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3巻

3-3

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「だ、誰だ! 一体こんな真似をしたのは! 大事な取引先のトード卿にこんなことをしてタダで済むと思ってるんじゃないだろうな!」
「ほう? なら聞かせてもらおうかい。一体何がどう済まないっていうのかをねぇ」

 気の強そうな女性の声が横から聞こえてきた。

「何ィ? ……ゲゲッ!?」

 大叔父がそちらに顔を向け、直後、驚きの声を上げてった。
 俺も声の主を見てみる。近づいてきたのは赤いローブを着た女性だった。杖も赤で、髪の毛もやはり赤。後ろでたばねている。
 美しい顔立ちをしているが、ややツリ目で眼光が鋭い。妙に迫力がある。見た目は魔法士なのに、感じられるオーラはまるで歴戦の武士のごとしだ。

「な、なんで貴様がここに!」

 大叔父が明らかに狼狽ろうばいしている。女性のプレッシャーは確かにすさまじいが、こいつのこの反応は尋常じゃないな。

「貴様? 驚いたねぇ。あんた、一体いつから私にそんな口がけるほど偉くなったんだい?」
「ぐっ、あ、姉貴――」


「……ふん。ま、呼び方なんてどうでもいいさ」

 えっと、どうでもいいってわりに、貴様呼ばわりには随分と気を悪くしていたようだけど……
 しかし、今大叔父は姉貴と言ったか? いや、でもおかしいだろう。妹なら大分年の離れた兄妹ってことで納得できなくもないが、姉というのは変だ。大叔父は確か五十歳くらいだったと思うけど、今やってきたこの女性の外見は二十代後半程度にしか思えない。

「だ、だとしてもどういうつもりだ姉貴! 急にやってきて私が取引している商会の会長を爆破するとは洒落しゃれにならないぞ!」
「私には気持ちの悪いカエルみたいな野郎が、無理やり少女に迫っているようにしか見えなかったよ。だから助けたのさ。それの何が悪いんだい!」

 いや、間違ってはないと思うけど、わりと無茶がすぎた気がしないでもない。

「む、無茶苦茶だ。いくら御主人様の姉とはいえ、そんな真似が許されるわけがない」

 ドルドが片眼鏡を指でクイクイと直し、歯ぎしりをした。

「ふん。許されない? そうかい。なら私から質問だよ。あんた、色々と黒い噂がえないようだけどねぇ。その辺りはどうなってるんだい?」
「な、なんの話だ!」
「今言った通りだよ。あんたまさか、エイガ家の名に泥を塗るようなあくどいことをしてるんじゃないだろうね?」

 お、おお。なんかグイグイ行くなあの人。

「さっきから何を言いたいんだ、あなたは!」
「黙りな三下。今私はそこにいる出来の悪い弟に聞いているんだよ」
「なっ!?」

 軽く一蹴され、ドルドが絶句している。

「ウキキィ!」
「ガウガウ」

 その顔にエンコウが笑い声を上げた。マガミもザマァ見ろとでも言ってそうな反応だ。

「……やぶから棒に何を言いだすかと思えば。なんの根拠があってそんなことを」
「根拠なんざ、いたいけな娘をカエル野郎に差し出そうとしているだけで十分さ。まったくそれが親のやることかい。それで私の弟だって言うんだから情けないよ!」
「くっ、だ、黙れ! 話にならん。ドルド行くぞ!」
「え? しかしトード卿は?」
「お前が責任を持って治療を受けさせろ! ミモザの件もしっかり説明しておけ!」
「な、くっ、どうして私が、こんな連中のために」
「グルルルゥウゥウウゥ!」
「ヒッ! こ、こっちに来るな!」

 文句を言うドルドだが、マガミがうなると情けない声を上げた。
 そして大叔父たちは引き返していった。ミモザは無事だ。しかし、気になるのはこの人だが、本当に大叔父の姉なのか?

