辺境貴族の転生忍者は今日もひっそり暮らします。

空地大乃

文字の大きさ
上 下
115 / 158
第五章 転生忍者吸血鬼出現編

第三百十話 転生忍者、頼られる?

しおりを挟む
 話を聞いた後のスワローの動揺は相当なものだったのだろう。その後、ミシェルを父上の部屋にまで案内したが顔が青褪めており、父上から少し部屋で休んだほうがいいと心配されたほどだ。

 ただスワローはそれでも気丈に振る舞い、一緒に同席をお許しくださいと父上に懇願していた。

 父上もそれ以上は何も言えなかったようだ。一方でどういうわけミシェルは父上と一緒に俺も同席することを願った。

 流石に他の皆は一緒にというわけにはいかなかったが、しかし何故俺だけ?

 とにかくミシェルはスワローと俺が同席する中、事の顛末を話してくれた。その内容に父上が頭を抱える。

「確かにファーム殿からは、もしかしたら肉を卸す量が減るかも知れないと手紙で知らされていたがそんな事情があったとは……」

 ミシェルの話では最初は家畜が惨殺される事件が多発したらしい。獣や魔物の類が現れてやったことと当初は思われていたそうだ。

 ただ食べるにしても損傷が酷かったのは騎士達も気にしていたことらしい。ミシェル達はアンデッドを想定もしたらしいが、今思えば血を吸っていた事実を隠すために敢えてやっていたのだろうとミシェルは話していた。

 確かに血を吸う被害が出たら吸血鬼の可能性に行き当たる。だが肝心の吸血鬼にとってはそれはあまり好ましくなかったのだろう。

「しかし、あのカイエン殿が……あれだけの魔法剣を使いこなす騎士はそうはいないだろうに」
「はい。王国騎士の中でもカイエン団長は五本の指に入るほどの腕前を誇っておりました。ですが吸血鬼には全く……」

 ミシェルが悲痛な表情で答えた。カイエン……確かに様々な属性の魔法剣を使いこなしていた。既に騎士ではなかったとはいえ、スワローを圧倒した程の実力もあった。

「そこまでの相手か……」
「その吸血鬼というのはどんな相手だったのかな?」

 スワローは黙って話を聞いていた。父上は終始頭を抱えている。とりあえず、俺は一応頭は冷静のつもりだ。とにかく吸血鬼の正体が知りたい。
 
 俺は以前、魔法大会で吸血鬼と関わっている。そもそもあの事件の黒幕は吸血鬼だったわけだしな。

「名前はわかりません。ただ、とにかく強かったことと外見は片眼鏡をした青白い髪をした壮年の男です」

 片眼鏡、青白い髪だって?

「それは、まさか!」

 俺の脳裏にある男の顔が浮かんだ。そして父上も気がついたようだ。

「もしかして知っているのですか?」

 ミシェルが目を見開き父上に問う。

「うむ……私の叔父と魔法大会のことは知っているかな?」
「はい。勿論国としても一大事として扱われておりましたので。町の人間が吸血鬼に襲われたという痛ましい事件ですね」
「あぁ、恥ずかしい限りだが私の叔父がその事件に深く関わっていた。最終的には叔父は死亡したが、その際に現場から叔父の家令であったドルドの姿が消えていた。今君が教えてくれた様相はそのドルドによく似ている気がする」

 そうだ。そしてドルドについては忍者として振る舞った俺が片をつけたつもりだ。ジンとしては知っていてはややこしいので、出来るだけ表情に出ないように務めているが、だけど、ドルドはあの時、自ら自爆し死を選んだ、とそう俺は思っていた。

 だが、違ったということか? あの場から逃げ伸びて、密かに動き回っていたってことか。
 
 だがそれなら得心も行く。家畜の血を吸っていたのが失った力の回復の為なら、正体が見つからないように血を吸ったことを隠しておく理由もつく。
 
 そしてその間に村人を襲って仲間に変えていったということか……

「どちらにせよ、放置してはおけない問題なのは確か。しかし、何故うちに? いや勿論ファーム男爵とは付き合いもある故、協力するのは吝かでもないが、騎士団が出ていく案件な気もしたもので」
「確かに本来ならそうでしょう。しかし、それでは間に合わない……それが団長の判断と考えています。王国軍を動かすとなるとそう簡単ではないのです。上を納得させる為の材料も必要となりますが、うかうかしていてはファーム領はあの吸血鬼に占領されます。そうなれば恐らく次に狙われるのは」
「うちということか……」

 深刻な表情で父が唸る。そしてそれはほぼ間違いない気がしてならない。父上には伝えていないがあいつは姫様を狙っている気がするからだ。

「……わかった。とにかくうちに控えている騎士も集め冒険者ギルドにも依頼を出そう。幸い今この領地には頼りになる冒険者が集まっている」
「即断頂きありがとうございます。そして、これはもしかしたらエイガ様も難色を示されるかもしれませんが、敢えてお願い致します――ご子息のジン・エイガにも協力をお願い出来ませんか?」
「え?」
 
 父上が目を白黒させる。そして俺も少し驚いた。勿論その気はあるのだが、向こうから言ってくるとは。

「……理由をお聞きしても?」
「その前にご子息とお話させて頂いても?」
「あぁ、構わない」

 そしてミシェルが俺に体を向け一揖してから問いかけてきた。

「カイエン団長から決闘で負けたと聞いていました。相手は少年とだけ言っていたけど、それは貴方よね?」

 力強い視線を感じた。どうやらミシェルは俺だと確信しているらしい。

 父上をちらりと見るが、スッと瞼を閉じた。構わないという意味だろう。どちらにしろこの場で誤魔化しても仕方ない。

「確かにそれは僕です」
「やはり――」

 得心がいった様子で改めてミシェルが父上の方を向き口を開く。

「カイエン団長は私にこのエイガ男爵領を目指せと言い残しましたが、理由は行けばわかるとだけ……ですが彼をひと目見てわかりました。きっとカイエン団長を倒したのはこの子なのだろうと。だからこそお願いします。団長を倒すほどの腕を誇るジン・エイガにもご尽力を!」

 最初にミシェルが言っていたようにこれには父上も難色を示していた。だが――

「父上、僕からもお願いします。カイエン・ブレイド様とは一度は手を合わせた御方。その方が頼りにしてくれた以上、その期待には答えたい」
 
 俺からも父上に願い出る。カイエンのことは勿論だが、ドルドはどんな理由があったとは言え、結果的に俺が始末できなかったことに変わりはない。

 決着は俺の手で付けないと……制限の問題はあるが、黙ってはいられない。

「……ふぅ、どうせ駄目だと言ってもお前は行くのだろう?」
「…………」
 
 無言で返すと、俺の目を見てやれやれと父上が頭を振った。

「わかりました。うちの息子が役に立つのならこんな名誉なこともありません。ただ、騎士や冒険者の準備が整い次第となりますが」
「勿論それで構いません! エイガ男爵のご配慮に感謝致します!」

 こうして俺は吸血鬼退治に乗り出すことになったわけだが――
しおりを挟む
感想 1,746

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。