上 下
62 / 177
第三章 冒険者となった暗殺者編

第61話 暗殺者は新たな街で報告する

しおりを挟む
 俺とマリスはとりあえず冒険者ギルドにやってきた。この街には初めて来たが、こういう施設の立地条件は何となく理解できていたので探すのには苦労しなかった。

 建物は俺が登録したギルドと比べてそこまで違いはない。二階建ててレンガ作りでまぁ形に若干違いがあるかなぐらいだ。

 ギルドに入るが冒険者の姿はまばらだった。暇というわけではないだろう。時間が時間だけに冒険者の多くは仕事に出ていると考えるのが妥当だ。

 依頼書が貼られているボードにも殆ど依頼書が残っていないのもそれを暗に示している。

 カウンターに向かうと書類仕事をしている受付嬢がこちらに気がついた。

「ようこそ。本日はどのようなご用件で?」

 ニコリと営業スマイルを浮かべ茶髪の受付嬢が応対してくれた。俺は自分たちが護衛の依頼を受けていること、そして途中で盗賊に襲われた事を伝えた。

「なるほど。ガラルドから来たのですね。どうりで見ない顔だと思いました」

 ガラルドは俺が今過ごしている町の名前だ。今更ながら再認識することになったがな。

「しかし盗賊ですか。確かに今は・・色々と物騒ですからね」

 今は、か。元々盗賊は多そうに思えたが敢えてそう口にしたという事は理由があるのだろう。

「それでこれは何か役に立つか?」

 とりあえず俺は盗賊から切り取った耳をカウンターに置いた。それを見ても慣れているのか受付嬢は全く動じない。

「そうですね。耳があれば鑑定に掛けられますので――ただ最近の盗賊はしたたかですからね」
「そうか。そういえば連中は暴虐の狼と名乗っていた。冒険者崩れが集まって出来た盗賊団らしいがわかるか?」
「それは貴重な情報をありがとうございます。暴虐の狼にはうちも悩まされてますからね……」

 受付嬢が顔を曇らせた。なるほどさっき「今は」と受付嬢の口から出た理由がなんとなくわかった気がした。

「ただそうなると余計に特定は難しいかもしれませんが……とにかくありがとうございました。ガラルドのギルドにも伝えておきますので」
「よろしく頼む」
「えっと、お、お願いします」

 俺の隣でマリスも軽く頭を下げた。話は大体俺が済ませてしまったが、マリスはただ横にいるのが申し訳なく思ったのかもな。

 さて、どちらにしても今出来るのは報告だけだからな。報酬はガラルドに戻ってからになるわけだし、この状況で他の依頼を受けるわけにもいかない。

 なのでそのままギルドを後にして予定通り街を見てみることにした。

「リョウガいい匂いがしてきたよ。お腹空かない!」

 ギルドを出て暫く歩いているとマリスがお腹を押さえながら聞いてきた。どうやら屋台から流れてくる食べ物の匂いに反応したらしい。

 確かにこの匂いは食欲をそそる。まぁ丁度お昼時だし腹ごしらえも悪くないか。

 屋台は特に広場に多いようだった。そこには老若男女多くの人が集まっていた。何人かで集まって話に花を咲かせている集団もいる。ここはこの街の憩いの場なのかもしれない。

「ね、ねぇ、どれにしようか?」

 立ち並ぶ屋台に目移りしているようだな。物語なんかでは屋台といえば串焼きが定番だったな。実際串焼きを売ってる店もあったが、肉の塊を直接焼いて切り分けて売るような店もあった。

 ドネルケバブに近いかもな。後は果実を絞ったジュースを売っていたり小さな球状のパンを売ってる店もある。

 あっちは野菜をスティックにしたものか。こうやって見ると色々種類があるものだな。

 俺たちはその中から適当にチョイスして選んだ。まぁ基本的にはマリスが物欲しそうに見ていた物が中心だ。

「ありがとう。こ、この依頼が無事終わったらしっかり返すから!」
「あぁ。そうだな」

 当然だがここの分は一旦俺が立て替えた。まぁ既に依頼は受けているし終われば報酬が入ることはわかっているからな。

 そして適当に空いているベンチを見つけてお昼を食べた。俺は肉をそぎ取った料理を食べたがシンプルな味付けながら肉の旨味が味わえて悪くない。

 マリスは俺と同じもの以外に串焼きとパンを頬張っていた。喉はジュースで潤す。しかし、この時間は何とも穏やかだな。これが普通に過ごすってことなのかもな――
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

異世界でホワイトな飲食店経営を

視世陽木
ファンタジー
 定食屋チェーン店で雇われ店長をしていた飯田譲治(イイダ ジョウジ)は、気がついたら真っ白な世界に立っていた。  彼の最後の記憶は、連勤に連勤を重ねてふらふらになりながら帰宅し、赤信号に気づかずに道路に飛び出し、トラックに轢かれて亡くなったというもの。  彼が置かれた状況を説明するためにスタンバイしていた女神様を思いっきり無視しながら、1人考察を進める譲治。 しまいには女神様を泣かせてしまい、十分な説明もないままに異世界に転移させられてしまった!  ブラック企業で酷使されながら、それでも料理が大好きでいつかは自分の店を開きたいと夢見ていた彼は、はたして異世界でどんな生活を送るのか!?  異世界物のテンプレと超ご都合主義を盛り沢山に、ちょいちょい社会風刺を入れながらお送りする異世界定食屋経営物語。はたしてジョージはホワイトな飲食店を経営できるのか!? ● 異世界テンプレと超ご都合主義で話が進むので、苦手な方や飽きてきた方には合わないかもしれません。 ● かつて作者もブラック飲食店で店長をしていました。 ● 基本的にはおふざけ多め、たまにシリアス。 ● 残酷な描写や性的な描写はほとんどありませんが、後々死者は出ます。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

ボッチはハズレスキル『状態異常倍加』の使い手

Outlook!
ファンタジー
経緯は朝活動始まる一分前、それは突然起こった。床が突如、眩い光が輝き始め、輝きが膨大になった瞬間、俺を含めて30人のクラスメイト達がどこか知らない所に寝かされていた。 俺達はその後、いかにも王様っぽいひとに出会い、「七つの剣を探してほしい」と言われた。皆最初は否定してたが、俺はこの世界に残りたいがために今まで閉じていた口を開いた。 そしてステータスを確認するときに、俺は驚愕する他なかった。 理由は簡単、皆の授かった固有スキルには強スキルがあるのに対して、俺が授かったのはバットスキルにも程がある、状態異常倍加だったからだ。 ※不定期更新です。ゆっくりと投稿していこうと思いますので、どうかよろしくお願いします。 カクヨム、小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

クズスキル、〈タネ生成〉で創ったタネが実はユグドラシルだった件

Ryoha
ファンタジー
この木、デカくなるの早過ぎじゃね? リクルス・アストリアは15歳の時、スキル授与の儀で〈タネ生成〉という誰も聞いたことのないスキルを授与された。侯爵家の三男として期待を一身に背負っていた彼にとって、それは失望と嘲笑を招くものでしかなかった。 「庭師にでもなるつもりか?」 「いや、庭師にすら向いてないだろうな!」 家族からも家臣からも見限られ、リクルスは荒れ果てた不毛の地「デザレイン」へと追放される。 その後リクルスはタネ生成を使ってなんとかデザレインの地で生き延びようとする。そこで手に入ったのは黒い色をした大きな種だった。

処理中です...