辺境貴族の転生忍者は今日もひっそり暮らします。

空地大乃

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第五章 転生忍者吸血鬼出現編

第三百三十三話 転生忍者、聖女の力を知る

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「流石裸の一族。私の能力も丸裸というわけですか。それもきっと愛なのでしょう! あぁ! あぁ! あぁ! 愛は素晴らしい!」
 
 相変わらず無表情で狂ったように愛愛叫ぶから、かなり違和感あるんだが、しかし、スパダカの言ったことが気になるな。

「この場にいないとはどういうことなんですか?」
「何だそれは! 我に遠慮などいらん! 素っ裸の自分をさらけ出すがいい! さぁ脱げ!」
「なんでだよ! 絶対脱がねぇぞ!」
「ふむ。それでいい。裸とはありのままの自分をさらけ出すという意味だ。勿論脱衣し全裸に目覚めれば尚良いが!」

 ムンっと全裸で筋肉を魅せつけるポーズをしながら、そんなことを言ってきたぞこの親父。

 しかし、一応初対面だから気を遣った口調にしたつもりだが、そういうのはいらないってことか。

「さて、そこにいるメトロンだが全裸どころか着衣の上から更に着衣を重ねるような暴挙をしているのだ。全くそれで愛を語るとはちゃんちゃらおかしい!」
「いや、言っている意味がいまいちわからんのだが……」
「あっはっは! メトロンは憑依の力を持つのだ。今語っているのはメトロンが憑依した信徒。本人は総本山の寺院にでもこもってぬくぬくとしているのだろう。全裸にもならずにな!」

 憑依……そういうことか。どうりで性別からしておかしいわけだ。聖女なのにどうみても男にしか見えなかったからな。それに声と表情も会っていなかった。

 ただ敢えて言えば全裸にはならなくていいだろう。

「ふふふ、そこまでバレちゃってましたか」
「……でも、憑依ということは体以外はそこにいるってことじゃないのか?」

 マグが疑問を口にする。

「そもそも憑依ってのがよくわからないんだが……」
「ふむ、意味合い的には魂を他者に乗り移らせることをいうのだがな」
「た、魂! そんなことが出来るなんて」
「ガウゥ……」
「ウキィ……」

 デックは?顔だったがミモザが説明していたな。デトラやマガミやエンコウも驚いているが、俺のイメージとしてもそんなところだ。

「ふふふ、今行っているのは部分憑依。私の愛を受け入れてくれた信徒ならそういったことも可能なのです。ああ、あぁ、これが愛の力!」

 メトロンが語った。部分憑依……つまり体の一部だけを借りているってことか。

「つまりその信徒は、納得の上ということかな?」
「はい! そのとおりです! 私はメトロン様の愛に報いるために、この肉体を提供し、そしてメトロン様をこの身に感じているのです!」

 お、驚いた。父上の問いかけに、急に別人のようにその憑依されているという信徒が語りだした。意識は残っているということなのか? 

 それも部分憑依だからというわけか……

「くそ、あいつメトロン様に憑依されていたのかよ」
「なんと羨ましい……」
「あぁ、私もこの身をメトロン様に捧げたい!」

 周囲の信徒か神官か、とにかくそういった連中が今憑依されている信徒を見ながら羨望の眼差しを向けていた。

 憑依されるなんて俺からしたらゾッとしない話だが、ここにいる連中は別なようだ。狂信的でちょっと怖いぐらいだな。

「とにかくこの場に全裸も見せず愛もへったくれもないであろう。我からすればそんなものは偽りの愛だ。スライムで服を溶かして出直してくるのだな」

 す、スライムで服を溶かす? よくわからないが日ノ本で言えば味噌汁で顔を洗って出直してこい的なニュアンスなんだろうか? ただ何せゼンラの父親だからな。造語の可能性も十分ありえる。

「あいつ、よりにもよってスライムで服を溶かして出直してこいだと!」
「聖女様になんて失礼な物言い!」
「裸の一族だかなんだか知らんが無礼にも程があるぞ!」

 違った! しっかり認識されていた! しかもどうやらかなり失礼に当たる言葉なようだ。まぁ服を溶かしているからな……

「さて、話はわかりました。ですがだからといってそう簡単に諦められませんね」
「しつこいやつだ。そもそもカグヤという娘は魔法学園に通うと言っている。それだけの実力があるのだろうミシェル」

 スパダカがミシェルに顔を向けて問いかけた。するとミシェルは出来るだけスパダカの方を見ないようにしながらも緊張した面持ちで答える。

「え? は、はい勿論です! 魔力も高く、光属性を操る力に非常に長けています! 教会といいますが、あの力は魔法士向けですよ」
「ということだ残念だったな」
「うふふ、貴方こそ筋肉の愛の割に、見識が低いのでは? 光属性に長けているということは自然と聖属性にも優れていることになります。だからこそのあの治療魔法だったのでしょう。であれば、教会に来てもらうのが道理にて愛!」
「待てよ。どうして聖属性だったら教会に入るって話になるんだ?」
「……ジン。確かに聖属性に長けていて神官としての才能に溢れると判断された場合、教会に優先権があると、暗黙の了解としてまかり通っているのだ」

 父上が説明してくれた。

「うふふ、よくご存知で。教会への愛が深いのですね。素晴らしい愛!」

 いちいち口調が大げさでうるさい女だ。しかし、逆に言えば……

「つまり、その聖属性でなければ教会に入る必要はないってことだな?」
「……たしかにそうですがありえませんね。愛のない意味のない質問です」
「そうとは言えないだろう。それを調べる方法はあるのか?」
「……うふふ。勿論ありますよ」
 
 メトロンが答えると、憑依されている信徒がごそごそと何かを取り出した。これは、十字架か……

「この十字架をその子の肌に当ててみるといいですよ。もし聖属性であればその強さに応じて十字架模様の痣が色濃くのこります。あぁ、痣は時間が経てば消えますからね。愛のある安全な確認方法です。あぁ愛は素晴らしい!」
 
 歓喜する聖女を他所に俺はその十字架を受け取った。

「カグヤいいか?」
「……しかし、もしそれで……」
「大丈夫だ。俺を信じろ」

 姫様に言い聞かせるように伝えるとコクンっと頷いて肯定してくれた。

 他のみんなも注目している。

「ふふ、それを行うということは覚悟は決まったということですね。神の愛を享受する決意が!」

 メトロンは勝ち誇ったように声を張り上げる。だが、俺の考えが間違いなければ……そして俺は姫様の絹のような白い肌に十字架を押し当てたわけだが――痣は全く残っていなかった。

「見ての通りだ。これで教会に入る必要はないな?」
「な、なな、そんな馬鹿な! ありえない! こんなことありえない! 愛が足りなーーーーーーーい!」

 頭を抱えメトロンが絶叫した。余程予定外だったようだが、どっちにしろこれで文句はないだろうさ――
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