「あっはっは! やはり来てくれましたか。メラク・エイガ様」
「ふん。まったく人混みは嫌いだってのに迷惑な話だよ」

 彼女はどうやらメラクという名前のようだ。

「……メラク・エイガ?」

 すると、マグが反応を示した。

「マグちゃん知っているの?」

 それに気がついたのか、デトラがマグに確認を取るように聞いた。だけどそれより早くミモザが声を張り上げる。

「まさか! あの七星大魔導師しちせいだいまどうしの一人として知られる、メラク・エイガ様!?」

 ミモザは驚きに満ちた顔を見せた。
 七星大魔導師? まったく知らない言葉だ。こっちの世界の魔法関係については、俺もまだまだわからないことが多い。

「……やっぱりそうだったか」
「えっと、有名なのか?」

 ボソリと呟いたマグに尋ねると、俺の声が聞こえていたチェストが目を丸くして言う。

「何を言ってるっすか! 七星大魔導師といえば世界を代表する大魔導師様ですよ! その中でも、メラク様は炎のスペシャリスト! 灼獄しゃくごくのメラクや赤髪あかがみのメラクといった二つ名を持ち――」

 チェストが二つ名を口にしたその瞬間、灼熱の槍がチェストの後頭部をかすり、地面に突き刺さって爆発した。おいおい、地面にとんでもない穴が開いたぞ。

「私をそのふざけた名で呼ぶんじゃないよ! 一度目は外したけどね、二度目はないよ!」
「は、はいっす――」

 チェストが青ざめて答えた。二つ名くらいでそこまでか。そんなに嫌だったのか?
 いやでも、確かにわからなくもない。俺も転生する前は闇殺あんさつの刃とか勝手に奇妙な二つ名を付けられたことがあった。あれ、密かに嫌だったんだよな。

「あっはっは! まったくメラク様は相変わらずだな。いまだ着衣であるし」
「あんたも相変わらずだね。その下はやっぱり裸なのかい」
「あっはっは! むしろ何故、みんな服を着るのか理解に苦しむ!」
「やれやれ」
「それにしても驚いたわ。ゼンラがまさかあのメラク様と知り合いだったなんて」

 マシムは驚いていた。俺は初対面だが、どうやらかなりの有名人のようだな。チェストなんて目がキラキラしているし。

「あれ、ジンの親戚なんだろう? なんか凄そうだな」

 デックがヒソヒソ声で言ってきた。

「う~ん、俺は全然知らないんだけどな」
「……私でも知ってるのに、ジンが知らないのが不思議でならない」

 ジト目で見てくるマグ。そう言われてもな。

「今ジンって呼ばれてたけど、あんたもしかしてサザンの息子のジンなのかい?」

 その時、メラクが俺に話しかけてきた。向こうは俺を知っているのか。
 ここは丁寧に挨拶しておいた方がいいだろう。

「お初にお目にかかります。はい。確かにサザン・エイガの息子です」
「ふむ。つまりあんたが魔力ゼロで生まれてきた子というわけだね」

 メラクがマジマジと俺を見ながら言った。
 魔力か……やはりあの大叔父の姉というからには、この人も魔力至上主義なんだろうか?

「……だけど、とてもそうは見えないね。あんた本当に魔法が使えないのかい?」
「え? あ、いや……」

 少しだけどきりとさせられた。確かに俺は魔法は使えないが、メラクの目はどこか俺の内側を見透かしているような、そんな得体の知れない何かが感じられたからだ。
 これが、こっちの世界の強者のレベルってことか。油断はできないが、大叔父のように一方的に決めつけて下に見るようなタイプではなさそうだ。

