上 下
73 / 158
幕間

第二百六十七話 転生忍者、魔猿について考える

しおりを挟む
「……ところでこいつらどうする?」

 マグが意識を失ってる盗賊を見下ろして聞いてくる。こいつらは確かにこのままというわけにはいかないな。

 まぁこの後のことはやっぱ冒険者に任せるべきだろう。

「ギルドに任せればいいさ。そうだろうマシム?」
「あらやだ気づいていたのね」

 俺が呼びかけるとマシムとゼンラが藪の中から姿を見せた。やっぱりいたか。
  
「あっはっは! 流石ジンだな。全裸にならんか?」
「ならん!」

 ゼンラはやっぱゼンラだな……

 その後、二人が相手し退治した盗賊を連れてきた。わかっていたけど俺達を覗き見て強襲しようとしていた連中だ。

 この盗賊団の頭がサンゾウ、あとは太ってる方がハッカイだそうだ。後はその他諸々の子分が十人程いる。

「これでサイユウ団は全滅ね。こいつら隣のファーム男爵領でも悪さしてみたいだし賞金もかなり出るはずよ」

 ファーム男爵領か。エイガ男爵領の西側にある領地で農場が多い土地だ。畜産が主な産業だったな確か。うちの領地にもファーム領から仕入れたものが入ってきてる筈だ。
 
「勿論その内の何割かはあなた達にも支払うから期待していてね」

 微笑を浮かべマシムが教えてくれる。

「え? 俺達にか?」
「そうよ。そっちの二人は倒したんだから当然の権利ね」

 ゴクーとサゴジョに関しての賞金を支払ってくれるようだ。正式な冒険者ではないので冒険者と同等とはいかないし、今回は流石に領主である父上を通すという話ではあるけどね。

 ま、そこには特に文句はない。それから盗賊たちを手早くマシムとゼンラが縄で縛る。

「う、うぅ、裸が、裸が怖い……」

 途中で目を覚ましたボスのサンゾウが妙なことを呟き続けていた。話を聞いたがゼンラが相手したらしい。うん、詳しくは知らない方がいいな!

 こうして盗賊関係の話はまとまったのだが、問題は魔猿についてだった。この猿たちについてどうするべきかと思ったが――

「ウホッ! ウホホッ!」
「「「「「「ウキキィイイイイ!」」」」」」

 なんとエンコウの目の前で魔猿達がひれ伏し、なにか敬うような態度を見せていた。

「これはどうなってるんだ?」
「ウキィ! ウキィ!」

 俺が聞くと、エンコウが鳴き、身振り手振りで教えてくれる。

「つまりこの猿はエンコウの下につくってことか?」
「ウホッ! ウホホッ!」

 エンコウがドンッと胸を叩く。どうやら魔猿達はエンコウの強さに感服したようで、エンコウの子分になると言ってるようだ。

 そしてエンコウの主となった俺にも従うという話らしい。

「ウキッ!」

 サゴジョが従魔にしていたエンサイも俺の前で片膝をついている。器用な猿だな。他の猿と違ってローブを着ていたり杖を持っていたりとちょっと変わっている。

「むぅ、猿の癖に全裸でないとは! けしからん奴だ!」
「ウキィ!」

 ゼンラが怒鳴った。いや、猿にそこまで怒るなよ。俺の背中に隠れてやたら怯えてるぞ。

「ウキィ!」
「え? 俺の従魔にだって?」
「キィ……」

 背中に回ったエンサイを見ながらエンコウが俺に向かって鳴いてきた。どうやらエンサイは俺の従魔になりたいらしい。

 魔獣はより強いものに惹かれるんだとか。

 それにしても、まさかまた他の猿にお願いされるとは。しかし、こいつは火の魔法が得意だったようだし口寄せして従魔ということにしておくと火の忍法も魔法として扱えるようになるか。

「あら、いいじゃない。従魔が増えるにこしたことはないんだし」

 マシムもエンサイを従魔にすることには賛同してくれているようだ。

「でも、この猿は盗賊の手助けをしていたんだぞ。それでもいいのか?」
「そこは上手くやるわよ。それにあくまで従魔として命令に従っていただけだしね」

 つまり猿の意思ではなかったと判断されるのか。

 ただ、このエンサイという猿は既にサゴジョの従魔なんだよな。

 もっとも俺のは口寄せだから問題なく契約出来る可能性は高いと思うが、二重の契約は後々面倒になるだろう。

「エンサイは既にそいつの従魔だけど、それでも出来るのかな?」
「それは無理だから、こいつに解除してもらう必要があるわね」
「は、馬鹿いうな! 誰が解除するもんか!」

 マシムが答えてくれたが、意識が戻ったサゴジョが意地の悪い顔で言葉を返してきた。捕まったからせめてもの抵抗のつもりか。

「……だったらその従魔契約の印を燃やす」
「ヒッ!」

 マグが上に向けた掌に炎をともして脅した。いや、脅しと言うか本当にやるつもりだ。

「もえる、なお、す」
「……そしてまた燃やす」
「怖いこと言ってるな」
「ガ、ガウ……」

 確かに姫様には回復する力があるけどね。そしてサゴジョがガタガタと震えだした。

「あんた、大人しく解除しておいた方が身のためよ? この子たち子どもだけど大人よりエグいし怖いんだから。無邪気に切ったり焼いたりして、治してまた千切ったり消し炭にしたりするぐらいは平気でやるわよ」

 マシムがサゴジョに顔を近づけて脅した。前世じゃあるまいし、よっぽどのことがない限りそこまではやらんと思うが、まぁ相手をビビらせるには効果的だろう。

「う、うぅ、わかった。解除するからやめてくれぇ……」

 さっきまでの威勢が嘘みたいに気が小さくなり、サゴジョが従魔契約を解除した。

「これでジンの従魔になれるわね」
「あぁ、そうかな」
「……で、しないの?」
「へ?」

 マシムが興味深そうに俺を見てきた。それで思い出した。本来なら従魔にするには魔獣との契約が必要だ。だけどそれは魔法によるものだし俺はそもそもこっちの契約のやり方なんて知らない。

「いや、マガミもエンコウも俺は特に契約をしたわけじゃないんだ。勝手になっていたからエンサイもそのうちそうなるんじゃないかな」

 だからマシムにそう説明する。これは父上にも説明したことだ。

「本当に契約なしなのね……確かに魔力がないなら契約の魔法式も構築できないでしょうけど」

 何かを考えるような仕草を見せながらマシムが言う。本来なら契約無しで従魔になるなんてありえない話なようだ。

「あっはっは! なるほど心を通わせるわけだな! ならば全裸になるがよい! お互い心を通わせるのであれば服など邪魔なだけだ! さぁ一緒に全裸になろうではないか!」
「なんねぇよ! てかやめろ! マントを取るな!」
「ひいいぃ! 裸怖い! 全裸怖いぃいいいい!」

 ゼンラがマントを取ろうとするとサンゾウがまたガタガタと震えだした。涙さえ流して悲鳴を上げていた。一体何があったんだよ。

 さて、これで盗賊の問題は解決した。その後は町に戻り、デックやミモザ、そしてデトラにエンコウが無事で盗賊達も捕まったことを告げた。

 ちなみにエンサイとはその後、隙を見て口寄せを行使しておいた。従魔の印も追加しておいたしこれで魔法として使える忍法が増えたな――
 
しおりを挟む
感想 1,746

あなたにおすすめの小説

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。