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第56話 毒使いとの決着

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 ヒットの口から思わずうめき声が漏れた。仮面の男から飛び散った血は毒化していた。それが男のスキルだったようだ。

 毒を浴びすぎて状態異常が更に深刻化していた。毒は猛毒状態である。毒は状態によって微毒、毒、猛毒、劇毒とある。猛毒は上からに二番目であり放っておくと生命力がどんどん削られていく。
 
「は、早く毒を治さないと」
「させねぇよ馬鹿が!」
「危ない!」

 仮面の男が狙いを定めてクララにナイフを投げた。だがメリッサが間に入り盾になる。危険に思えたが投げられたナイフはメリッサからかなり逸れた位置にナイフを投げてしまった。

「チッ、標的がぶれて!」

 ミラージュドレスの効果か、とヒットは判断した。あのドレスは攻撃された時に残像が生じ狙いを付けにくくする。

「まぁいい。回復役がいるようだがそんな暇は与えねぇよ!」

 男が迫る。残り1人は回復か支援がメインなようであり、男を回復した後は離れた位置から様子を窺っていた。

 つまり攻めてくるのは毒使いの男だけだがこの毒が厄介だった。ヒットも毒消しの薬は持っているがこれは猛毒には通じない。

 しかも毒は攻撃を受けるごとに悪化している。次も喰らうと今度は劇毒に変わるかも知れない。猛毒でも秒単位で生命力が減っている。劇毒になるとまさに死への秒読みが始まってしまう。

「こうなったら纏めて終わらせてやるぜ! 毒ノ刃雨!」

 仮面の男がナイフを天に向けて投擲しようとしていた。まずいと思ったがキャンセルしようにも目眩が酷くて仮面の男に狙いが絞れない。

 男が見せたのは以前も行使された技だ。毒付きのナイフが雨のように降り注ぐ。あの時、これが掠っただけで猛毒となった。当然今の状態では掠りでもすればただでは済まない。

「ヒット!」

 その時だった、メリッサの声が耳に届き横目で見ると、マージクロスボウがヒットに向けられており引き金を引くと同時に魔法の矢玉がヒットの体を捉えた。

「は、なるほど、毒で死なせるぐらいならせめて一思いにってか、でも安心しなお前らもすぐに後を追わせてやる!」

 仮面の男が遂にナイフを投げた。武技が発動すれば避けるのが難しい広範囲への毒の刃が降り注ぐわけだが――しかし落ちてきたのはただ1本のナイフ、しかも投げた場所から自然落下してきただけであった。

「何だと? どういうことだ!」
「キャンセルだよ、マヌケ――」

 驚愕といった声が男から漏れ、それに答えるようにヒットが立ち上がった。足元には生命力回復用ポーションの空き瓶が転がっていた。

「馬鹿な、何故だ、ポーション? だがそんなもので俺の毒は治せない!」
「あぁそうだよ。これはお前の猛毒で減った生命力を回復しただけだ」

 そうヒットは生命力を回復するためポーションを飲んだ。だが毒はどうしたか? その答えはマージクロスボウを手にしていたクララ・・・にあった。

 マージクロスボウは初級の魔法なら込めて放つことが出来る。毒を消すキュアは初級魔法だ。熟練度が上がれば猛毒も治すがそれでも初級であることにかわりはない。

 そして使い手は限定しない。あくまで魔法の矢玉なので刃物が扱えないとされる神官系のジョブでも扱えるので、クララでも使えないことはないのだ。

 ただ、それでもクララは弓を扱う技術がなかった。武術に弓術だってない。だからメリッサが後ろから彼女の手を取り照準を合わせていたのだろう。

 そうでなければキュアのこもった魔法の矢玉が当たるかは運任せであった。メリッサが補助したからこそより確実にヒットの毒を治療できたのだ。

「俺達のチームワークの勝利だな」
「それは気が早すぎだろ!」

 ヒットが距離を詰め、仮面の男が身構えた。挟み込むような剣戟が迫る。だがそれは障壁で阻まれた。

「甘かったな! これで」
三刃みつば斬り――」
「な、がっ――」
 
 障壁に阻まれるとほぼ同時にカウンターを狙ってくる仮面の男だったが、ヒットの新しい・・・技にはもう一撃残っていた。

 挟双剣の熟練度が5になったことで覚えた新たな武技――三刃みつば斬り。三方向から同時に攻撃できる武技だが、3発目にはディレイも掛けられるのが特徴だった。

 つまりワンガードで挟双剣のような挟み込む一撃は防げても、ディレイを掛けた一撃は防ぎきれない。しかもカウンターを狙った男へ逆にカウンターが入り吹っ飛んだ。

「くそ、毒で精神力が減りすぎた――」
 
 本来ならカウンターヒットした時にキャンセルを掛けたかったが精神力的に無理は出来なかった。

 だが吹っ飛んだ仮面の男に仲間が駆け寄る。回復魔法を掛けられた厄介なのだが、しかしそうはならなかった。メリッサの矢玉が回復役に命中したからだ。

「く、くそ役立たずが!」
「言っただろ? チームワークの勝利だ」
「くっ……」

 仮面の男の傷は浅くはない。死にはしないが回復されなければもう抵抗は不可能だろう。剣先を男に向けこれ以上は何をしても無駄だと暗に告げる。

「さて、お前には聞きたいことがある。メタリックスライムに猿酒、月光美人も手に入れようとしていたな。それで一体何をする気なんだ?」

 ヒットはこいつの口の軽さを知っていた。口さえ開けば何かが掴めるかも知れないと思ったのだが。

「……グフッ!」

 しかし男が吐血し、ヒットは疑問の声を上げ。

「は? な、お、おい!」
「へへ、余計なことを言う前に、おさらばだぜ……」
「くそ、キャンセル! キャンセル!」
「…………」

 咄嗟にキャンセルを掛けるが無駄であった。仮面の男は口から血を吐き倒れ、もう動くことはなかったのだから。

「こいつら、死ぬことに何の躊躇いもなしかよ……」

 仮面の男の死に様を見たヒットは苦々しそうにそう零すのだった――
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