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第四章 暗殺者の選択編
第174話 異変と襲撃
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「七百枚だ! 金貨七百枚出すぞ!」
切羽詰まったような声がオークション会場に響き渡った。落札しようと値を吊り上げたのはエリンギ・シータケであった。シータケ一行はモンドとのやり取りがあった後Aエリアにやってきた。
オークション会場はかなり広く中で更に幾つかのエリアにわかれそれぞれの場所がオークションが開催されていた。参加者はそれぞれのエリアのスケジュール確認し目的の物がある場所に移動する形を取っている。
シータケが狙っていたのは宝石だった。レッドエンジェルと呼ばれるこの宝石の価値は高いが、ただ物欲を満たすためだけに落札したいわけではない。
「これを見せればあの女だって靡くはず――クソ! 痒い!」
シータケはネイラのことが忘れられずにいた。だからこそ大金はたいてでもこの宝石を落としそれを餌にネイラを釣ろうと考えているのだ。
もっとも肝心のネイラが宝石に興味を持つかは別問題であり、女であれば誰だって高価な宝石に目がないはずだというシータケの身勝手な妄想でしかなかった。
「しかし大丈夫ですか? こんなに金額上げていって。流石にまずいんじゃ、あぁ痒い」
取り巻きたちが心配そうな目をしていた。同時に全身を掻いてもいた。シータケ同様痒みは一向に収まらない。
「大丈夫だ。流石にもう落ちる筈」
「金貨八百枚!」
会場から感嘆の声があがった。小太りの男が顔を紅潮させて更に金額を上げてきたのだ。
「くそ! だったら八百十枚!」
「八百五十枚!」
「うぐぐぐぁああ!」
シータケが全身を掻きむしりながら叫んだ。悔しくて仕方ないといった様子だが同時に全身の痒みも増しているようだった。
「さぁ八百五十枚が出ました。これ以上はいますか? いなければ」
「待て! こっちは八百、八百――」
そこまで言ったところでシータケの膝が折れた。同時に護衛たちも崩れ落ち胸を押さえ苦しそうにしている。
「ハッハッハ! 値段を上げすぎて興奮して倒れたか馬鹿め~」
勝ち誇ったように笑う小太りの男。だがシータケの様子は明らかにおかしい。思わず司会者がシータケに近づいていった。
「だ、大丈夫ですか?」
「おい! そんな奴は放っておけ! それよりも落札を――」
「まぁ、た、まぁ、たぁ」
小太りの男が先を促す中、シータケが何かをつぶやき始めた。いやシータケだけではない。彼の護衛たちも一斉にブツブツとつぶやき始めたのだ。
「これは、治療室に向かわせた方が良さそうな」
そう言いつつ司会者がシータケの顔を覗き込もうとしたその時、彼の手が司会者の腕を掴んだ。
「マタ、ンゴ、マーーーーターーーーンーーーーゴォオォォオォオ!」
「ひ、ひぃいぃいいいいい!」
司会者が悲鳴を上げ尻もちをついた。するとシータケが立ち上がり司会者を見下ろした。その目には生気は感じられす全身も紫色に変色し、そして顔中には茸が生えてきていた。
「マタンゴォォオォオオォオオ!」
「マタンゴオォォオオォオオ!」
「マーーーータァアアアンオォォオオォオオオォオゴオオオオォオ!」
そしてそれはシータケの護衛にしても一緒だった。一斉に奇妙な叫び声を上げたかと思えば顔に茸を生やしたまま周囲の人間に襲いかかったのである。
「な、なんだ!」
「誰か人を呼べ! 早くだれか」
「いやぁあああ、イタイイタイイタイイイィイイ!」
一瞬にして会場の空気が変わった。顔に茸が生えたシータケたちの暴走によって次々と人が倒れていき――
「お前! 大丈夫か!」
