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第二章 暗殺者の異世界ライフの始まり編
第16話 殺す覚悟と殺される覚悟
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陽が落ち、狩ってきた猪と酒を囲んで大宴会が始まった。元気に野山を駆け回っていたものの俺によってトドメを刺されることとなったボージャクボアの肉は毛皮を剥ぎ取られ中心に焚かれた炎の中で豪快にな丸焼きにされていた。
盗賊らしい料理方法だなと思う。だがあれでいてただまるっと焼いただけというものでもなく、事前にしっかり下準備はされていた。
ミトラの指示で塩や山で採取した天然の香辛料そ塗り込まれているから味付けはしっかりしているのだろう。漂ってくる匂いも食欲をそそるものだ。
「肉がもうじき焼けるぞ。ほらリョウガ酒だ酒」
頭のゴーガンが木製のジョッキに酒を注いで持ってきた。白濁した酒でありドロッとしていて匂いが強い。
どうやらヤギの乳から作られた酒のようで癖はかなり強そうだ。盗賊連中はグビグビ呑んでいるから慣れれば病みつきになる代物なのかもしれないが。
「酒はいい」
「はは、相変わらずだな。そんなに酒が苦手か?」
相変わらずというのは、しばらく一緒に過ごしている間にも何度か酒を勧められたことがあったからだ。
だが俺はそのたびに断っていた。現実では高校生であり未成年だから、などとくだらないことを言うつもりはない。
そもそも暗殺一家で育った俺は当然のように酒を呑みそれでも平常心でいられる訓練も受けていた。
変装し年をごまかしてターゲットに近づくこともある為だ。当然場合によっては酒を呑む状況に陥ることもある。暗殺者たるものあらゆる状況を想定して普段から鍛えておかねばならない。
親父や爺さんがよく言っていたことだ。だから酒も呑もうと思えば呑める。
そんな話を聞けば日本であれば未成年の飲酒は犯罪だ、などと下らないことを言ってくる輩もいるかもだがそもそも人殺しを生業としている一族だ。
酒を呑むのが悪いことだなどと言われたところで今更だろう。人殺しは法律で言えば比べ物にならないぐらいの悪事なのだからな。
とは言えだ――もうここは異世界であり俺もリョウガとして過ごしている。だから敢えて酒を呑もうとは思わない。
大体俺の体は酒を採取したところでアルコールなど勝手に高速分解されてしまう。一般人なら数時間かけるところも俺なら秒の出来事だ。酒に酔う暇すらない。
だからそもそも酒を呑む意味がない。意味のないものを呑む必要はないだろう。
「俺にとって酒を呑むメリットがない。だから呑まないそれだけだ」
「いやいや意味はあるぞ。嫌な事も忘れてパーッと、いやどうしてもって言うなら無理強いはしねぇって。だからそんな顔するなよ」
あからさまに嫌な顔を見せるとゴーガンもそれ以上酒を勧めてくることはかった。
それからも他の盗賊が酒を持って一緒に呑まないかとやってきたが俺は断り続けた。しかし盗賊連中は本当に酒が好きだな。
「……肉が焼けたから持ってきた」
皿に肉を重ねて運んできたのはセラという少女だった。ここに来て盗賊たちから受け入れられ始めていた俺だが、この子だけは俺に怨嗟の目を向け続けていた。
母親を俺が殺したわけだからな。悪いとは思っていないがセラからすれば許せない親の仇なわけだから割り切れるわけもないか。
俺も別に許せなんて思ってもいない。どっちにしてもここにいる間だけの話だ。
「……食べないの?」
「いや頂くよ」
セラから皿を受け取り肉に口をつけた。ちょっとした刺激は感じられたがまぁ問題ない。
「――何だ俺の顔に何かついてるか?」
セラが俺をジッと見ていたから聞いた。まぁ理由はわかっているが敢えてだ。
「……どうして?」
「毒が入ってるのに死なないかってことか?」
「――ッ!?」
セラが息をのみ目を見開いて驚いていた。このボージャクボアの肉はさっきミトラが料理で使う香辛料を塗り込んでいたからな。
だから匂いや見た目ではバレないと思っていたようだ。残念だが俺には通用しないがな。
「安易な手だ。言っておくが俺に毒は効かない。それとお前、人を殺した事がないだろう? 毒の量が中途半端だ。俺でなくてもこれじゃ殺すまでいかないぞ」
「う、うるさいうるさいうるさい! 私の親を殺した癖に!」
セラが懐からナイフを取り出した。やれやれ――
「キャッ!?」
すぐに俺は立ち上がりセラを押し倒した。そのまま細い喉に手をかけて絞めつける。