「あっはっは! 流石メラク様であるな。そこのジンは魔獣と契約を結び魔法が使えるようになった逸材だ。これでさらに全裸なら完璧であるな」

 いや、全裸になったら完璧とは程遠い男になると俺は思うぞ。

「ジンは魔法大会の予選に勝ち残って、今日の本戦に出るのよ」
「ふ~ん。魔法大会に魔獣ね――」

 マシムの言葉にメラクが目を細め、こちらに近づいてきた。そしてその目がマガミとエンコウに向けられる。

「ウキキキィ」
「ガウガウ」
「おやおや、なんだい。まったく鬱陶うっとうしいねぇ」

 するとマガミがメラクに近づき甘えたような鳴き声を上げ、エンコウも飛びついて頬ずりした。
 エンコウもマガミも相手を見抜く目に間違いはない。そのマガミとエンコウが気に入ったということは少なくとも悪い人ではないのだろう。
 実際口では鬱陶しいなどと言っているが、その目からはいつくしみを感じる。

「あっはっは! せっかくだからメラク様も大会を見て行かれるといいだろう」
「ふん。野暮用を片付けに来ただけだったが……ま、退屈しのぎにはなるかね」
「大会……って、そうだ大会だ!」

 デックが思い出したように叫んだ。
 そうだ、色々あってうっかりしてたが、そろそろ大会が始まる時間だぞ。

「……本戦はまず武術大会が行われる」

 マグの言う通り。午前中が武術大会で午後が魔法大会になる。ほとんどの観客が魔法大会目当てなので、順番を逆にすると武術大会のお客が減ってしまうというのが理由らしい。

「ミモザ! 急ぐぞ!」
「ひゃっ! え? え?」

 そして、デックはミモザの腕を掴んで会場に向かって走っていった。

「きゃー! お兄ちゃん積極的!」

 デトラが一人興奮している。
 積極的? 何を言っているのかよくわからないが、俺も声をかけておこう。

「デックと、ついでにミモザも頑張れよ~」
「おう!」
「あっはっは! 私も応援してるぞ我が弟子よ!」
「だから私は弟子ではなーーーーい!」

 ゼンラもミモザを激励していた。

「さて、俺たちも観客席に向かおうかな」
「……武術大会も気になる」
「うん! お兄ちゃん……きっと勝てるよね!」
「ま、あれだけ特訓したんだしな。それに話を聞くに予選では他を圧倒していたみたいだし」

 そこまで話したあと、俺はマシムとゼンラにも声をかけた。

「二人も試合を見るのか?」
「そうしたいのは山々だけど、私たちは町の警備の依頼を受けていてね」
「あっはっは! 大会中は町も騒がしくなるからな。犯罪が起きやすくなるのだ」

 なるほどね。確かに大会が始まったら観戦しに来る人も多い。人が増えれば何かしら問題も起きやすいってわけか。

「ま、私たちの分まで楽しんで。といっても魔法大会では参加者になるのよね」
「あぁ、そっちも頑張るよ」
「あっはっは! 我が弟子の活躍もしっかり見ていてくれたまえ!」

 なんかもう、すっかり弟子にしたつもりでいるんだな……そもそもゼンラ流ってどんな流派なのか……
 一方、向こうではチェストがメラクに何かを頼み込んでいた。

「お願いしますメラク様! どうか僕をあなたの弟子に!」
「は? 突然何を言いだすんだいあんたは! 私は弟子は取らない主義なんだよ!」
「そこをどうか! 師匠!」
「誰が師匠だい!」

 ……メラクに弟子入りをせがんでいるな。
 どこで覚えたのか知らないが、日ノ本流の土下座のような格好で頼み込んでいる。
 メラクは困り顔だ。だけど、チェストはなかなか引き下がらない。あいつ、まだ怪我も治りきってないのに頑張るな。

「とにかく弟子はとらないから諦めな! 私はこれから、ゼンラと打ち合わせをするのに忙しいんだ! さっさと会場に行きな!」
「はい! 師匠の邪魔は勿論いたしません。あ、席は一番いい場所を取っておきますね!」
「あんた、話を聞いていたかい?」
「さ、ジンくん急ぎましょう! 師匠の席をなんとしても確保しなければ!」

