辺境貴族の転生忍者は今日もひっそり暮らします。

空地大乃

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第二百八十四話 転生忍者、隠蔽を見破る

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 姫様が心配でつい殴り飛ばしたヴェムは、結局そのまま俺たちに捕まることとなった。

「くそ、この俺がこんな奴らに……」
「この状態でよくそんな口がきけるのじゃ」

 密猟者の男はデトラの植物魔法によって縛られ身動きが取れない状態だ。こいつ一人・・ではもう何も出来ないだろう。

「さて、お前の隠し持ってる魔法の袋を見せてもらうか」
「……チッ」

 ダガーがヴェムを見下ろしながら言い放つ。ヴェムは舌打ちし、俺たちを睨みつけてきた。

 ただ、少々気になることがある。

「キジムナの卵はお前の魔法で手に入れたのか?」
「……だったらどうだと言うんだ?」

 不機嫌そうにヴェムが返した。だが、やはり疑問が残る。こいつの毒蛇魔法はそれなりに強いのかもだが、魔獣の巣から卵を盗む出すのに向いているとは思えない。

 もしキジムナの動きを封じることが出来るというならまた別だが巣には親の姿もなかった。俺の予想が正しければ恐らく親が気づかないうちに卵を盗み出し、それに気がついた親が探し回っている、といったところだろう。

 だが、こいつの魔法で卵を気づかれずに盗むのは無理だ。そもそも毒で卵が駄目になる可能性の方が高いだろう。売るのが目的の卵にそんなリスクのある真似をするとは思えない。

 かといってこいつの身体能力は低い。俺の動きについてこれていなかったしちょっと殴っただけで戦闘不能に陥るような奴だ。

 そんな奴が親鳥の目を掻い潜って卵を盗めたとは思えない。

 つまり――俺は意識を集中させる。そして、気づいた。なるほど――

「そういうことか!」
 
 俺は手にしたナイフをダガーに向けて投げた。

「え? ジンさんどうして!」
「ガウ?」
「ウキィ――」
「ぐぎゃぁあぁああ!」

 咄嗟にデトラが驚きの声を上げ、マガミとエンコウも戸惑っていたようだが、直後ダガーの頬を掠めるようにしてナイフが飛んでいき、悲鳴が響き渡った。

『なんと! 一体誰の声であるか!』
「は? 今の声、どうなってるんだジン!」

 ダガーがキョロキョロと周囲を確認した。だが一見すると誰もいないように思える。

「ば、馬鹿な、いや、当てずっぽうだそうに決まってる!」
「ということは、やっぱりお前、助けが来ると見越していたな?」
「――くっ」

 ヴェムが呻く。ダガーは怪訝そうに俺に聞いてきた。

「一体どういうことなんだジン?」
「聞いてのとおりだ。こいつにはもう一人仲間がいる。今もそいつがダガーを襲おうとしていた」
「え? でも他には誰も?」
「クゥ~ン」
「ウキィ!」

 マガミが鼻をひくつかせた後、無念そうに鳴き声を上げた。エンコウも辺りを確認しながら怪訝そうにしている。

「いるんだよ。そこにな忍法・石弾ストーンバレット
「グハッ!」
 
 今度は姫様の背後から近づこうとしていたので石礫を放ってやった。命中し後ろに転がっているのがわかる。

「馬鹿な! 隠蔽の刻印だぞ! 気配なんて一切感じられない筈だ!」

 ヴェムが叫んだ。やっぱり仲間がいたか。そしてそいつはどうやら刻印使いなようだ。

「隠蔽の刻印、気配を消してだって? つまり見えてないのか!」
「そんな刻印があるの?」
「あぁ。実際悲鳴は聞こえたしな」
 
 気配を完全に断てれば目には見えなくなる。それが刻印の力なら大したものだ。だが忍者にとって気配を消すなんてものは当たり前の体術として徹底的に教え込まれる。

 チャクラ操作によって完全に気配を消す忍者は多くはないが存在した。逆に言えばチャクラ操作を駆使して気配を断った相手を見つけることも可能なのさ。
  
「マガミ! 一時の方向だ!」
「ガウ!」

 俺の声に反応してマガミが指示した方向に風断爪を放った。

「ギャッ!」
「エンサイ!」
『おまかせを! ファイヤーボール!』

 続けてエンサイの行使した魔法で発生した火球が炸裂。更に悲鳴が続く。そして最後にエンコウが元の姿に戻り俺の指定した場所を踏みつけた。

「ガハッ!」

 うめき声が聞こえ、そして次第に隠れていた男の姿が浮かび上がっていく。刻印も無制限に使えるわけじゃない。体力も消費すると聞いていた。ダメージが大きければ維持するのも難しくなるのだろう。

