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第四章 暗殺者の選択編
第170話 不穏な影
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「そろそろオークションが始まってる頃ですぜ」
商業都市トルネイルを望める丘の上から一人の男がいった。男は望遠鏡を利用して街の様子を見ている。
その場には男の他にも何人かの男女が集まっていた。一行はオークションに興味があるようだが会話の内容を考えるにオークション参加者というわけではないだろう。
「そうか。で、警備はどうなんだ?」
集団の中で一際大きな男が問いかけた。発せられる圧も強くこの中のリーダー格であることは間違いないだろう。
「それなりに手厚いようです。門番の数も多そうだ」
「そっちはどうだホーク?」
「ヘヘッ、上から見てるがやはり護衛の数が多いな。情報通り冒険者が随分な数雇われてるようだぜ」
ホークと呼ばれた男が答えた。小柄な男であり鶏冠のような髪型が特徴的でもある。
「それでキング。何か作戦は考えてるのかい?」
緑髪の女が問いかけた。扇状的なドレスに身を包んだ女でありどことなく妖艶な雰囲気を漂わせている。
「作戦? そんなもんねぇよ。いつも通り一斉に乗り込んでいって好き勝手暴れろ。街なかでもオークション会場でもな。欲しいものは好きなだけ奪えそれが【怒涛の獅子】のやり方だ」
答えを聞いた女が呆れたようにため息をついた。
「随分と脳筋な考え方ね。折角の情報源が台無しよ」
「フンッ。情報なんてもんは参考程度でいいんだよ。それよりお前の方こそどういう風の吹き回しだライラ? 突然俺等についてくるなんていい出しやがって」
「別にいいでしょう。私もいい加減仕事に復帰しないといけないからね」
そう言ってネイラが髪を掻き上げて。その姿を訝しげに見下ろすキングだが――
「まぁいい。だが妙な真似をしたらどうなるか、わかってるな?」
「心配は不要よ。だけどあんたが頼りないとわかったら見捨てて逃げるぐらいはするわよ」
「フンッ。だったら問題ねぇな。七頭の中で俺が一番強ぇわけだからな」
「それならいいけど。でもせいぜい気をつけることね。情報によるとあのパトリエって腕利きの冒険者も雇われているみたいだし」
「寧ろそいつとはやりあってみたいもんだがなぁ」
ネイラの話を聞き、キングは獰猛な笑みを浮かべた。そして盗賊団【怒涛の獅子】が動き出すまでそう時間は掛からなかった――
◇◆◇
「これはまた、随分と人が多いね。リョウガ」
「あぁ。それに護衛の数も相当だ」
オークション会場に入りマリスが俺に話しかけてきた。確かに会場には人が多く護衛の数も相当だ。もっともここに揃っているのは会場の護衛だけではない。
これだけの規模のオークションだ。参加者も有力貴族だったり豪商だったりとそれ相応の身分のものばかりなのだろう。当然彼らもまた個別に護衛を雇っている。結果的に護衛を務める冒険者の数もかなりの人数になっているわけだ。
「今宵のオークションもかなり期待できそうですなぁ」
「えぇ。ダンジョンでしか採れない希少な宝石や黄金竜の鱗など目玉は沢山」
「珍しい奴隷も出品されるとか。そちらの方は何をお目当てですかな?」
「私は元令嬢の奴隷が気になっていますわ」
「やはりそのような身分の方の奴隷をご所望ですか? 私は強い奴隷が――」
周囲の人間は出品される品々について語り合っていた。その中の奴隷という響きにマリスの表情が曇る。
「マリスわかってると思うが」
「も、勿論だよ。私情は挟まない。仕事なんだから」
俺が釘を刺すとマリスは理解しているように振る舞ったが注意はしておいた方がいいかもな。
「私は難病の特効薬が出ると聞いてね。それでわざわざ来たんですよ」
「その薬ってどんな薬なんですか!」
