなずいて、目を閉じ、静かに手を合わせる。
店長から発される清らかな気が背中に集まり――翼の形になった。
「えっ、何すかそれ!? 店長って空も飛べるんすか!?」
「女神なんだから当たり前だろう」
また出た、自称女神。
しかし女神に翼が生えてるイメージってあんまりないんだよな。どっちかというと天使っていうか……。いや、店長は天使とも程遠いんだけど。
考えていると、足元の影が盛り上がった。
「うわ!」
鈴が黒い竜の形に変貌しているらしい。慌てて背中につかまった。
「準備はできたか? ――行くぞ」
エネルギー体の翼で浮かび上がる店長と、黒い竜になった鈴、その背中につかまる俺。
三人で町外れへと飛んでいった。
***
空き地に降り立つと、向こうさんも三人――妖怪も『人』で数えていいのか分からないが――で待っていた。
見たところ、白っぽい毛皮に紫の髪の猫っぽいのが二人と、金髪の犬っぽいのが一人。猫っぽいのはやたら図体がでかいやつと小柄なやつがいる。犬っぽいのはいかにも子供だし猫っぽいやつにじゃれてるのでリーダー格ではなさそうだ。三人とも着物に帯刀と時代錯誤な格好をしている。このなりでドローンを操作してたんだろうか。
「逃げずによく来たな、天馬百合とその他! やあやあ我こそは、貴様に滅ぼされた猫宮一族の生き残り、クロガネ! 一族のかたきを討つため、アヤカシ堂を探し続けた男だ!」
小柄な猫が挨拶代わりに名乗り出る。
「同じく猫宮一族の生き残りにして、クロガネ様の側近、シロガネである!」大柄な猫が続いて名乗り出た。
「俺はねー、クロガネ様に拾われた妖猫のコガネだぞー! どうだ、怖いだろー! 腰抜かしてもいいんだぞー!」
犬っぽいのが最後に名乗った。
「うーん、色々ツッコみたいところはあるが……まずそのコガネとかいうのはどう見ても犬だよな?」
「はい、俺も犬に見えます」
店長の言葉に俺はうなずいた。くるんと巻いたしっぽはどう見ても柴犬のそれである。
「俺は犬じゃないっ!」
「あとでかいほうがリーダー格じゃないんだなって……」
「ほう……?」
俺がコガネの憤慨を無視して言葉を続けると、クロガネがピクリと反応した。
「俺がチビだと言いたいのか……? ええ……?」
「そうだな、図体でかいのがいるせいで相対的に小さく見えるな」
腰の刀に手をかけるクロガネに、店長がトドメの一言をかける。
「――ックソ、シロガネ、お前のせいで、お前のせいでっ……いつも俺は背を比べられて……!」
「ああっ、お許しくださいクロガネ様! わたくしの背が大きいせいで!」
「それはそれでなんか腹立つ!」
クロガネはゲシゲシとシロガネのふくらはぎを蹴り始める。
「おい、私たちは三人組のショートコントの練習を見に来させられたのか?」
店長は既に飽きたようで、腕組みをしながらトントンとリズムよく地面を足で叩く。
「んなわけあるかいっ、俺と勝負しろ天馬百合! 一族のかたきは必ず取らせてもらう!」
クロガネは腰の刀を抜いて構える。
「鈴、なんかいい感じの得物ないか?」
「ん~、蔵の中に何かいいのあったかな~」
店長は自分の影の中に手を突っ込む。
鈴が潜った影はアヤカシ堂の蔵に通じており、そこから所蔵されている魔道具や武器を引っ張り出すわけだ。
「あ、ショットガンとかどう?」
「正々堂々と戦え、卑怯者!」
鈴の言葉に、クロガネは激昂する。
どうやら正面から刀同士で戦いたいらしい。
「ん~、じゃあこれだ」
店長は影の中からぬるっと刀を引きずり出す。
「――名刀『十六夜丸』」
「いざよいまる? 聞いたことがないな」
ハッ、とクロガネが鼻で笑う。
