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第51話 モンサル山の戦猿

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 ヒット達は町を出て、戦猿が出るというモンサル山へ向かった。モンサル山は町から3時間程歩いた先にあった。

 普通なら徒歩で行くのもしんどくなりそうな距離だが、ヒットもこれまでの経験で体力が上がっている。メリッサも意外と平気そうだが、クララは若干キツそうだった。

「これから山に登るんだけど大丈夫かクララ?」
「あはは、こ、これぐらいへっちゃらですよ。はい、それに、山には食べ物が……」
「た、食べ物への執念がすごいですね」

 どうやら戦猿が集めているという山の木の実などが気になるようだ。結構変わった木の実も集めているとニャムが言っていたので、それで期待を持ってる面もあるのかもしれない。

「しかし、集めているのは猿だしな。人が食べて大丈夫なものとは限らなくないか?」
「甘いのです。動物というのは本能が働く分、自然と美味しいものを集めたりもするのですよ。それに動物も甘いものは大好きですからね! きっとお猿さんも甘くて美味しい水菓子をたっぷりしまい込んでますよ!」

 クララの口からよだれがダラダラとこぼれ落ちていた。本来の目的は猿退治と猿酒の回収なのだが、クララの目は全く別の方向に向けられている。

「とにかく、山に入ったら気をつけて進もう。何でも戦猿はかなり好戦的らしいからな」
「は、はいそうですね!」
「美味しいものを食べるまでやられてなんていられません!」

 凄い食い気だなと思いつつ3人はモンサル山への登山を開始した。先ずは戦猿を見つける必要があるが、ここで役に立ったのがメリッサの地形把握であった。熟練度も3となりより広範囲まで把握できるようになった。

「これがこの周辺の地図です」
「へぇ~便利なものだな」
「いいスキルを持ってますね!」
「そう言ってもらえると嬉しいかな」

 メリッサの微笑む顔に一瞬ドキッとするヒットでもあるが、確かに便利である。これはメリッサが覚えた地図作成というスキルの効果だ。

 これがあれば地形把握で得た情報を地図にすることが可能である。そのために描く紙は必要となるが、それは町で何枚か買ってあった。

「この周辺には洞窟はまだありそうもないですね」
「あぁ、やっぱり先ず戦猿を見つけたほうがいいか」

 猿たちの塒を見つけるにも手がかりがなければキツい。メリッサの地形把握も熟練度で範囲が広がったとは言え山は高く広い。
 
 なので一番早いのは戦猿を見つけある程度戦って戦いながら場所を特定することだ。戦猿は不利になると仲間を呼んだりするがその仲間がやってくる方向からもある程度位置が掴めるかも知れないし、ダメージを与えて逃亡するならそれを追えばいい。

 なのでメリッサの記した地図を見て、地形から猿のいそうな場所を探していく。猿は飛び移れる木が多い場所に良く現れる傾向にある。

 そして比較的緑の多い場所までやってきた3人だが。

「あ! いました!」
「キー! キー!」
「ビンゴ」

 山を歩き回っていると、いよいよ戦猿と遭遇した。数匹の猿がこちらを見つけ、興奮した様子で鳴き声を上げている。

「ウッキィーー!」
  
 すると猿たちが先ずヒット達に向けて椰子の実のような果実を投げつけてきた。かなりのスピードであり、しかも果皮が硬そうだ。

「キャッ!」
「大丈夫」

 ヒット自身は投擲物を避けつつ、メリッサに向かった実はキャンセルで落とした。クララにはとりあえず向かってなかったので大丈夫と判断したが。

「キャ~~~~~~!」

 しかし、背後から悲鳴。クララの声だった。まさか見誤ったか!? とヒットが弾かれたように振り返るが。

「きゃー見てくださいこれ、チョココヤシですよ! 中身がすごくクリーミーでチョコレートみたいに甘くてものすっごく美味しいんですよキャーーーー!」

 ヒットはその場で膝を付きがっくりと項垂れた。思いっきり力が抜けたのだ。

「あれ? どうしたのですか?」
「……頼むから戦闘中は戦闘に集中してくれ」
「あ、ご、ごめんなさいつい!」

 クララが謝罪した。だが口からは涎が滴り落ちていた。ジュルリと袖で拭う。

「ヒット、クララ! 向かってきました!」
「わかったクララ、メリッサを」
「はい! ま、魔法使います! 光の加護をかの物へ――ライトプロテクト!」

 クララの魔法によってメリッサに加護が与えられ防御力が上がった。これで多少の攻撃は平気だろう。

「挟双剣!」
「ギィイイイ!」
 
 素早い動きで迫り爪を振ってきた戦猿であったが、盾で防ぎ、カウンターで武技を決めることで地面に落ちて動かなくなった。

「メリッサ、あまり硬くはないぞ」
「はい! パワーショット!」

 メリッサも魔法で弓の威力を底上げし、そして魔法の弩を連射し猿たちを撃ち落としていった。

「凄いです皆さん、回復する必要もなさそうですね」
「あぁ、だが油断するな、昇天剣!」
「ウキィイイイ!」

 跳躍しながらの切り上げ、この武技は空中にいる相手へのダメージは更に増加する。空中殺法を得意とする戦猿には有効だった。

「「「「ウキキキキキキキィイイィイイ!」」」」

 大分数が減ったかと思ったが、すると生き残った猿たちが一斉に遠くに響き渡るような叫び声を上げた。

 途端に、近づいてくる猿の鳴き声。気がつけば大量の戦猿にヒット達は囲まれていた。

「随分といっぱい出てきたね」
「あぁ、普通に相手してたら厄介だな」
「もしかしたらチョココヤシ一杯落としてくれますかね?」
「食い気は少し置いておいてくれ」

 呆れ顔でヒットは返す。とは言え、この数は中々に厄介だ。ヒットのキャンセルは基本単体相手に使用するものであり、数で来られると手厳しい。

 1匹2匹キャンセルしたところであまり効果はないからだ。むしろキャンセルすることに気を取られている間に思いも寄らない攻撃を受けかねない。

「「「「「「「ウキキキキキィイイイイイ!」」」」」」」

 そして大量の戦猿が一斉に襲いかかってくる。それに対してヒットは――不敵に笑った。

「今だ! 魔法の爆弾マジックボムを使うぞ!」
「はい!」
「了解です!」

 そして3人が一斉に丸い玉を取り出す。予め購入しておいた魔道具だった。これは文字通り魔法の爆弾であり、投げたそれは一斉に空中で爆発し、猿たちを吹き飛ばした。

「キ、キキィ……」
「結構な威力だったな」

 それほど防御力が高くない戦猿にはこの魔道具は効果覿面だったようだ。黒く焦げた猿の死骸が沢山地面に転がっていた。

 だが、その中でもなんとか生き残ったのはいる。とは言え負傷はしていたようであり、そのまま尻尾を巻いて逃げていった。

 だが、これはヒット達にとっては却って好都合である。

「よし、あの猿を追って塒を見つけよう」

 そしてヒットは2人と一緒に逃げていく猿の行方を追ったのだった――
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