薬と聞いたマリスが前のめりになって見ず知らずの男に詰め寄っていた。頭が痛くなるな。
「おい、やめろ馬鹿」
「痛! 痛いってリョウガ!」
マリスの頭を鷲掴みにして力を込めてやった。マリスが半泣きになっているが関係ない。
「はは、構いませんよ。しかし随分と可愛らしいお嬢さんなのに君も水虫で悩んでいるのかい?」
「へ? み、水虫?」
どうやら今話していた薬というのは水虫に効く薬らしいな。まぁ確かに難病と言えば難病か。
「あ、いや、その」
「はは、まぁ水虫に効く薬は私が落とす予定だからそこは譲れないかな。しかし君も若いんだから水虫には気をつけたまえよ」
そう言って男が去っていった。マリスは肩を落としてしょげている。
「ハハッ、お目当ての薬ではなくて残念だったね」
マリスの様子を見ていたモンドが笑って話しかけてきた。今のやりとりをしっかり聞かれていたようだ。
「マリスが済まなかったな」
「いやいや、構わないさ。護衛だからといってそこまで気張らなくていいんだよ。勿論仕事をおろそかにするようでは困るけどね」
そう言って笑うモンド。今のも疎かにするに入ってそうだがようは護衛さえしっかり出来ていれば細かいことには目を瞑るということか。
「とは言えオークションが始まったらもう気は抜けないからな」
真顔でゴングが言った。確かに本番はオークションが始まってからとも言えるか。
「今のうちに配置も決めておくかい」
「そうだな。ちょっと待ってろ図面を開く」
イザベラに言われゴングが会場の見取図を広げた。それと実際の現場を見比べながら話を進めていく。
結果先ずは俺とマリスがモンドとエンデルの近くでの護衛、後はイザベラとクリス、ゴングとパルコで周辺の護衛にあたることになった。これも時間で入れ替わりながら行う。
これには俺たちとは別にモンドに雇われている黒服たちも加わることとなる。
『会場にお集まりの皆様、お待たせいたしました! いよいよここトルネイルにて世界最強のオークションの開催となります!』
会場中に響き渡るアナウンス。いよいよオークションのスタートだな――
商業都市トルネイルを望める丘の上から一人の男がいった。男は望遠鏡を利用して街の様子を見ている。
その場には男の他にも何人かの男女が集まっていた。一行はオークションに興味があるようだが会話の内容を考えるにオークション参加者というわけではないだろう。
「そうか。で、警備はどうなんだ?」
集団の中で一際大きな男が問いかけた。発せられる圧も強くこの中のリーダー格であることは間違いないだろう。
「それなりに手厚いようです。門番の数も多そうだ」
「そっちはどうだホーク?」
「ヘヘッ、上から見てるがやはり護衛の数が多いな。情報通り冒険者が随分な数雇われてるようだぜ」
ホークと呼ばれた男が答えた。小柄な男であり鶏冠のような髪型が特徴的でもある。
「それでキング。何か作戦は考えてるのかい?」
緑髪の女が問いかけた。扇状的なドレスに身を包んだ女でありどことなく妖艶な雰囲気を漂わせている。
「作戦? そんなもんねぇよ。いつも通り一斉に乗り込んでいって好き勝手暴れろ。街なかでもオークション会場でもな。欲しいものは好きなだけ奪えそれが【怒涛の獅子】のやり方だ」
答えを聞いた女が呆れたようにため息をついた。
「随分と脳筋な考え方ね。折角の情報源が台無しよ」
「フンッ。情報なんてもんは参考程度でいいんだよ。それよりお前の方こそどういう風の吹き回しだライラ? 突然俺等についてくるなんていい出しやがって」
「別にいいでしょう。私もいい加減仕事に復帰しないといけないからね」
そう言ってネイラが髪を掻き上げて。その姿を訝しげに見下ろすキングだが――
「まぁいい。だが妙な真似をしたらどうなるか、わかってるな?」
「心配は不要よ。だけどあんたが頼りないとわかったら見捨てて逃げるぐらいはするわよ」
