辺境貴族の転生忍者は今日もひっそり暮らします。

空地大乃

文字の大きさ
上 下
105 / 158
幕間

第三百話 転生忍者、兄貴との決闘に決着

しおりを挟む
 力を封印したおかげか、兄貴が俺を押しているような状況になった。

 ただ、俺はまだちょっと様子を見ただけでもある。今の俺の力と兄貴の差を確かめるつもりもあった。

「――ブラストランス!」

 兄貴の放った暴風の槍が俺に向けて突き進む。直線的な槍だが、周囲に突風を叩きつけながら進むため見た目以上に範囲は広そうだ。

 だけど、ま、問題ない。

「な、高い!」

 槍を避け、空高く跳躍する。兄貴が驚いている。
 勿論今の俺の力ではここまで高くはジャンプ出来ない。だが、磁力を操る魔法を取り入れれば可能だ。既に地面に陰と陽の磁力を振りまいている。

「だが空中なら逃げ場はないぞ! 繰焔弾リモートブレイジング!」
 
 兄貴があの火球を発生させた。同時に四つ俺に向けて放ち、操作する。

 だが、空中で俺はそれを避けていった。

「な、どうして空中を?」

 悪いが磁場を多く作っているから、陰と陽を切り替えることで空中を飛び回ることができる。

 そして兄貴のその魔法には欠点がある。自分の意思で操作するが故に杖を動かして火球を操っているわけで、その動きで大体の軌道は読めてしまうんだ。

「あ、当たらんだと?」
「悪いな、|忍法・雷光波《ライトニングショッ
ト》!」

 指に集中した電撃を直線状に放つ忍法だ。雷は速度が優れている。
 
「くっ、くそ!」

 兄貴は事前に用意した炎の幕を上手く利用して隠れながら避けていた。なるほど、炎のカーテンで狙いをつけにくくしたか。中々考えている、が――

「あ、あがぁああぁあああ!」
「あ、あたった!」
「そ、そんなロイス様!」

 先読み能力なら俺のほうが得意だ。確かに俺は力を封印して制限したがそれでも変えられない物、忍者として生きた経験がある。

 着地すると兄貴がまだ立ち上がってきた。制限しているとは言え、中々頑張るな。

「はぁ、まだ負けん! 狼牙風ウルファング々裂波ゲイルロード!」
「それは止めたほうがいい」
「え? があぁあぁあぁあぁあああ!」

 兄貴が魔法を放つ前に、俺の放った雷が兄貴を貫いた。

 風の狼を大量に放出する魔法。兄貴のオリジナルだったようで、自信も持っていたのだろう。だけど、その魔法は強力な分集中が必要であり、放つ時必ず兄貴の動きは止まる。

 それさえわかっていれば、後は魔法が来るタイミングに合わせてより速い、今使ったような雷などでカウンターを決めればいい。

 だから兄貴はどうしても当てたいなら、相手の視線を躱すなり、相手の意識が完全に自分から外れているときなどに狙うのが一番だ。

 もっとも俺がそれを許すことはないが。

「エアロハンマー!」
 
 それも上からくるとわかっていれば、動き回っていればまず当たらない。

「ファイヤーボール!」

 論外だ。単発で当てられるような魔法じゃない。

「はぁ、はぁ――」

 兄貴の息が切れていた。俺は兄貴の魔法に関して、もう大体読めている。俺にはもう通じない。

「……あいつ、まだ立ってる」
「あぁ、何か見直したぜ。あそこまで根性あるなんてな」
「うむ、ほんの少しだけ評価を上げてやってもいいぞ」
「ろ、ロイス様! 骨は私が拾いますよ!」
「いや、あの、命を奪うような真似は流石にジンさんもしないかと……」
「あんしんせい! 腕の一本や二本失っても治してやる!」
「ピィピィ♪」
「何か凄い会話を聞いた気がするんだが」
「ガウガウ」
「キキィ」
『ふむ、主殿の魔法をあれだけ喰らってもまだ諦めませんか。意外とやりますなぁ』
「ケーンケーン!」

 戦いの外側では結構盛り上がってるな。それにしても姫様、ちょっと回復するのに遠慮なさすぎですよ。父上も戸惑っているし。

「私は……」
「うん?」

 兄貴が杖を俺に向けてきた。そうだ、戦いはどちらかが動けなくなるまでだったな。

「私はまだ負けないぞジン! 狼牙風ウルファング々裂波ゲイルロード!」

 また、それか。残念だが兄貴、それはもう今の俺にだって通用しないんだ。

忍法・雷光波ライトニングショット!」
「な、がはぁあぁあぁああ!」

 兄貴の魔法が行使される前に、俺の雷がヒットした。兄貴がごろごろと転がり、そして痙攣してしまった。

「ろ、ロイス!」
 
 父上も駆け寄ろうとする。勿論死んではいないだろうが、治すなら早いほうがいいか。

 あんなこといっておいて、俺も身内には甘いか……姫様に声をかける。

「カグヤ、頼む兄貴を」
「私はまだ負けていないぞジン! フレイムトルネード!」

 な、兄貴まだ、しまった。今のは俺が油断、刹那、炎の竜巻が足元から発生し俺は飲み込まれた。

「な、ジン、ジーーーーン!」
「そんな、まさかジンが!?」
「……倒れた振りだった」
「そ、そんな。卑怯じゃ」
「違うぞデトラ。この戦いは動けなくなるまでがルールだ。それ以外は何があっても文句は言えない。卑怯ではないあいつは勝つために必死だったんだ」
「そ、そうですよ! プライドの高いロイス様が、やられた振りをしてまで掴んだ勝利です!」
「この一撃のために、温存しておいたということかこの魔法を……」
「何を呑気なことを言うておる! 流石にこれではジンもただでは済まんぞ!」
「ガ、ガウ!」
「キキィ!」
『ま、まさか主殿が!』
「ケーンケーン!」
「……勝ったのか私がジンに――」
忍法・疾風迅雷の術マッハライトニング!』

 悪いな兄貴。皆も俺が負けたかもと思ったかもだけど、やっぱり本気なら俺だって負けてやるわけにはいかないんだ。

「あ――」

 雷と化した俺は唖然となる兄貴の脇を駆け抜け、同時に発生した衝撃波で兄貴が空高く舞い上がった。

 錐揉み回転しながら地面に落下した兄貴は白目を向いていて、もう戦える状態でないのは明らかだ。

「はぁ~とは言え最後のはちょっとは効いたぜ兄貴。だが、俺の――勝ちだ!」
しおりを挟む
感想 1,746

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。