ヤンデレな後輩社員に懐かれてしまった件

永久保セツナ

文字の大きさ
上 下
7 / 12

第7話 ヤンデレな後輩が女の子と仲良くしていた件

しおりを挟む
 兄達に守られるように腰を下ろす龍花ロンファは次々と現れる点心おやつに驚く。

「金魚さん! それにフカフカ……」
「これは饅頭まんとうと言ってね? 昔、言い伝えがあって、父上のお友だちの諸葛孔明しょかつこうめい様がある川を渡ろうとしたんだよ。でもね? そこは魔物のいる川として有名で、捧げ物をしないと氾濫すると言われた川だったんだ。で、その捧げ物の代わりに作らせたといわれているんだよ。今では色々変化していて、中にお野菜とか詰めてたり、お肉とか、癖を消すためにニラとか生姜とか、白菜とかとを混ぜて包んでいるのとか……あ、こっちは甘いあんこを包んだ桃まん」
「捧げ物……?」
「えっと……」

 とうは躊躇う。
 まだ小さい妹には……。
と、思っていたのに、あっさりと真正面の髭! が。

「人の首だ。人を殺して、川に……」
「う、うわぁぁん!」

 桃まんを次兄のこうに取って貰っていた龍花は顔を歪める。

「お兄様! これ、これ……」
「アホ親父! 小さい龍花に何を言う!」

 広は怒鳴り付け、統は慌てて、

「あのね、これは、変じゃないんだよ? それにね? 孔明様は『そんな悲惨なことは続いてはいけない。大切な命を奪うことはしてはならない。代わりに、こちらを』って蒸してね……だから大丈夫。それに、お魚さんは綺麗でしょ? 金魚は本当に金運を呼ぶとか言われているんだけど……大丈夫。本物の金魚さんを探しに行こうね?」
「金魚さん……」
「あ、私の趣味……」

 関平かんぺい……紫蘭しらんが恐る恐る手をあげる。

「じ、実は、趣味で……日本から、沢山の金魚を送って貰って……金魚鉢で……育てているんだけど、見る?」
「あ、そうだ! 紫蘭、一杯動物育ててるんだよ! ほら、あそこの庭に……」
「あ、赤兎せきと

 にゅっと首を突っ込むのは、兎とは本当に名ばかりの、栗色よりも赤みのある毛並みの馬。

「う……」
「あ、赤兎は、大きな馬だけど、大丈夫! ほら、赤兎、この前生まれた……」
「紫蘭は、何でもかんでも拾うから、何だ? 雛か? うさぎか? ネズミに猫、犬に鹿、狼に虎、ライオンにパンダ、熊に象。どれだ?」
「パンダ? パンダさんって……?」

 首をかしげる少女に、統は説明する。

「熊なんだけど、お目目の回りは黒くて……」
「あー、兄貴! 説明面倒! 紫蘭! 行くぞ! パンダ! ……おっちゃん。また泣かせたら、親父に言いつけるからな!」

 広は紫蘭を掴んで引っ張っていく。

「パンダ……?」

 首をかしげる少女に、ため息をついた関聖帝君は、

「現在、中国では大熊猫ターシェンマオと呼ばれている。熊と猫に似ていると言われているが、熊は知っているか?」
「えと……喉に白い毛がある大きいの?」
「あれはツキノワグマと言い、まだ小さい方だ。日本には大きいヒグマと言う熊がいる。世界にも色々熊はいるが、変わった姿をしている。紫蘭は、何故か変わったものに好かれる。パンダはピヤピヤ鳴いていた裸の赤ん坊を拾ってきて、育てた。他にも象やライオンに虎も怪我をしていたり弱っていたのを手当てをしたらついてきたといっていた」

と、ざわざわとしはじめ、姿を見せたのはコロコロと可愛いぬいぐるみのような白と黒の生きもの。

「白黒ちゃん?」
「この子がジャイアントパンダの子供。で、アジアライオンの子供に、ホワイトタイガーの兄弟。ユキヒョウもいるよ。こら? はく。爪出さない!」

 爪を立てて喧嘩を売ろうとしたのか、飛び出そうとするホワイトタイガーをつまむ。

ちゅうしゅくも、喧嘩しない!」
「お名前わかるの?」
「ん? あぁ、一番目が伯。初対面には攻撃的なんだ。兄弟を守ろうとするのを止められなくて……普段は大人しいけど。二番目が仲、鼻の上の引っ掻き傷は、伯に怒られて引っ掻かれたんだ。で、これが、叔。三番目。一番やんちゃ。で、季は末っ子で一匹だけ女の子。一回り小さいでしょ? おんなじ兄弟だけど、季だけ未熟児で生まれたんだ……わぁぁ! 季!」

