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第五章 転生忍者吸血鬼出現編

第三百二十八話 転生忍者、絶許

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 教会の連中がやってきた。ビルアス大司祭という男は随分と偉そうな不遜な男だった。

 第一印象から最悪で全員から不信を買っている。
 
 しかも吸血鬼を倒したことが嘘だと言い出した。

「その、大司祭様。それについては事実でございます。ファーム領の被害もすっかりなくなりましたし感謝してもしきれない思いなのです」
「それが本当なら、王国からわざわざ教会に調査依頼など来ぬだろうが」
「調査? 国からですかな?」

 不機嫌そうに語るビルアスに父上が問う。表情は実に怪訝そうだった。ただでさえ優秀な魔法騎士のカイエンが吸血鬼の手にかかってしまったんだ。尊い犠牲を払っての勝利だった。
 
 それなのに疑うとは。スワローの表情にも陰りが見える。

「そうだ。全く事後報告となったようだが、私も聞いて驚いたものだ。まさか吸血鬼の絡む案件を我ら教会に相談もせず取り組むとはな。どうやら王国の魔法騎士連中が独断専行で動いたようだな。全くとんでもないことだ。貴様は被害が無くなったと言っているが本当に吸血鬼であればこんなもので済むわけがないであろう」
「しかし事実……」
「どうせ適当な発言を鵜呑みにしたのであろうな。吸血鬼はアンデッドの一種。不死の化け物と言えば我ら教会の領域だ。魔法騎士がちょっと乗り出したぐらいでどうにかできる問題ではない。どうせ何も出来ず尻尾を巻いて逃げたタイミングで体よく吸血鬼が狩場を変えたのを見てこれ幸いと、自分たちの手柄に変えてやろうと思ったのだろう」
「それは亡くなったカイエン・ブレイドに対してあんまりな発言ではありませんか?」

 聞いていて、いい加減イライラが募って来たところにスワローが口を挟んだ。カイエンの死に最も心を痛めていたのはスワローだろう。

 こいつの発言はカイエンの死すら侮辱しているに等しい。

「ん~ん~?」

 その時、ビルアスの近くに立っていた神官の左目だけがスワローに向いた。何か妙にぎょろぎょろした動きだな……しかも左目だけが蠢いている。

 ビルアスも印象最悪の傲慢な男だが、一緒に来ている連中にも妙なのがいるな……

「何だ。女の執事か。ふん、貴様には関係のない話だろう」
「そんなことはありませんよ。スワローは吸血鬼退治に関わっているのだから」
「何だと?」

 俺が教えるとビルアスが目を眇めた。

「ビルアス大司祭。吸血鬼を退治した件についてはスワローと息子のジン。そして息子の友だちでもあるマグノリアも関わっているのです。吸血鬼も実際に倒してますので」
 
 父上がビルアスに説明した。この話は国に当てた報告書にも記載されたことだ。これだけの大事になると流石に誤魔化しきれないということで父上は事の顛末をしっかり書き記し、王国に報告書として送っている。

「くくっ、カカカッ、これはけっさくだ! 年端も行かない女と、女の分際で執事などを任されている奴と、そして魔力もない出来損ないが吸血鬼退治ときたか。あ~はっはっは! なんだここは嘘つき連中の集まりか? 由緒あるエイガ家が聞いて呆れる」

 突如大笑いを始めるビルアス。この態度が本当に腹立たしい。

「……あいつ消し炭に変えてもきっと許される」
「許す、やれ」
「ちょ、お兄ちゃんマグちゃんも流石に不味い、と思う。やってほしいけど……」
「我慢だ。騎士たるものいかなる時も冷静に……」
「グルルゥウウ」
「キキィ!」
「何なのじゃあいつは! なんなのじゃ!」
「ピィ~!」

 全員限界に近いぐらい怒りが溜まっている。勿論俺もだが。

「全くくだらんな。何を吹き込まれたか知らないがそれで出来損ないの騎士共をかばっているつもりなのか?」
「出来損ないとはどういう意味でしょうか?」

 聞き捨てならないと言った様子でミシェルと他の騎士が会話に加わってきた。そろってその顔つきは険しい。

「何ださっきからぞろぞろと」
「私はこの者たちと一緒にカイエン団長に任務に当たらせてもらった魔法騎士ミシェルです」
「ふん。そういえば何も出来ずに無様に生き残った騎士がいると聞いていたな」
「……敢えて否定はしません。ですが死んでいったカイエン団長も他の騎士たちも死力を尽くして吸血鬼と戦い被害を最小限に抑えようと尽力致しました。そのうえでカイエン団長はここエイガ領を頼るよう助言してくれた。結果的にその判断は正しく、吸血鬼は全員倒されました。ここにいるジン君達の手でです。私達はなにを言われても仕方ありませんが、吸血鬼退治に貢献した彼らや死んでいった仲間を悪く言うのは止めて頂きたい」

 厳しい目をビルアスに向けるミシェルと騎士たち。だがそれに対してビルアスが小馬鹿にしたように鼻で笑う。

「ふん。呆れたものだな。状況判断も出来ないような無能な上司を持っておきながら怒るどころか庇うとは。大体判断が正しかっただと? このような田舎の小さな領地に助けを求めることの何が正しいというのか。無駄に吸血鬼を刺激して被害を広めただけであろう。そういう男はよくやったなどと言わないのだ。無駄死にどころの話ではない。どうせ吸血鬼を退治できれば功績になるとでも考えたのだろう。出世欲にかられた愚かな男の馬鹿な末路だ。そんな男死んで当然。哀れでくだらん男の魂はきっと今頃地獄にでも落ちているだろうよアッハッハ!」
「その臭い口を閉じろよ」
「あん?」

 ギロリとビルアスの気色の悪い瞳が俺に向けられた。

「何だ今のは貴様が言ったの――」
「ガウガウガウガウガウガウガウガウ! グルルルルウゥウゥウゥウゥウウウ!」

 顔を歪め、俺を睨みつけてくるビルアスだったが、その時姫様の側にいたマガミが飛び出してビルアスに向けて激しく吠え立てた。マガミも怒っているのだろう。

「何だこの屋敷は――野良犬の管理も満足に出来んのか愚か者が!」
「――キャンッ!?」

 その時だった。ビルアスの向けた杖の先端から光が放たれ、マガミを貫い――

「ふん。駄犬が。おい目障りだその塵をとっとと片付け――な!?」

 体がもう動いていた。姫様がマガミに駆け寄っていたのには気がついたが、もう止められそうになかった。

 飛び出してビルアスに向けて握った拳を振り切っていた。しかも、それは俺だけじゃなかった。デックとミモザとマグとエンコウも同じ気持ちだったのだろう。全員の拳がほぼ同時にビルアスの顔面に吸い込まれ殴りつけ、そして吹っ飛んでいった。

「グボェエエェエエェエェエエェエェエエエエッ!?」

 ぐるぐると回転しながら飛んでいき、勢いよく地面に叩きつけられた衝撃で爆発したのはマグの魔法だろうな。

 だが――

「後悔はしてないぜ。このクソ野郎が!」
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