「く、くそ、作戦は完璧だと思ったのに――」

 姿を見せたのは髪の薄い小柄な男だった。手にはナイフが握られているが、毒の蛇がまとわり付いていた。恐らくはヴェムの魔法によるものだろう。

 気配を消して近づき、毒蛇を纏わせたナイフで奇襲を掛けるつもりだったか。

「つまり卵を盗み出したのはそこのヴェムじゃなくてこいつってことか」
「くそ、隠者のハムルがこんなにあっさり……」
 
 ヴェムが悔しそうに呟くとダガーがハッとした顔を見せハムルを見た。

「おいおい、こいつがハムルかよ。神出鬼没な賞金首、盗みから暗殺まであらゆる犯罪に手を染めてきた危険人物じゃねぇか」

 ダガーがハッとした顔を見せる。どうやら有名人だったようだ悪い意味で。

「随分と仰々しいな。こいつも賞金は高額なのか?」
「あぁ、金貨千枚の賞金首だ。こりゃ大金星だぞ」
  
 金貨千枚、だと? こいつ一人でもう大金貨百枚分じゃないか。ヴェム二人合わせて大金貨百五十枚分だしこいつらを捕まえていれば余裕で支払えたな。

「それで、卵はどこなのですか?」

 さて、ハミルもデトラの魔法で縛り上げられ、その後ヴェムにデトラが問いかけた。

「…………」
「黙ってでも無駄だよ」
「な、馬鹿止めろ変態、ギャッ!」
「あ、悪い手が滑った」

 ダガーがヴェムのローブをナイフで切り裂いていく。血がピュッと吹き出たのはダガーいわく間違って切ったからだ。絶対わざとだろうけど。

「おっとあったあった。これだな」

 ヴェムが隠し持っていた袋をダガーが取り上げる。そして中に手を突っ込んだ。

「思ったとおりこれは魔法の袋だったな。おっとこれか――」

 そしてダガーが袋から赤い殻の卵を取り出した。

「すっごくおっきぃ~」

 デトラが目を丸くさせて驚く。確かに大きいな。転生前に日ノ本でダチョウという鳥の卵を見たことがあるがそれよりもさらに三倍ぐらい大きいぞ。

「よっと! ふぅ、これ結構重いな」

 ダガーが地面に卵を置き手を振りながら一息ついた。これだけの大きさだからな。

「うむ、殻も硬そうなのじゃ」

 姫様が屈み込み、卵を突っついた。そして優しく撫でる。

「お主も無事で良かったのじゃ。元気に孵るのじゃぞ」
「くそ、何が無事だ。折角の金の卵が!」
「はっ、お前らからすれば悪事を暴く裁きの卵だったってとこだな」
「畜生……金貨十万枚の仕事が――」
「金貨十万枚!」
「ガウ!?」
「キキィ!」
『それは凄い! 金貨十万枚とは! それだけあれば杖も新調できるしローブももっといいものが――』

 ハミルの発言にデトラが飛び上がらんばかりに驚く。マガミとエンコウもびっくりしてるがエンサイの反応が妙に俗っぽい。

「卵にそこまで価値があるもんなのか……」
「ま、卵というか中身だろうな。キジムナの子どもとなると欲しがる連中も多いのさ。禁止されてるとなれば特にな」

 禁じられている物ほど欲しくなる。特に富を手にした物に多い思考だ。このあたりは世界が違っても変わらないもんだな。

「うん? お、おいおい! ちょっと待て! この卵!」

――ピシッ、ピシピシッ。

 ダガーが卵の変化に驚く。

「罅が入ってるのじゃ1 大変なのじゃ!」

 姫様が慌てだした。確かに卵に罅が入ってきている。しかも罅は段々と大きくなりそしてついに卵から嘴が飛び出し殻が割れた。

「ピィ~~~~~~~~♪」

 そして中から現れたのは子どもの鳥。恐らくこれがキジムナの子なんだろうけど、な、何か雉に似てるぞ。そして姫様と目があって小首をかしげた。

「ピィ~~~~♪」

 かと思えば姫様に近づき、その脚に頬を擦り寄せる。おいおい、これってまさか――
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