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第一章 追放された召喚師編

第2話 標識の力

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 とりあえず移動手段に使えそうな標識は無いかと思って頭の中で使える標識を探ってみたが――

「これはどうかな――標識召喚・最低速度30km!」

 その場に最低速度30kmの標識が出た。他にも幾つかあったけどとりあえずこれから、と思って出したけど――標識がその場に立っただけだった。

 よく考えてみたらそれはそうかもしれない。あくまで標識を出すだけなのだから。

 やれやれ、と思いつつ何気に標識の棒部分を握った。すると突如標識が僕ごと動き出した。

「え? なにこれ?」

 僕自身は全く動いていない。ただ標識と僕が滑るように移動している。なんとも不思議な感覚だ。一体どういう仕組みかわからないけどこれは移動が楽だ。

「あ、やばい木に当たる!」

 目の前に樹木が迫ってきた。どうしたらいいのかと思わず標識を倒してみると倒した方向に移動し木を避けることが出来た。

 どうやら標識を傾けることで右や左に曲がれるようだ。更に後ろに倒すとなんとバックも出来る。

 なんて便利な標識だ。もっとも知識にある標識とは明らかに効果が違うが。

 このまま突き進めば隣国に辿り着くのも速いかも知れない。そう思ったのもつかの間、僕の体に変化。明らかに疲れが出てる。自分で歩いていないのに何故と思ったけどよく考えたら当然だ。

 標識召喚は魔法によって生まれている。召喚魔法は召喚している間魔力を消費する。僕の魔力は高い方だけど、このまま標識で移動を続けられる程ではない。一旦休憩する必要があるだろう。

 川の流れが聞こえる場所で一旦標識を消した。その時僕はしまったと思った。このスピードのまま標識を消したら慣性が働き僕はそのまま前に投げ飛ばされるのではと思ったからだ。

 だけど、標識が消えると同時に僕の動きもピタッと止まった。不思議なことに慣性は全く働かないようだ。

 この魔法色々と不思議な点は多い。でも――やはりかなり強力な魔法の可能性が高い。

 とは言え魔力の消費は高いかもしれない。とにかく一休みだ。僕は近くの川に向かい喉を潤した。

「ふぅ、一息つけた」

 思わず言葉が漏れる。そのまま近くの木に背中を付けて腰を下ろした。

「冷静に考えたら何も持ってないな……」

 一応は魔法の訓練という名目があったから、ローブなんかは羽織っている。だけど道具なんかは一切ない。

 路銀だって持ちあわせていない。冷静に考えたらかなり絶望的な状況だ。標識召喚の効果がわからなかったらチェックメイトだった。

 とにかく少しでも魔力を回復させよう。魔力はこうやって休んでいても回復が可能だ。ただ自然回復には時間がいる。

 マジックポーションなどがあれば飲むだけである程度魔力を回復できるけど、残念ながらそんな物を持ってきてるわけもない。

 本当は一眠りしたいところだけど、危険が伴う森だ。意識はしっかり保っておかないと。下手に眠ったりしたらその間に魔物に食べられていたなんてことになりかねない。
 
 暫く休む。魔力が減ると独特の倦怠感があるのだけど、回復してくるとそれも薄まる。

 この辺りは感覚で測るしか無いけど――日が少し傾いてきたあたりである程度回復してきたのを感じた。

「そろそろ行こうかな」

 とにかく夜までは歩いておきたい。標識召喚は少しセーブしておこうか。

 ゆっくりと立ち上がる。するとガサガサと枝と葉の擦過音がした。右耳のある方からだった。首を巡らすと一匹の狼の姿。ただの狼ではない大型の狼だ。

 ふと、もう一つの魂の記憶が呼び起こされる。どうやら狼はもう一つの世界にもいたようだが、こっちの獣と比べると危険度は低かったようだ。

 そもそももう一つの世界には魔法がなかった。個々の生物の強さが根本的に異なる。
 
 どちらにしてもこの大型の狼一匹でも僕にとっては脅威でしかない。普通に戦えば。

「グォオオォオォオオッ!」
 
 早速狼が襲いかかってきた。あの鋭い爪で引き裂くか牙で食いちぎるつもりか。

「ま、どっちもさせないよ。標識召喚・一時停止!」

 目の前に止まれと記された逆三角形の標識が現れた。涎を撒き散らしながら襲いかかってきた狼の動きがピタリと止まる。

 この標識は見たものの動きを一時的に止める。勿論あくまで一時的だから次の手を考える必要がある。

「標識召喚・落石注意!」

 今度は標識を取り替える。一時停止がなくなった途端狼が疑問に満ちた顔を見せた。なぜ動きが止まったのか理解出来ていないのだろう。

 僕の扱う標識には強制力がある。その上で、取り替えたこの標識。これの効果は文字通り。

「落石だ!」

 指で上を示すと、つられて狼も頭を上げ、ぎょっとした様相を見せる。上から大量の岩が落ちてきたからだろう。

「――ッ!?」

 声にならない声を上げ狼が岩に押しつぶされた。ふぅ、とりあえずこれで戦えることもわかったな――
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