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第三章 冒険者となった暗殺者編

第56話 ダリバの真意

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「皆さんお腹が空いたでしょう。どうぞこちらをご賞味ください」

 野宿となると食事をどうしようかといった話になるが、どうやら依頼人は俺たちに食事を提供してくれるようだった。

 依頼人が出してきたのはフタのされたツボだった。中ぐらいのと小さいツボがありフタを開けると癖のある匂いが漂ってきた。

「なるほどオイル漬けか」
「こっちはペーストみたいだね」

 ダリバとスカーレッドが反応を示した。依頼人が提供してくれたのは保存食にあたるものだった。冷蔵技術の発展していないこの世界では長期保存方法は限られる。

 オイル漬けは元の世界でも取り入れられていた方法だな。ただ匂いは結構クセが強い。元の世界とは使われている材料が違うのかもな。

「……何か臭い」
「はは。このオイルはオイリーザードから採れた物でね。確かにクセは強いですがこのオイルに漬けると食材の持ちがいいのですよ」

 依頼人が答えた。どうやら異世界ならではのトカゲから採れたオイルなようだ。

「お酒の用意もありますからどうぞ」
「やった! 酒が呑めるなんてラッキー」
 
 スカーレッドがお酒があることによろこんでいた。俺としては微妙なところだけどな。ダリバとは付き合いで呑んでみたが正直進んで呑みたいとは思えない。

「近くに川があるようだから汲んでくるよ」

 そう言って俺は立ち上がった。水筒も買っておいて魔法の袋に入れてあるからな。それで水は汲める。

「俺もいく」

 するとダリバも立ち上がり俺に言った。どうやらダリバも水が欲しいようだ。

「あ、じゃあ私も」
「そんなにいっぺんに護衛対象から離れるわけにはいかないだろう。どうしてもほしければ後からにしとけ」

 マリスが立ち上がるもダリバに制されていた。ダリバの言ってることは間違っていない。今のところ敵対的な気配は感じないが、それでも同時に何人もこの場から離れるわけにはいかないだろう。

「そもそもお前は水筒を持っているのか?」
 
 同時に俺はマリスに聞いた。一銭も持ってなかったマリスが水筒を買えたとは思えないからな。

「う……ない」

 どうやら予想通りだったようだな。それなのに何故一緒に来ると言ったのか。

「はは。でしたらこれをどうぞ」

 マリスの反応を見て依頼人が革製の水筒を提供してくれた。マリスがそれを受け取り御礼を言っていた。

 そして何故か俺に向けてドヤ顔を向けてくる。いやたまたま依頼人がお人好しだっただけだろうに。

「仕方ないからそれに汲んできてやる」
「え! いいの? 本当に?」

 マリスが信じられないと言った目で俺を見てきた。一体俺を何だと思ってるんだ。

「護衛の依頼できてるんだからな。手間は省いたほうがいいだろう」

 水筒ぐらい一つも二つも変わらないからな。だから俺はマリスから水筒を受け取りダリバと川に向かった。

 川までは徒歩で三分も歩けばついた。流れもそこまで急ではない。

「さて汲んでいくか」

 そう言って俺が川で水を汲もうとすると――

「リョウガ――済まねぇ!」

 唐突にダリバが俺に向かって頭を下げてきた。俺としては何故そんな真似をしているのか理解出来なかった。

「どうした急に」
「あの日、強盗に狙われてから俺はついお前を避けちまっていた。それを誤りたかったんだ」
 
 ダリバが答えた。なるほど。たしかにそう言われてみればあの日以降ギルドで会ってもダリバの態度は素っ気なかった。

 もっともダリバとは一度組んだだけだし、一緒に食事にこそ行ったが仕事が終わればそんなものなんだろうと気にすることもなかった。

 だがダリバはそうではなかったようだ。

「俺はよ、怖かったんだ。あの日いくら相手から襲ってきたとは言えあんなにあっさり命を奪えるお前がな。しかも俺と比べたらまだまだ子どもなお前がだ。末恐ろしいと思った。生きている世界が違うとさえ感じたよ」

 まぁ、それに関してはあながち間違ってないだろう。暗殺者として育てられた俺は普通ではないと自分でも思う。

「気にするな。それにダリバがそう思うのも仕方ないと俺は思うぞ」
「いや……俺は自分が間違っていたと痛感したよ。スカーレッドからも聞いたんだ。リョウガ、お前あのマリスって半魔の子を助けて上げて身元引受人にもなったんだろう? そんなこと中々出来ねぇよ」

 ……なるほど。どうやらダリバは俺がマリスを親切で助けたと思っているようだ。スカーレッドが教えたようだが一体どこをどう捻じ曲げたらそんな話になるんだってところだがな。

「言っておくがマリスを助けたのも身元引受人になったのも成り行きだぞ。仕方なくとも言える」
「……お前のそういうところ、冷たいと最初は思ったもんだが今ならわかるぜ。お前は素直じゃないんだな」

 いや、絶対わかってないだろう。何故そうなるのか。

「それに今もあの子の為に水汲みまで引き受けてやがる。全く俺の見る目がななかったぜ。お前はいい奴だ。だからもし許してくれるならこれからも仲間として接してくれると助かるぜ」
 
 そう言ってダリバが手を差し出してきた。やれやれ思い込みの激しい男だ。
 
 だけど、護衛依頼もあるしな。仲間として見てくれるならそれに越したことはないだろう。だから俺はダリバと悪手を交わした。その後は予定通り水筒に水を汲み野営地に戻った――
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