「そんなもの取り出したからには殺される覚悟はあるんだろうな?」
「あ、が、ぎッ、あぁあああああ!」
セラが手にしたナイフを俺の喉に向けて突き刺してきた。
「リョウガ! セラお前一体何してるんだ!」
ゴーガンが怒鳴り声を上げた。俺たちのやり取りに気がついたか。
「問題ない」
だがセラのナイフは俺の指に挟まれ止められている。掠り傷すら負っちゃいない。
首を絞める力も緩めた。するとセラがジタバタし始め泣きながら叫ぶ。
「畜生! 母さんを殺したくせに!」
「あぁそうだ。俺がお前の母親を殺した。俺に手を出してきたからな。だから殺した」
俺が殺したのは事実だ。その理由もだ。
「ふざけるな! そんないいわけで納得出来るもんか!」
「いいわけか。ならお前は何で反撃した? 俺のやってることが間違いだと言うなら今お前がやった行為も間違いだろう。何もしなければ俺は死んでいたぞ」
「私を殺そうとしたからだ! だからやり返した!」
「なんだわかってるじゃないか」
「はぁ!?」
俺が指から力を抜くと、セラは喉を押さえ後ずさりした。どうやら本気で殺されると思っていたようだな。
「セラ大丈夫かい?」
「うぅ。畜生畜生……」
ミトラがセラに近づき声を掛けて背中を擦っていた。ボロボロと涙を流してセラは恨み節を口にしている。
「べつに納得しろなんて言うつもりもないさ。ただ俺は命を狙われているのに黙っていられる程優しくないってだけだ。今お前が殺意を持って反撃したようにな」
そう告げるとセラが膝を付き歯噛みしたまま更に涙を流していた。
「……セラを休ませてくるよ」
「あぁ頼んだ」
ミトラがセラを連れてその場を離れた。後にはゴーガンが残ったな。
「悪いなリョウガ。その何だ……あいつはまだ幼いだから」
「安心しろ殺しはしない。というか殺すつもりならもう殺ってる」
「お、おう……」
安心させるつもりで言ったのだがゴーガンの顔は引きつっていた。
これでも俺にしては気が長い方なんだがな。一応はこのアジトで世話になっているし多少は母親を殺した事を考慮したつもりだ。
「まぁよく言っておくんだな。流石に性懲りもなくまたやりに来るなら次は殺すぞ」
「も、勿論それは俺からしっかり言っておくぜ!」
何度も来られるのは流石にうざったいからな。しっかり釘をさしておいた。
その後は何事もなかったように宴が再開された。まぁ血の気の多い連中だ。揉め事なんてものはザラだから慣れてるんだろう。
ま、俺としてもその方が面倒がなくていいがな。しかし、そろそろ俺も次を考える頃合いか――
盗賊らしい料理方法だなと思う。だがあれでいてただまるっと焼いただけというものでもなく、事前にしっかり下準備はされていた。
ミトラの指示で塩や山で採取した天然の香辛料そ塗り込まれているから味付けはしっかりしているのだろう。漂ってくる匂いも食欲をそそるものだ。
「肉がもうじき焼けるぞ。ほらリョウガ酒だ酒」
頭のゴーガンが木製のジョッキに酒を注いで持ってきた。白濁した酒でありドロッとしていて匂いが強い。
どうやらヤギの乳から作られた酒のようで癖はかなり強そうだ。盗賊連中はグビグビ呑んでいるから慣れれば病みつきになる代物なのかもしれないが。
「酒はいい」
「はは、相変わらずだな。そんなに酒が苦手か?」
相変わらずというのは、しばらく一緒に過ごしている間にも何度か酒を勧められたことがあったからだ。
だが俺はそのたびに断っていた。現実では高校生であり未成年だから、などとくだらないことを言うつもりはない。
そもそも暗殺一家で育った俺は当然のように酒を呑みそれでも平常心でいられる訓練も受けていた。
変装し年をごまかしてターゲットに近づくこともある為だ。当然場合によっては酒を呑む状況に陥ることもある。暗殺者たるものあらゆる状況を想定して普段から鍛えておかねばならない。
親父や爺さんがよく言っていたことだ。だから酒も呑もうと思えば呑める。
そんな話を聞けば日本であれば未成年の飲酒は犯罪だ、などと下らないことを言ってくる輩もいるかもだがそもそも人殺しを生業としている一族だ。
酒を呑むのが悪いことだなどと言われたところで今更だろう。人殺しは法律で言えば比べ物にならないぐらいの悪事なのだからな。
とは言えだ――もうここは異世界であり俺もリョウガとして過ごしている。だから敢えて酒を呑もうとは思わない。
大体俺の体は酒を採取したところでアルコールなど勝手に高速分解されてしまう。一般人なら数時間かけるところも俺なら秒の出来事だ。酒に酔う暇すらない。