見た目は普通の日本刀だが、『十六夜丸』と彫られている。それだけ。
「じゃあ、得物も決まったし、始めようか」
「ハンッ、ロクに鍛えてもいない細腕でどこまでもつかな? じわじわなぶり殺してくれる」
クロガネが地を蹴った。
「えい」
店長が軽く刀を振ると、ビュン、と風の刃が飛んでいく。
「いッ!?」
クロガネはかろうじて避ける。そのままだったら首が飛んでいた位置である。
「おい、だからそういう遠距離攻撃はやめろと言っているだろうが卑怯者!」
「ロクに鍛えてもいない細腕に刀持たせておいてよく言ったものだな」
店長は鞭を振るうように軽く刀を振り、ビュンビュンと風刃を飛ばす。おそらく女性でも持てるように軽量化された刀なのだろう。確かに彼女とは相性のいい名刀である。
すげー。圧倒的ぃー。俺、来た意味あったかな。
ぼーっと店長とクロガネの一方的な戦いを眺めていると、シロガネとコガネとかいった奴らが何やら怪しい動きを始めた。
シロガネが鍵の形をした斧を、コガネは背負っていた扉のような盾を背から下ろす。
斧の鍵を盾の扉の鍵穴に入れて、回す……。
「クロガネ様、準備完了です!」
「よし! やれ!」
クロガネがひょいと後ろに飛ぶ。ガパッと盾の扉が開くと、扉が全てを吸い込むように風が巻き起こった。
「!?」
店長は咄嗟に刀を地面に突き立てて耐えようとするが、軽量化された刀では折れてしまいそうだ。
「お姉ちゃん!」
鈴は影の中から必死に店長を食い止めようとする。
「ハハハ! お前が不老不死の身体なのは知ってるぞ、天馬百合! だが不死ならばブラックホールにでも吸い込んで永久に彷徨わせればいいのだ! 生きたまま地獄を味わえ!」
しかし、高笑いをしているクロガネ一派は後ろから近づく俺に気付かないのである。
「――でかくなれ、如意棒――!」
俺はいつも首にかけているネックレスを超巨大ハンマーに変えて振り下ろす。
――異次元への扉は、粉々に散った。
残念ながらシロガネとコガネは尻餅をついてハンマーの一撃を回避したようである。
「――は?」
高笑いをやめて、呆然とした顔で、クロガネは俺を見る。俺はその困惑した顔を睨み返す。
「他に店長を殺すための策は用意してきたかよ? 全部ぶっ潰すけどな」
「馬鹿な……その鉄の塊が如意棒だと……? いや、それより貴様、何者だ?」
「質問に質問で返すなテメェ!」
俺は怒り心頭だった。
正々堂々と戦えと言っておいて、店長には遠距離攻撃するなと言っておいて、この卑怯な戦法である。俺はこいつが嫌いだ。いまハッキリした。
「……策はない。俺たちは逃亡する。その前に貴様の名を聞いておこう」
「負けたくせになんでそんな上から目線なんだよムカつく。俺の名は番場虎吉。半分人間、半分吸血鬼だ!」
「ッ……半妖風情に、邪魔をされたというのか……?」
だからどこまで上から目線なんだこいつ。ムカつく。
「天馬百合! 俺はいつかお前を殺す! 覚えていろ!」
「あー、生きてるうちに達成できるといいね」
店長はマイペースにヒラヒラと手をふる。
「――あと、ウルフェンによろしく」
「……」
店長の言葉を背に受けながら、クロガネたちは逃走した。
「ウルフェンって誰っすか?」
「昔ちょっとな。あんまり関わりたくないやつだ。でもクロガネにドローンやら異次元門やら与えたのは多分アイツだろうな」
異次元門。多分あの扉の形をした盾のことだろう。今は粉々になっているが。
「面倒だな、多分あいつらそのうちまた来るぞ」
「うへえ……どんだけ恨み買ったんすか店長……」
「だが、今回はお手柄だったぞ虎吉よ。ご褒美に焼き肉に連れて行ってやろう」