 ホワイトタイガーの子供が、とっとこと近づくと、猫のように手をあげる。
 構って、構って?
と言いたげな様子に、目を輝かせ、だっこする。

「にゃんこさん!」
「いや、龍花っ! それ、猫じゃないよ? 虎だよ? 虎!」

 冷静な統も顔色を変える。

「それは子供で、おっきくなったら、その赤兎位の馬も、獲物にするんだよ? 猛獣! 猫じゃない!」
「えぇぇ? にゃんこさん、がぶーするの?」

 喉をくすぐられゴロゴロと甘える様は猫科だが、脚が、大きさが違いすぎる。

「紫蘭! これ、引き取って! パンダかうさぎ! 危険物外を!」
「パンダも猛獣だけど……」
「のんきに言うな! 龍花が飼いたいっていったら……」
「お兄様飼って良いの?」

 目をキラキラさせて言う姿に、

「えっとね? 龍花……犬とかならと……」
「でも、兄貴」

 アジアライオンの子供と遊びながら、広が余計なことを言った。

「犬。家じゃいつかないじゃん。白竜駒が嫌がるし」
「広! 余計なことを!」
「お兄様……駄目?」

 子供の虎を抱き締め、上目使いに見る愛らしい妹のおねだりに……統は屈した。

「……し、紫蘭に、飼い方を教えてもらうんだよ? それに、ちゃんとしつけはしなくちゃね?」
「基本的に自由なんだけど……猫科だから、無理に抑え込むと攻撃するよ?」
「そこで余計な口挟むな! 紫蘭! それぐらい解ってる! けど、ある程度は必要だといってるんだ!」
「わーい!」

 喜んでいると、何やら3頭の兄弟が顔を見て、とことこと龍花に近づく。
 くいくいと手を動かしたり、スリスリと足に頭をすり寄せたり……。

「え? 皆来るの?」
「紫蘭!」
「えっと……基本的に猫科だから……」
「逃げるな! どうするんだ! 虎だぞ虎! まだ金魚なら良かった!」

 統は嘆くが、妹のおねだりに屈した。



 渋い顔で、点心を食べた後、

「じゃぁ、一応、帰りに迎えに来るから……」

と口にして、内心は『来ずに帰ってやる』と思っていた統に、紫蘭は、

周倉しゅうそうの叔父さんに頼んでおくから、大丈夫だよ。あぁ、私も、孔明様の所に伺おうと思ってるんだ。一緒に行くね」

とにっこり笑う。
 統は裏があるが、紫蘭は全く裏表がなく、素直である。
 悪気はないが、逆に……。

「……解った。龍花。一緒に行こうね」

 怒りをこらえつつ妹を連れていこうとしたのだが、

「お兄様! 龍花、紫蘭お兄様とお話しする!」
「……じゃぁ、そうしようね」

 心の中で、

『明日は紫蘭をボッコボコにしてやる!』

と宣言する兄貴の姿に、首をすくめ……。

「……兄貴、負のオーラ全開だぞ。笑顔が怖い! 龍花泣くぞ」

とだけ声をかけたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Fly high 〜勘違いから始まる恋〜

吉野 那生
恋愛
平凡なOLとやさぐれ御曹司のオフィスラブ。 ゲレンデで助けてくれた人は取引先の社長 神崎・R・聡一郎だった。 奇跡的に再会を果たした直後、職を失い…彼の秘書となる本城 美月。 なんの資格も取り柄もない美月にとって、そこは居心地の良い場所ではなかったけれど…。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

【完結】こんにちは、君のストーカーです

堀川ぼり
恋愛
数ヶ月前から届く差出人不明の手紙をひそかに心待ちにしている中小企業の事務員、坂北あかり。 たとえストーカーからの手紙だとしても、初めて寄せられた好意を無下にできずにいたある日。郵便受けに手紙を入れようとする怪しい男とバッタリ鉢合わせてしまう。 怖がるあかりを必死に宥めるその男、よく見れば、もしかして、大好きなアイドル斎賀紀広(さいがきひろ)なのでは──? 「ずっと手紙だけで我慢してたけど、こんなにガード緩いと流石に心配なる。恋人って形でそばにいてよ」 虎視眈々と溺愛してくる推し兼(元)ストーカーに流されて絆されるお話。

社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"

桜井 響華
恋愛
派遣受付嬢をしている胡桃沢 和奏は、副社長専属秘書である相良 大貴に一目惚れをして勢い余って告白してしまうが、冷たくあしらわれる。諦めモードで日々過ごしていたが、チャンス到来───!?

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

誘惑の延長線上、君を囲う。

桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には "恋"も"愛"も存在しない。 高校の同級生が上司となって 私の前に現れただけの話。 .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ Иatural+ 企画開発部部長 日下部 郁弥(30) × 転職したてのエリアマネージャー 佐藤 琴葉(30) .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ 偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の 貴方を見つけて… 高校時代の面影がない私は… 弱っていそうな貴方を誘惑した。 : : ♡o。+..:* : 「本当は大好きだった……」 ───そんな気持ちを隠したままに 欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。 【誘惑の延長線上、君を囲う。】

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

処理中です...