上 下
64 / 158
幕間

第二百五十八話 転生忍者、マシムから色々と聞く

しおりを挟む
「貴方には本当にお世話になったわね。街でも随分と活躍していたようだし」

 下でエロイと話した後、俺達はマシムの部屋を訪れていた。そこでマシムからお礼を言われた。

 あの時、街で動き回っていたのは俺の分身だけどな。まぁ敢えていうこともないか。

「それにしても、タラゼドを倒したのは貴方だと思っていたのだけど、違うのねぇ」
「あぁ。それは謎の男がやったことだ」
「う~ん、確かもんじゃとかいうのよねぇ。てっきり私、その正体は貴方だと思ったのだけど、街で貴方が動き回っているのは見られているものねぇ」

 また微妙に呼び方が違うが、街で分身が動き回っていたのが効いたようだな。疑われずには済んでいる。

 あの刻印を使うと言われたら面倒だがマシムはこの程度のことでそれを使ったりしないしな。

「う~ん、それにしてもその子が、あの時我を見失ってでも救いたかった奴隷というわけね。ふふっ……」
「な、なんだよその顔は」

 ニヤケ顔で俺と姫様を交互に見ていた。全くマシムめ。何を勘違いしているのか。

「でも、その気持ちもわかるわね。これだけの美少女なんだもの。それに聞いた話だとかなりの治療魔法の使い手らしいじゃない」
「……その件なんだが、できれば内密には出来ないか?」

 姫様の治癒の力は魔法として知られてしまっている。だが、だとしてもできればあまり広まってほしくない。

「えぇ、貴方ならそう言うと思って手は回しているわよ。それに、そんな力を持ってると知った途端、出しゃばってくるのもいそうだしね」
「でしゃばる?」
「教会よ。基本的に治療系の魔法はあそこの専売特許みたいなところがあるからね。その子はどうみても教会には属していないだろうし、知ったら目の色変えてやってきてもおかしくないわ。あいつらただでさえ吸血鬼騒動でピリピリしてるしね」

 そう言ってマシムが肩をすくめた。教会か……あまり深くは考えてこなかったけど、姫様のことを考えればそっちにも気をつけた方がいいのかもな。

 ちなみにその姫様はマシムが用意した紅茶と焼き菓子に手を付けてご満悦中だ。本当食べるのが好きだな。隣ではエンコウとマガミも姫様から分けてもらって食べているけど。

「ところでマシム。荷物をまとめているように見えるんだがどっかに行くのか?」

 まるで旅にでも出るような様相だ。仕事で遠征にでもいくのだろうか?

「そうね。とりあえずどうしようかはこれからとは思うけど、どうしようかしらね?」
「随分と呑気だな。街もまだまだ大変だしギルドマスターとしてはここでやる仕事も多いんじゃないか?」
「あら、言ってなかったかしら? 私ねギルドマスターを解任されたの」
「は? 解任? マシムが! 一体どうしてだよ」

 さらりとマシムが教えてくれたが、俺としては驚きだ。薬の件といい盗賊のアジトを突き止めたことといい評価されることはあっても解任はおかしいと思うのだが。

「仕方ないのよ。そもそもこの街であのタラゼドの事を調べたりすることを余計なことだと思っていた連中も上の方には多くてね。そういう連中はあいつがいたから懐も潤った。でも今回の件でそれもパァになると知って私を糾弾してきたのよ。建前上は私が事態を放置した結果被害が大きくなったということでね」

 そんなことが――だがよく考えて見ればあいつがこれだけの利権を手にしてこられたのもある程度の根回しが出来ていたからともいえるだろう。
 
 ただでさえこの町では多くのギルドマスターが不審死を遂げたり冤罪で捕まったりしていたそうだが、それでも大叔父が平気でやってこれたのは冒険者ギルドの上の連中とやらも含めて数多く取り込まれていたからということか。

「ま、でも丁度良かったわ。やっぱりギルドマスターなんて性に合ってないもの。流石に冒険者の資格剥奪まではされないから。また自由に冒険者として暮らしていくわ。もう仇討ちも終わったしね」
 
 そう言ってニカッと笑う。マシムは愛していた女性を失いその仇討ちのために大叔父を調べていた。

 直接的には俺が殺ってしまったが、魔薬の製造元を発見し、アジトを潰したので大叔父の権威は一気に滑落した。

 大叔父の所有していた財産も没収されることになるようだ。

「街からは出るのかい?」
「そうね。ここにももう未練はないし、出ると思うわ」
「そうか……そういえばあの子どもたちはどうなるんだ?」

 ふと気になった。大叔父が死にはしたが、あの子達の状況がかわったわけではない。

「ふふ、やっぱり気になるのね。でも安心して。ダリがね冒険者になりたいっていい出したの。だから私が育てることにしたわ」

 マシムがダリを? 驚いたが確かにそれなら安心ではあるか。

「ダリは本当ならそのもんじゃという男に弟子入りしたかったらしいけどね。まぁ私でもいいかって、相変わらず小生意気なところあるけど」

 そう言って苦笑する。しかし、そのダリの希望は無理だぞ。俺だからな。

「他の子達はどうなるんだ?」
「それも驚いたんだけど、ハダル家がまとめて面倒見てくれるってことになったわ。子どもたちを育てる施設を作るって話になっててね。なんでも大会参加者のフレイが両親を説得したらしいわ。ちなみに女の子が一人養女として迎え入れられるみたいね」

