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第四章 暗殺者の選択編

第122話 胸騒ぎ

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 俺たちが見張りに立ってから少し経ち、ちょっとした動きがあった。周囲を見ると疲れているのか全員よく眠っている。

「……ちょっと周囲を見てくる。マリスはここにいてくれ」
「え? それだったら私も行くよ!」

 俺がマリスに指示するとマリスが同行したいとアピールしてきた。しかしそれは認めるわけにはいかない。

「俺たちは護衛の為にここにいるんだ。見張りが二人揃ってここを離れていたんじゃ意味がないだろう。だから様子を見に行くのは俺一人でいい」
「う、で、でも、一人で大丈夫なの?」

 何だ? マリスが妙に不安そうな顔でそんなことを聞いてきた。正直マリスがいてもいなくてもそんなには変わらない気がするが――

「問題ない。ちょっと見回ってくるだけだ」
「そ、そう。ちょっと胸騒ぎがしたんだけど気をつけてね――」

 神妙な面持ちでマリスがそんなことを言ってきた。俺も油断する気はないが、マリスがそこまで心配するようなことだろうか。

 とにかくマリスに見張りを任せ俺は鬱蒼と茂る緑の中に入っていった。とは言え、既に行き先は決まっている。

 しばらくして緑が薄れ崖に挟まれた空間に出た。空には満月。月明かりだけが周囲を照らす中、俺は崖上の足場に視線を向けた。

「隠れてないで出てきたらどうだ?」

 なんとなく既視感もあるが、声を上げると崖の上からどうみても全うでなさそうな連中が姿を見せた。

「盗賊ってのはコソコソしているのが好きなんだな」
「たった一人でノコノコとやってきて随分と強気じゃないか」

 声を上げたのは女だった。ちょっと前に戦った賊連中とちがってこっちには女も混じっていた。

「一人でやってきたというよりは一人でしかこれなかったんだろう? 腹をすかせた連中に散々やられただろうからな」

 女の隣に立った男が続けて言った。この口ぶり、襲ってきたあの蟲や狼はこいつらが仕掛けてきたと見て間違いなさそうだな。

 とは言え、随分とこっちを舐めてきてるな。この世界だと俺は随分と幼く見えるようだからな。それでだろう。まぁ、そうやって舐めてくれてるならやりやすいが――

「お前ら油断するな。あいつはそう簡単な奴じゃねぇぞ」

 そんなことを思っていたところに別な男の声。背の高い引き締まった体つきの男だった。他の連中とは俺を見てくる顔つきも違う。

「ボス。相手はたった一人ですよ」
「それがどうした? よく見てみろ。あいつは負傷している様子が一切ない。疲れも感じられない。つまり先に仕掛けた奴らを物ともしなかったってことだ。それだけの腕があるってことだろうよ」
 
 ……なるほど。盗賊の中にも感覚の鋭い奴はいるようだな。思えばこの世界に来て最初に出会った盗賊のゴーガンもそうだった。もっともゴーガンの場合はすぐに謝罪に入り俺との戦いを避けてきたが。

 こいつに関してはどうか、といったところだが、あのギラついた瞳。俺のことを舐めれはいないようだが退く気もなさそうだな。

「……ペスタ。チェン。行け、全力でな」

 この賊連中のボスとやらが命じると同時に二人の男女がおりてきた。一人はさっきの女だな。

「ペースト!」

 着地した瞬間、女が指を突き出し声を上げた。途端に俺の右足に違和感。地面から離そうとしても離れなかった。地面と足がくっついているのか。

 これもスキルか――だがこれなら。

「逃さねぇからな!」

 俺が逃れる手を考えているともう一人の男の手から鎖が伸びてきて俺を縛り付けた。ペーストで足を取られている隙をついての鎖――あのボスの狙いはこれか。随分と連携がしっかりしている。

 スキルの内容が被っていそうに思えるが、実際は違うようだ。なぜなら鎖に巻き付かれたことで明らかに俺の力が弱まっているからだ。

「よっしゃ! やりましたぜボス。これでもう勝ったもどうぜ――」
「馬鹿野郎! そんなくだらねぇことで喜んでる暇があるならすぐに止めをさぜ!」
「「「「「へ、へい!」」」」」

 ボスに怒鳴りつけられ崖上の連中が矢や投げ槍、火球などで攻撃してきた――
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