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第43話 メリッサの鑑定の力

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 戦いが始まった。ソーンが先ずヒットに槍で迫る。その近くではメリッサとローズが対峙していた。

「ふん、私があんたみたいな胸しか能がない女に負けると本気で思ってるのかしら?」
「む、胸なら貴方だってあるじゃないですか」

 髪を掻き上げながら冷たい視線をぶつけて来るローズにメリッサが反論した。確かにメリッサほどではないにしてもローズの胸は十分大きい。

「ふん、だからこそ私より大きくて若いあんたが許せないのよ」
「そんな勝手な……」

 確かに身勝手な話である。人間どれだけ頑張っても年は取る。胸にしても成長は人それぞれだ。メリッサに責任のある話ではない。

 だが、そんな理屈の通じる相手なら、こんな馬鹿な真似をしようとは思わないことだろう。

「さて、とっととあんたごとき相手片付けてあげる。あぁでも、どうせならたっぷりと痛めつけてから倒してあげたくもあるわね。ふふ、鑑定しか無いアナライザー如きが私に勝てると思ったら大間違いよ」
「……鑑定しか無いわけじゃない。それに、決定打に欠けるのは、貴方も一緒!」
「……ふ~ん」

 ローズに何を言われてもメリッサが怯むことはなかった。以前のメリッサならきっとここまでの自信はもてなかったことだろう。ローズのいうように、彼女自身がアナライザーには鑑定しか無いと思っていたからだ。

 だが今は違う。ヒットと出会ったことで、メリッサにも戦える自信がついた。

 それにローズ相手に関しては確実に勝てるという保証こそ持てなかったが、ヒットがソーンとの戦いに集中できる時間稼ぎぐらいは出来ると感じていた。

 その理由の1つはローズの魔法にある。薔薇を操れる魔法というのはかなり特殊だが、これまで見てきたこと、それに鑑定の結果を見るに魔法の多くは支援したり相手の邪魔をするものなどがほとんどだ。攻撃に関して決定打に繋がるものは少ない。

「――ローズカーペット!」

 ローズが杖をかざし魔法を行使。メリッサのいた場所とその周辺に薔薇が咲き乱れる。一見綺麗に見えるが、合わせて大量の茨も敷き詰められた。

 一般的な薔薇よりも更に棘が鋭く足を踏み入れると茨が絡まり動きが阻害され殺傷力もそれなりに高い。

 だが、これもどちらかといえば相手の動きを封じ込める意味合いが強い。魔法の効果を知っていたメリッサは素早く薔薇の範囲から逃げ出した。

「――ローズバインド!」

 地面から茨が飛び出し、メリッサを絡みとろうとする。これに捕まると身動きが取れなくなるが、位置を指定して行使する魔法なので動き回っていれば命中率は下がる。

「チッ、ちょこまかと、くっ!」

 魔法を避けながらもメリッサは手持ちのクロスボウで攻撃することを忘れない。ローズは薔薇の壁で魔法の矢玉を防ぐが、詠唱が必要な為かジリ貧にも思えた。

「……なるほどね。あんたが私を相手にしても物怖じしない理由がわかったよ。きっとこう思ってるんだろう? 私の魔法は攻撃向けじゃないって。ま、それは認めるけどね、だからって私に攻撃手段がないわけじゃないんだよ!」
「え?」

 メリッサが目を見開く。何故ならローズの持っていた杖が形を変え、茨で構成されたような鞭に変化したからだ。

「これがただの杖だと思ったのかい? 恐らく鑑定でもそう見えたんだろうけど、こっちだって鑑定対策ぐらいはしているのさ」

 メリッサの鑑定は熟練度3まで上がっている。だからある程度の鑑定妨害は看破することが出来た。

 だが、ローズの持っていた杖にはそれ以上の妨害効果もあったようだ。だから杖の隠された効果までは読み取れなかった。

「――ローズコントロール!」

 ローズが魔法を重ねると、手持ちの鞭がみちみちと音を立てより太く、棘も鋭く、そして長く変化した。

「もともとは薔薇の成長を速めたりするなんてこと無い魔法だけど、熟練度が上がればこういった強化や長さの調整も可能。この鞭は薔薇と同類と見られているからね。さぁいくよ!」

 ローズが鞭を振るうとメリッサの足元が爆ぜ、空気を裂く音がこだました。

「はっは! 私の鞭は音だって切り裂くのさ! あんたの肉も、そのデカイだけの胸も引き裂いてやるよ!」
「くっ、あ、アースシールド!」

 詠唱し、土の盾を現出させるメリッサだが、変幻自在の鞭は盾を避けつつメリッサの白い肌を切り裂いていった。

「あぁ!」
「はっは、いい声で鳴くじゃないか!」

 たまらずメリッサが後ろに下がろうとするが、それを読んでいたようにローズカーペットの魔法が行使され、中に踏み入れたことで茨がその脚を蹂躙した。

「ぐぅ……」
「はは、痛いかい? そうだろうさ!」

 飛び交う鞭を浴び、生命力がどんどん削られていく。たまらずポーションを飲むもこのままではいずれ限界が来る。

(偉そうなことを言っておいて、私はこの程度なの? やっぱり、私じゃ、いや、駄目よ諦めちゃ!)

 一瞬心が折れかけるが、頭を振り自分に言い聞かせる。そのうえで、改めてローズに鑑定を行った。もしかしたら鑑定でなにか得られるものがあるかもしれない。

 とにかくやれることは何でもやってみないと、そう考えたわけだが――

「……え?」

 思わずそんな言葉が漏れる。

「ふふ、いいねぇその顔。全く男も知らないような初な女がそうやって苦渋に塗れた姿を見ると、私はゾクゾクするのさ!」
「……えっと、で、でも、男性経験がないのは、その、貴方も一緒ですよね?」
「……は?」

 その時、ローズの手の動きが止まった。黒目も動揺に揺れ動く。

「な、何を言ってるんだい! 私はね多くの男と浮世を流してきた女だよ!」
「いえ、確かに色々な人とお付き合いした経験はあるようですが、意外と思い切った行動が取れず、そういう雰囲気になっても避けてきたはず。その結果、相手に面倒な女と思われがちで振られることが殆ど」
「や、やめろぉおおぉおお!」
 
 ローズがとつぜん発狂し、髪の毛をくしゃくしゃとかき乱した。どうやらよっぽど触れられたくなかったことのようだ。

 そして、これにはメリッサも驚いていた。だが、それらが事実であることもメリッサがよくわかっていた。

 これらを知ることが出来たのはメリッサの鑑定があってこそだ。そう、メリッサの鑑定はローズを鑑定した時に熟練度が4に上がった。それによって、相手のより細かいところまで鑑定できるようになり弱点がより詳細にわかるようになった。

 どういうことかと言えば、男性経験や恋愛遍歴など見ようと思えばそういった細かい点も覗けるようになり、更に弱点まで分析出来るようになったのである。

 その結果、鑑定が教えてくれたローズの弱点は、男性経験などに触れられることであることがわかった。ついでに言えばメンタルも意外と弱い……。

 なので、本当はこんなことはしたくなかったが、メリッサはとにかくローズのメンタルを責めた。ローズが身悶え、しゃがみ込み、完全に心が折れるまで――
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