辺境貴族の転生忍者は今日もひっそり暮らします。

空地大乃

文字の大きさ
上 下
150 / 158
第五章 転生忍者吸血鬼出現編

幕間 弟子入りしたいロイス 其の九

しおりを挟む
 私の目の前には倒れた冒険者とギルドマスターがいた。メラはアーマドボアの件で子どものアーマードボアを殺したという冒険者一行に制裁を加えた後、なぜかギルドマスターも爆破した。

 ふっ飛ばされ天井に叩きつけられた後、床に頭から落っこちたギルドマスターは涙を流しながら立ち上がった。

 眼帯した強面のギルドマスターが女の前で涙を流しているとか、初めて目にした者なら何が起きてるのか先ず理解できない状態だろうな。

「うぅ、何故私まで」
「だまりな! 元はと言えばあんたがしっかりルールを伝えてなかったのが原因だろうよ!」
「そ、それを言われると……ですがルールブックはしっかり渡しているしそれにも記載はあるんですよ~」
「冒険者がそんなルールブックにいちいち目を通すわけないだろう! ギルドマスターを長年やっててそんなこともわからないのかいこのすっとこどっこい!」
「ひぃ~……」

 み、身も蓋もないな。ただ、何故か周囲の冒険者がカウンターに大慌てて並びだしてルールブックの貸し出しを求め始めた辺り、実際そのとおりなんだろうな。

「ふん。まぁでもね。ダンジョンが発見されて急に冒険者が増えて忙しくなりそのへんのことがおざなりになった気持ちもわかる――」
「そ、そうなんですよ! 本当ダンジョンが出来てからはてんてこ舞いで! だからついつい説明も省きがちになってしまい」
「と、いうと思ったら大間違いなんだよこの馬鹿!」
「ぐべぇえぇえ!」

 メラがグーでギルドマスターを殴った。上から殴りつけた。鉄槌で殴られたようなとんでもない音が聞こえたぞ……しかも殴ると同時に爆発したし。

「いいかいあんたらもよく聞きな! この世界は人間だけが暮らしているわけじゃないんだ! 生きとし生けるもの全てが互いを尊重し敬意を払う、そういったことの積み重ねがあるからこそ今の世界があるんだよ! そこを勘違いした連中がいるようだからはっきり言っておくよ! 金輪際このあたりで無駄に命を奪うような真似は許さないよ! 子殺しなんて以ての外だ! 狩るなとはいわないさ。生物が生きるために命を奪うことは当然あるんだからね。だけどねこの連中みたいに力を誇示するためだけの殺生なんざ最低なことだ! 良く覚えておきな!」

 フンッとメラが鼻息を荒くさせた。周囲の冒険者が押し黙る。

「……わかったなら返事ぐらいしな!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 そしてメラの全身から炎が吹き上がると、一斉に受付嬢やギルドマスターも含めて返事した。

 そして――

「ゆ、許してくださーーーーい!」
「ごめんなさいぃぃいい! もうしませんからぁあぁあ!」
「おがぁあちゃぁああぁああん!」

 今目の前でメラに制裁された冒険者連中が泣きわめいて助けを求めている。

 首から下は地面に埋もれていて、目の前にはあのアーマードボアがいた。気絶した連中を連れてアーマードボアが暮らす場所まで戻ってきたのだ。

「約束だからね。この連中があんたの子を殺した犯人だよ。後はあんたの好きにしな」
「ブフゥウゥウゥゥウゥウウウ」
「ひいぃいぃいいぃいいいいい!」

 アーマードボアの鼻息が荒い。ま、まさか本当に好きにさせるのか?

「ひ、ひいぃいこっちこないでぇええ!」
「謝るから! 二度としないからぁぁあ!」
「ママぁああぁあああぁあああ!」

 しかし、あの中で一番偉そうだった奴が。何か一番情けないな。お母ちゃんとかママぁとか……

 そしてゆっくりと近づいてきたアーマードボアだったが。

――シャァアアァ、ブリブリブリッ。

「へ? く、臭!」
「ひいぃい、鼻が曲がるぅうううう!」
「おばあちゃぁああぁああん!」

 アーマードボアが連中に向けてその、小便やらうんちやらをぶっかけていた。そしてメラを見て鼻息を吹く。

「これでいいのかい?」
「ブモォ~」
「そうかい。お前ら良かったね。あんたらみたいな汚らしいのは食べる気もしないってさ」

 そしてアーマードボアは森へと帰っていった。

 その後は埋まった連中はそのままにして帰る。あいつらを助ける義理までないそうだ。埋めたのメラだけどな。

「し、いやメラ姉さんはきっとこうなることをわかっていたっす。アーマードボアはそもそも人は食わない生物っすからね」
 
 チェストが道々そんなことを言っていた。つまり食べないから殺さないってことか……

 動物でも出来ていることが人に出来ないなんて皮肉な話だ。そして、それは私もか……

「メラ、何故あんたが怒っていたかわかったよ」
「……何?」
「あんたは、私が食べもしないのに魔法の腕を見せるためだけに鳥を狩ったのが許せなかったんだな。だから私には弟子になる、いやそもそも魔法士を名乗る資格がないと言ったんだ。そんなことにも気づけないなんて、私はなんて馬鹿だったのか」

 sるとチェストが私を振り向いて、微妙そうな面持ちで口を開いた。

「あんた……まだ気づいてなかったっすか?」
「――は?」
「いや、流石にそれにはもうとっくに気づいてると思ったっす」
「な、なな!」

 こ、こいつ、私が殊勝になっているというのに、そんなあっさりと! やめろ! 可愛そうな物を見るような目を向けるな!

「フン。ま、それでも猿から人ぐらいにはなれたようだね」

 そしてメラがそんなことをつぶやき前を進んだ。
 全く手厳しいな。

 そして小屋が見えてきた。最初はメラがてっきり私の才能に嫉妬していると勘違いしていたが違ったようだ。

 きっと未熟な私に命の大切さを気付かさせる為、敢えて厳しいことを言ったのだろう。姉弟子として!

 ならばその期待には答えないといけない。あの線が見えた。自分の過ちに気がついた今の私だからこそここを越える資格があるのだろう。そして今日から私の魔法士としての新たな人生がスタートし――

「その線を超えるなと言っただろうがぁああぁああぁあ!」
「えええぇええ! ぐぼらぁあぁあああぁあぁああ!」

 私の顔面に衝撃が走った。爆破されたのだ。て、ちょっと待て! 何でだよ!

「待て待て! おかしいだろう! この流れなら、過ちに気がついた私を本格的に弟子として迎え入れる、明らかにそういう場面だろう!」

 ガバっと上半身を起こしメラに抗議した。全く意味がわからないぞ!

「は? 何ふざけたこと言ってるんだい! 何で猿からようやくギリギリのギリ! で原始人になれてウホウホ浮かれてるような馬鹿を迎え入れなきゃいけないんだい! 調子に乗ってるんじゃないよ!」

 え、えぇええぇええ……


作者より
本作の2巻がいよいよ本日発売されました!書籍ページでは表紙とキャラ紹介が見れますよ。そこにあのキャラの姿も!
挿絵にもしっかり登場してますので書籍版をどうぞよろしくお願い致します!
しおりを挟む
感想 1,746

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。