辺境貴族の転生忍者は今日もひっそり暮らします。

空地大乃

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幕間

第二百八十五話 転生忍者、雛の扱いに悩む

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 卵から孵った雛鳥が姫様と目があった。そして雛鳥がトテトテと姫様に近づき、甘えるように脚に頬をこすりつける。

「ピィ~♪ ピィ~♪」
「か、可愛いのじゃーーーー!」
「うん、すっごく可愛い~」

 姫様が子犬ぐらいのサイズがあるキジムナの雛を抱きしめた。サイズは大きいが見た目は雉の子どもっぽくもある。

 デトラの目も輝いていた。そして雛鳥は嫌がるどころか積極的に姫様とコミュニケーションを取ろうとしているように見える。

 これは、やっぱりあれだよな。刷り込みって奴だよな。鳥は卵から孵った直後最初に見たものを親と認識するという現象だ。それがキジムナにも当てはまったわけか。

「カグヤ、大変だぞ。その鳥、恐らくカグヤを親だと思いこんでいる」
「あ、刷り込みだね!」

 デトラもそれに気がついたようだ。これは非常に厄介なことだと思うのだが、姫様は寧ろ嬉しそうだ。

「そうか! お主妾を親と思っておるのじゃな!」
「ピィ~♪」
「うむ、ならば今日から妾がお前の親なのじゃ!」
「ピィ、ピィ~♪」

 姫様が抱き上げると、キジムナの子が嬉しそうに姫様の頬に擦り寄った。とても微笑ましい光景に思えるが……

「カグヤ、話はそう簡単なことではないんだ」
「何故なのじゃ! ジンはこんな可愛い子を放っておけというのか! 何という鬼畜!」

 酷い言われようだな! そして姫様はキジムナの雛を抱き寄せて、ムムムッ、と俺を睨んできている。

「この子は妾が大切に育てるのじゃ!」
「こりゃまいったな。お嬢ちゃんは強情そうだぜ」

 ダガーが後頭部を擦って弱った様子を見せる。

「アンッ!」
「キキィ」
『ふむ、ここまで熱心なのでしたら飼うのを許可してもいいのではありませんか?』

 マガミとエンコウ、そしてエンサイも姫様に協力的だ。俺にもどうして駄目なのって目を向けてきている。

 正直姫様がそこまでして育てたいなら何とかしてあげたいと思わなくもない。姫様は無責任に生き物を飼うような方でもない。それは俺もよく知っている。ただ、問題点は――

『ケーン! ケーン!』
「あれは! しまった親鳥がこっちにやってきてるぞ!」

 ダガーが上空を指差して叫んだ。キジムナ、その親か! 鳴き声は実に雉っぽい。見た目も顔が赤かったりと雉に似てるがキジムナの方がよりシャープで精悍な顔つきに見える。

 そして飛ぶのが上手い。上空を優雅に飛び回りこちらを見下ろしている。

「ピッ、ピッ~」
「――ッ! ケーーーーーーン!」
 
 キジムナが姫様が抱えてる子どもに気がついた。これはちょっとまずいかも知れないな。

「ケン! ケーーーーン!」

 そしてキジムナが鳴くと、同時に放電し、落雷が発生する。

「ひっ、くそ! キジムナが怒ってやがる!」
「お、おいこれを解け!」

 密猟者共が慌てているが、いちいち構ってられない。脚までは縛ってないんだから自分たちで何とかするんだな。

「キャッ!」
「ウキィ!」
「あ、エンコウちゃんありがとう」
「ウホウホッ」

 デトラはエンコウが担ぎ雷から逃げている。姫様はキジムナの雛とマガミの背に乗った。

 しかしあいつ、雷を操るのか!

「キジムナは雷を発生させる魔獣だ。怒り出すと手がつけられないぞ!」
「な、何でじゃ、何であんなに怒っておるのじゃ!」
「その子だ。俺たちが子どもを奪ったと勘違いしてるんだろう」
「カグヤ、その子を親に返すんだ」

 ダガーが姫様に子を手放すよう促す。だが姫様は納得してないようであり。

「な! い、嫌なのじゃ! この子は妾が育てるのじゃ!」
「カグヤちゃん。その気持ちはわかるけど、親元には返してあげないと……」
「う、うぅうう!」

 デトラにも諭され、姫様がぐぐぐっ、唸った。だが、その子には親がいるのだから、やはりもとして上げた方がいいのだろう。

「こ、この子はそこの馬鹿どもに捕まっていたのじゃ! だけど、妾たちで救出したのだ……こ、この子はお主に……」
「ピィピィ!」

 姫様の手の中でキジムナの子が鳴いている。今の子にとって姫様が親だ。だが、やはりここは戻すべきだろう。

「うぅううう! お主に返すのじゃ!」
「ピィーーーー!」

 姫様が子を上空の親に向けた。これで理解してくれるか?

「よし、解けたぞ! やれヴェム!」
「勿論だキングコブラ!」

 な! しまったキジムナが現れた影響でデトラの魔法が弱まっていたか。そして放たれた毒蛇がキジムナの喉に噛み付いた。

「ケーーーーン!」
「やったなヴェム」
「あぁ、これで、へ? ぎ、ギャァアアァアアアア!」

 キジムナの雷が二人の頭上に落ちた。骨が見えそうなぐらいに感電した連中が黒焦げになって倒れる。あれはもう自業自得だ放っておこう。
 
 それよりキジムナだが――

「ケーン! ケーン!」
「まずいぞ。今ので我を忘れて暴走している!」
「ケーーーーン!」

 ダガーが叫んだ。キジムナの口に雷が収束していく。あれはちょっとまずいやつだな。くっ、仕方ない!

忍法ギガンティッシュ・豪破旋風ストーム

 以前大会でゲーニック相手につかった忍法だ。巨大な竜巻が発生し雷を放出する前にキジムナを飲み込む。

「ケーーーーン!」

 竜巻の中でキジムナが叫んだ。雷の発生はこれで抑えられているが、そこに姫様の激が飛ぶ。

「な、やめるのじゃジン! 傷つけてはいかんのじゃ!」
「え? いやしかし――」

 姫様はそう言うが、俺も何も殺そうとしているわけじゃない。ただ怒りで我を忘れている以上、とにかくダメージを与えてでもおとなしくさせないとどうしようもない。

「駄目じゃ、親は子どもがいなくなって必死なだけじゃ! 人間の勝手な欲望で卵を奪われた被害者なのじゃ!」

 姫様の気持ちもわからないでもないが――

「ピィ~ピィ~」
「ジンさん……」

 くっ、心做しか雛鳥も悲しそうにしている気がする。デトラも浮かない表情だ。

 仕方ない――俺は一旦忍法を解いた。キジムナが落下し地面に降り立った。飛ぶ力は削いだかもしれない。

 ただ、その目は血走っていて怒りを感じさせる。
 結果的に中途半端なダメージで終わってしまった。

「まずいな落ち着くどころか、更に怒りを煽った感じだ」

 ダガーが緊張感のある声を発した。とにかく、やるならダメージを与えることなく止めないと、だが、どうする?

「ケーーーーーーーン!」

 キジムナーは考える余裕を与えてくれない。再び全身から雷が迸った。また雷で仕掛けてくるつもりか――

「あーはっはっは!」

 だがその時、笑い声を上げながら空中を掛ける闖入者。俺とキジムナの間に降り立ちマントを翻す。

「あっはっは! 私が来たーーーー! さぁキジムナよ。互いに裸を割って話し合おうではないか!」

 そしてマントを放り捨ててゼンラが全裸でキジムナと対峙した、ておい! 何してくれちゃってるのこの人!?
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