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第四章 転生忍者魔法大会編
第百四話 もう一つの戦い、デックの実力
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デックと名乗った男の姿はチラリとだが確認が取れた。あいつは確か試合を終えた私に話しかけてきた男の一人だった筈だ。
そいつが、何故ここに? まさか、私がこいつらに連れて行かれるのを見てわざわざやってきたというのか?
「チッ、どうする? やっちまうか?」
「まぁ待てって、ヘヘッ」
奴の登場にこそこそと話し合う卑怯な男ども。するとあのヘラヘラした男が一歩前に出てやってきたデックに向けて語りだした。
「あんた、何か誤解してるみたいだけどさ、ヘヘッ、こいつは何か具合が悪そうだったからちょっと外の空気でも吸わせてやろうと思っただけなんだよ」
ふざけたいいわけだ。こいつら私に妙な、おそらく針のようなものに痺れ薬でも塗っていたのだろう。それで体の自由が……くそ。
デックといったなあの男、気づけ、私は!
「いや、だったら外に連れて行かないで救護班に見てもらえばいい話だろ。言い訳ならもっとマシな言い訳しろよ。ま、何を言っても放してもらうつもりだけどな」
こいつ、気づいて、くれたのか?
「……わかったわかった。だったら一緒に来いよ」
「は?」
「いいたいことはわかってるって。見た所お前だって平民なんだろ? 俺らもそうさ。つまり俺たちは同士だ。生意気な貴族連中には腹の立つことも多いだろう? あんただってこういう小生意気な女に馬鹿にされたり相手にされず冷たくされたことはるあろう? だから一緒にこいつをやっちまおうぜ」
私の脳裏に、このデックに話しかけられた時のことが思い浮かんだ。確かにあの時、私はこいつを冷たくあしらった。もしそれを根に持っていたら……。
「ば~か。同じ平民ってお前らみたいな三下と一緒にすんなっての。大体馬鹿にされるのも相手にされないのもお前らに問題があるからだろうが。よってたかって女の子をどうこうしようとするようなゲスに誰が振り向くかっての」
だが、この男は奴らの言い分を真っ向から否定してみせた。デックがそう言い放つと、私を捕まえていた連中の顔色が変わった。肩がプルプルと震え、怒りで顔が朱色に染まっている。
「てめぇ、粋がってんじゃねぇぞ!」
「もういいやっちまおうぜ」
「そうだ! 所詮相手は一人だこんな生意気な奴瞬殺だよ瞬殺!」
「へへっ、仕方ないなぁ。全くナイト気取りの馬鹿はこれだから。さっさと決めてやれ!」
そして私を掴まえ続けているヘラヘラした奴以外が一斉にデックに飛びかかった。しまったいくらなんでもこの人数じゃ――
「「「「「ぐぎゃぁああぁあああ!」」」」」
しかし、デックに襲いかかった全員が同時に四方八方に吹き飛ばされた。後には剣を振り抜いた姿勢のデックが立っていて、私を掴まえている男を睨みつけている。
「さて、後はお前だけだな」
デックは剣で肩をトントンっと叩きながら近づいてきた。ヘラヘラした男からは完全に笑みが消え失せ瞳には動揺が見られる。
「ま、待て! お前、そ、それだけ強いならきっと試合は勝ち残ってるんだろう?」
「……まぁな」
「だ、だったらここで手を出すのはどうよ! そんなことがここの連中にしれたら大問題だぞ! 今見逃してくれたらお前のことは黙っておいてやる。だから手を出すな!」
「そうかわかった手は出さん」
「は、はは、そうだよなグベェエエェエエエェエエ!」
ホッとした顔を見せた男だったが刹那、顔面に蹴りを喰らいそのまま向こうまで吹っ飛んでいった。
「おっと、へへ、手は出してないぜ。これは脚だ」
奴の腕から解放されるも脚に踏ん張りが効かず倒れかけた私をデックが支えてくれた。その腕が随分と力強く感じられた。しかし、それはとんだ屁理屈というものではないか。だが、私も溜飲を下げる思いではあるが。
「お、おい、お前たち一体何をしている!」
「あ、いけね。係員だ。参ったな」
デックが奴らを倒した直後、係員の声が私の耳にも届く。剣を鞘に収め、頬を掻くデック。すぐに係員が駆けつけデックへ問い質した。
「いや、こいつらこの子をどっかに連れ出そうとしていたからさ」
「何? ん? ん~? な! その御方は」
「き、君! 様子がおかしいけど大丈夫かね!」
係員はどうやら私に気がついたようだがデックは、? といった顔を見せている。まさか、こいつ、私のことを知らないのか?
