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ラブ米書いてみた~セカンドシーズン~
第8話 集団下校と可愛い後輩
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放課後。
雪華の所属している二年の教室。
珍しく雪華がいた。机に座って宿題をしている。
「雪華~」
後ろから抱きついた。
雪華は動じることなく黙って宿題をしている。
「雪華、遊ぼうぜ~」
「見てわかりませんか。今、宿題をしているんですが」
雪華はこっちも向かずに書き続けている。
「そんなの後でやればいいじゃん。イチャイチャして遊ぼうよ」
「それこそ後にしてください」
「やだ! 今がいい! いーま! いーま!」
「……」
雪華は黙って書き続ける。
「なあ、雪華~」
やがて、雪華の手が止まった。
「……今、誰もいませんよね」
ん? これは、まさかの……?
「うん! 誰もいないぞ、この教室」
俺は雪華に巻きつけた腕を放した。
「そうですか。じゃあ……」
雪華は筆記道具を置いて、俺の方を向く。
「下田先輩……」
雪華が、じっと俺の目を見る。誘いをかけたのが俺自身とはいえ、妙に緊張する。
――で、
なんで俺の胸ぐらを掴んでいるんだろう。
「――いい加減にしろ!!」
なんとも形容しがたい音がして、俺は雪華に殴り飛ばされた。俺は顔を殴られたのに、何故かくの字になって教室の壁にぶち当たる。
「ギャインッ! ううう……デレかと思いきや、まさかのツンかよ……」
「何をわけのわからないことをほざいているんですか。まったく鬱陶しい……」
「仮にも先輩に向かって鬱陶しいとか言うな! こっちは受験のストレスで豆腐のハートになってるんだよ!」
俺は立ち上がって恨めしく言った。
「そのハート、醤油と混ぜてグチャグチャに潰してやろうか。だいたい先輩にストレスがたまっているようには見えませんが」
「うるせー! こっちはお前がデレてくれなくてやきもきしながら待っているというのに!」
「だから、その『でれ』って何ですか」
雪華が不審な目で俺を見る。
「え……」
嘘……デレを知らない? だからデレないのか。これは……
教育のチャンスだ。
雪華にデレの仕方を教えて実践させてそのままイチャイチャへ持ち込みグフフフフフフフフフフ
「ジャスティス!」
妙な掛け声とともに、俺は頭に飛び蹴りをくらった。
「あ、夜貴子」
「危ないところだったわ……大丈夫? 雪華」
「いや、まだ何もされてないが……というか、阻止したが」
「油断しちゃダメよ。あの男、顔のニヤケようが半端なかったわ」
否定できないのがツライところ。
「夜貴子、用事は済んだか?」
教室の入り口から、ヒョイと狼路が顔を出した。
「あ、狼路?」
俺は頭を押さえながら名を呼んだ。
「よう、狗郎」
「あら、狼路、下田狗郎と知り合いなのね」
夜貴子が言った。
「おい、夜貴子。先輩なんだから一応先輩って呼んであげなさい」
「一応って何だ! なんだよ、男嫌いって、彼氏いるんじゃねえか! 狼路も、彼女いるなんて俺には一言も――」
「だっ、誰が彼氏……っ!」
夜貴子は顔を赤らめて反論しかける。
「ああ、違う違う」
一方、狼路は普通に否定した。
「俺たち、近所に住んでて幼馴染なんだわ。今も方向同じだから一緒に帰ってんだけど。お前らも今帰るとこ? 校門まで一緒に行こうぜ」
というわけで、無表情の雪華にちょっかいをかける俺に喧嘩を仕掛ける夜貴子を狼路がなだめながら、校舎を出て校門へ向かった。
雪華が何かに気づいて校門を見た。俺も見る。
学ランの男とうちの学校の制服を着た男が立って話をしているようだ。うちの学校の生徒らしい男――というより少年に近い――は怯えている様子で学ランを見ている。……あの学ランの男、どこかで見たような……。
「あ、雪華だ」
学ランが雪華に気づいて手を挙げた。
「……小村猿彦……!」
夜貴子が驚いた顔をした。――ああ、そうか。雪華と夜貴子とこの学ランは、同じ中学だったか。
