上 下
1 / 47
第一章 追放された召喚師編

プロローグ

しおりを挟む
 僕は召喚魔法を扱う召喚師の暮らす里で育った。この里で生まれ育った人間は多くが召喚魔法を扱える。

 その為、十二歳になると儀式を行い、どんな召喚魔法に適正があるか調べる事となる。

 僕の父親は里の長だった。故に父親からは随分と期待された。そして十二歳になり儀式を受けたわけだけど――

「標識召喚――それがご子息の扱える召喚魔法です」

 標識召喚――それを知った父親はかなり微妙そうな表情だった。何だかよくわからないというのが正解だったのかもしれない。

 なにせ標識召喚なんて魔法は里の歴史において一度も出てこなかった物だ。詳細がわからず何が召喚されるのかもわからない。

「がっかりだぞマーク」

 父親が僕の名前を呼びあからさまなため息を吐いてみせた。

「私の息子であればもっと強力な召喚魔法が扱えると思ったのだがな」

 父親からはそう落胆された。その理由は僕の召喚魔法が標識召喚という謎の魔法だったのもあるだろう。

 謎とはされていたが、言葉のニュアンスから物召喚にあたると考えられたのも大きい。召喚には様々な種類がある。獣系、幻獣系、竜系、霊系など様々だが、その中で剣や鎧など物を直接召喚する系統は召喚系の中ではランクは低いとされている。

 勿論中には聖剣召喚といった特殊なタイプもあるが基本的には下の下といった扱いだ。

 それもあって両親の僕への期待感は薄れていった。

 何より問題だったのは何度やってもその標識とやらが召喚されることがなかったことだ。

 これによりことさら父親の失望感が増すこととなる。更に言えば弟の事があった。

 僕にはヘルトというひとつ下の弟がいた。そして弟は次の年の儀式で英霊召喚という強力な召喚魔法を手に入れてしまった。

 英霊召喚は召喚魔法の中でも最上位に位置する物だ。故に里ではヘルトに注目が集まるようになりいつまで経っても召喚が発動しない僕は落語者として馬鹿にされるようになった。

 母親もいつしか僕を無視するようになり父親はヘルトに甘く僕に対しては苛立ちを募らせるようになった。

 それから年月経ち僕が十五歳になったある日のことだ。

「マーク。お前が召喚魔法を使えるようになる為、この私が直々に指導してやる。さっさとついてこい」

 僕が十五歳になっても召喚魔法が発動することはなかった。故にしびれを切らしたのかもしれない。

 僕は父親に言われるがまま里から離れた場所にある森に連れて行かれた。そのまま山道に入り人気のない場所を歩かされた。

「ここがいいな」

 父親が選んだのは崖の上の足場だった。正直面積も狭く召喚魔法の練習に向いているとは思えなかった。

「そこに立て」
 
 父親に指定された場所に立った。数メートル後ろは崖だった。

「父様。どうしてこんなところで? 一体どんな訓練をするのですか?」
「――召喚」

 僕の質問への答えは父親の召喚魔法だった。父が扱うのは竜召喚魔法。文字通り竜を召喚して戦わせる魔法だった。

「え? 父様これは一体?」
「――お前にはほとほと愛想が尽きた。下位の召喚魔法というだけならまだマシだったが、召喚魔法そのものが使えないとなると我が里の名折れ。だから貴様は魔法の練習中に事故で死んだということにする。やれ」
『グォォォォォオオオオ!』

 父親の召喚した竜が口を開けた。明らかにブレスを吐くつもりだ。逃げようにも竜のブレスを避けられる程の幅はない。

 まさか冗談で? いや父の目は本気だった。本気で僕を殺す気なんだ。

 どうする、どうする――

 時間がなかった。後ろを見る。その先は崖だ。ここは大分高い位置にある。ただ、下は川だ。このまま黙っていれば竜のブレスで消し炭にされるだけだ。それならせめて一か八か――僕は崖に向けて走り出し思いっきり飛んだ。体が落下を始めるのとほぼ同時に炎が頭上を駆け抜けた。あと一歩判断が遅かったら丸焦げだった。やっぱりアイツは僕を殺そうとした――くそ、どうしてこんな目に……。





◇◆◇

「ふん。この高さから落ちたら助かるまい。まぁ竜に焼き殺されるか自ら命を断つかの違いだったわけだ」

 崖下を見下ろし里の長が独りごちる。そして笑みを深めた後、彼は竜の背に乗り里へと帰っていった――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

処理中です...