まさか、それなのにあんな態度をとった私を助けようとしたというのか?
とにかく私は何とか今置かれている状況を伝え、そこに倒れている連中が薬で私の自由を奪い連れ去られそうになっていたところをデックに助けられたと伝えた。
すぐに救護班を呼ばれ、薬を飲み体の痺れはあっさりと取れた。ふぅ、助かった。どうやらデックも人助けということで試合に影響することはないらしい。
「あの不届き者は全員捕縛されました。ミモザ様お体の具合はいかがですか?」
「もう問題ない。治療してくれてありがとう。試合もあるしそろそろ行くよ」
「本当に大丈夫ですか? もう少し休まれていても試合も少しは融通がききますし」
「そういう特別扱いはやめてくれ。本当に大丈夫だから」
心配そうにしている救護班の前で体を動かし、剣を振ってみたりして回復したことをアピールした後、私は予選の試合会場に戻った。
ふぅ、しかしそろそろ午後の試合が始まっているころだな。一体いまどんな状態なのか。
「次の試合は8番のデック選手と12番のゴウオウ選手、リングに上ってきてください」
うん? 今確かデックと言っていたな。ふむ、みたところ私が戦うリングでは別の選手が競い合っている。まだ出番はなさそうだ。
……さっきは助かったし試合の一つでも見てやるか。それに、あっという間に数人の相手を倒してしまった奴の腕にも多少は興味がある。
なのでデックが立っているBのリングに向かった。相変わらず随分とラフな出で立ちだ。顔には笑みも浮かべているが私を襲ったロクでなしのようなヘラヘラしたものではない。どちらかと言えば試合を楽しんでいるような表情だ。
そしてデックの対戦相手が姿を見せたが、な、なんだこいつは! 周囲の奴らからも驚きの声が上がる。
「あ、あいつだ。午前中でも全員の骨を叩き折ったっていう」
「とんでもない怪力、というか体をしてやがるぜ」
「あんなのと戦う相手が可愛そうだな。勝てるわけがない」
見ている選手からそんな声が聞こえてくる。しかしそれもそのはずか。私から見てデックも十分大きいが、対戦相手のゴウオウは更に大きかった。
あのデックの倍はある。この年代であの大きさは尋常ではない。巨人の血が混じっているといわれても不思議ではない。ただでかいだけではなく筋肉量も凄まじい。
「へへ、お前が俺の相手かチビ」
「はは、これでも結構デカい方で通ってるんだけどな。チビと言われたのは初めてだぜ」
「俺からすればここにいる連中は全員チビだ。てめぇも怪我をしたくなかったら潔く負けを認めた方が身のためだぜ?」
肩に両刃の斧を乗せながらゴウオウが語る。勿論あの斧にしても刃は潰されているが、だとしてもあの体格だ。体重を乗せて振り下ろされるだけでも十分な脅威だろ。
「ご忠告どうも。だけど、負けるつもりはないからな」
「は? ガハハ! 口だけは立派な奴だ。だが、後で後悔しても知らんからな」
鼻息を荒くさせるゴウオウ。よっぽどの自信があるようだな。一方でデックも全く物怖じしていない。
「それでは試合開始!」
審判の合図で試合が始まった。しかし、本気かあいつは?