「やったー! レバー食べて血を増やさないと!」
「本当にお前は、人の血を吸わずよく生きていけるものだ」
「半分人間で良かったです!」
心底嬉しく笑う俺の頭を、不意に店長が撫でた。ビックリして変な声出そうになった。
「な、なんすか店長」
「いや……人の子は愛しいと思っただけだよ」
「またまた、神様っぽいこと言っちゃって~」
「だから、神だと言うに……」
そんな話をしながら、俺達は意気揚々と焼肉屋に向かうのであった。
〈続く〉
「うーん、今日もいい天気だな」
「爽やかな夏の朝って感じっすね~」
店長と俺は、境内に出て伸びをする。
「今日は一日晴れだって」
「そうか、気持ちのいい一日になりそうだな」
店長の影にトプンともぐった鈴が店長に話しかけ、店長もリラックスした調子で返す。
鈴は普段は店長の影の中にいることが多い。影を操るという特性のせいか、明るい場所はあまり得意ではないのかもしれない。
あとは、この日のように突然の襲撃を受けても反応できるようにとか。
突如、町の方角からブーン、と機械音が聞こえてきた。
「ん?」
耳の良い俺がいち早く気づいて音のした方を見てみると、茂みから何か小さなヘリコプターのようなものがガサッと飛んできた。
――ドローンだ。
そのドローンに銃口がついているのを見た瞬間、俺は「伏せろ!」と叫ぶ。
ズダダダダダダダ。
ドローンが弾丸を連射した。
結果的に言うと俺たちは無事である。もともと半妖の俺は銀の弾丸でも食らわない限りは滅多に死なないし、そもそも店長も俺も、鈴の影の盾で銃弾を防いでいた。
ドーム状に俺たちを囲っていた影が液体のようにぬるりと足元に返っていく。
「おいおい、誰だ? ラジコンで遊んでるやつは」
「店長、あれドローンって言うんですよ」
「知っとるわ、馬鹿にしてるのか」
『ここがアヤカシ堂だな、やっと突き止めたぞ』
俺と店長が漫才をしていると、ドローンから声が聞こえた。どうやらマイクも仕込んでいるらしい。
『天馬百合、山から降りてこい。貴様はそこにいれば安全だろうが、町の人間どもがどうなるかな』
どうやら、同じドローンで町の人間を襲うという脅迫らしい。
「訊きたいことがあるが、お前はアヤカシか?」
ドローンのカメラに向かって、店長が訊ねる。
『ああ、アヤカシだとも。お前が俺を覚えているかは知らんがな』
「覚えてないかもな、私に恨みを抱いてる妖怪なんていくらでもいる」
『貴様のそういうところがますます気に入らない』
「そうかよ」
『……町外れの空き地にて待つ。一時間以内に来なければ町を襲う』
ドローンはそう言い残して空高くへ飛んでいく。
「この神社は結界が張ってあるんじゃなかったんですか?」
「結界はあくまで妖気に反応するものだ。まさか妖怪がドローンを使う時代になるとはなあ」
俺の疑問に、店長は顎を撫でながらのんきなことを言う。
「この店のセキュリティが心配だ……」
「それより早く行かないと。お姉ちゃん、飛んでいったほうが早いんじゃない?」
鈴の言葉に、店長は「そうだな」とうなずいて、目を閉じ、静かに手を合わせる。
店長から発される清らかな気が背中に集まり――翼の形になった。
「えっ、何すかそれ!? 店長って空も飛べるんすか!?」
「女神なんだから当たり前だろう」
また出た、自称女神。
しかし女神に翼が生えてるイメージってあんまりないんだよな。どっちかというと天使っていうか……。いや、店長は天使とも程遠いんだけど。
考えていると、足元の影が盛り上がった。
「うわ!」
鈴が黒い竜の形に変貌しているらしい。慌てて背中につかまった。
「準備はできたか? ――行くぞ」