猿彦は、中学時代、雪華と付き合っていた、要するに元彼だ。なんか、すぐ別れたらしいけど。
「……またてめえか……一度半殺しにされて懲りたんじゃなかったのか?」
雪華が苦い顔で学ランを見た。
「いや~、そのはずなんだけど、高校が別になった途端、妙に気になっちゃってさ。やっぱやり直さねえ?」
「お断りだ。その子に何してる」
雪華は猿彦を睨みつけた。大きな丸い眼鏡の少年は怯えて震えている。
「いんや、何もしてねえよ? ちょっと雪華を呼んでもらおうかと思ってたから、手間が省けたわ。ありがとな、ボーズ。ほら、行っていいぞ」
とん、と肩を押されて、少年は前のめりによろけながら俺たちの方へ来た。雪華が受け止める。
「君、大丈夫か」雪華が少年に言った。
「は、はひ……」少年は緊張気味に言った。
「小村猿彦、こっち来なさい」
夜貴子が猿彦の学ランの襟をつかんだ。
「おう、夜貴子。相変わらず可愛いな~。お前でもいいや、付き合って」
「死にたいようね」
夜貴子は猿彦を引きずって道の角を曲がった。
直後、男の悲鳴と嫌な音がしばらく続いた。
「あのっ、ありがとうございました」
少年は雪華にぺこぺこ頭を下げた。体より少し大きめの制服と初々しい仕草で、一年生と分かる。
「…………」雪華はじっと少年を見ている。
俺は、この男、女みたいな顔してるな、と、ふと思った。
「……君、一年生だね。名前は?」
雪華は静かに尋ねた。
「な、中島猫春、です」
「猫春君か。覚えておこう。明日、お詫びに教室にうかがわせてもらうよ」
「え、っと、先輩は……」
「私は姫月雪華だ」
「あ……あの、二年生の先輩ですよね」
「私を知ってるのか?」
「美人って有名な……あの、女の子が言ってて……」
「雪華、終わったわよ」
夜貴子が歩いてきた。
「ああ、それじゃ帰るか。――つまらないことに巻き込んですまなかったね。気をつけて帰りなさい」
雪華はすっ、と先を歩いた。俺が横に並び、夜貴子と狼路が後からついて歩く。
「……下田先輩」
「ん? どうした、雪華」
「今の男の子、可愛い顔してましたね」
「!?」
変なフラグたった!?
一方、雪華一行を見送った猫春は、
「雪華、先輩……」
と、一人つぶやいたのだった。
〈セカンドシーズン・了〉
雪華の所属している二年の教室。
珍しく雪華がいた。机に座って宿題をしている。
「雪華~」
後ろから抱きついた。
雪華は動じることなく黙って宿題をしている。
「雪華、遊ぼうぜ~」
「見てわかりませんか。今、宿題をしているんですが」
雪華はこっちも向かずに書き続けている。
「そんなの後でやればいいじゃん。イチャイチャして遊ぼうよ」
「それこそ後にしてください」
「やだ! 今がいい! いーま! いーま!」
「……」
雪華は黙って書き続ける。
「なあ、雪華~」
やがて、雪華の手が止まった。
「……今、誰もいませんよね」
ん? これは、まさかの……?
「うん! 誰もいないぞ、この教室」
俺は雪華に巻きつけた腕を放した。
「そうですか。じゃあ……」
雪華は筆記道具を置いて、俺の方を向く。
「下田先輩……」
雪華が、じっと俺の目を見る。誘いをかけたのが俺自身とはいえ、妙に緊張する。
――で、
なんで俺の胸ぐらを掴んでいるんだろう。
「――いい加減にしろ!!」
なんとも形容しがたい音がして、俺は雪華に殴り飛ばされた。俺は顔を殴られたのに、何故かくの字になって教室の壁にぶち当たる。
「ギャインッ! ううう……デレかと思いきや、まさかのツンかよ……」
「何をわけのわからないことをほざいているんですか。まったく鬱陶しい……」
「仮にも先輩に向かって鬱陶しいとか言うな! こっちは受験のストレスで豆腐のハートになってるんだよ!」
俺は立ち上がって恨めしく言った。
「そのハート、醤油と混ぜてグチャグチャに潰してやろうか。だいたい先輩にストレスがたまっているようには見えませんが」
「うるせー! こっちはお前がデレてくれなくてやきもきしながら待っているというのに!」
「だから、その『でれ』って何ですか」
雪華が不審な目で俺を見る。
「え……」
嘘……デレを知らない? だからデレないのか。これは……