デックは試合が始まると同時に両手で持った剣を天をつくように振り上げた状態で構えをとった。
大上段と呼ばれるものだが、しかし相手はあれだけの巨体だ。あの体格差で見せるべき構えではない。何せ体の正面を完全に開け放つあの構えは当然晒す隙も大きくなる。
おまけにあれだけの体格差があればリーチの差も歴然だ。なんならゴウオウは今立っている場所から一歩も動かなくても攻撃が届く。だがデックはそうもいかない。
「ガハハ! これは驚いた。この俺相手に随分と舐めた構えを見せてくれるじゃねぇか」
相手のゴウオウがデックの構えを見て笑い飛ばす。だが、デックはそれでも構えを変えるつもりはないようだ。
「はは、だったら俺も同じ手でいくか」
そしてゴウオウも両手で斧を持ち大きく振り上げた。だが同じと言ってもリーチの差がある。ゴウオウは今すぐ斧を振り下ろしてもデックに攻撃が届くのだ。
こんなもの、あまりに馬鹿げていて勝負になんて……いや待て、これは――
「おいおいどうしたんだよ。随分と余裕なこといっていたわりに黙り込んでんじゃねーか」
「そうだぜ。さっさと攻めろよ!」
そして暫くして観戦を決め込んでいた選手から野次が飛んだ。ゴウオウが全く動きを見せず睨み合いが続いていたからだ。
「く、くそ! わかってるよ! お、おりゃー! お、オラオラこの野郎!」
ゴウオウが声を荒げデックを威嚇している。だが、言葉に動きがついていってない。私から見ればゴウオウのそれはただの虚勢にも思える。
だがそれも仕方ない。私も気がついたがあの男、あれだけ隙だらけの構えを見せているにも関わらず全く隙が感じられないのだ。
至極矛盾しているようにも感じられるが事実だから仕方がない。リングの外から見ている私でさえそうなのだから相対しているゴウオウからは更に、下手すればデックがより大きな存在に感じられていることだろう。
その証拠に、ゴウオウは徐々に後ろに下がっていた。恐らく本人すら気がついていない。完全にデックの圧に呑み込まれてしまっている。このままいけば――
「うぉおおおぉおお! 待ってろ今俺が決めてやる! う、うぉ!? は、な、ちょ、ウワッ!」
ドスゥウゥウン! という豪快な音が会場に鳴り響いた。そして――
「ゴウオウ選手場外! 勝負あり!」
審判がデックの勝利を宣言した。そう、ゴウオウは結局何も出来ず勝手に後ずさっていきリングから落っこちたのだ。
「お、おいおいマジかよ!」
「あいつ偉そうなことを言っておきながら自滅したぜ!」
「何もせずに場外負けとか格好悪いぜ」
「全くとんだウドの大木だったな」
観戦していた選手から嘲笑まじりの声が沸き起こる。ふん、勝手な連中だ。最初は散々あのゴウオウを持ち上げておいて負けたら手のひらをひっくり返したように馬鹿にする。
そしてデックがリングを下りたその時だった。
「ふ、ふざけるな! この俺が貴様なんざに負け
るわけがない! 俺は無敵のゴウオウ様だ!」
「な、やめなさい! 勝負はもう決まったんだぞ!」
「知るかボケェ! テメェぶっ殺す!」
審判の制止も聞かず、ゴウオウが背中を見せているデックに向けて飛び出し斧を振り上げた。くっ、なんて奴だ!
私は思わず飛び出しそうになったが、距離が離れすぎている。止めに入れる距離ではない! が、それは杞憂に終わった。何故なら仕掛けたゴウオウがデックに斧を振り下ろしたその直後、前のめりに倒れゴロゴロと転がっていったからだ。
しかし、信じられん。あいつは完全に背を向けていたのに――しかもあれだけの体格差があるというのに軽く相手をいなしてしまったぞ……。
そいつが、何故ここに? まさか、私がこいつらに連れて行かれるのを見てわざわざやってきたというのか?
「チッ、どうする? やっちまうか?」
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「あんた、何か誤解してるみたいだけどさ、ヘヘッ、こいつは何か具合が悪そうだったからちょっと外の空気でも吸わせてやろうと思っただけなんだよ」
ふざけたいいわけだ。こいつら私に妙な、おそらく針のようなものに痺れ薬でも塗っていたのだろう。それで体の自由が……くそ。
デックといったなあの男、気づけ、私は!
「いや、だったら外に連れて行かないで救護班に見てもらえばいい話だろ。言い訳ならもっとマシな言い訳しろよ。ま、何を言っても放してもらうつもりだけどな」
こいつ、気づいて、くれたのか?
