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第57話 謎の教団の目的

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 簡単に自ら命を断ってしまう仮面の男たちの精神はヒットには理解できなかった。いやヒットだけではないクララにしてもメリッサにしても同じなようでなんとも後味の悪い結果だけが残ってしまった。

「とりあえず死体は固めておいて、またギルドに報告して、後は任せよう」
「そうですね……」
「一応祈りだけは捧げておきますね……」

 浮かない表情のクララだが、それでも神官としての勤めはしっかりこなしてくれた。祈りを捧げておかないとアンデッド化してしまう可能性がある。

「しかし、こいつらの目的は一体何なんだ? 何かしら理由があってこんな真似してると思うのだが」
「謎ですよね……私なら猿酒なんかより、もっと美味しいものの方が嬉しいのだけど……」
「え、と、そういう問題でもないような」

 真剣な顔をして食い気の話をするクララに呆れそうになるヒットでもあったが、同時に重い空気が軽くなった気がした。

「全く、そう言えば、猿の集めた木の実が欲しいのじゃなかったっけ?」
「勿論です! 実はどのタイミングで切り出そうか迷っていたのですが、ヒットが先に言ってくれて良かったです」
「それはどういたしまして」
「ふふっ、なら皆で探しましょうか?」
「あぁそうだな」

 そしてヒット達は猿の塒を探してみるが、木の実はわりとわかりやすいところに固めて置いてあった。悲鳴に近い声を上げるクララ。勿論嬉しい悲鳴である。

「て、今食べるのか?」
「おいひぃですよ?」

 さっきまで激闘を繰り広げており、しかも教団連中の死体を見たばかりだというのに逞しいなとある意味感心するヒットであった。
 
 とは言え食べ切れないのでメリッサの魔法の袋に入るだけいれて洞窟を後にした3人である。

 そしてギルドに戻り成果を報告するヒットたちだが。

「流石にゃん。全く失敗が無いのもすごいわね。でも、また教団連中が現れたにゃん?」

 面倒ならその語尾止めたらいいのにと思うヒットだが、ニャム曰くキャラ付けなので仕方がないところなのだろう。

「あぁ、今回は猿酒を狙っていたみたいだ」
「わけわからないにゃん。ふぅ、後でまたギルマスに報告しないと……」
「後で、今じゃ駄目なのか?」
「今はいないにゃん。その教団の件を領主様に報告にいってるから」
「あぁ、なるほど――しかし、随分と大事になってるんだな」
「それが、ここ最近になって冒険者がよく狩られてるにゃん」
「冒険者が? それも教団絡みなのか?」
「狙われるのは夜、ひと目のつかない場所で狙われているからはっきりとは断言出来ないにゃん。でも、可能性は高そうね」
 
 確かにここ最近で怪しい動きをしているのは、一部の冒険者を除けば教団ぐらいである。

「誰彼構わず狙われているのか?」
「それが、ある程度ランクの高い冒険者ばかりにゃん。C級以上が中心ね」

 この冒険者ギルドに所属している冒険者の中ではB級が一番上だと聞いていた。当然その次のC級もギルドにとっては貴重な戦力だ。それが削がれるというのは痛手以外の何物でもないだろう。

「実はヒット達のランクはもっと上げてもいいと話ではあったにゃん。でも、こんな状況だから慎重になったにゃん。例えC級になっていなくても急激にランクが上がったら狙われかねないにゃん」
「とは言っても、俺達は既に遭遇しているし何度かやりあってるからな」
「それを言われるとそうだけど――偶然ではなくて直接狙われるような真似はさせたくないにゃん」
 
 確かに現状では全て偶然相手の目的とヒット達の目的が重なった結果の遭遇戦であった。ただ、今回倒した仮面の男には一度は逃げられている。

 ヒット達について教団に知られていたとしてもおかしくはない。とは言え、今の所ヒットが闇討ちされたことはないが。

「とにかく、教団の死体は回収に向かわせるにゃん。それとこれが今回の報酬にゃん」
「助かる」
「今日はもう帰るかにゃん?」
「あぁ、少し疲れたしもう遅いしな。次の依頼はまた明日にでも探すよ」
「それがいいわね。最近結構な仕事ばかりこなしてた気がするにゃん。ゆっくり休むといいにゃん。でも、念の為夜は気をつけてね」
 
 あぁ、と告げて報酬を受け取り3人はギルドを後にした。

「でも、冒険者が狩られるとか物騒ですね……」
「確かに……この町は比較的平和だったのだけど、ここ最近は物騒な事件も増えてるし……」

 クララとメリッサが語った。確かにヒットの周りだけでもトラブルが多い。尤も平和だったことはつい最近この世界に来たヒットにはわからないことなのだが。

「今日は早めに宿に戻って親父さんの夕食で腹を満たして明日に備えるとしようか」
「え! 夕食ですか! それはいいですね!」
「クララよだれよだれ」
「さっきあれだけ果物食べたのにまだ腹が減るのか……」

 相変わらずなクララの食い気に少々引き気味なヒットでもある。とは言え、宿に戻ってからは折角だからと猿の塒で手に入れた果実を宿の主人に分けてあげ、それでちょっとしたデザートも用意してもらった。当然クララは大喜びであったのだが――





◇◆◇

 夜の帳が落ち、街もすっかり闇に染まっていた。この時間になると殆どの店も閉まり、まだ開いているのは酒場やちょっとしたいかがわしい店ぐらいである。

 夜の道を歩く人は少ない。冒険者ですら基本は殆ど歩いていない。だが、そんな静かな夜の街、その路地裏で千鳥足で歩く一人の男。

 背中に戦斧が縛り付けられた鎧姿の男だった。見た目の通り冒険者、しかもC級の冒険者である。

「うぃ~と、ちと飲みすぎたかな。うぅ、酒は下に来るねっと」
 
 男はそう独りごちると、キョロキョロと辺りを見回し、そしてズボンの前だけを下げた。目的は小便であった。勿論異世界の町でも立ちションはご法度だが、夜の目立たない路地裏だ。見られなければ平気と考えるものも少なくない。まして酒が入っているのだから気も大きくなる。

「ふぅ、それにしても、他の連中も情けねぇ。酒に誘っても冒険者狩りがいるとかいって付き合おうとしねぇ。たく、何が冒険者狩りだ。そんなのがいたら俺が返り討ちにしてやるぜガハハ」

 そんなことを口にして笑う。そして出すものを出してスッキリした顔を見せた男だったが――その瞬間忍び寄る凶刃。

「おっと甘いんだよ!」

 だがしかし、男は直様背中の戦斧を抜き、振り抜いた。黒い影が引き裂かれたのを見て勝ち誇るが、しかし影が消えその目を丸くさせる。

 その時だった首筋に当たる銀色の刃。今切った筈の何者かに背後を取られていた。やられる! と冷たい汗が背中を伝うが。

「ガウガウガウガウ!」
「――ッ!」

 その時だった。一匹の狼が黒ローブの通り魔に襲いかかりその首に噛み付いた。そのまま倒し、組み伏せる。

「……危なかった」
「あんた、魔獣殺しか! た、助かったぜ……」

 そう、狼、フェンリィをけしかけたのはセイラであった。彼女も冒険者狩りの噂を聞き、夜の街を見て回っていたようであり。

「ふぅ、しかし慌てさせやがって。こうなったらこの野郎の顔をしっかりみてやらないと――」
「……駄目だ! フェンリィも離れろ!」

 セイラが叫ぶと、男もギョッとして後ろに飛び退き、フェンリィも瞬時にセイラの下へ戻った。その瞬間だった、黒ローブが爆発したのは――
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