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第4話 聖女は竜の夢を見るか
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「ベルガ様はデュランに裏切られ、殺されます。今すぐにあの男を投獄した方がいいでしょう」
私の言葉を聞いて、ベルガモールはわずかに目を見開いた。
「まさか……あのデュランが?」
「ええ、間違いありません。このままではベルガ様の命が危ない」
「まさか……とても信じられない」
「私の言葉が信用できませんか?」
手のひらで額を押さえるベルガモールに、私は一抹の不安を覚える。
まさか、ベルガモールは既にデュランに恋情を抱いているのでは――。
「いえ、そういうわけではなく……あんな鈍い男がそんなことを企んでいるようには見えなくて……」
それはそう。なんか安心した。
「しかし、事実です」
私は更に嘘をつく。
「……ふむ、わかりました。デュランには気をつけておきましょう」
「投獄はしないおつもりで?」
「拘束しようにも罪状がまだないのでね。未来が見通せるとはいえ、まだ起こっていないことで罪を問うわけにもいきません」
それもそうか。聖女の言葉とはいえども、現実に起こっていないことで投獄やら処刑やら出来たら、それはそれで問題だ。
「……わかりました。しかし、あの男にはなるべく近寄らないほうが」
「ええ、承知致しました。リク様の御言葉に従いましょう」
ベルガモールが微笑みかける、それだけで私は幸福で満たされる。私の初恋が何の奇跡か、こんなに近くにある。
――今度こそ。
今度こそ、この恋を私自身の手で守るんだ。
「まあ、この話はここまでとして……リク様は、何のためにこの世界に喚ばれたか僧侶たちからお聞きになっておられますか?」
「いえ、何も……。そもそも聖女とは何をしたら良いのでしょうか? ベルガ様は騎士団と共に戦ってほしいと仰っていらっしゃいましたが……」
「では、私からお話致しましょう。そもそも、先程までお話ししていた時に申し上げるつもりだったのです」
そこを、デュランの奴に邪魔されたわけか。どこまでも目障りな男だ。
「聖女様には、未来を見通す力の他に、様々な力があると聞きます。おそらくは魔法や奇蹟の類も使えるはず」
「えっ……」
現代日本から来た私が魔法なんて使えるはずないだろう。無茶言うな。
「聖女様のいらっしゃった世界では、魔法はなかったかもしれないと僧侶から伺っております。なので、魔導書の読み方から勉強することになるでしょう」
安心した。勉強は嫌だけど、どうやら魔法が使えないからって神殿を追い出されることはなさそうだ。
「私は魔法は不得手なのでお教えすることは出来ませんが、なるべく神殿には立ち寄りますので、お話し相手をしてくださると嬉しゅうございます」
「ベルガ様が遊びに来てくださるなら、喜んで……!」
ああ、ホントこの世界に来れて幸せ。ベルガモールのためなら勉強だって頑張れる。魔法を修得すれば、ベルガモールと一緒に戦えるわけだし。ベルガモールのために、聖女の力を使いこなしてみせる。
その夜、私は夢を見た。
「――クク……この世界は楽しいか? 璃玖よ」
「……誰……?」
地響きのような低い声のするほうを見ると、黒くて巨大な――ドラゴンが私を見下ろしていた。
「この世界を楽しむといい……お前の未来が吉夢となるか凶夢となるか……見届けてやろう……」
……。
…………。
………………。
「――夢……?」
私は柔らかい羽毛のベッドから身を起こす。
今の夢は、何だったんだろう。
召喚されてから連日バタバタしていたから、疲れているのかもしれない。
しかし、あの夢には何か意味があるような気もする。スマホが通じれば夢診断のサイトでも調べられたのだが。
しかし、夢を見た時によくあるように、私はすぐに夢の内容を忘れてしまったのだった。
〈続く〉
私の言葉を聞いて、ベルガモールはわずかに目を見開いた。
「まさか……あのデュランが?」
「ええ、間違いありません。このままではベルガ様の命が危ない」
「まさか……とても信じられない」
「私の言葉が信用できませんか?」
手のひらで額を押さえるベルガモールに、私は一抹の不安を覚える。
まさか、ベルガモールは既にデュランに恋情を抱いているのでは――。
「いえ、そういうわけではなく……あんな鈍い男がそんなことを企んでいるようには見えなくて……」
それはそう。なんか安心した。
「しかし、事実です」
私は更に嘘をつく。
「……ふむ、わかりました。デュランには気をつけておきましょう」
「投獄はしないおつもりで?」
「拘束しようにも罪状がまだないのでね。未来が見通せるとはいえ、まだ起こっていないことで罪を問うわけにもいきません」
それもそうか。聖女の言葉とはいえども、現実に起こっていないことで投獄やら処刑やら出来たら、それはそれで問題だ。
「……わかりました。しかし、あの男にはなるべく近寄らないほうが」
「ええ、承知致しました。リク様の御言葉に従いましょう」
ベルガモールが微笑みかける、それだけで私は幸福で満たされる。私の初恋が何の奇跡か、こんなに近くにある。
――今度こそ。
今度こそ、この恋を私自身の手で守るんだ。
「まあ、この話はここまでとして……リク様は、何のためにこの世界に喚ばれたか僧侶たちからお聞きになっておられますか?」
「いえ、何も……。そもそも聖女とは何をしたら良いのでしょうか? ベルガ様は騎士団と共に戦ってほしいと仰っていらっしゃいましたが……」
「では、私からお話致しましょう。そもそも、先程までお話ししていた時に申し上げるつもりだったのです」
そこを、デュランの奴に邪魔されたわけか。どこまでも目障りな男だ。
「聖女様には、未来を見通す力の他に、様々な力があると聞きます。おそらくは魔法や奇蹟の類も使えるはず」
「えっ……」
現代日本から来た私が魔法なんて使えるはずないだろう。無茶言うな。
「聖女様のいらっしゃった世界では、魔法はなかったかもしれないと僧侶から伺っております。なので、魔導書の読み方から勉強することになるでしょう」
安心した。勉強は嫌だけど、どうやら魔法が使えないからって神殿を追い出されることはなさそうだ。
「私は魔法は不得手なのでお教えすることは出来ませんが、なるべく神殿には立ち寄りますので、お話し相手をしてくださると嬉しゅうございます」
「ベルガ様が遊びに来てくださるなら、喜んで……!」
ああ、ホントこの世界に来れて幸せ。ベルガモールのためなら勉強だって頑張れる。魔法を修得すれば、ベルガモールと一緒に戦えるわけだし。ベルガモールのために、聖女の力を使いこなしてみせる。
その夜、私は夢を見た。
「――クク……この世界は楽しいか? 璃玖よ」
「……誰……?」
地響きのような低い声のするほうを見ると、黒くて巨大な――ドラゴンが私を見下ろしていた。
「この世界を楽しむといい……お前の未来が吉夢となるか凶夢となるか……見届けてやろう……」
……。
…………。
………………。
「――夢……?」
私は柔らかい羽毛のベッドから身を起こす。
今の夢は、何だったんだろう。
召喚されてから連日バタバタしていたから、疲れているのかもしれない。
しかし、あの夢には何か意味があるような気もする。スマホが通じれば夢診断のサイトでも調べられたのだが。
しかし、夢を見た時によくあるように、私はすぐに夢の内容を忘れてしまったのだった。
〈続く〉
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