「……わかったわかった。だったら一緒に来いよ」
「は?」
「いいたいことはわかってるって。見た所お前だって平民なんだろ? 俺らもそうさ。つまり俺たちは同士だ。生意気な貴族連中には腹の立つことも多いだろう? あんただってこういう小生意気な女に馬鹿にされたり相手にされず冷たくされたことはるあろう? だから一緒にこいつをやっちまおうぜ」
私の脳裏に、このデックに話しかけられた時のことが思い浮かんだ。確かにあの時、私はこいつを冷たくあしらった。もしそれを根に持っていたら……。
「ば~か。同じ平民ってお前らみたいな三下と一緒にすんなっての。大体馬鹿にされるのも相手にされないのもお前らに問題があるからだろうが。よってたかって女の子をどうこうしようとするようなゲスに誰が振り向くかっての」
だが、この男は奴らの言い分を真っ向から否定してみせた。デックがそう言い放つと、私を捕まえていた連中の顔色が変わった。肩がプルプルと震え、怒りで顔が朱色に染まっている。
「てめぇ、粋がってんじゃねぇぞ!」
「もういいやっちまおうぜ」
「そうだ! 所詮相手は一人だこんな生意気な奴瞬殺だよ瞬殺!」
「へへっ、仕方ないなぁ。全くナイト気取りの馬鹿はこれだから。さっさと決めてやれ!」
そして私を掴まえ続けているヘラヘラした奴以外が一斉にデックに飛びかかった。しまったいくらなんでもこの人数じゃ――
「「「「「ぐぎゃぁああぁあああ!」」」」」
しかし、デックに襲いかかった全員が同時に四方八方に吹き飛ばされた。後には剣を振り抜いた姿勢のデックが立っていて、私を掴まえている男を睨みつけている。
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「ま、待て! お前、そ、それだけ強いならきっと試合は勝ち残ってるんだろう?」
「……まぁな」
「だ、だったらここで手を出すのはどうよ! そんなことがここの連中にしれたら大問題だぞ! 今見逃してくれたらお前のことは黙っておいてやる。だから手を出すな!」
「そうかわかった手は出さん」
「は、はは、そうだよなグベェエエェエエエェエエ!」
ホッとした顔を見せた男だったが刹那、顔面に蹴りを喰らいそのまま向こうまで吹っ飛んでいった。
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「お、おい、お前たち一体何をしている!」
「あ、いけね。係員だ。参ったな」
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「いや、こいつらこの子をどっかに連れ出そうとしていたからさ」
「何? ん? ん~? な! その御方は」
「き、君! 様子がおかしいけど大丈夫かね!」
係員はどうやら私に気がついたようだがデックは、? といった顔を見せている。まさか、こいつ、私のことを知らないのか?
まさか、それなのにあんな態度をとった私を助けようとしたというのか?
とにかく私は何とか今置かれている状況を伝え、そこに倒れている連中が薬で私の自由を奪い連れ去られそうになっていたところをデックに助けられたと伝えた。
すぐに救護班を呼ばれ、薬を飲み体の痺れはあっさりと取れた。ふぅ、助かった。どうやらデックも人助けということで試合に影響することはないらしい。
「あの不届き者は全員捕縛されました。ミモザ様お体の具合はいかがですか?」
「もう問題ない。治療してくれてありがとう。試合もあるしそろそろ行くよ」
「本当に大丈夫ですか? もう少し休まれていても試合も少しは融通がききますし」
「そういう特別扱いはやめてくれ。本当に大丈夫だから」
心配そうにしている救護班の前で体を動かし、剣を振ってみたりして回復したことをアピールした後、私は予選の試合会場に戻った。
ふぅ、しかしそろそろ午後の試合が始まっているころだな。一体いまどんな状態なのか。
「次の試合は8番のデック選手と12番のゴウオウ選手、リングに上ってきてください」
うん? 今確かデックと言っていたな。ふむ、みたところ私が戦うリングでは別の選手が競い合っている。まだ出番はなさそうだ。
……さっきは助かったし試合の一つでも見てやるか。それに、あっという間に数人の相手を倒してしまった奴の腕にも多少は興味がある。
なのでデックが立っているBのリングに向かった。相変わらず随分とラフな出で立ちだ。顔には笑みも浮かべているが私を襲ったロクでなしのようなヘラヘラしたものではない。どちらかと言えば試合を楽しんでいるような表情だ。
そしてデックの対戦相手が姿を見せたが、な、なんだこいつは! 周囲の奴らからも驚きの声が上がる。
「あ、あいつだ。午前中でも全員の骨を叩き折ったっていう」
「とんでもない怪力、というか体をしてやがるぜ」
「あんなのと戦う相手が可愛そうだな。勝てるわけがない」
見ている選手からそんな声が聞こえてくる。しかしそれもそのはずか。私から見てデックも十分大きいが、対戦相手のゴウオウは更に大きかった。
あのデックの倍はある。この年代であの大きさは尋常ではない。巨人の血が混じっているといわれても不思議ではない。ただでかいだけではなく筋肉量も凄まじい。
「へへ、お前が俺の相手かチビ」
「はは、これでも結構デカい方で通ってるんだけどな。チビと言われたのは初めてだぜ」
「俺からすればここにいる連中は全員チビだ。てめぇも怪我をしたくなかったら潔く負けを認めた方が身のためだぜ?」
肩に両刃の斧を乗せながらゴウオウが語る。勿論あの斧にしても刃は潰されているが、だとしてもあの体格だ。体重を乗せて振り下ろされるだけでも十分な脅威だろ。
「ご忠告どうも。だけど、負けるつもりはないからな」
「は? ガハハ! 口だけは立派な奴だ。だが、後で後悔しても知らんからな」
鼻息を荒くさせるゴウオウ。よっぽどの自信があるようだな。一方でデックも全く物怖じしていない。
「それでは試合開始!」
審判の合図で試合が始まった。しかし、本気かあいつは?
