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第1話 愛別璃玖の破れた初恋
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ひどい失恋をした。初恋だった。
相手はいわゆる『イケメン女子』ってやつだ。小学生の頃に彼女に出会った時、ああこれは恋だと思った。一目惚れだった。
彼女は優しくて、強くて、芯の通った人間だった。曲がったことは許さない、正義のヒーローみたいな憧れの人。おまけに美しい容姿をしているが、本人にはその自覚がないのが、また愛おしかった。
私は女だけれど、同性を好きになったことに何も違和感を持たなかった。男性も普通に好きなのでバイ・セクシャルなのだろうか? わからないけど。もう恋はしないと決めたから。
……でも、漫画の登場人物に本気で恋をしていたなんて、他人が聞いたら笑うかもしれない。
私は『白藤の騎士』という漫画が好きだった。そのタイトルの由来が、件のイケメン女子――ベルガモール・エヴァンだ。白藤のように清らかで、華やかな騎士団の団長。女が騎士団の団長を務めることで周囲から反対を食らったり団員から見下されたりと逆境にありながら、それでも彼女は立派に騎士団長を務めあげる。その気高い姿を見るうちに、団員たちも彼女を見直し、好意すら抱くようになる。そこまでは良かった。
私がワクワクしながら立ち読みした最新話で――ベルガモールは団員の男と恋に落ちた。
それが私の失恋だ。
漫画のキャラが同じ世界に生きるキャラと結ばれるなんてよくある話だけれど、そのショックは計り知れなかった。
それ以来、私は恋愛をすることが出来なくなった。
憎いのだ。ベルガモールと結ばれた男のことを考えただけで虫唾が走る。もうこの漫画は買えないな、と思った。
……私の名前は愛別璃玖。
大学生にもなって漫画の登場人物に人生を狂わされている哀れな女である。笑いたきゃ笑え。
私は、立ち読みしていた漫画雑誌をそっと棚に戻し、そのコンビニで酒を買って家に帰った。メソメソ泣きながら独りで浴びるように飲む酒の、なんとみじめなことか。
ああ、眠くなってきた。泣き疲れた私は布団も敷かずにフローリングの床にゴロンと転がる。
もういいや、このまま寝てしまおう。風邪を引いたって知るもんか。もう自暴自棄になっていた。
私はそのまま、眠気に逆らうことなく意識を手放した。
――まさか、そんなことしただけで『聖女』になるなんて思わないじゃないですか。
〈続く〉
相手はいわゆる『イケメン女子』ってやつだ。小学生の頃に彼女に出会った時、ああこれは恋だと思った。一目惚れだった。
彼女は優しくて、強くて、芯の通った人間だった。曲がったことは許さない、正義のヒーローみたいな憧れの人。おまけに美しい容姿をしているが、本人にはその自覚がないのが、また愛おしかった。
私は女だけれど、同性を好きになったことに何も違和感を持たなかった。男性も普通に好きなのでバイ・セクシャルなのだろうか? わからないけど。もう恋はしないと決めたから。
……でも、漫画の登場人物に本気で恋をしていたなんて、他人が聞いたら笑うかもしれない。
私は『白藤の騎士』という漫画が好きだった。そのタイトルの由来が、件のイケメン女子――ベルガモール・エヴァンだ。白藤のように清らかで、華やかな騎士団の団長。女が騎士団の団長を務めることで周囲から反対を食らったり団員から見下されたりと逆境にありながら、それでも彼女は立派に騎士団長を務めあげる。その気高い姿を見るうちに、団員たちも彼女を見直し、好意すら抱くようになる。そこまでは良かった。
私がワクワクしながら立ち読みした最新話で――ベルガモールは団員の男と恋に落ちた。
それが私の失恋だ。
漫画のキャラが同じ世界に生きるキャラと結ばれるなんてよくある話だけれど、そのショックは計り知れなかった。
それ以来、私は恋愛をすることが出来なくなった。
憎いのだ。ベルガモールと結ばれた男のことを考えただけで虫唾が走る。もうこの漫画は買えないな、と思った。
……私の名前は愛別璃玖。
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私は、立ち読みしていた漫画雑誌をそっと棚に戻し、そのコンビニで酒を買って家に帰った。メソメソ泣きながら独りで浴びるように飲む酒の、なんとみじめなことか。
ああ、眠くなってきた。泣き疲れた私は布団も敷かずにフローリングの床にゴロンと転がる。
もういいや、このまま寝てしまおう。風邪を引いたって知るもんか。もう自暴自棄になっていた。
私はそのまま、眠気に逆らうことなく意識を手放した。
――まさか、そんなことしただけで『聖女』になるなんて思わないじゃないですか。
〈続く〉
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