だからそもそも酒を呑む意味がない。意味のないものを呑む必要はないだろう。
「俺にとって酒を呑むメリットがない。だから呑まないそれだけだ」
「いやいや意味はあるぞ。嫌な事も忘れてパーッと、いやどうしてもって言うなら無理強いはしねぇって。だからそんな顔するなよ」
あからさまに嫌な顔を見せるとゴーガンもそれ以上酒を勧めてくることはかった。
それからも他の盗賊が酒を持って一緒に呑まないかとやってきたが俺は断り続けた。しかし盗賊連中は本当に酒が好きだな。
「……肉が焼けたから持ってきた」
皿に肉を重ねて運んできたのはセラという少女だった。ここに来て盗賊たちから受け入れられ始めていた俺だが、この子だけは俺に怨嗟の目を向け続けていた。
母親を俺が殺したわけだからな。悪いとは思っていないがセラからすれば許せない親の仇なわけだから割り切れるわけもないか。
俺も別に許せなんて思ってもいない。どっちにしてもここにいる間だけの話だ。
「……食べないの?」
「いや頂くよ」
セラから皿を受け取り肉に口をつけた。ちょっとした刺激は感じられたがまぁ問題ない。
「――何だ俺の顔に何かついてるか?」
セラが俺をジッと見ていたから聞いた。まぁ理由はわかっているが敢えてだ。
「……どうして?」
「毒が入ってるのに死なないかってことか?」
「――ッ!?」
セラが息をのみ目を見開いて驚いていた。このボージャクボアの肉はさっきミトラが料理で使う香辛料を塗り込んでいたからな。
だから匂いや見た目ではバレないと思っていたようだ。残念だが俺には通用しないがな。
「安易な手だ。言っておくが俺に毒は効かない。それとお前、人を殺した事がないだろう? 毒の量が中途半端だ。俺でなくてもこれじゃ殺すまでいかないぞ」
「う、うるさいうるさいうるさい! 私の親を殺した癖に!」
セラが懐からナイフを取り出した。やれやれ――
「キャッ!?」
すぐに俺は立ち上がりセラを押し倒した。そのまま細い喉に手をかけて絞めつける。
「そんなもの取り出したからには殺される覚悟はあるんだろうな?」
「あ、が、ぎッ、あぁあああああ!」
セラが手にしたナイフを俺の喉に向けて突き刺してきた。
「リョウガ! セラお前一体何してるんだ!」
ゴーガンが怒鳴り声を上げた。俺たちのやり取りに気がついたか。
「問題ない」
だがセラのナイフは俺の指に挟まれ止められている。掠り傷すら負っちゃいない。
首を絞める力も緩めた。するとセラがジタバタし始め泣きながら叫ぶ。
「畜生! 母さんを殺したくせに!」
「あぁそうだ。俺がお前の母親を殺した。俺に手を出してきたからな。だから殺した」
俺が殺したのは事実だ。その理由もだ。
「ふざけるな! そんないいわけで納得出来るもんか!」
「いいわけか。ならお前は何で反撃した? 俺のやってることが間違いだと言うなら今お前がやった行為も間違いだろう。何もしなければ俺は死んでいたぞ」
「私を殺そうとしたからだ! だからやり返した!」
「なんだわかってるじゃないか」
「はぁ!?」
俺が指から力を抜くと、セラは喉を押さえ後ずさりした。どうやら本気で殺されると思っていたようだな。
「セラ大丈夫かい?」
「うぅ。畜生畜生……」
ミトラがセラに近づき声を掛けて背中を擦っていた。ボロボロと涙を流してセラは恨み節を口にしている。
「べつに納得しろなんて言うつもりもないさ。ただ俺は命を狙われているのに黙っていられる程優しくないってだけだ。今お前が殺意を持って反撃したようにな」
そう告げるとセラが膝を付き歯噛みしたまま更に涙を流していた。
「……セラを休ませてくるよ」
「あぁ頼んだ」
ミトラがセラを連れてその場を離れた。後にはゴーガンが残ったな。
「悪いなリョウガ。その何だ……あいつはまだ幼いだから」
「安心しろ殺しはしない。というか殺すつもりならもう殺ってる」
「お、おう……」
安心させるつもりで言ったのだがゴーガンの顔は引きつっていた。
これでも俺にしては気が長い方なんだがな。一応はこのアジトで世話になっているし多少は母親を殺した事を考慮したつもりだ。
「まぁよく言っておくんだな。流石に性懲りもなくまたやりに来るなら次は殺すぞ」
「も、勿論それは俺からしっかり言っておくぜ!」
何度も来られるのは流石にうざったいからな。しっかり釘をさしておいた。
その後は何事もなかったように宴が再開された。まぁ血の気の多い連中だ。揉め事なんてものはザラだから慣れてるんだろう。
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