エネルギー体の翼で浮かび上がる店長と、黒い竜になった鈴、その背中につかまる俺。
三人で町外れへと飛んでいった。
***
空き地に降り立つと、向こうさんも三人――妖怪も『人』で数えていいのか分からないが――で待っていた。
見たところ、白っぽい毛皮に紫の髪の猫っぽいのが二人と、金髪の犬っぽいのが一人。猫っぽいのはやたら図体がでかいやつと小柄なやつがいる。犬っぽいのはいかにも子供だし猫っぽいやつにじゃれてるのでリーダー格ではなさそうだ。三人とも着物に帯刀と時代錯誤な格好をしている。このなりでドローンを操作してたんだろうか。
「逃げずによく来たな、天馬百合とその他! やあやあ我こそは、貴様に滅ぼされた猫宮一族の生き残り、クロガネ! 一族のかたきを討つため、アヤカシ堂を探し続けた男だ!」
小柄な猫が挨拶代わりに名乗り出る。
「同じく猫宮一族の生き残りにして、クロガネ様の側近、シロガネである!」大柄な猫が続いて名乗り出た。
「俺はねー、クロガネ様に拾われた妖猫のコガネだぞー! どうだ、怖いだろー! 腰抜かしてもいいんだぞー!」
犬っぽいのが最後に名乗った。
「うーん、色々ツッコみたいところはあるが……まずそのコガネとかいうのはどう見ても犬だよな?」
「はい、俺も犬に見えます」
店長の言葉に俺はうなずいた。くるんと巻いたしっぽはどう見ても柴犬のそれである。
「俺は犬じゃないっ!」
「あとでかいほうがリーダー格じゃないんだなって……」
「ほう……?」
俺がコガネの憤慨を無視して言葉を続けると、クロガネがピクリと反応した。
「俺がチビだと言いたいのか……? ええ……?」
「そうだな、図体でかいのがいるせいで相対的に小さく見えるな」
腰の刀に手をかけるクロガネに、店長がトドメの一言をかける。
「――ックソ、シロガネ、お前のせいで、お前のせいでっ……いつも俺は背を比べられて……!」
「ああっ、お許しくださいクロガネ様! わたくしの背が大きいせいで!」
「それはそれでなんか腹立つ!」
クロガネはゲシゲシとシロガネのふくらはぎを蹴り始める。
「おい、私たちは三人組のショートコントの練習を見に来させられたのか?」
店長は既に飽きたようで、腕組みをしながらトントンとリズムよく地面を足で叩く。
「んなわけあるかいっ、俺と勝負しろ天馬百合! 一族のかたきは必ず取らせてもらう!」
クロガネは腰の刀を抜いて構える。
「鈴、なんかいい感じの得物ないか?」
「ん~、蔵の中に何かいいのあったかな~」
店長は自分の影の中に手を突っ込む。
鈴が潜った影はアヤカシ堂の蔵に通じており、そこから所蔵されている魔道具や武器を引っ張り出すわけだ。
「あ、ショットガンとかどう?」
「正々堂々と戦え、卑怯者!」
鈴の言葉に、クロガネは激昂する。
どうやら正面から刀同士で戦いたいらしい。
「ん~、じゃあこれだ」
店長は影の中からぬるっと刀を引きずり出す。
「――名刀『十六夜丸』」
「いざよいまる? 聞いたことがないな」
ハッ、とクロガネが鼻で笑う。
見た目は普通の日本刀だが、『十六夜丸』と彫られている。それだけ。
「じゃあ、得物も決まったし、始めようか」
「ハンッ、ロクに鍛えてもいない細腕でどこまでもつかな? じわじわなぶり殺してくれる」
クロガネが地を蹴った。
「えい」
店長が軽く刀を振ると、ビュン、と風の刃が飛んでいく。
「いッ!?」
クロガネはかろうじて避ける。そのままだったら首が飛んでいた位置である。
「おい、だからそういう遠距離攻撃はやめろと言っているだろうが卑怯者!」
「ロクに鍛えてもいない細腕に刀持たせておいてよく言ったものだな」