 やる気を見せるチェストの姿にメラクが頭を抱えていた。

「いいかい。弟子にはしないからね!」
「ごゆっくり。席は一番弟子のこの僕にお任せを!」

 凄いなチェスト、まったく聞く耳を持っていない。

「チェストくん、なんか凄い……」
「……メラク様相手にあそこまで喰らいつく、見上げた根性」

 チェストの姿勢にはデトラも呆気に取られ、マグは感心していた。
 あのマグでさえ様付けで呼ぶ相手だから、かなり凄腕で高名な魔法士なのだろう。いや、魔法士ではなく魔導師と言っていたか。魔法士よりさらに上の者が授かる称号だ。
 その相手に物怖じせず弟子入りを頼めるチェストは、確かにきもわっている。
 しかし、ゼンラと打ち合わせか。ちょっとだけ内容が気になるな。

「エンコウ、少し頼めるか?」
「ウキィ!」

 肩のエンコウにお願いすると、胸を叩いた。任せろと言ってくれているようだ。頼もしい限りである。
 エンコウは俺の肩を離れ、メラクたちのあとを追った。

「ガウ?」

 マガミが首を傾げた。エンコウに何を頼んだのか気になったのだろう。

「あぁ、ちょっと気になることがあってな……」
「ガウガウ!」

 マガミはそれ以上聞かないことにしたようだ。聞き分けのいい子だ。しっかりモフってやろう。

「わ、私も……」
「……気持ちいい」

 マガミを俺、デトラ、マグの三人でモフったあと、チェストと一緒に会場に向かった。

「ジン、それにみんなも一緒だったか」
「父様」

 大会の会場となる闘技場前には父上が立っていた。俺が返事すると、デトラは父上にペコリと頭を下げる。

「おじ様、この間はお兄ちゃんの件でありがとうございました」
「何、私は罰を言い渡しただけだよ」

 お礼を述べるデトラに笑顔で返す父上。実に紳士的だ。

「……ジンのお父さん?」
「そういえばマグは初対面だったな。俺――じゃなくて、僕の父様だ」
「これは可愛らしいお嬢様だね」
「父様、彼女はマグノリアと言って――」

 マグについて俺から父上に簡単に説明する。一緒にいたチェストのこともだ。

「二人とも予選に出ていたのだね。ジンと仲良くやってくれているようで親として喜ばしく思うよ。これからも仲良くやってほしい」
「勿論っす!」
「……でも、大会ではライバル」
「はは、無論大会ではジンを叩きのめすぐらいの気持ちでやってくれ」

 そう言って愉快そうに笑った。マグも口元がちょっと緩んだように見える。
 そういえば兄貴の姿が見えないな。

「兄さんは来てないんですか?」
「あぁ、誘ってはみたのだが、武術大会など見ても意味がないと言って聞かなくてな。魔法大会まで精神統一するからと言っているし無理強いもできないから私だけ見に来たんだ」

 兄貴が言いそうなことだ。あいつは武術より魔法の方が優れていると思っているし。

「さて、とにかく会場に入るとしようか」
「そうですね。あ、そういえば父様、近くでメラク様に会ったのですが父様はご存じでしたか?」
「な、何! メラク様が来ているのか! 一体どこに!」

 父上が動揺した面持ちで周囲を見回した。これは父上も彼女をよく知っているといったところか。

「メラク様は、冒険者の知り合いと一緒にどこかへ行きましたよ。大会は見ると言っていたので、じきに来るかと」
「そ、そうか。メラク様が、う、うむ」

 メラクの名前を聞いてから、父上の様子は明らかにおかしい。緊張している? いや、恐れていると言った方が正しいかもしれない。

「押忍! 師匠のためにもいい席を取らないといけません!」
「え? 師匠?」

 チェストの発言に父上が目を丸くした。それを説明してもややこしいことになるだけだから、とにかくこの場は会場入りしておくことにした。
 さて、メラクたちは一体どんな話をしているのか――
 俺は少し集中して、エンコウと意識を同期した。


