辺境貴族の転生忍者は今日もひっそり暮らします。

空地大乃

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幕間

第二百九十五話 転生忍者、奥の手を食らう

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「ならばこれでどうかな?」
 
 風を剣に纏わせたカイエンが更に撫でるように剣を数回振ってきた。風の刃がその分だけ飛んでくる。

忍法・土砂壁アースウォール
 
 しかしそれは土の忍法で防いだ。土砂が壁となりカイエンの攻撃を防ぐ。

「やるな、だがまだまだ!」

 壁の向こう側からカイエンの声が聞こえた直後、壁が爆発した。カイエンの木刀に今度は炎が纏わりついている。

「風だけではないのか!」

 父上が随分と驚いていた。魔法には属性があり、通常は一属性を使いこなすだけでも大変な努力が必要とされている。

 しかし、カイエンは既に風と火を顕現していた。奇しくもこれは兄貴が扱う属性と一緒だ。

 兄貴も火と風を操っていたからな。もっとも大会の時を基準で考えればカイエンには遠く及ばない。

 つまり以前の兄貴を基準に考えればこいつはかなりの使い手ということになる。

「行くぞ!」

 カイエンが肉薄し今度は両手持ちからの切り下ろしか。半身をそらして避けるが剣が地面に振り下ろされた直後爆発が生じた。

「し、しまったやりすぎてしまったか!」
「な、ジン!」
「ピィピィー!」
「ワオォオオオーーン!」
「キィ!」
『な、なんと主殿が!』
「ケーンケーン!」
「…‥皆騒ぎすぎ」

 姫様の叫びと従魔たちの鳴き声が耳に届く。だけど、マグは冷静だった。

 まぁ、実際この程度なら問題ないが。カイエンもそんな心配は不要だぜ。

忍法・大火吹ナパームブレス!」
「な!」
 
 印を結び、口から大きな炎を吐き出した。爆発で発生した煙ごと飲み込み迫る炎にカイエンが驚く。

「くっ!」

 すぐに飛び退き、大きなダメージに繋がる前に回避したか。動きの良さは流石だな」

「本当に、君には驚かされてばかりだ」
「……ジン、ここまでか」

 兄貴のつぶやきが聞こえた。カイエンも驚いている。カイエンは兄貴よりは遥かに強い。だけど大会前の兄貴基準だからな。

 それにこれがあの大叔父基準となるとまた別だ。化け物になったアレと比べちゃうとやっぱ差が出る。

「風に土、そして火か。私も魔法剣に関して言えば複数属性が扱えるけど、本当にその年で末恐ろしいよ」

 カイエンの笑みが若干固い。しかし、こいつは俺のことがどれだけ末恐ろしいのか。

「ふぅ、出来れば使いたくなかったんだがな。だけど仕方ない。だが光栄に思って欲しい。君は私に奥の手を使わせたのだから」
「奥の手?」

 どうやらカイエンはまだ一つ、見せていない技があるようだ。

「私の扱える属性はあと一つある。ただ、これを使うと手加減出来ない可能性が高い。だから、君も無理だと思ったらすぐに降参して欲しい」

 真剣な目で俺に宣言してきた。どうやらよっぽどの物らしい。

「それでは、行くぞ!」

 そして、カイエンの木刀から炎が消え代わりに雷が纏われた。

「なんと! 制御の難しい雷さえも纏えるのか!」
「そういうことだ。風の魔法剣で私の速度は上がったが、これが雷となれば更に向上する。風よりも速いのが雷だからだ。さぁ負けを認めるなら今の内だよジンくん!」
「えっと……」

 雷を纏い、真剣な目で構えを取り俺にカイエンが訴えかけてくる。

 ど、どうしよう。よっぽど自信があるようだけど、それって――

「……なるほど。負けを認める気はないかい。勿論私も出来るだけ制御できるよう尽力するが、怪我を負わすことにはなるかもしれないよ!」
 
 俺が答えに詰まっていると、雷を木刀に纏わせたカイエンが迫り、無数の斬撃が叩き込まれる、けど――

忍法・電光石火ライトニングビート
「な、なんだとぉおお!?」

 カイエンの両目が見開かれる。俺も雷を纏った状態でカイエンの攻撃を受け止め捌いているからだろう。

「ごめん。その戦い方、魔法大会で見た」
「なっ、何!?」

 俺の返しにカイエンが驚いていた。だけどどうしても雷を纏ってとなるとあいつ、ブロッセスが想起される。

 勿論、より優れているのはカイエンだけど、風より雷が速いって、あのブロッセスも言っていたことだしな。

 その上、拳と剣という違いはあるけど、やってることも一緒だ。

 そして俺の電光石火は瞬間的に雷と同化し、電撃を交えた乱舞を叩き込む忍法だ。

 疾風迅雷が移動に重きをおいているのに対し、こっちは攻撃を重視している。

 どちらにせよ――

「キジムナの属性は雷なんだから、それで奥の手と言われてもね」
「グハッ!」

 相手の斬撃を上回る量の斬撃を重ね、カイエンが吹っ飛んでいった。

 ぐるんぐるんっと派手に回転しながらふっ飛ばされるカイエンを見て、逆に俺が心配になった。

 も、もうちょっと加減すべきだったかな? 

 地面に全身を打ち付けそこから更に回転していき、ようやく止まった。大の字になった状態のまま、カイエンの足だけがピクピクと痙攣している。

「こ、これは……」

 父上が慌ててカイエンの下へ向かい、瞳を確認した。

「よ、良かった気絶しているだけだ。しかし、これは、ジンの勝ちだな」

 そう言って父上が胸をなでおろす。俺も良かったとホッとした。勢い余って伯爵家の子息を死なせたなんてことになったら洒落にならない。

 ま、どちらにせよこれで勝負は決まった。

「やったのじゃ! ジンの勝利じゃ!」
「ピィピィ~」
「……全く相手にならなかった」
「ガウガウ♪」
「キャッキャッ!」
『流石主殿ですな! 相手の雷よりも更に強力な雷で叩きのめし心もプライドもへし折るとは!』

 皆から祝福らしきものを受けた。だけど、エンサイよ、俺、そこまでのことは思ってないんだぜ? いや、本当に……

 プライド、だ、大丈夫だよな? 折れてないよね?
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