クラスで馬鹿にされてた俺、実は最強の暗殺者、異世界で見事に無双してしまう~今更命乞いしても遅い、虐められてたのはただのフリだったんだからな~

空地大乃

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第四章 暗殺者の選択編

第167話 偏見

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 盗賊に世話になっていた時のことを少し思い出した。まぁお互い打算があっての事だったが――成り行きで戦い方を教えたりもしたな。

「リョウガどうかした?」

 横にいたマリスが聞いてきた。マリスにこんなこと言われるとは。こんな感傷に浸るような真似、らしくもないか。

「別になんでもないさ」

 頭の中に浮かんだものを消し去りマリスに答えた。怪訝そうな顔を見せるマリスだがわざわざ説明する程のことでもない。

「お兄ちゃん筋肉すごい! どうやったらこんなになれるの?」
「おお。俺の筋肉に目を向けるとは見どころがあるな。いいか? たっぷり食ってしっかり鍛えるこれが強い男の秘訣だ」

 なんとなく声のする方を見ると目を輝かせる子ども相手に力こぶを見せつけるゴングの姿があった。相手が子どもとは言えゴングも褒められてまんざらでもなさそうだな。

「確かに筋肉はあるけどこいつは御頭が弱いからね。君は体だけじゃなくしっかり学習しないと駄目だよ」
「おい! 誰が馬鹿だ誰が!」
「そこまで言ってないでしょう。間違ってないけどね」

 ゴングとパルコのやり取りを見て子どもが笑っていた。肩の上に乗っている猿も楽しそうに手を叩いている。

「アル! 何してるの!」
 
 ふと女性の金切り声がレストランに響いた。アルと呼ばれたのは俺たちに話しかけていた子なのだろう。ビクッと肩が震え強張った顔で振り返る。

「ママ……」
「全く急に姿を消したかと思えばこんなところで、知らない人と話してはいけないと言ってあるでしょう!」

 ズカズカとやってきた女がアルの手を引っ張った。金髪の髪を後ろで纏めた女性だった。派手な赤のドレス姿で嫌でも目立っている。

「それで貴方たちは?」

 睨むような目で女が聞いてきた。

「俺たちは冒険者だよ。依頼者に同行して食事に来ていたんだ」
「冒険者ね。道理で」

 ゴングがムッとした顔を見せた。今の道理での言葉に侮蔑の感情が滲んでいたからだろう。実際女は俺たちを見下すような視線を向けて来ている。

「行くわよアル。冒険者なんて低俗な連中と話していたら品性を疑われてしまうわ」
「随分な言い草だねぇ」

 近くで聞いていたイザベラも不愉快そうな顔を見せていた。隣りにいたクルスが宥めている。

「でもママ」
「いいから来なさい!」
 
 そしてアルは母親に引っ張られ向こうに行ってしまった。ゴングとパルコは不機嫌と言った様相でその後ろ姿を見ていた。

「クソ。好き勝手いいやがって」
「悪かったね。確かあの婦人は男爵夫人でね。貴族の中には冒険者に偏見を持つものもいるのだよ。気にしないことだ」

 憤るゴングを宥めるようにモンドが言った。さっきのシータケもそうだが冒険者のような職業をよく思っていない連中も一定数いるということだ。

「決めつけられると気分悪いよね」
「ま、そうかもだけど気にするだけ時間の無駄よ。あぁ言った手合は無視するに限るのよ」

 眉を顰めるマリスにネイラが答えた。ま、それが無難な選択だろう。

「何やらいろいろとトラブルに見舞われたが、明日のこともある。ここからはしっかり腹ごしらえをして明日に備えてくれ」

 モンドに言われ俺たちは食事を再開させた。オークションは明日から開催なようだからな。モンドとしてもここでしっかり英気を養ってほしいといったところなのだろうな――




◇◆◇

「全くどうして僕がこんな目に!」
 
 部屋に戻りシータケは着替えを行っていた。

「おいクリーニングも呼んでおいてくれ。このままじゃ使い物にならない」
「承知いたしました――うん? 何だ貴様は! ここがシータケ伯爵家の子息が泊まる部屋と知っ――」

 そこで言葉が途絶えた。突然のことにシータケも目を白黒させる。

「お、おい。一体どうした? 何かあったのか?」
 
 シータケがドアの近くまで移動し声を掛けるもすぐに反応はなく、しかし数秒してドアがゆっくりと開いた。

 シータケの部屋に無断で白髪の男が入ってくる。

「は? な、誰だお前は!」
「お初にお目にかかります。私はしがない錬金術師のエボと申します。実は貴方に試してもらいたいものがありまして」

 そう言ってエボが細長い瓶を取り出した。突然の来訪者にシータケの顔がこわばる。

「お、おい! 不審者だ! 誰かいないのか!」
「無駄ですよ。既に全員意識は失ってますからねぇ。ですがご安心を。何も取ってくおうというわけじゃない。ただまるでキノコのような貴方に相応しい物を与えにきただけですよ」
「き、貴様! 僕をキノコと馬鹿にしたな! この由緒あるシータケ家の僕、ぐぼっ!」
「まぁまぁ。ほれほれ一気一気」

 怒りをあらわにするシータケなど気にもとめずエボが瓶の蓋を外し彼の口に突っ込んだ。シータケの喉が鳴り中身はすべて飲み干された。

「ゲホッ! ゲホッ! お前まさか僕に毒を?」
「そんなマネはしませんよ。安心してくださいもっと面白い物です。もっともすぐに眠気がやってきて私とのやり取りなど忘れ去るでしょうがね」
「な、なんだ、と――」
 
 そしてエボの言う通りシータケの目が閉じていきそのまま床に倒れ眠りについた。

「これで良しと。フフッ、明日は私が無事に実験体を手に入れる為にもしっかり仕事してくださいね――」

 そう言い残しエボは部屋を出たのだった――
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