上 下
92 / 158
幕間

第二百八十七話 転生忍者、素材を届ける

しおりを挟む
「ざけんじゃねーぞ! テメェふざけやがって! まさかあのキジムナの卵の殻まで手に入れちまうとはこの野郎馬鹿野郎!」

 作業場に向かうとドクが怒ったような口調で俺を出迎えてくれた。もっともこの人の場合は怒ってる時こそ機嫌が良い証拠なのだが。

「ん~ん~? 流石だねちみぃ。まさかこんなに早く三主から素材を奪い取ってくるとは思わなかったんだよちみぃ」
「いや、別に奪ったわけじゃないんだが……」

 その言い方だと追い剥ぎみたいだから勘弁して欲しい。

「なにはともあれ皆の協力のおかげかな。今回は仲間も助けてくれたから」

 それぞれの主には交代になる形で皆が着いてきてくれた。やっぱり一緒に行動してくれる仲間がいるのは悪い気はしない。

「ん~ん~? そうなんだねちみぃ。なら今度はその仲間もピッツァパーティーに招待しよう」
「あぁありがとう。ところでこれで魔道具の作成はお願い出来るのかな?」
「勿論だともちみぃ。ミーは約束は守るんだよちみぃ。早速魔封瓶を預かってもいいかいちみぃ?」
「あぁ勿論だ」

 そして俺はヤバイに瓶を手渡した。素材を回収し早速作業に取り掛かってくれるようだ。

「あぁいたいた。ジン、あんたも本当とんでもないわね」

 ヤバイが出ていき入れ替わりでマシムがやってきて呆れたように肩を竦めた。

「とんでもないって何かあったっけ?」
「あれだけの盗賊やら賞金首やらを捕まえておいてよく言うわね」

 マシムが苦笑交じりに言った。そのことか。そういえば賞金が出るんだったな。俺は冒険者ではないけど賞金の受け取りは可能だ。とは言えダガーも一緒だったしデトラも協力してくれたから賞金は山分けになる。

 それに俺はまだまだこっちでは子どもだしな。受け取った賞金は父上に渡すことになる。でも丁度いいかな。姫様が飼うことになったあの子のこともあるしね。

「でもジン気をつけるのよ」
「気をつける?」
「あの大会の事もあって、少しずつだけど貴方の情報も漏れ出していると聞くわ。今回の盗賊や賞金首のこともマスターに言って表に出ないようにしてもらうけど、それでも情報はどこから漏れるかわからないからね」

 目立ちすぎるなと言うことか……当然俺としてはそうしたいのはやまやまな話だ。

「ありがとうマシム。勿論気をつけるさ。そもそも俺は本来ひっそりと暮らすのが夢だしね」
「……その自覚の無さが却って心配なのよねぇ」

 え? 何でため息交じりに!?

 とにかく報酬を受け取った後は屋敷に戻った。中庭で姫様が雛鳥と戯れていた。

「お帰りなさいませ坊ちゃま」
「あぁ、そういえば父上は?」
「今は書斎にいるかと」

 出迎えてくれたスワローにありがとうとお礼を言って書斎に向かった。父上が机に向かって本を読んでいた。

「ジンか。何かあったか?」
「はい。これをお渡ししておこうと――」

 俺はギルドで受け取った賞金を父上に手渡した。

「これは、凄い大金じゃないか。一体どうしたんだ?」
「はい。盗賊を捕まえたら賞金として貰ったもので」

 ここはごまかしても仕方ないし、そもそもギルドから連絡が入ってるはずだしな。

「そういえばそんな知らせが来ていたな。しかしここまでとは」
「カグヤが飼うことになった雛鳥のこともありますし、少しでも足しにして頂ければと思いまして」
「……気を遣わせてしまったか。それにしても気がつけば魔獣を四体も使役しているとはな。全く最近のお前には本当に驚かされるぞ」
「は、はは。何かごめんなさい」
「別に謝ることもない。最近は屋敷も賑やかでエリーも喜んでいるぐらいだ。私にも一体誰が正妻になるのか? などと相談してくるほどだしな」
「は? えっと、冗談ですよね?」
「お前もいい年だ。しっかりとそういうことも考えておけよ」
「いやいや! 僕はまだ子どもですし、そういうのは流石に!」
「ふふっ……」

 父上がしてやったりといった笑みを浮かべた。くっ、もしかしてからかわれたのか!