 あいつ、そこまで手を打ってくれたのか。女の子というのは多分ミサのことなんだろうな。
 
 あいつにこれ以上馬鹿なことをしてほしくないという気持ちで約束させたことだったんだが、まさかこんなにも大きく返してくるとはな。
  
 結果的には良かったということか……少なくともこの街で暮らすよりは良い生活が待っている筈だ。

「近況としてはこんなところかしらね」
「ありがとう。懸念があったが大分解消されたよ」
「それならよかった。そういえば夕方には街を出るのだったわね。ちょっと寂しくなるけど、貴方ともまたいずれ会うことも有るかもね」
「そうかもな。まぁ冒険者として今後も頑張ってな」
「えぇ、お互いにね。とりあえず女の子をなかせないようにね。あとスワローちゃんにもよろしくね」

 マシムと最後に握手して別れたが、女の子を泣かせるってどういう意味だ。勿論そんなことはしないけどさぁ。

 そしてスワローか。そういえばマシムと仲が良いんだったな。

 さて、下に戻るとデックやデトラも皆と別れを済ませたようだな。デックはミモザとも話していたが、その会話に俺も加わった。

「そういえばミモザは今後どうするんだ?」
「う、うむ、その――」
「あっはっは! ミモザは本格的に私の弟子として育てることにしたのだ! あっはっは!」
「あ、そうなんだ――」

 ミモザは育ての親である大叔父が死んでしまったわけで今後どうするかといったところで気にしてはいた。

 大叔父をやったのは俺だしな……ただミモザは母親のこともあって父でありながら恨んでもいたようで死んだことに関しては特に思うことはないらしい。政略結婚に利用されたり散々だったしな……

 そしてミモザとしてはもうこれ以上、大叔父の関係者には関わりたくないらしく結果的にゼンラと一緒になる道を選んだようだな。

「ミモザ、これから大変だと思うが全裸もほどほどにな?」
「喧嘩を売ってるのか貴様!」

 気を利かせて忠告したつもりだったんだが何故か切れられてしまった。解せん。

「その、なんだ。まぁ色々とあったが貴様には助けてもらったような気もしないでもないから、そこはかとなく感謝はしている」
「どんなお礼だよそれ」

 そっぽを向きながらミモザがそんなことを言ってきた。本人はお礼のつもりなようだ。

 すると脇から姫様が俺を突いてきて。

『お主は随分とおなごから好かれとるようじゃな。全く恐れ入ったぞ』
「は?」

 姫様が白い目で俺を見てきた。いやいや! 何か勘違いしてないか!

「ガウガウ」
「ウキキィ」

 エンコウとマガミも何故か楽しそうにこっちを見てるし。何なんだ一体!

「ミモザ、ゼンラさんは裸だけどいい人そうだからな。それに剣の腕は確かだし。一緒にいて損することはないと思うぞ」
「その裸というのが一番の問題なのだが、そのありがとう。デックには本当に感謝している」

 そしてミモザは戸惑いながらもデックにはしっかりお礼を言っていた。まぁ相変わらず目は合わせてないけど。そして何故か頬が紅い。

 さて、こうして一通り挨拶を終えた俺達はギルドを後にした。

 宿に戻り昼食を取る。その場には兄貴とマグもいた。

 そういえばマグの件もあったな……だけど、俺から何を言えばいいんだが、そんなことを思っていたら父上からマグに声がかかった。

「マグくんはこれからどうするかは決めているのかな?」
「……これから?」
「色々と事情は聞いていてね。帰るところはあるのかな?」
「……特に決めてない。でも、これまで一人で生きていたから大丈夫」

 パンをもぐもぐと食べながらマグが答えた。やはり一人でやっていくつもりなのか……だけど。

「その、何だ。マグも一緒に来たらどうだ?」
「……一緒にって?」
「だからエイガ領にだよ。こっちは長閑で住むにはいいところだと思うんだ」
「賛成! 私もそれがいいと思います!」
「おう、一人でなんて寂しいじゃん。デトラも喜ぶしそれがいいんじゃないか?」
「ふむ、悪くないではないか。だけど参ったな私の魅力に気がつき、惚れられてしまうかもしれないな」

 皆も賛成なようで後押ししてくれた。兄貴は相変わらず馬鹿なことを言っている。そしてマグは少し考える仕草を見せ、そして答えた。

「……気持ちは嬉しい。だけど、私には目的がある。一緒にはいけない」
「目的というのは仇討ちのことか?」
「……そう。私は村を襲った吸血鬼を見つけ決着をつけないといけない」
「ならばなおさらだ。一緒に来なさい。異論は認めない」
 
 父上がピシャリと言った。マグが目を丸くさせる。

「……どういうこと?」
「今の君の考えは危うい。気持ちはわからなくもないが君はまだ幼い。今のうちからそんな感情に支配されていてはいけないよ。君に必要なのは同世代の子どもたちと一緒に過ごす時間だ。生活の心配ならしなくてもいい。私が何とかしよう」
しおりを挟む
感想 1,746

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

あの味噌汁の温かさ、焼き魚の香り、醤油を使った味付け——異世界で故郷の味をもとめてつきすすむ!

ねむたん
ファンタジー
私は砂漠の町で家族と一緒に暮らしていた。そのうち前世のある記憶が蘇る。あの日本の味。温かい味噌汁、焼き魚、醤油で整えた料理——すべてが懐かしくて、恋しくてたまらなかった。 私はその気持ちを家族に打ち明けた。前世の記憶を持っていること、そして何より、あの日本の食文化が恋しいことを。家族は私の決意を理解し、旅立ちを応援してくれた。私は幼馴染のカリムと共に、異国の地で新しい食材や文化を探しに行くことに。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。