辺境貴族の転生忍者は今日もひっそり暮らします。

空地大乃

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第五章 転生忍者吸血鬼出現編

幕間 弟子入りしたいロイス 其の二

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 エイガ家最強とも名高い大魔導師のメラク・エイガ。その偉大なる魔法を教授してもらおうと、私は一大決心をし領地を離れメラク様が暮らすという山奥にまで弟子入りしに来たわけだが――

 何故かわからないが持参した手紙を目の前の誰だかわからない女にビリビリに破かれ、更に帰れなどと暴言を吐かれてしまった。

 正直意味がわからなく、呆然と立ち尽くしていると、今度は私の持っていた鳥を引ったくるように奪われた。

「ふん。まだイケそうだね。これはこっちで貰っとくよ。さぁわかったらさっさと帰んな!」

 そして踵を返し小屋に戻ろうとしたがそこでようやく私は我に返った。何だそれ! ふざけるな!

「おいあんた! ちょっと美人だからってフザケたこと言ってるんじゃないぞ!」
 
 背中を見せている女に文句を言おうと足を踏み入れたその時、目の前が赤に染まった。

 炎だ。直前に女が腕を振り抜いたのが見えたが、同時に炎の壁が生まれて私の動きを遮ったのだ。

「私は帰れと言ったはずだよ! そっから先はうちの敷地だ! 一歩でも踏み入れたら消し炭にするよ!」
「な、ななななッ!」

 な、なんだ! 一体何だと言うのだ! 私をけ、消し炭だと? なぜメラク様でもない女にここまで言われないと言けないのだ!

「ふざけんな! あんた一体なんなんだ! 私はメラク様に弟子入りしに来たんだ! お前みたいのに偉そうに指図される覚えはない!」
「あん?」
「な!」
 
 顎を上げ、私を見下ろしてくるその視線に、不覚にも私は恐れを抱いてしまった。な、なんだこの圧は! 女の赤髪が轟々と燃えたぎっているようにも感じられる。

 く、くそ! 私がメラク様でもない女にビビるなんて!

「ふん。とにかくメラクはお前みたいなのを弟子にとることはないよ!」
「だからなんであんたが決めるんだ! 大体ロクに魔法も見てないくせに!」
「あんたの魔法を見ろだって? 笑わせんじゃないよ。そんなもの見るまでもない。さぁこっちも暇じゃないんだ。とっとと消えな!」

 くっ、何が暇じゃないだ。こんな山小屋で忙しいも何もないだろう!

「だ、だったらここで待たせてもらう!」
「あん?」
「も、もも、文句は無いはずだぞ! そっちに近づかなきゃいいんだろう!」
「……ふん。まぁそうさね。敷地の外なら好きにすればいいさ。ただし――」

 女が指を鳴らすと、地面からジュッという焼けた音が聞こえ、地面に一筋の焦げ跡が残った。

「その線が境界線だ。あんたの生死を分けるね。そっからこっちに髪の毛の先一つでも踏み入れたら灰すら残らないほど燃やし尽くす!」

 消し炭より物騒になったーーーーーー!

 くそ、一体こいつは何なんだ! 何でこんなに偉そうなんだ! 美人だから何しても許されるってもんじゃないぞ!

「ふん。あぁそれとそこで待つのは勝手だけどね。この辺りは夜になると凶暴な獣が出るからね。ま、勝手にそこで居座るのは自由だけど精々気をつけるこったね」

 そう言って女は小屋の中に入っていった。凶悪な獣だって?

 ふ、ふん。所詮は獣だろうが。そんなものにこのロイスがビビると思ったら大間違いだ!

 とにかく私はここでメラクの帰りと待つことにした。ここまで来て今更引き返すなんて出来るわけないしな。

――ホ~ホ~。

 そしてあっという間に夜が更けた。何かフクロウが鳴いている。本当に、放置しやがったあの女……

 ふ、ふん! 別に時が経てば、仕方ないねとか言われて小屋に招き入れてくれて、一緒に水浴びして背中の一つでも流してくれるんじゃないか、なんて期待していたわけじゃないし。

 そんなことわかってたし! あぁそうさ!

「しかし、冷静に考えればあの魔法は凄かったな……」

 あの女が使った魔法はかなり練度が高かった。その上無詠唱だ。よく考えたらとんでもないな。

 一体何者なのか……まさか! む、娘とか? 
 いや、でも独身だと聞いていたような? いやでもメラク様程の御方なら隠し子の一人や二人いてもおかしくないか?

「しかし、娘だとしてもあの態度はないよなぁ?」
「ウホウホ」

 思わずノリで隣りにいた相手の背中をポンッと叩いた。全く流石に乱暴すぎるぞ。うん、てか。

「え? 誰? てか、ご、ゴリラ?」
「ウホッ♪」

 毛むくじゃらのゴリラがいた。こっちを見て獰猛そうな笑みを浮かべた。え、と。

「な、何でゴリラがここにーーーーーー!」
「ウホォオォォオォォォオオオオ!」

 猛ダッシュで逃げたがゴリラが追いかけてきた! 何だこいつなんだこいつ! くそ! ふざけるな! 猿のたぐいはジンの飼っているエンコウだけで十分なんだよ!

「こうなったら私の至高の魔法を見せてやる! ファイヤー――」
「ウホホオオォオォオオオォォォオオオ!」

 だがしかし、私が魔法を唱える前に、ゴリラが胸をたたいて雄叫びをあげた。凄まじい声の圧に体が吹き飛ばされそうになる。

 ま、魔法どころじゃない!

「ウホッ!」

――ズボッ!

 そして、私の目の前で今度はゴリラが近くの巨木を引っこ抜いた。引っこ、抜いたぁあぁあああああぁあああ!

「ちょ、待て、それで一体どうするつもりだ!」
「ウホッ♪」

 ゴリラがニコッと微笑んだ、気がした。そして巨木を大きく振りかぶって、やっぱりそれで殴る気かぁあああぁあ!

「馬鹿やめ、死ぬ! 死ぬ死ぬ!」
「ウホオォオォオォオオオオ!」
「チェストオォオォオオォオオオオォオ!」

 そして今まさにゴリラが抜いた巨木で私に狙いを定めたその時、大きな掛け声のような物が耳に届き、飛び出してきた影がゴリラの頭に飛び蹴りを叩き込んでいた。

「ウボッホォオォオォオオオ!」

 ケリを入れられたゴリラが大きくふっ飛ばされる。そしてスチャッと着地しケリを叩き込んだ相手がこっちに顔を向ける。

「あんた! 大丈夫っすか!」

 私に顔を向けてきたのは茶色い毬栗頭の少年だった。こいつは一体?
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