「人が悪いですよ父上」
「まぁそう言うな。お前は妙に畏まってるところがあるからな。ロイスとは随分と砕けたようだしもう少し家族の前では力を抜いてもいいぞ」
 
 父上にそう諭された。まぁ兄貴はもうあんな感じだから俺も気にしなくなったが、それでも父上や母上はこっちの両親だしな。流石に兄貴程はわりきれない。

「……善処します」

 無難にそう返しておいた。しかし、父上が見ているのは魔獣について書かれた本だった。もしかしたら姫様のこともあって色々調べてくれたのだろうか?

 なんだかんだで父上も気遣いの出来る人だよな。

 さて中庭に戻るとマグも加わって雛鳥やマガミやエンコウと戯れていた。エンサイは何故かマグの肩を揉んでいた。何があったんだあいつ……

「ジンよ! ホウライがお腹をすかせているのじゃ!」
「へ? ホウライ?」

 姫様が俺に気がついてそんなことを言ってきた。そんな名前初めて聞いたが。

「それってもしかして?」
「うむ! この子の名前なのじゃ!」
「ピィピィ♪」

 キジムナの雛鳥が姫様の頭の上で囀った。どうやら嬉しいようだ。ホウライが気に入ったようだな。

「……ホウライ可愛い」
『ふむ、大人気だですなホウライ!』
「な、なぁ。何でエンサイはマグの肩を揉んでるんだ?」
「……わからない。でも肩もみが上手い」
「妾もお願いしたいのじゃ!」

 俺が、何で? という目を向けるとマグの肩を揉みながらエンサイが答えた。

『マグ殿は精霊を従えるほどの御方! 魔法を扱う身としては尊敬に値します!』
 
 こいつ、精霊も視えているのか……通訳も出来たりと意外と、いやかなり優秀なんじゃないか?

『勿論主殿の大事な人である姫様の肩も揉ませて頂きますよ!』

 大事な人って……ま、まぁ本人がしたいならいいか。

 それにしても餌か。スワローに頼んでくるか。一応姫様は俺の奴隷ということになっているから俺を飛び越えてスワローにお願いするのはためらわれるのだろう。

 そんなことスワローも気にはしないだろうけど姫様もそういうのは気を遣うほうだ。

 しかしホウライは成長期だからな。結構お腹は減りやすいようだ。とりあえずトウモロコシなんかを好んで食べているようだけどな。
 
 ちなみに今はほぼ屋敷にいるエンコウやマガミ、エンサイにも食事は与えている。だから食費は結構かかるだろうから賞金は渡しておいて正解だったかな。

 それにしても本当、賑やかに――

「あっはっは! いいおふろであったぞ」
「て、ゼンラがいた!」
「あっはっは」

 なんてこいつ当たり前みたいに屋敷にきてるんだよ……とは言え、その分うち絡みの依頼を優先的にやってくれてるとか色々動いてくれているからうちとしては助かるようだけどな。

 そしてゼンラは風呂という言葉が気に入ったようで今ではその単語だけ流暢に話している。なんでもゼンラの琴線に触れたらしい。

 こいつの基準は本当に裸絡みだな全く――
しおりを挟む
感想 1,746

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが当たり前になった世界。風間は平凡な会社員として日々を暮らしていたが、ある日見に覚えのないミスを犯し会社をクビになってしまう。その上親友だった男も彼女を奪われ婚約破棄までされてしまった。世の中が嫌になった風間は自暴自棄になり山に向かうがそこで誰からも見捨てられた放置ダンジョンを見つけてしまう。どことなく親近感を覚えた風間はダンジョンで暮らしてみることにするが、そこにはとても可愛らしいモンスターが隠れ住んでいた。ひょんなことでモンスターに懐かれた風間は様々なモンスターと暮らしダンジョン内でのスローライフを満喫していくことになるのだった。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。