辺境貴族の転生忍者は今日もひっそり暮らします。

空地大乃

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幕間

第二百九十九話 転生忍者、兄と決闘

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 俺は自らに封印の術を施し、本来の力をかなり引き下げた。融通が効かない忍法だから、これまでは使うタイミングもなかったが、兄貴の本気を見て行使することに決めた。

 そして今、俺は高原の開けた場所で兄貴と相対している。

「勝負はどちらかが倒れて動けなくなるまでだ。それでいいな?」

 勝負内容は兄貴が決めてきた。どちらかが動けなくなるまでか。つまり徹底してやる気ってことだな。

「むぅ、ただの兄弟喧嘩というわけではなさそうじゃな」
「ピィ!」
「……勝負になるか疑問」
「ガウガウ……」
「キャッキャッ、キィキィ」
『やれやれきっと瞬殺ですな』
「ケーン!」
「頑張れよジン!」
「か、勝つのはきっとロイス様ですよー!」
「怪我がないようにしてほしいですが……」
「しかし、まさか本気で決闘とはな」

 どうでもいいが観客が多い……従魔扱いの皆は真剣勝負を望む以上いてもらう必要があるが、バーモンドまで見に来てるしな。

「ジン、念の為言っておくが今の私は以前の私とは違う! 手加減などと甘いことを言っていたら今度は貴様が足元をすくわれるぞ!」
「そこは足をすくわれるだろう。地面でも掘るのか貴様は」
「…………」

 ミモザの指摘に兄貴の顔が赤くなった。

「ミモザ、そこはそっとしておいてやろうぜ」
「む、す、すまないつい」

 デックが苦笑しミモザが頭を下げた。

「……問題ない。寧ろもっと言ってやれ」
「ウシシ」

 だがマグは基本兄貴へは辛辣だ。そしてエンコウが小馬鹿にするように笑っていた。やめてやってくれ戦う前から兄貴の精神力がゼロになる!

「と、とにかくお互い出来るだけ怪我のないようにな」

 またも立会人を務めてくれた父上が言う。ただ、兄貴が望むのは真剣勝負だ。

「父様。無傷でというのはきっと難しいということだけ言っておきましょう。そして弟よ、とにかく本気で来いということだ! ファイヤーボール!」

 そして兄貴の先手で戦いが始まった。兄貴、詠唱省略を完全に身に着けたか。しかも魔法の威力もやはり前より大きそうだ。

 巨大な火球を避けると後ろの地面に着弾し爆発が生じた。

忍法・疾風の術ウィンドステップ

 忍法を行使し風をまとった。今の俺は力を制限している。チャクラの強化だけだと対応しきれない可能性もあるだろう。

 この忍法で移動速度が上がり身軽になる。さて――

忍法・烈風弾ウィンドショット!」

 圧縮した風の弾丸を兄貴に向け放つ。これをどう対応する?

「ウィンドシールド!」

 兄貴が魔法を行使。風の圧が生じ魔法が相殺された。風の弾丸を風の盾で防いだか。兄貴、どうやらしっかり防御用の魔法も取得したようだ。

 以前の兄貴は攻撃系の魔法ばかりだった。兄貴の中では防御は地味な印象だったようだ。

 だが、今はしっかり守りも固めるつもりがあるようだ。その証拠に。

「フレイムカーテン――」

 炎の幕が兄貴を中心に周囲に設置される。この魔法は直接相手を攻撃する為のものではないな。

 炎の幕を置いておくことで、相手の動きにある程度制限を加えている。炎が置かれている場所にわざわざ近づくものはいないからだ。

狼牙風々裂波ウルファングゲイルロード!」

 更に兄貴が魔法を行使。風の狼は兄貴が設置した炎を避けながら俺に向かって特攻してきた。

 以前より遥かに細かい制御が出来ている。数も十二匹と多い!

忍法・土砂壁アースウォール

 土の壁で遮られたことで狼が幾つか消えた。だが、残った風の狼が左右から挟撃してくる。

「|忍法・扇雷閃ショックウェイブ!」

 扇状に広がる雷を左右の手で放つ。これで迫る狼は全て掻き消え――

「エアロハンマー!」
「ぐっ!」

 しかし、兄貴の魔法が続き上から降り落ちてきた風の衝撃を受けてしまう。

 兄貴の魔法で初めてダメージらしいダメージを受けたな――

「フレイムアロー!」

 兄貴、以前なら俺にダメージを与えた時点で勝ち誇り得意がり嫌味の一つでも言ってきたかもな。

 だが今の兄貴は違う。俺にダメージを与えてもそれで良しと考えず次の魔法を準備した。俺が僅かでも怯んだからこそ炎の弓矢を現出させ追撃を狙ってきている。

「ワイドファイヤーショット!」

 先の丸まった何本もの火の矢が扇状に放たれた。以前は矢を出しているだけだったがそこから繋がる魔法も覚えていたか。

 だが、この矢は避けられる。風をまとっておいたから移動速度は上がっている。

 矢を避けると地面に当たり下草が燃えた。そして兄貴の手から弓矢が消えた。

「次はこっちからいかせてもらうぞ!」
「ジン、私は油断するなと言ったはずだ!」

 何? その時地面から火球が飛び出し次々と俺の体にめり込んだ。

「ぐっ!」
繰焔弾リモートブレイジングだ!」

 繰焔弾――大会でも披露していたあれか。圧縮された火球を自分の意志で操る。だが、こんなのいつ? いや、あの矢か。矢に、この魔法を仕込んで。

 驚いたな、兄貴は魔法に魔法を組み込むなんて芸当もできるようになっていたのか。

「お、おいジン押されてないか?」
「ガウ、ガウガウ!」
「嘘、ジンさんが?」
「キキィ!?」
「は、はは、そうですよ! ロイス様は凄いんです! やっちゃえロイス様ーーーー!」
『そんな馬鹿な、主殿があれにやられるわけがないではないか!』

 デックとデトラの驚く声。魔獣達も騒いでいる。それにバーモンドの兄貴を応援する声。

 俺が押されてるか。確かに以前の兄貴とは違うようだな。力を封印しているとはいえ、確かに兄貴もやる。

 兄貴の操る火球がここぞとばかりに攻め立ててきた。だが――

忍法・超エキセントリック放電サンダー!」

 俺は全身から放電し迫る火球を全て破壊した。

「む、私の魔法が!」

 兄貴が驚きの声を上げる。ふぅ、さて、いくら制限を掛けているとは言え、俺だって兄貴に負けるわけにはいかないしな。そろそろこっちからも行くか――
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