上 下
124 / 158
第五章 転生忍者吸血鬼出現編

第三百十九話 転生忍者、つかまる?

しおりを挟む
 くっ、奴の使う不浄で出来た腕に捕まってしまった。力が落ちているとは言え情けない。

 しかも一本に足を取られたと思えば一気に何本もの腕がやってきて俺に掴みかかった。

「忍法・爆炎陣!」

 すぐに印を結び忍法を行使。爆炎が周囲に広がった。これで消したか? と思ったところに消しきれなかった腕が現れ結局捕まってしまった。

「やはり、力はかなり衰えてますね」

 俺を持ち上げ、ドルドがほくそ笑んだ。眼鏡を直す仕草が一々鼻につく。

「さてこれでだいぶ私に有利になりましたよ。私の不浄のそれは触れただけでも相手を穢す。貴方の体も蝕んでいくはずです」

 チッ、毒には強いつもりだったが、確かに嫌な痛みが全身を駆け巡る。だけど耐えられない痛みじゃない。

 だが捕まってしまったのが最悪だ。油断した自分の未熟さに腹が立つ。

「さて、できれば近づいてその首を刎ねて差し上げたいところですが、弱体化しているとは言え、貴方は油断ならない相手です。ですからここから――」

 不気味な液体、というよりあれはもう粘液だな。それが形を変え鎌の形状になった。

「これでその首をもらいますよ!」

 奴が鎌を振った。宣言どおり鎌の刃が俺の首に迫る。

火蜥蜴の息吹サラマンダーブレス!」

 その時だったマグの声が聞こえ伸びた炎で俺を捕まえていた手が燃やされていった。

「貴様、まだ動けたのか!」
「俺もおかげさまで自由になったぜ! おらッ!」

 マグの登場に驚くドルドへ指に挟めた苦無を次々と投げつけた。何発かは当たったが移動しながらドルドが抜いていく。

「揃いも揃って鬱陶しい!」
「アオオォオオオオォオォオオオオ!」
「ガッ、ぎ、銀狼の遠吠え――」

 憎々しげに顔を歪めるドルドだったが、マグに続いてマガミも参戦。遠吠えを上げるとドルドが怯んだ。

 そういえばこいつ、マガミの遠吠えを嫌がっていたな。銀狼であるマガミの声には吸血鬼を怯ませるなにかの力が働いているのか。

 だからこそ吸血鬼は銀狼を嫌がっていたわけだが、俺にとってはチャンスだ。

「忍法・鉄拳制裁!」
「グホォオオォオオ!」
 
 怯んだドルドに俺の鉄の拳がヒットした。ドルドが大きく吹っ飛んでいく。

「……火蜥蜴の熱球サラマンダーブレイズ
 
 しかも容赦のないマグの追撃。肩の上ではサラぽんも張り切っているな。

 そして巨大な火球がドルドを飲み込み地面に着弾して爆発した。

「やるなマグ。あと、なんか助けられてしまったな。ありがとう助かった」
「……べ、別に、た、助けたくて、し、したんじゃ、な、ないんだからね」
「――は?」

 マグが突然そんな妙なことを言いだした。何かぷいっとそっぽを向きながらだ。何だ?

「大丈夫か? さっきやられてたので調子悪いのか?」
「……間違った? おかしい。こういう時はこうやるものだってエロイが言ってたのに」
「あいつの言うことを真に受けるんじゃありません!」

 思わずお母さん口調で注意してしまった。あいつ本当ろくなことを教えない!

「でも良かった。マグもマガミも元気になったんだな」
「……ん! カグヤのおかげ」

 そうか。やっぱり姫様の力は凄まじい。

「しかし、助けてくれたのは嬉しいが、俺にも結構火が来たな」
「……文句言うなそれぐらい我慢する」

 はは、キツイな。

「いいな。やっぱマグはそれぐらいが丁度いい」
「……馬鹿」

 うん? 何か今ちょっと照れてた? 

「ところで今、カグヤは?」
「……モドキと化した村人や騎士を浄化して送っている」

 浄化して、送るか。何となくマグの言っていたことの意味を理解した。それはつまりやはりあの状態になった連中は姫様でも治療できないってことだ。

 姫様にとっては辛い経験になる……全くこっちにきて守りたいと思っていても結局損な役回りばかりさせてしまっているな。

「……お前が落ち込んでもカグヤは喜ばない」
「マグ――」

 今の俺の気持ちを見透かしたようなセリフがマグから飛び出した。

 そうだな。マグの話を聞くに姫様は納得してことに当たっているのだろう。

 それが姫様の選んだ結論なら、俺はそれを尊重するだけだ。と、その時激しい殺気を感じる。

「! マグ横に飛べ!」

 マグと俺で左右に散る。すると不浄の波が俺たちの間を引き裂くように突き進んでいった。

 地面がドロドロに溶けている。今の余波で草木もみるみるうちに腐敗していく。

「全く。だから自然に優しくなさすぎだろう」
「ふん、まだそんな軽口が叩けますか」

 眼鏡をクイッと直しながらドルドが言った。
 やっぱりまだ倒せていなかったか。だが、しかし。

「随分といい顔になったものだな」

 ドルドの眼鏡を掛けていない方の顔半分はマグの炎で焼き爛れてしまっていた。

 吸血鬼とは言えダメージを受けないわけじゃないからな。ま、こいつの性格にあった見た目になったんだから喜ぶべきだろう。

「誰のせいだと思っているんだぁあ!」

 今度は不浄の円盤か。何個も飛ばしてきた。円盤は俺たちを追いかけてくる。

「グルゥウゥウウ!」

 マガミが口を開いた。また遠吠えを上げるつもりなようだが、そこへ不浄の人形のようなものがマガミに飛びかかった。

「マガミ! その攻撃は受けるな!」
「ガ、ガウ!」

 マガミが飛び避ける。だがあの人形しつこい。きっと遠吠えをさせないつもりで作り出したんだろう。

「これで鬱陶しい声を聞かなくて済むな。さぁ次はお前らだ!」
しおりを挟む
感想 1,746

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

あの味噌汁の温かさ、焼き魚の香り、醤油を使った味付け——異世界で故郷の味をもとめてつきすすむ!

ねむたん
ファンタジー
私は砂漠の町で家族と一緒に暮らしていた。そのうち前世のある記憶が蘇る。あの日本の味。温かい味噌汁、焼き魚、醤油で整えた料理——すべてが懐かしくて、恋しくてたまらなかった。 私はその気持ちを家族に打ち明けた。前世の記憶を持っていること、そして何より、あの日本の食文化が恋しいことを。家族は私の決意を理解し、旅立ちを応援してくれた。私は幼馴染のカリムと共に、異国の地で新しい食材や文化を探しに行くことに。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。