ヤンデレな後輩社員に懐かれてしまった件

永久保セツナ

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第12話(最終話)ヤンデレな後輩が待っていてくれた件

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第12話(最終話)ヤンデレな後輩が待っていてくれた件

 ――なにか、長い夢を見ていたような気がする。
 最後の記憶は、なんだか途轍もない衝撃と、「先輩! 大丈夫ですか、先輩!」と私を呼ぶ男の声。
 そうだ、九段坂だ。何故そんな涙声で私を呼んでいるのだろう。身体が痛い。何が起こったんだ。
 そっと目を開けると、視界に飛び込んだのは白い天井と、点滴らしき鉄の骨組みに繋がれた管。窓が開けられているらしく、心地よい風がカーテンを揺らし、私の頬を撫でていた。
 ゆっくり身体を起こす。ずっと寝ていたのか、身体が凝り固まっている感じがする。ほぐすように伸びをしたあと、なんとなく窓の外を眺める。時計がないので正確な時間はわからないが、昼の太陽が煌々と照りつけていた。
 しばらくそうして、窓をぼーっと眺めていると、不意に何かが床に落ちる音がした。音のした方を見ると、床に転がるバスケットと、そこからこぼれたらしい果物、そしてバスケットを落とした張本人らしき男が呆然と立っていた。
「……九段坂、か?」
 疑問符がついているのは、彼の面影は残っているものの、その容姿が幾分老けているように見えたからだ。九段坂らしき男はしばらく目を見開きながら立ち尽くしていたが、やがてその目には涙が浮かび始めた。
「――先輩。先輩……!」
 落とした籠や果物には目もくれず、九段坂は私に駆け寄り、ベッドに座ったままの私を力任せに抱きしめた。
「よかった。目を覚ましてくれて……本当に良かった……」
「いったい何が起こっているんだ」
 疑問を呈する私に、九段坂は説明を始める。
「先輩と一緒に、いつものように会社を出て帰ろうとしたときに、先輩の頭上から鉄骨が落ちてきたんです」
 どうも工事現場の近くを通ったときに起こった事故らしかった。
「先輩は打ちどころが悪くて、意識がないまま十五年間ずっと眠っていたんですよ」
「十五年……!?」
 思っていた以上に長く眠っていたことに、流石に驚いてしまった。自分の手を見ると、たしかに骨ばって血管が浮いた、年老いた手になっていた。
 なるほど、それは九段坂も年を取るわけだ。
「会社は……どうなった?」
「俺は今も変わらず勤務していますし、社員も異動などはありましたが皆さん元気ですよ。先輩は社長の判断で休職扱いになってます」
「社長……源社長は、相変わらず健在かい?」
「ええ。もう別の女性と結婚してしまいましたが」
「そうか……」
 流石に植物状態になった女を待ち続けるのは難しかったのだろう。父親に結婚を急かされていた社長を思い出す。
「君は……ずっと私の世話をしてくれていたのか?」
「もちろん。毎日病院に通って、話しかけて、ずっと起きるのを待っていました」
「ずっと……待ってくれていたのか」
「俺、先輩のためなら十年でも二十年でも待ちますって、言ったでしょう?」
 それは、初めてのデートのときの九段坂の台詞だった。
「帰りましょう、『時子さん』。俺、新しく家を建てたんです。時子さんと一緒に帰るのが楽しみで」
 九段坂は照れたような恥ずかしそうな、面映い笑みを浮かべていた。

〈完〉
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