店長は鞭を振るうように軽く刀を振り、ビュンビュンと風刃を飛ばす。おそらく女性でも持てるように軽量化された刀なのだろう。確かに彼女とは相性のいい名刀である。
すげー。圧倒的ぃー。俺、来た意味あったかな。
ぼーっと店長とクロガネの一方的な戦いを眺めていると、シロガネとコガネとかいった奴らが何やら怪しい動きを始めた。
シロガネが鍵の形をした斧を、コガネは背負っていた扉のような盾を背から下ろす。
斧の鍵を盾の扉の鍵穴に入れて、回す……。
「クロガネ様、準備完了です!」
「よし! やれ!」
クロガネがひょいと後ろに飛ぶ。ガパッと盾の扉が開くと、扉が全てを吸い込むように風が巻き起こった。
「!?」
店長は咄嗟に刀を地面に突き立てて耐えようとするが、軽量化された刀では折れてしまいそうだ。
「お姉ちゃん!」
鈴は影の中から必死に店長を食い止めようとする。
「ハハハ! お前が不老不死の身体なのは知ってるぞ、天馬百合! だが不死ならばブラックホールにでも吸い込んで永久に彷徨わせればいいのだ! 生きたまま地獄を味わえ!」
しかし、高笑いをしているクロガネ一派は後ろから近づく俺に気付かないのである。
「――でかくなれ、如意棒――!」
俺はいつも首にかけているネックレスを超巨大ハンマーに変えて振り下ろす。
――異次元への扉は、粉々に散った。
残念ながらシロガネとコガネは尻餅をついてハンマーの一撃を回避したようである。
「――は?」
高笑いをやめて、呆然とした顔で、クロガネは俺を見る。俺はその困惑した顔を睨み返す。
「他に店長を殺すための策は用意してきたかよ? 全部ぶっ潰すけどな」
「馬鹿な……その鉄の塊が如意棒だと……? いや、それより貴様、何者だ?」
「質問に質問で返すなテメェ!」
俺は怒り心頭だった。
正々堂々と戦えと言っておいて、店長には遠距離攻撃するなと言っておいて、この卑怯な戦法である。俺はこいつが嫌いだ。いまハッキリした。
「……策はない。俺たちは逃亡する。その前に貴様の名を聞いておこう」
「負けたくせになんでそんな上から目線なんだよムカつく。俺の名は番場虎吉。半分人間、半分吸血鬼だ!」
「ッ……半妖風情に、邪魔をされたというのか……?」
だからどこまで上から目線なんだこいつ。ムカつく。
「天馬百合! 俺はいつかお前を殺す! 覚えていろ!」
「あー、生きてるうちに達成できるといいね」
店長はマイペースにヒラヒラと手をふる。
「――あと、ウルフェンによろしく」
「……」
店長の言葉を背に受けながら、クロガネたちは逃走した。
「ウルフェンって誰っすか?」
「昔ちょっとな。あんまり関わりたくないやつだ。でもクロガネにドローンやら異次元門やら与えたのは多分アイツだろうな」
異次元門。多分あの扉の形をした盾のことだろう。今は粉々になっているが。
「面倒だな、多分あいつらそのうちまた来るぞ」
「うへえ……どんだけ恨み買ったんすか店長……」
「だが、今回はお手柄だったぞ虎吉よ。ご褒美に焼き肉に連れて行ってやろう」
「やったー! レバー食べて血を増やさないと!」
「本当にお前は、人の血を吸わずよく生きていけるものだ」
「半分人間で良かったです!」
心底嬉しく笑う俺の頭を、不意に店長が撫でた。ビックリして変な声出そうになった。
「な、なんすか店長」
「いや……人の子は愛しいと思っただけだよ」
「またまた、神様っぽいこと言っちゃって~」
「だから、神だと言うに……」
そんな話をしながら、俺達は意気揚々と焼肉屋に向かうのであった。
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