「フンッ。だったら問題ねぇな。七頭の中で俺が一番強ぇわけだからな」
「それならいいけど。でもせいぜい気をつけることね。情報によるとあのパトリエって腕利きの冒険者も雇われているみたいだし」
「寧ろそいつとはやりあってみたいもんだがなぁ」
ネイラの話を聞き、キングは獰猛な笑みを浮かべた。そして盗賊団【怒涛の獅子】が動き出すまでそう時間は掛からなかった――
◇◆◇
「これはまた、随分と人が多いね。リョウガ」
「あぁ。それに護衛の数も相当だ」
オークション会場に入りマリスが俺に話しかけてきた。確かに会場には人が多く護衛の数も相当だ。もっともここに揃っているのは会場の護衛だけではない。
これだけの規模のオークションだ。参加者も有力貴族だったり豪商だったりとそれ相応の身分のものばかりなのだろう。当然彼らもまた個別に護衛を雇っている。結果的に護衛を務める冒険者の数もかなりの人数になっているわけだ。
「今宵のオークションもかなり期待できそうですなぁ」
「えぇ。ダンジョンでしか採れない希少な宝石や黄金竜の鱗など目玉は沢山」
「珍しい奴隷も出品されるとか。そちらの方は何をお目当てですかな?」
「私は元令嬢の奴隷が気になっていますわ」
「やはりそのような身分の方の奴隷をご所望ですか? 私は強い奴隷が――」
周囲の人間は出品される品々について語り合っていた。その中の奴隷という響きにマリスの表情が曇る。
「マリスわかってると思うが」
「も、勿論だよ。私情は挟まない。仕事なんだから」
俺が釘を刺すとマリスは理解しているように振る舞ったが注意はしておいた方がいいかもな。
「私は難病の特効薬が出ると聞いてね。それでわざわざ来たんですよ」
「その薬ってどんな薬なんですか!」
薬と聞いたマリスが前のめりになって見ず知らずの男に詰め寄っていた。頭が痛くなるな。
「おい、やめろ馬鹿」
「痛! 痛いってリョウガ!」
マリスの頭を鷲掴みにして力を込めてやった。マリスが半泣きになっているが関係ない。
「はは、構いませんよ。しかし随分と可愛らしいお嬢さんなのに君も水虫で悩んでいるのかい?」
「へ? み、水虫?」
どうやら今話していた薬というのは水虫に効く薬らしいな。まぁ確かに難病と言えば難病か。
「あ、いや、その」
「はは、まぁ水虫に効く薬は私が落とす予定だからそこは譲れないかな。しかし君も若いんだから水虫には気をつけたまえよ」
そう言って男が去っていった。マリスは肩を落としてしょげている。
「ハハッ、お目当ての薬ではなくて残念だったね」
マリスの様子を見ていたモンドが笑って話しかけてきた。今のやりとりをしっかり聞かれていたようだ。
「マリスが済まなかったな」
「いやいや、構わないさ。護衛だからといってそこまで気張らなくていいんだよ。勿論仕事をおろそかにするようでは困るけどね」
そう言って笑うモンド。今のも疎かにするに入ってそうだがようは護衛さえしっかり出来ていれば細かいことには目を瞑るということか。
「とは言えオークションが始まったらもう気は抜けないからな」
真顔でゴングが言った。確かに本番はオークションが始まってからとも言えるか。
「今のうちに配置も決めておくかい」
「そうだな。ちょっと待ってろ図面を開く」
イザベラに言われゴングが会場の見取図を広げた。それと実際の現場を見比べながら話を進めていく。
結果先ずは俺とマリスがモンドとエンデルの近くでの護衛、後はイザベラとクリス、ゴングとパルコで周辺の護衛にあたることになった。これも時間で入れ替わりながら行う。
これには俺たちとは別にモンドに雇われている黒服たちも加わることとなる。
『会場にお集まりの皆様、お待たせいたしました! いよいよここトルネイルにて世界最強のオークションの開催となります!』
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