辺境貴族の転生忍者は今日もひっそり暮らします。

空地大乃

文字の大きさ
上 下
117 / 158
第五章 転生忍者吸血鬼出現編

第三百十二話 マグノリアとマガミ

しおりを挟む
sideマグノリア

 今日、私はマガミと一緒に訓練をしていた。魔法大会が終わってからはジンと一緒にやることが多かったしエンコウも協力してくれたけど、風を扱うマガミはなんとなく私と訓練する時の相性が良い気がしたから、全体的にはマガミと一緒に訓練することが多かった気がする。

 そしてマガミと訓練したり、ちょっとモフってみたりした後、中庭に戻るとジン以外の皆の姿があった。その場にはジンはいなかったからなんとなく近くにいたデック達の会話に耳を傾けた。

「それにしてもびっくりだぜ……あのカイエンさんが、吸血鬼に襲われたなんて……畜生なんだって……」
「デック、気持ちはわかるがここで落ち込んでも解決し――」
「……吸血鬼って、何のこと!」

 ミモザが心配そうにデックに接していたのはわかった。だけど、私は話の中に出てきた吸血鬼のことで既に頭が一杯だった。

 私の里を襲ったのは吸血鬼だった。そして私以外は皆殺しにされた。元々私は仇の吸血鬼を見つけるために旅をして回っていた。

 そしてタラードの町に吸血鬼がいるという情報もあったから魔法大会に出た。

 だけど、ジンの父親に言われ、今はこの屋敷に身をおいている。復讐心に囚われてはいけない……ジンの父親は私にそう言っていた。

 エイガ家の皆は私をすぐに受け入れてくれた。優しくて、家族みたいに思ってくれていいとも言ってくれた。

 だけど、それでも、吸血鬼と聞いて黙っていられない……

 私はデックからファーム領に吸血鬼が現れたこと。王国騎士団が襲われたことを聞いた。

「お、おいマグ! どこに行く気だよ!」
「……吸血鬼退治」
「ば、馬鹿無茶だって! 一人でどうにか出来るわけ無いだろう! ジンの話が終わるのを待てって!」

 ジンを待つ。そのデックの気持ちがわからないわけじゃない。でも――今のジンは……

 皆の静止する声が聞こえたけど、足はもう動いていた。もう止められそうにない。

「ガウガウガウガウガウガウガウガウ!」
「え?」

 だけど、驚いたことに私の後をマガミが着いてきていた? どうして?

 マガミを危険に巻き込めない。私は風の精霊シルっぴの力で加速。屋敷の壁を飛び越えてファーム領を目指した。森を枝から枝へと飛び移りながら進んでいく。

 マガミはこれで追いつけないと思ったのだけど――

「ガウガウ!」
「……これでもついてこれるの?」

 視線を下げると、吠えながら追いかけてきているマガミの姿があった。しかもまだ走る速度に余裕がありそうだった。

 私も訓練でかなり力が上がったつもりだったけど、マガミも相当レベルアップしている。

 だけど、やっぱりこのままというわけにはいかない。私は枝から飛び降り、場所を移してマガミと対峙した。

「……ここからは危険。ステイホーム。マガミはおうちへお帰り」
「クゥ~ンクゥ~ン」

 私がそう説得するも、マガミは私に擦り寄ってきて聞こうとしない。

「ガウガウ!」

 もっと言えば、ジンを待ったほうがいいと、そう言われてる気すらする。だけど、駄目だ。

「……マガミは信じられないかも知れないけど、御主人様のジンは、恐らく本調子でない」
「ガ、ガウ?」

 マガミが小首を傾げる。マガミでもわからなかったのか。私も最初は半信半疑だった。だけど、あのロイスとの決闘はやはりどこかおかしく思った。

 最初は手加減しているように思えたのだけど、試合そのものからはジンの真剣さが伝わってきた。

 だからこそ解せなかった。そもそも本当に本気のジンだったならロイスじゃ相手になるわけない。秒で砕け散る。これでもまだ控えめに見てる方だ。

 だけど、実際はいい勝負になっていた。最後にジンは勝ったし、それでも余裕はあったようだけど、圧倒とまではとてもいえなかった。
 
 そしてその後のジンとの訓練でもなんとなく違和感があった。それは徐々に確信に至った。

 だから今のジンは危うい。今なら私の方が強いとまで言わないけど、ジンは何でも一人で背負い込むところがある。

 だから今はジンの方が却って危険ではないかとも思えるほどだ。

 もちろんだからといって私が一人で動く理由にはならないけど……だけど、私だってずっと吸血鬼を追ってきたんだ。そう簡単にやられはしない。

「……とにかく私は行く。皆に追いつかれる前に少しでも速く」
「――ガウガウ!」
「……え?」

 するとマガミが身を低くして、元気よく吠えた。
 もう引き止める気がないことがわかった。そして背中に乗ってと言っていることも。

「……危険なんだよ?」
「ガウ!」

 どうやら、マガミも強情なのは私と同じなようだ。私がいくら言ってもついてくるだろう。

 それにその瞳には強い意志が宿っている気がした。

「……ごめんねジン。マガミと一緒にいくよ」

 そして私はマガミの背中へ跨り、直後マガミが風と一体化したように加速し突き進んだ。凄い、この速さなら。

「……マガミ。私の精霊も協力する」
「ガウ!」

 そしてシルっぴの風の力も纏わせて更に数倍にまで動きが速くなった。

 これならすぐに目的地につける。

 そして――私とマガミはあっという間にファーム領に到着。その日のうちに着くことが出来た。太陽が沈んできてもう薄暗いけど、そこからシルっぴの力でそれらしいものを調べてみる。

『きゃ、きゅあぁああぁあああ!』

 シルっぴを通して誰かの悲鳴が聞こえた。それなりに距離はあるけどマガミならすぐだ。

「……マガミ!」
「ガウ!」

 そしてマガミが加速して悲鳴のした方に急いだ。悲鳴が聞こえたのは小さな村からだった。木製の塀を飛び越えて村に入ると、村人が人ならざる者に襲われていた。

「……吸血鬼に噛まれた成れの果て――」
「ガ、ガウ」

 吸血鬼に血を吸われた人間は、意識を失い本能のままに動く存在に成り果てることがある。

 挙動がアンデッドに似ているから間違われやすいけど、自我がほぼ失われていても肉体的には大きく強化されている。

 しかもこいつらに襲われて血を吸われると似たような化け物になってしまう。

 放っておくとこんなのが増えるだけ。だから――

「……マガミ、一緒に片付ける」
「ガウ!」
しおりを挟む
第四章大会編の一部を幕間という章に移動する作業を行ってます。ご不便をおかけしますができるだけ急ぐように致します。書籍の3巻は12月17日から出荷される予定です。書籍発売と同時にレンタルに移行する話もあります。詳しくは近況ボードにて書かせて頂いておりますので一読頂けると嬉しく思いますm(_ _)m
感想 1,746

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。