教育のチャンスだ。
雪華にデレの仕方を教えて実践させてそのままイチャイチャへ持ち込みグフフフフフフフフフフ
「ジャスティス!」
妙な掛け声とともに、俺は頭に飛び蹴りをくらった。
「あ、夜貴子」
「危ないところだったわ……大丈夫? 雪華」
「いや、まだ何もされてないが……というか、阻止したが」
「油断しちゃダメよ。あの男、顔のニヤケようが半端なかったわ」
否定できないのがツライところ。
「夜貴子、用事は済んだか?」
教室の入り口から、ヒョイと狼路が顔を出した。
「あ、狼路?」
俺は頭を押さえながら名を呼んだ。
「よう、狗郎」
「あら、狼路、下田狗郎と知り合いなのね」
夜貴子が言った。
「おい、夜貴子。先輩なんだから一応先輩って呼んであげなさい」
「一応って何だ! なんだよ、男嫌いって、彼氏いるんじゃねえか! 狼路も、彼女いるなんて俺には一言も――」
「だっ、誰が彼氏……っ!」
夜貴子は顔を赤らめて反論しかける。
「ああ、違う違う」
一方、狼路は普通に否定した。
「俺たち、近所に住んでて幼馴染なんだわ。今も方向同じだから一緒に帰ってんだけど。お前らも今帰るとこ? 校門まで一緒に行こうぜ」
というわけで、無表情の雪華にちょっかいをかける俺に喧嘩を仕掛ける夜貴子を狼路がなだめながら、校舎を出て校門へ向かった。
雪華が何かに気づいて校門を見た。俺も見る。
学ランの男とうちの学校の制服を着た男が立って話をしているようだ。うちの学校の生徒らしい男――というより少年に近い――は怯えている様子で学ランを見ている。……あの学ランの男、どこかで見たような……。
「あ、雪華だ」
学ランが雪華に気づいて手を挙げた。
「……小村猿彦……!」
夜貴子が驚いた顔をした。――ああ、そうか。雪華と夜貴子とこの学ランは、同じ中学だったか。
猿彦は、中学時代、雪華と付き合っていた、要するに元彼だ。なんか、すぐ別れたらしいけど。
「……またてめえか……一度半殺しにされて懲りたんじゃなかったのか?」
雪華が苦い顔で学ランを見た。
「いや~、そのはずなんだけど、高校が別になった途端、妙に気になっちゃってさ。やっぱやり直さねえ?」
「お断りだ。その子に何してる」
雪華は猿彦を睨みつけた。大きな丸い眼鏡の少年は怯えて震えている。
「いんや、何もしてねえよ? ちょっと雪華を呼んでもらおうかと思ってたから、手間が省けたわ。ありがとな、ボーズ。ほら、行っていいぞ」
とん、と肩を押されて、少年は前のめりによろけながら俺たちの方へ来た。雪華が受け止める。
「君、大丈夫か」雪華が少年に言った。
「は、はひ……」少年は緊張気味に言った。
「小村猿彦、こっち来なさい」
夜貴子が猿彦の学ランの襟をつかんだ。
「おう、夜貴子。相変わらず可愛いな~。お前でもいいや、付き合って」
「死にたいようね」
夜貴子は猿彦を引きずって道の角を曲がった。
直後、男の悲鳴と嫌な音がしばらく続いた。
「あのっ、ありがとうございました」
少年は雪華にぺこぺこ頭を下げた。体より少し大きめの制服と初々しい仕草で、一年生と分かる。
「…………」雪華はじっと少年を見ている。
俺は、この男、女みたいな顔してるな、と、ふと思った。
「……君、一年生だね。名前は?」
雪華は静かに尋ねた。
「な、中島猫春、です」
「猫春君か。覚えておこう。明日、お詫びに教室にうかがわせてもらうよ」
「え、っと、先輩は……」
「私は姫月雪華だ」
「あ……あの、二年生の先輩ですよね」
「私を知ってるのか?」
「美人って有名な……あの、女の子が言ってて……」
「雪華、終わったわよ」
夜貴子が歩いてきた。
「ああ、それじゃ帰るか。――つまらないことに巻き込んですまなかったね。気をつけて帰りなさい」
雪華はすっ、と先を歩いた。俺が横に並び、夜貴子と狼路が後からついて歩く。
「……下田先輩」
「ん? どうした、雪華」
「今の男の子、可愛い顔してましたね」
「!?」
変なフラグたった!?
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