 闘技場から少し離れた位置にある路地裏に、マシム、ゼンラ、メラクの三人が立っていた。エンコウを通して、俺は三人の様子をうかがう。

「それにしても、メラク様とゼンラが知り合いだったなんて驚きね」
「あっはっは! メラク様には私の父が世話になっていたからな」
「あぁ、なるほどね」

 得心がいったようなマシムの声。

「つまり裸の一族のこともよく知っているわけね」
「ふん。不本意ながらね。それで、実際どうなんだい? あの馬鹿な弟は馬鹿な薬に手を出して裏取引に入れ込んでると聞いたけどね。間違いないのかい?」

 メラクがゼンラに問う。薬という言葉が妙に気になった。

「あっはっは! あのトードと手を結んでいるのがわかったからな。まったく、娘であり私の弟子でもあるミモザを利用しようとはとんでもないことだ」
「元々ゼンラはトードに目をつけていたのよ。あの商会は薬を扱い始めてから成り上がったと評判だけど、その成功の裏には魔薬まやく取引が関係しているとされていてね」

 これはまたえらい話を聞いてしまったものだな。

『ウキィ……』

 エンコウの思念が俺の頭に届く。
 俺が使っているのは、忍法・五感共有の術――本来は対象にれてチャクラを流し込むことで成立する忍法だ。
 しかし、エンコウにはすでに俺のチャクラを分け与えているので、いつでもこの忍法を使って五感を共有できる。今回はそれを利用させてもらった。
 しかし、魔薬か。確か以前マグを襲っていた連中も使っていた違法薬物だ。
 この町では魔薬取引が横行していると以前マシムが言っていたっけ。マグも魔薬について調べていた。

「メラク様を呼んだのは他でもない。こちらも証拠集めをしているが、いざという時にはタラゼド伯爵に対する抑止力よくしりょくになってもらいたいのだ」
「私からもお願いするわ。さっきの様子を見てわかったけど、やっぱりタラゼドはあなたには頭が上がらないみたいだしね」
「……ふん。確かに昔は出来の悪いあいつをよく燃やしたりしたもんだけどね」

 も、燃やしたのか……もしかして大叔父の性格の悪さって、メラクがあいつをいじめまくった影響ってことはないよな?

「あいつは昔から危ういところがあったからね。小動物を魔法で痛めつけたり」

 と思ったがそんなこともないようだ。昔からあんな感じだったのだろう。

「私はそういうのが許せないだから、その都度お仕置きしてきたつもりだけど、教育が足りなかったのかますますひねくれてしまったようだね。こう言っちゃなんだが、今のあいつは私が説教したくらいで心を入れ替えるとは思えない。むしろ反抗してきてもおかしくないさ」

 反抗か……確かに何かやりかねないな。トードの件も面子メンツを潰されたと逆ギレしかねない。

「ところで、あんたはさっきから何をこそこそしてるんだい?」
「ウキッ!?」

 な、バレたか! メラクの目がエンコウに向けられている。エンコウはかなり気配を消すのが上手いのに、凄まじい勘の良さだ。

「あら? エンコウじゃない」
「あっはっは! なんだ、君も毛皮を脱いで全裸になる気になったのか?」
「ウキキキィ!?」

 エンコウが勢いよく首を左右に振った。ゼンラから見れば動物の毛も着衣なのか……

「動物を怖がらせるんじゃないよ、まったく」
「いやいや、私は常識的な話しかしてないつもりだが」
「あんたの常識はどうなってんのかねぇ」

 そこは俺も同感だ。
 メラクがエンコウに近づいていく。

「ウキィ~!」
「うん? なんだい。まったく甘えん坊な猿だねぇ」

 エンコウは咄嗟とっさにメラクに飛びついて、甘えるように彼女の頭に顔をすりつけた。
 メラクは優しくエンコウの頭を撫でる。


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