辺境貴族の転生忍者は今日もひっそり暮らします。

空地大乃

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幕間

第三百四話 転生忍者、勉強に付き合う

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 俺としては色々迷うところでもあったが、姫様がやる気になっている以上仕方がない。

 とにかく兄貴が屋敷から旅立った後日より、俺も姫様の勉強に付き合うこととなった。

 更にそういうことならと、マグもそうだがデックやデトラ、それにミモザも勉強に付き合ってくれることとなった。
  
 まぁデックとミモザは騎士学園に入るから、俺達とはまた内容も変わってくるのだがな。

「ふむ、魔法にはこの詠唱というのが必要なのじゃな」

 姫様がデトラと魔法書を読みながらうんうんと頷く。勉強会では座学についてデトラが姫様に手ほどきしていた。

 ちなみにマグにも姫様は聞いていたがマグはキランとかドンッとしてゴンとか、バッとしてハッとかなんとも特殊な教え方なので参考にはならなかったようだ。

「でも、中にはジンさんみたいに詠唱なしで魔法を使う場合もあるんだよ。それを詠唱破棄というの」
「なるほどのう。省略はまた違うのかのう?」
「省略は詠唱を短くするの。だから普通の詠唱と破棄の中間かな?」
「ふむ、流石デトラは物知りじゃのう」
「そ、そんなことないよう~」

 姫様に褒められてデトラが照れていた。しかし実際デトラの説明はわかりやすい。

「やってるな」
「父上」

 屋敷の一部屋を借りて勉強していたが、父上が部屋にやってきて声を掛けてくれた。

「実はカグヤの魔法の勉強の手助けになればと思ってな。先生となる方をお連れした。特に実技面では手本となる先生がいた方がいいだろう」

 そう父上が言う。呼んできた先生はすぐそこに控えているようだ。

 言われてみればたしかにそうだな。ただ、確か以前兄貴を教えてくれていた先生は兄貴の家庭教師であるということを傘にわりと横暴な態度で使用人にも接していたのがわかって解雇された筈だ。

 解雇されたのは大会後の兄貴に変化があったのも大きいのだけどな。

 どちらにせよ、以前とは別な誰かを雇ったということなのだろう。

「どうぞ先生」

 そして父上がまた扉を開けて先生とやらを呼んだのだが。

「は~いジン元気してる?」
「ねぇ、この屋敷爆破していい?」
「よし、却下。帰れ」

 部屋に入ってきたのはエロイとメグだった。父上、何故よりによってこの二人なのか。

「ジンってば照れちゃって。うふ、可愛い」

 そう言いながらエロイが俺を手繰り寄せる。くっ、顔を胸に押し付けるな!

「ちょ! 何してるのですかエロイさん!」
「あら嫉妬?」
「な、し、しっと、て、そんなこと……」
「ウキキッ」
「クワァ~」

 エロイの言ってる意味はわからんが、デトラの慌てる声がした。そしてエンコウが楽しそうに笑いマガミは何か眠たそうにしていた。

「ねぇねぇ、爆破していい?」
「いや、爆破されれのはちょっと……」
「父上、何故この二人を選んだのか!」

 エロイの手から逃れ、父上に問う。姫様を教えるのにあまりに不適当だろ!

「いや、冒険者ギルドのマシム殿に聞いてみたらいい人材がいると紹介してくれたんだが」
「人材じゃなくて人災だぞこいつらは」
「……人材、人災、プッ――」

 俺の言葉にマグが反応して口元を手で覆って笑いを堪えていた。皮肉のつもりで言っただけなんだが。

「ジンってば上手いこと言うわねぇ~」
「上手いこと言われてる自覚はあるのか……」

 エロイも愉しそうだな。メグに関しては自由がすぎる。来てそうそう爆破していい? とかどこの組織の人間だお前。

『……大きいとは良いことですな』

 おいエンサイ。どこを見て言っているんだどこをみて。というか魔法の先生ならこの二人よりエンサイの方がまだ良くないか?

『しかし、私は光に関しては門外漢ゆえ』

 一応聞いてみたがそんな答えだった。火に特化してるからな。何だかメグに近い。いや、ならそもそもメグも駄目だろう。

「父上、そもそもカグヤが覚えたいのは光です。この二人じゃ意味がない」
「嫌われたものね~でもそんなこと言ったら光属性を扱えるのなんてそうそうみつからないわよ。聞くところによると教会には頼りたくないんでしょ?」

 教会は確かに芳しくない。あくまで聞いた情報からだが姫様の回復の力がばれると厄介なことになりかねないからだ。

「ま、私が扱うのは空間だけど特殊な属性って意味では一致しているから、そういった属性を扱うための基礎や心持ちや男を手玉に取るための効率的な四十八手とかは教えることが可能よ」
「帰れ今すぐ」

 どうみても姫様にとって悪影響しかないぞ。
 
「ジンってばわからずやねぇ。そういうところも可愛んだけどね」
「さっきから何なのだこの破廉恥な女は!」

 ミモザが立ち上がり机をバンっと叩いた。隣ではデックがエロイを見て顔を赤くしている。忘れがちだがこいつの服装は際どい。

「お主、そ、そんな露出した服を着て、は、恥ずかしくないのか! な、なんたる、格好なのじゃ!」
「ピィ」

 そしてついに姫様がこの女に興味をもってしまった。お願いだからそのままスルーしていてほしかった。

「ふふ、甘いわね。大人の女になるためにはもっと自分をさらけ出さないと駄目よ!」
「な、なんじゃと!」
「ピィィイイ!?」

 姫様が仰け反った。ホウライまで一緒にだ。頼むから聞く耳を持たないで欲しい。

「ふふ、いいわ。これからは私が貴方に大人の女のなんたるかを教えてあげる」
「あの、教えてほしいのは魔法なんですが?」
「シャラップ! 魔法なんてものは大人の女になればどうとでもなるわ!」
「えぇ……」

 戸惑う父上にはっきりとエロイが言い放つ。凄いな。魔法士になるために日々努力している少年少女の頑張りをちゃぶ台をひっくり返すが如く否定したぞこいつ。

「それに、今なら胸を大きくする為の効率的な二十四の方法もセットしておくわ」
「師匠! 宜しく頼むのじゃ!」
「ピィピィ!」
「先生! 私も是非!」

 くっ、こいつ姫様が食いつきそうな条件を! そして何故デトラまで一緒に!

「百歩譲ってエロイは教えることがあるとして、さっきから爆破したい爆破したいうるさい頭のおかしなこっちは何が出来るんだよ」
「酷い言い草ね。あんたを爆破するわよ」

 メグが目を細める。しかし、事実だ!

「メグの爆破はつまるところ熱と光よ。直接じゃないけど間接的には通じてるの」

 理由をエロイが教えてくれた。なんてこった……そしてドヤ顔を見せるメグが腹立つ。

「……よし。後は任せたぞジン」

 そして父上は俺の肩を叩き、そそくさと部屋を出ていった。うん、逃げたな!
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第四章大会編の一部を幕間という章に移動する作業を行ってます。ご不便をおかけしますができるだけ急ぐように致します。書籍の3巻は12月17日から出荷される予定です。書籍発売と同時にレンタルに移行する話もあります。詳しくは近況ボードにて書かせて頂いておりますので一読頂けると嬉しく思いますm(_ _)m
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