ラブ米書いてみた

永久保セツナ

文字の大きさ
上 下
8 / 11
ラブ米書いてみた~セカンドシーズン~

第8話 集団下校と可愛い後輩

しおりを挟む
放課後。
雪華ゆきかの所属している二年の教室。
珍しく雪華がいた。机に座って宿題をしている。
「雪華~」
後ろから抱きついた。
雪華は動じることなく黙って宿題をしている。
「雪華、遊ぼうぜ~」
「見てわかりませんか。今、宿題をしているんですが」
雪華はこっちも向かずに書き続けている。
「そんなの後でやればいいじゃん。イチャイチャして遊ぼうよ」
「それこそ後にしてください」
「やだ! 今がいい! いーま! いーま!」
「……」
雪華は黙って書き続ける。
「なあ、雪華~」
やがて、雪華の手が止まった。
「……今、誰もいませんよね」
ん? これは、まさかの……?
「うん! 誰もいないぞ、この教室」
俺は雪華に巻きつけた腕を放した。
「そうですか。じゃあ……」
雪華は筆記道具を置いて、俺の方を向く。
下田しもだ先輩……」
雪華が、じっと俺の目を見る。誘いをかけたのが俺自身とはいえ、妙に緊張する。
――で、
なんで俺の胸ぐらを掴んでいるんだろう。
「――いい加減にしろ!!」
なんとも形容しがたい音がして、俺は雪華に殴り飛ばされた。俺は顔を殴られたのに、何故かくの字になって教室の壁にぶち当たる。
「ギャインッ! ううう……デレかと思いきや、まさかのツンかよ……」
「何をわけのわからないことをほざいているんですか。まったく鬱陶しい……」
「仮にも先輩に向かって鬱陶しいとか言うな! こっちは受験のストレスで豆腐のハートになってるんだよ!」
俺は立ち上がって恨めしく言った。
「そのハート、醤油と混ぜてグチャグチャに潰してやろうか。だいたい先輩にストレスがたまっているようには見えませんが」
「うるせー! こっちはお前がデレてくれなくてやきもきしながら待っているというのに!」
「だから、その『でれ』って何ですか」
雪華が不審な目で俺を見る。
「え……」
嘘……デレを知らない? だからデレないのか。これは……
教育のチャンスだ。
雪華にデレの仕方を教えて実践させてそのままイチャイチャへ持ち込みグフフフフフフフフフフ
「ジャスティス!」
妙な掛け声とともに、俺は頭に飛び蹴りをくらった。
「あ、夜貴子よきこ
「危ないところだったわ……大丈夫? 雪華」
「いや、まだ何もされてないが……というか、阻止したが」
「油断しちゃダメよ。あの男、顔のニヤケようが半端なかったわ」
否定できないのがツライところ。
「夜貴子、用事は済んだか?」
教室の入り口から、ヒョイと狼路ろうじが顔を出した。
「あ、狼路?」
俺は頭を押さえながら名を呼んだ。
「よう、狗郎くろう
「あら、狼路、下田しもだ狗郎くろうと知り合いなのね」
夜貴子が言った。
「おい、夜貴子。先輩なんだから一応先輩って呼んであげなさい」
「一応って何だ! なんだよ、男嫌いって、彼氏いるんじゃねえか! 狼路も、彼女いるなんて俺には一言も――」
「だっ、誰が彼氏……っ!」
夜貴子は顔を赤らめて反論しかける。
「ああ、違う違う」
一方、狼路は普通に否定した。
「俺たち、近所に住んでて幼馴染なんだわ。今も方向同じだから一緒に帰ってんだけど。お前らも今帰るとこ? 校門まで一緒に行こうぜ」
というわけで、無表情の雪華にちょっかいをかける俺に喧嘩を仕掛ける夜貴子を狼路がなだめながら、校舎を出て校門へ向かった。
雪華が何かに気づいて校門を見た。俺も見る。
学ランの男とうちの学校の制服を着た男が立って話をしているようだ。うちの学校の生徒らしい男――というより少年に近い――は怯えている様子で学ランを見ている。……あの学ランの男、どこかで見たような……。
「あ、雪華だ」
学ランが雪華に気づいて手を挙げた。
「……小村こむら猿彦さるひこ……!」
夜貴子が驚いた顔をした。――ああ、そうか。雪華と夜貴子とこの学ランは、同じ中学だったか。
猿彦は、中学時代、雪華と付き合っていた、要するに元彼だ。なんか、すぐ別れたらしいけど。
「……またてめえか……一度半殺しにされて懲りたんじゃなかったのか?」
雪華が苦い顔で学ランを見た。
「いや~、そのはずなんだけど、高校が別になった途端、妙に気になっちゃってさ。やっぱやり直さねえ?」
「お断りだ。その子に何してる」
雪華は猿彦を睨みつけた。大きな丸い眼鏡の少年は怯えて震えている。
「いんや、何もしてねえよ? ちょっと雪華を呼んでもらおうかと思ってたから、手間が省けたわ。ありがとな、ボーズ。ほら、行っていいぞ」
とん、と肩を押されて、少年は前のめりによろけながら俺たちの方へ来た。雪華が受け止める。
「君、大丈夫か」雪華が少年に言った。
「は、はひ……」少年は緊張気味に言った。
「小村猿彦、こっち来なさい」
夜貴子が猿彦の学ランの襟をつかんだ。
「おう、夜貴子。相変わらず可愛いな~。お前でもいいや、付き合って」
「死にたいようね」
夜貴子は猿彦を引きずって道の角を曲がった。
直後、男の悲鳴と嫌な音がしばらく続いた。
「あのっ、ありがとうございました」
少年は雪華にぺこぺこ頭を下げた。体より少し大きめの制服と初々しい仕草で、一年生と分かる。
「…………」雪華はじっと少年を見ている。
俺は、この男、女みたいな顔してるな、と、ふと思った。
「……君、一年生だね。名前は?」
雪華は静かに尋ねた。
「な、中島なかじま猫春ねこはる、です」
「猫春君か。覚えておこう。明日、お詫びに教室にうかがわせてもらうよ」
「え、っと、先輩は……」
「私は姫月ひめづき雪華ゆきかだ」
「あ……あの、二年生の先輩ですよね」
「私を知ってるのか?」
「美人って有名な……あの、女の子が言ってて……」
「雪華、終わったわよ」
夜貴子が歩いてきた。
「ああ、それじゃ帰るか。――つまらないことに巻き込んですまなかったね。気をつけて帰りなさい」
雪華はすっ、と先を歩いた。俺が横に並び、夜貴子と狼路が後からついて歩く。
「……下田先輩」
「ん? どうした、雪華」
「今の男の子、可愛い顔してましたね」
「!?」
変なフラグたった!?

