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第四章 暗殺者の選択編

第149話 暗殺者の反撃手段

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『うぉっぉおおおぉおっと! これは凄まじい技がリョウガ選手を直撃! これは果たして無事なのか少々心配になるところですが果たしてどうなの――え?』

 周りを盛り上げるように叫んだ司会者。だがその声が止まった。俺が無事なのを確認したからか、それともこの姿を見たからか、ま、どっちでもいいが。

「ちょ、あなた何よその体!」

 ネイラが目を見開いて叫んだ。今の俺の姿は鬼の如く様相に変化していた。ネイラの技を受ける直前に解放したからだ。

「確かに威力はかなりのものだな。咄嗟だったとは言え俺もつい力を解放してしまった。ただ――」
 
 ネイラにそう答えつつ俺は再び元の姿に戻った。

「今ので大体理解した。もうこのあたりでいいだろう」
『お、お~っとリョウガ選手! 再び元に戻りましたが果たして先程の姿は何だったのか! これは何らかのスキルの効果があったと見るべきでしょう!』

 得意げに語る司会者だが見事に外れてるな。俺はこの世界のスキルを与えられていない。

「なるほどスキルってわけね。結構なスキルをもっているじゃない」
「まぁ訂正するのも面倒だからそれでいいかもう」

 ここでスキルじゃないと答えるのも手だが、それならそれでさっきの状態をどうやったのか問われそうだからな。

「でもそんなにあっさり変身を解いてよかったの。それとも時間制限でもあるスキルなのかしら」
「別にそういうわけじゃない。今も言ったが既にお前の技は理解した。解放の必要はない」

 俺の発言が気に障ったのかネイラがムッとした顔を見せる。

「だったら見せてみなさいよ!」
「そうするか」

 蛇腹剣を振るうネイラだが俺はそこから軽くステップを踏んでいきそこから加速した。

「え? 嘘どこにいったのよ!」
『お~っとこれはリョウガ選手が忽然と消えてしまいました! ま、まさか逃げたのか!』
「いるさ」

 ネイラがキョロキョロと俺を探し出し司会者は俺が逃亡したと勘違いしだしたので返事だけはしておく。

『これはリョウガ選手の声だけは聞こえる状態に、いや、タタタン、タタンっと小気味よい音も確かに聞こえています! これはリョウガ選手が鳴らしているのか!』

 間違いではないな。俺は消えたわけではなく高速移動しているだけだ。だから足音は聞こえている。もっとも暗殺者の歩法を利用すればその音だって消せるが痕跡は残しておかないと逃げたと疑われるからな。

「一体どこに隠れたのよ!」
「ここだよ」
「――ッ!?」

 俺はネイラの横から打撃を浴びせた。ネイラの目が驚愕に染まる。

「いつの間に攻撃を!? だけど無駄よ! 貴方だってわかってるんでしょう? 私の体にはそんな攻撃は通用しない。素手の貴方なら特にね!」

 ネイラがどうだと言わんばかりに胸を張る。

「さて、それはどうかな?」

 ネイラを中心に動き回りながら声を上げ、直後一気に加速しネイラに迫った。そしてネイラに攻撃を叩き込む。ただしさっきと違い加速した勢いを利用して全方位から拳を叩き込んだ。

「ガハ――ッ!?」

 今度は確実に手応えがあった。ネイラの体が上空高く舞い上がり錐揉み回転しながら地面に叩きつけられた。

「ゲホッゲホッ! そんな、どうして私がダメージを?」

 起き上がり片膝をついた状態で疑問の声を上げるネイラ。吐血して顎は朱色に染まってしまっている。それだけダメージが届いたということだ。

「軟体を利用して衝撃を霧散させる。その考えは良かったと思うが、それもあくまで一点への攻撃に限ってのことだ」

 ネイラの疑問に答える形で話した。ネイラの目が俺に向けられる。

「だから何? 攻撃なんてそんなものでしょう?」
「そうでもないさ。現に今俺は全方位からほぼ同時にお前に拳を叩きこんだ。その結果衝撃の逃げ場がなくなりお前にダメージがいったわけだからな」
「な、何よそれ、そんなの出来るわけ無い」
 
 ネイラの肩がわなわなと震えていた。信じられないといった様子だがただ加速するだけならこの状態でも特に問題はない。この場合一撃一撃の威力は弱まるがネイラみたいなタイプには一撃の威力よりも手数で衝撃の逃げ場を無くした方が手っ取り早い。

「うぅうこんなことで――」

 ネイラが唇を噛んだ。自分の防御手段が突破されたことで衝撃を受けているのか。

「それで、また続けるのか?」
「つ、続けるわよ! ご丁寧に御高説ご苦労なことね。だったらその対策に対策するだけよ」

 ネイラがいい切った。そう簡単に対策できるとは思えないがダメ押ししておくか。

「言っておくが今のはあくまで手段の一つだ。お前の防御を崩す手なら他にも色々とある。例えば――」

 ストンっと俺は地面に拳を置いた。途端に地面が円状に大きく陥没した。

『なんとこれはとんでもない! ただ拳をおいただけだというのに一体何が起きたのか!』
 
 司会者も戸惑っているな。

「インパクトの瞬間に腕を高速振動させることで衝撃を波紋のように広げる技だ。内側からの破壊に最適だからな。お前の防御も意味はない。他にもいくつか候補があるが本当にこれ以上続けるのか?」
「………………」

 俺の説明にネイラはポカンっとした顔を見せた。どうやら思考が追いついてないようだな。

 とは言え今言ったことも事実だ。正直格闘戦に拘らないのなら燃やすなり電撃を浴びせるなり幾らでも手はあるからな。

「う、ううぅうぅぅううぅうう! ま、ま、負けたわ! 認めるわよ!」

 そしてネイラが叫んだ。負けを認めた形だ。やれやれこれで試合も本当に終わりか――
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