デックは試合が始まると同時に両手で持った剣を天をつくように振り上げた状態で構えをとった。
大上段と呼ばれるものだが、しかし相手はあれだけの巨体だ。あの体格差で見せるべき構えではない。何せ体の正面を完全に開け放つあの構えは当然晒す隙も大きくなる。
おまけにあれだけの体格差があればリーチの差も歴然だ。なんならゴウオウは今立っている場所から一歩も動かなくても攻撃が届く。だがデックはそうもいかない。
「ガハハ! これは驚いた。この俺相手に随分と舐めた構えを見せてくれるじゃねぇか」
相手のゴウオウがデックの構えを見て笑い飛ばす。だが、デックはそれでも構えを変えるつもりはないようだ。
「はは、だったら俺も同じ手でいくか」
そしてゴウオウも両手で斧を持ち大きく振り上げた。だが同じと言ってもリーチの差がある。ゴウオウは今すぐ斧を振り下ろしてもデックに攻撃が届くのだ。
こんなもの、あまりに馬鹿げていて勝負になんて……いや待て、これは――
「おいおいどうしたんだよ。随分と余裕なこといっていたわりに黙り込んでんじゃねーか」
「そうだぜ。さっさと攻めろよ!」
そして暫くして観戦を決め込んでいた選手から野次が飛んだ。ゴウオウが全く動きを見せず睨み合いが続いていたからだ。
「く、くそ! わかってるよ! お、おりゃー! お、オラオラこの野郎!」
ゴウオウが声を荒げデックを威嚇している。だが、言葉に動きがついていってない。私から見ればゴウオウのそれはただの虚勢にも思える。
だがそれも仕方ない。私も気がついたがあの男、あれだけ隙だらけの構えを見せているにも関わらず全く隙が感じられないのだ。
至極矛盾しているようにも感じられるが事実だから仕方がない。リングの外から見ている私でさえそうなのだから相対しているゴウオウからは更に、下手すればデックがより大きな存在に感じられていることだろう。
その証拠に、ゴウオウは徐々に後ろに下がっていた。恐らく本人すら気がついていない。完全にデックの圧に呑み込まれてしまっている。このままいけば――
「うぉおおおぉおお! 待ってろ今俺が決めてやる! う、うぉ!? は、な、ちょ、ウワッ!」
ドスゥウゥウン! という豪快な音が会場に鳴り響いた。そして――
「ゴウオウ選手場外! 勝負あり!」
審判がデックの勝利を宣言した。そう、ゴウオウは結局何も出来ず勝手に後ずさっていきリングから落っこちたのだ。
「お、おいおいマジかよ!」
「あいつ偉そうなことを言っておきながら自滅したぜ!」
「何もせずに場外負けとか格好悪いぜ」
「全くとんだウドの大木だったな」
観戦していた選手から嘲笑まじりの声が沸き起こる。ふん、勝手な連中だ。最初は散々あのゴウオウを持ち上げておいて負けたら手のひらをひっくり返したように馬鹿にする。
そしてデックがリングを下りたその時だった。
「ふ、ふざけるな! この俺が貴様なんざに負け
るわけがない! 俺は無敵のゴウオウ様だ!」
「な、やめなさい! 勝負はもう決まったんだぞ!」
「知るかボケェ! テメェぶっ殺す!」
審判の制止も聞かず、ゴウオウが背中を見せているデックに向けて飛び出し斧を振り上げた。くっ、なんて奴だ!
私は思わず飛び出しそうになったが、距離が離れすぎている。止めに入れる距離ではない! が、それは杞憂に終わった。何故なら仕掛けたゴウオウがデックに斧を振り下ろしたその直後、前のめりに倒れゴロゴロと転がっていったからだ。
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