一方、雪華一行を見送った猫春は、
「雪華、先輩……」
と、一人つぶやいたのだった。

〈セカンドシーズン・了〉
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕(じゃない人)が幸せにします。

暇魷フミユキ
恋愛
【副題に☆が付いている話だけでだいたい分かります!】 ・第1章  彼、〈君島奏向〉の悩み。それはもし将来、恋人が、妻ができたとしても、彼女を不幸にすることだった。  そんな彼を想う二人。  席が隣でもありよく立ち寄る喫茶店のバイトでもある〈草壁美頼〉。  所属する部の部長でたまに一緒に帰る仲の〈西沖幸恵〉。  そして彼は幸せにする方法を考えつく―――― 「僕よりもっと相応しい人にその好意が向くようにしたいんだ」  本当にそんなこと上手くいくのか!?  それで本当に幸せなのか!?  そもそも幸せにするってなんだ!? ・第2章  草壁・西沖の二人にそれぞれの相応しいと考える人物を近付けるところまでは進んだ夏休み前。君島のもとにさらに二人の女子、〈深町冴羅〉と〈深町凛紗〉の双子姉妹が別々にやってくる。  その目的は―――― 「付き合ってほしいの!!」 「付き合ってほしいんです!!」  なぜこうなったのか!?  二人の本当の想いは!?  それを叶えるにはどうすれば良いのか!? ・第3章  文化祭に向け、君島と西沖は映像部として広報動画を撮影・編集することになっていた。  君島は西沖の劇への参加だけでも心配だったのだが……  深町と付き合おうとする別府!  ぼーっとする深町冴羅!  心配事が重なる中無事に文化祭を成功することはできるのか!? ・第4章  二年生は修学旅行と進路調査票の提出を控えていた。  期待と不安の間で揺れ動く中で、君島奏向は決意する―― 「僕のこれまでの行動を二人に明かそうと思う」  二人は何を思い何をするのか!?  修学旅行がそこにもたらすものとは!?  彼ら彼女らの行く先は!? ・第5章  冬休みが過ぎ、受験に向けた勉強が始まる二年生の三学期。  そんな中、深町凛紗が行動を起こす――  君島の草津・西沖に対するこれまでの行動の調査!  映像部への入部!  全ては幸せのために!  ――これは誰かが誰かを幸せにする物語。 ここでは毎日1話ずつ投稿してまいります。 作者ページの「僕(じゃない人)が幸せにします。(「小説家になろう」投稿済み全話版)」から全話読むこともできます!

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

シチュボの台本詰め合わせ(女性用)

勇射 支夢
恋愛
書いた台本を適当に置いておきます。 フリーなので好きにお使いください。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

処理中です...