パートナーの女性が倒れ男が近づき声を掛けた。だが化け物とかした連中に傷つけられた女の様子もおかしくなっていた。
「――ンゴォ」
「へ?」
「マターーンゴオォォオォオ!」
「う、うわあぁああぁあ!」
シータケたちに傷つけられた人々もまた同じような化け物と化しまた人々を襲っていく。こうして伝染病のごとく勢いで化け物と化した人々が増殖していくのだった――
◇◆◇
「もうすぐガーズも独身じゃなくなるのか。全く上手いことやりやがって」
正門の前でガーズと一緒に立っていた仲間が笑顔で言った。今回のオークションが終了した後、ガーズは故郷に戻り結婚式を行う。その為一緒に働く同僚たちにもすっかり広まっていた。
「それで相手は美人なのか?」
「まぁ気立ては良い方だと思いますよ」
「幼馴染だって話だったよな。たく羨ましいぜ」
そんなことを話す門番たち。既にオークションも始まったこともありトルネイルに入る人の数も疎らだった。故に雑談する余裕程度は生まれているが――
「うん? 今、何か聞こえなかったか?」
門番の一人がそう言って遠くの山を見た。
「そういえば何か振動を感じるような」
――グォォォオォォォォォオ……。
耳を欹てる門番たち。すると今度は確かに何やら不穏な雄叫びのような物が聞こえてきた。しかも一つ二つではない。
「「「グウォオォオオォォオォオオオオ!」」」
そう、雄叫び二重三重と重なって聞こえ始めたのである。
「すぐに確認を取れ!」
門の左右に建てられた塔に向けガーズが叫ぶと、兵士が望遠鏡で確認した。途端に彼らの顔が青ざめる。
「た、大変だ。とんでもない数の魔獣の群れがこっちに向かってきているぞ!」
「な、なんだと?」
「急いで門を閉めろ! 鐘をならせぇええぇえ!」
顔色を変えながらも職務をまっとうすべく動く兵士達。周囲にけたたましい鐘の音が響き渡りそれと同時に道の先から地鳴りのような音が響いてきた。そしてそれは徐々に大きくなっていく――
切羽詰まったような声がオークション会場に響き渡った。落札しようと値を吊り上げたのはエリンギ・シータケであった。シータケ一行はモンドとのやり取りがあった後Aエリアにやってきた。
オークション会場はかなり広く中で更に幾つかのエリアにわかれそれぞれの場所がオークションが開催されていた。参加者はそれぞれのエリアのスケジュール確認し目的の物がある場所に移動する形を取っている。
シータケが狙っていたのは宝石だった。レッドエンジェルと呼ばれるこの宝石の価値は高いが、ただ物欲を満たすためだけに落札したいわけではない。
「これを見せればあの女だって靡くはず――クソ! 痒い!」
シータケはネイラのことが忘れられずにいた。だからこそ大金はたいてでもこの宝石を落としそれを餌にネイラを釣ろうと考えているのだ。
もっとも肝心のネイラが宝石に興味を持つかは別問題であり、女であれば誰だって高価な宝石に目がないはずだというシータケの身勝手な妄想でしかなかった。
「しかし大丈夫ですか? こんなに金額上げていって。流石にまずいんじゃ、あぁ痒い」
取り巻きたちが心配そうな目をしていた。同時に全身を掻いてもいた。シータケ同様痒みは一向に収まらない。
「大丈夫だ。流石にもう落ちる筈」
「金貨八百枚!」
会場から感嘆の声があがった。小太りの男が顔を紅潮させて更に金額を上げてきたのだ。
「くそ! だったら八百十枚!」
「八百五十枚!」
「うぐぐぐぁああ!」
シータケが全身を掻きむしりながら叫んだ。悔しくて仕方ないといった様子だが同時に全身の痒みも増しているようだった。
「さぁ八百五十枚が出ました。これ以上はいますか? いなければ」
「待て! こっちは八百、八百――」
