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第三章 冒険者となった暗殺者編

第70話 二日目の護衛依頼

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 昨晩は依頼人から食事を奢ってもらいマリスも随分と満足したようだ。ダリバとスカーレッドは昨晩は結構な量酒を呑んでいたからか今はまだ寝ている。

 俺とマリスは昨日のダリバとスカーレッドに代わって依頼人の仕事に付き添い護衛する。それが今日の仕事だ。   

「今日も護衛の程宜しくお願い致します」
    
 朝、俺とマリスが合流しそのまま依頼人の護衛についた。依頼人は相変わらず丁重に挨拶してくれる。人柄が良いのだろうが商人として見ると良すぎな気もするか。

「今日は私とリョウガでしっかり護るからね!」
「仕事は全うさせてもらうよ」
「ハハッ。頼りにしてますよ」

 そして俺たちは依頼人を護衛して街を回ることになった。話によると昨日の内に持ってきた荷は殆ど届け終わったらしい。一軒分だけ残ってるようだがそれは午後からということで午前中は仕入れと商談が主になるようだ。 
  
「ほう。これはとても良いぶどう酒ですね」
「えぇこれほどの物は中々出てきませんよ」
「わかりましたそれでは――」
    
 一軒目の店ではぶどう酒の仕入れを行ったようだ。樽ごと幾つか購入し定期的に購入する場合にどれぐらい値下げ出来るかなど確認中だった。
   
 流石に商人だけあってこの手の交渉には時間を掛ける。最終的には納得の行く結果になったようで互いに満足して交渉を終えたようだ。 

「では次に向かいますか」
   
 依頼人と次の店に向かう。今のところ特に何もおきていないがおかげでマリスは少々退屈そうだな。

「何も起きないね」
「はは。勿論何も起こらないのが一番ですからね。昨日も特に問題なく進みました」
    
 依頼人が答えた。何も起きないのが一番はもっともな感想だ。そもそもここに来るまでに危険な目にはあっていたからな。街なかぐらいは平穏に済ましたいと思うのは当然だろう。
  
「お、おいヤベェぞ!」
「馬が暴れてる!」
    
 すると次の目的地に向かう途中そんな声が聞こえてきた。見ると確かに馬が暴れていた。だがここからは距離があるし危険は及ばないか。
 
「キャァアア! うちの子が!」
     
 だが俺たちに危険がないからと他の人間に何も起きないわけじゃない。見ると確かに馬が暴れている先に幼児の姿があった。
    
「急がなきゃ!」
  
 するとマリスが咄嗟に飛び出し子どもに向けて駆け出した。強化魔法を使っているのか馬の足が子どもを蹴り飛ばす寸前にマリスが子どもを抱きかかえその場を離れた。

「おお! やりましたね流石です!」
    
 マリスの救出劇を見て依頼人は喜んでいたが俺たちの目的はあくまで護衛だ。対象から勝手に離れる行為は本来褒められたものじゃないんだがな。
  
「助かってよかったよ」
「素晴らしい! いいことをしましたね!」
    
 依頼人はマリスを褒めたがそれは彼の人がよいからだな。依頼人によってはこの行為に不満を持つのもいるだろう。

「マリス。護衛対象から勝手に離れるのはどうかと思うぞ」
「え? だってあのままじゃあの子危なかったよね。それにリョウガがいればひとまず安心だし」
   
 俺の指摘を受けマリスは不満そうにしていた。俺は仕事であれば依頼人を第一に考えるのが当然だと思うんだがな。

「恐らくリョウガさんの考えも間違いではないのでしょう。でも私はあぁいったときに咄嗟に人助けの為に動けるマリスさんも素晴らしいと思いますよ」
「ほら!」
   
 マリスが得意顔になった。依頼人の言葉をとればどちらの判断も間違いではないということだろう。正直あの状況で子どもを助けるという判断は俺には出来なかっただろうがな。

「お二人はいいコンビですね。リョウガさんは冷静沈着ですが恐らくそれ故に融通がきかないのでしょう。逆にマリスさんは感情のまま直感的に動けるタイプに見えます。だからこそお互い上手く噛み合うのではないのでしょうか?」

  依頼人が俺とマリスの違いを述べて来た。そんなこと俺は全く考えたことがなかったな。もしかしたら普通はマリスの用に咄嗟に動けるものなのだろうか。

 自分の事となると別だが赤の他人のためにそこまで俺は考えられない。マリスはそうではないか。そこが俺とマリスの決定的な違いなのだろう。

 そんなことを思いつつも俺たちは次の目的地へ向かった――
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