辺境貴族の転生忍者は今日もひっそり暮らします。

空地大乃

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第五章 転生忍者吸血鬼出現編

第三百十八話 スワローとカイエン

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sideスワロー

 カイエンが炎に塗れた剣で攻撃を仕掛けてくる。
 一つ刃を振る度に炎が帯を残す。その度に空気が熱くなります。

 この炎は触れると爆発が生じるようです。下手に受けられない。だけど避け続けられる程甘くはないのです。

 野性的な連続攻撃、獲物を追い詰めることだけを考えた滾った刃。一撃一撃が熱い、だけど、私も負けるわけにはいかないのです!

「ここ!」
 
 水平に振り抜かれる斬撃。それを私は飛んで避けた。

「はハはッ、愚かダぞスワロー! 空中でハ、逃げバがなイのダっ!」

 火力が増す。豪炎を纏った刺突が浮上した私目掛けて突き進んできた。空中では逃げ場がない――確かに普通ならそうですが、私は落下の軌道を変え、燕が空を舞うような所作で、空中からカイエンに向けて剣戟を振り下ろしました。

「むッ! こレは、そウか! そウか! 思いダしたゾ! そレは、飛燕かッ!」

 カイエンはすぐに思い出したようです。そう、飛燕、それが私の刻印!

 飛燕の効果は空中での動きに自由が利くようになる。空を飛ぶとまではいきませんし、とぶというよりは体重が軽くなったような感覚になると言った方がしっくり来そうです。

 とても扱いが難しい刻印ですが、使いこなせば強力な空中殺法が可能になる、それがこの刻印です!

「はっ!」
「むゥ」

 空を舞う燕のような動き――私をそう評したのはカイエンでしたね。体重が軽くなるような感覚といっても実際の質量が変わることはないのです。

 なので攻撃の威力に変化は現れません。いえ、動きを工夫すれば寧ろ落下の勢いを乗せて威力に上乗せできる。

「中々に、鋭イ攻撃でハなイか」

 私の攻撃は全てカイエンに捌かれている。ここまでは――

 空中からの突きそれをカイエンが剣を添えようとしてきたけど、私はその場で回転して突きから横薙ぎの軌道に変化、カイエンはそれを捌ききれない。

「むゥ!」

 私の剣撃がヒットした。やっぱり思ったとおり、フェイントを絡めると脆い。こんな状態になってなければ、きっと通用しなかった。

 やっぱりカイエンではないのです。見た目が同じでも全くの別物、だから私がケリを付けないと!

 一撃決まったのをきっかけに、私の刃が次々とカイエンの身を捉えていく。腕を切り、脇腹を切り、肩を切り、首を切る。その感触が刃越しに腕に伝わってくる。

 何故、私はこんな事をしているのか。何故、私がカイエンを傷つけているのか。そんな迷いは断ち切らないといけないのに、わかっているのに、胸がぐっと締め付けられるように痛くなってくるのです。

「もう倒れて! お願い!」
「それハ、無理ナ、相談ダね」

 カイエンが刃を地面に突き立てる。その瞬間、爆発が生じ私は吹き飛ばされた。

 しまった――空中では衝撃に抵抗する手段がない。今のは動きで本来は読めたはず。でも、今、私の意識は確かに戦いとは別なところにあった。

 カイエンとの決着を急いだのです。それが隙を生んでしまった。僅かな心の乱れが致命傷になり得る。

 それはカイエンからもかつて言われたことだった。だけど、私はそこまで強くはなれなかった。
 
 硬い地面に背中から落ちた。視界が回転し、遅れて痛みがやってきました。

 次に見えたのは闇に塗れた空だった。刻印は肉体への負担が上がるのです。今のダメージと合わせて、大きく体力を消耗してしまいました。
 
 カイエンの足男が近づいてくる。このままだと、私はカイエンに――何を、考えていたのだ私は!

「ほウ、まダ、立ち上ガれるノか。ネておケば、楽だっタだロう二」

 こんなところで諦めてどうするというのか。お坊ちゃまの顔を思い出し勇気を奮い立たせます。

 ジンお坊ちゃまだけではないのです。皆が必死に戦っている。年長者の私が寝ていては示しがつきませんね。

 私の歩幅で五歩分程度の距離までカイエンは近づいてきていました。そして手には、雷を纏った剣。

「絶望しタかい? だけド、いい加減私モ、腹ガ減った。喉も乾イた。だカら、こレで決メるノだ」

 カイエンの扱う魔法剣で最も威力が高く、最も速い剣、それが雷。

「さァ、覚悟ヲ決メたマえ!」

 カイエンが雷速で私に迫り、そしてすぐ横を駆け抜けていった。

「はハっ、驚イた。まサか避ケるトは、あレ?」

 カイエンの左腕がぽとりと落ちた。カイエンは何故そうなったか理解できないようです。

「偶然、攻撃ガ重なッたノか。だケど偶然ハ、二度ハなイ!」

 再びカイエンが迫る。だけど、私は軽く体をひねるだけでその一撃を避け、そして撫でるように剣を振ったそれだけで十分だった。

「あレれェ?」

 カイエンの脇腹が抉れた。カイエンは不思議そうにしている。だけど。

「やっぱりお前はカイエンじゃない」

 刃を突きつけ言い放つ。雷の属性は制御が難しい。使えることと使いこなすことは別なのです。

 またカイエンが迫り、駆け抜け逆の脇腹が抉れた。一撃放つごとに、その距離が離れる。正常だったカイエンならこんなことにはなりえません。

 そう雷をしっかり制御できたカイエンなら。だけど、今のカイエンではそれが出来ない。結果として動きが直線的になりカウンター当てやすいのです。

 雷の速度は当たれは私にとって脅威ですが、発動したところに攻撃を重ねられれば脆いものです。

「今の貴方では私に勝てません。そして私はもう迷わない」
「ほザけ!」

 カイエンが再び迫った。だけど、再び避け、一撃をあてた。

「なるほどこうか」
「え?」

 だけど、振り返ると数歩先にカイエンがいた。雷を纏った剣を振ってくる。

「くっ!」

 飛び退くことで避けた。大ぶりで助かった。でも、このカイエンも適応してきている? 強化された身体能力と本能で無理やり。

 駄目だ、時間は掛けられない。覚悟を決めて狙う! 彼らはアンデッドではない。不死ではないと聞いています。

 ならば狙いましょう、心臓を!

「はっハ-!」

 また来た! 一発を避けつつ、今度は急所をカウンターで!

「え?」

 だけど、カイエンは私のすぐ正面で動きを止めた。突撃だと思っていた私の目論見を嘲笑うかのように急停止した。駄目です。体勢が崩れるこのままじゃ――

「残念だっタね。こレで――」

 カイエンが剣を振り上げたのが見えた。だけど、その状態でカイエンの動きが、止まっていた。何故かはわからない。でも、それが僅かな隙を生んだのです。

 咄嗟に頭が考えるより先に体が動いていました。私の剣がカイエンの胸を捉え、そして心臓を貫いた――

「それでいい、スワロー――」
「え?」

 そして、私の目に映ったのは優しく微笑むカイエンの姿。カイエン、貴方――意識が……
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第四章大会編の一部を幕間という章に移動する作業を行ってます。ご不便をおかけしますができるだけ急ぐように致します。書籍の3巻は12月17日から出荷される予定です。書籍発売と同時にレンタルに移行する話もあります。詳しくは近況ボードにて書かせて頂いておりますので一読頂けると嬉しく思いますm(_ _)m
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