そこまで言ったところでシータケの膝が折れた。同時に護衛たちも崩れ落ち胸を押さえ苦しそうにしている。
「ハッハッハ! 値段を上げすぎて興奮して倒れたか馬鹿め~」
勝ち誇ったように笑う小太りの男。だがシータケの様子は明らかにおかしい。思わず司会者がシータケに近づいていった。
「だ、大丈夫ですか?」
「おい! そんな奴は放っておけ! それよりも落札を――」
「まぁ、た、まぁ、たぁ」
小太りの男が先を促す中、シータケが何かをつぶやき始めた。いやシータケだけではない。彼の護衛たちも一斉にブツブツとつぶやき始めたのだ。
「これは、治療室に向かわせた方が良さそうな」
そう言いつつ司会者がシータケの顔を覗き込もうとしたその時、彼の手が司会者の腕を掴んだ。
「マタ、ンゴ、マーーーーターーーーンーーーーゴォオォォオォオ!」
「ひ、ひぃいぃいいいいい!」
司会者が悲鳴を上げ尻もちをついた。するとシータケが立ち上がり司会者を見下ろした。その目には生気は感じられす全身も紫色に変色し、そして顔中には茸が生えてきていた。
「マタンゴォォオォオオォオオ!」
「マタンゴオォォオオォオオ!」
「マーーーータァアアアンオォォオオォオオオォオゴオオオオォオ!」
そしてそれはシータケの護衛にしても一緒だった。一斉に奇妙な叫び声を上げたかと思えば顔に茸を生やしたまま周囲の人間に襲いかかったのである。
「な、なんだ!」
「誰か人を呼べ! 早くだれか」
「いやぁあああ、イタイイタイイタイイイィイイ!」
一瞬にして会場の空気が変わった。顔に茸が生えたシータケたちの暴走によって次々と人が倒れていき――
「お前! 大丈夫か!」
パートナーの女性が倒れ男が近づき声を掛けた。だが化け物とかした連中に傷つけられた女の様子もおかしくなっていた。
「――ンゴォ」
「へ?」
「マターーンゴオォォオォオ!」
「う、うわあぁああぁあ!」
シータケたちに傷つけられた人々もまた同じような化け物と化しまた人々を襲っていく。こうして伝染病のごとく勢いで化け物と化した人々が増殖していくのだった――
◇◆◇
「もうすぐガーズも独身じゃなくなるのか。全く上手いことやりやがって」
正門の前でガーズと一緒に立っていた仲間が笑顔で言った。今回のオークションが終了した後、ガーズは故郷に戻り結婚式を行う。その為一緒に働く同僚たちにもすっかり広まっていた。
「それで相手は美人なのか?」
「まぁ気立ては良い方だと思いますよ」
「幼馴染だって話だったよな。たく羨ましいぜ」
そんなことを話す門番たち。既にオークションも始まったこともありトルネイルに入る人の数も疎らだった。故に雑談する余裕程度は生まれているが――
「うん? 今、何か聞こえなかったか?」
門番の一人がそう言って遠くの山を見た。
「そういえば何か振動を感じるような」
――グォォォオォォォォォオ……。
耳を欹てる門番たち。すると今度は確かに何やら不穏な雄叫びのような物が聞こえてきた。しかも一つ二つではない。
「「「グウォオォオオォォオォオオオオ!」」」
そう、雄叫び二重三重と重なって聞こえ始めたのである。
「すぐに確認を取れ!」
門の左右に建てられた塔に向けガーズが叫ぶと、兵士が望遠鏡で確認した。途端に彼らの顔が青ざめる。
「た、大変だ。とんでもない数の魔獣の群れがこっちに向かってきているぞ!」
「な、なんだと?」
「急いで門を閉めろ! 鐘をならせぇええぇえ!」
顔色を変えながらも職務をまっとうすべく動く兵士達。周囲にけたたましい鐘の音が響き渡りそれと同時に道の先から地鳴りのような音が響いてきた。そしてそれは徐々に大きくなっていく――
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