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第42話 祈ってやれよ

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「て、てめぇ何しやがった! どうしてニードルとカドが!」
「説明する義理はないな」

 スパイクの問いにまともに答えるきはない。だが、ヒットがやったことはそこまで難しいことではなかった。

 メリッサが逃げたのは、ヒットの意図を察したからだ。メリッサが逃げればスパイク以外の2人が追いかける。それがわかれば十分だった。

 ヒットは追いかけた連中の通り道に設置型のキャンセルを仕掛けた。それだけで十分だった。案の定前を走っていたカドが急停止し、メリッサの魔法の矢が当たった。

 しかもその影響でニードルの動きも阻害された。これは予想外だったが幸運だった。キャンセル1回分が浮いたからだ。

 ニードルの首を切り落とし、後はスパイクだけだ。仲間が殺されスパイクの額に血管が浮かび上がっていた。体に撒いたベルトについた鋲がプルプルと震えた。

「今度こそぶっ殺してやる!」

 スパイクが飛び込んできた。トゲ付きの鉄槌を構え。

「破城槌!」

 武技が発動する。だが、それはすぐキャンセルで潰す。しかし、今回は前と違い怯む様子はなかった。

「また妙な技を使いやがって。だが、そんなの関係ねぇ!」

 今度は自らぐるぐる回転しながら、槌を振るってくる。遠心力も相まって威力は高そうだ。だが避けるのは難しくはない。

 ヒットは飛び退いて鉄槌を避ける。だがなんとスパイクは手を放した。結果、勢いに乗った鉄槌がヒットに飛んでくる。

 これは意表を突かれた。避ける余裕はない。ヒットは円盾で槌をガードした。衝撃は感じたが、ダメージは免れた。

 銀狼の盾はやはりかなり強靭だ。前の革の盾では間違いなく防ぎきれなかっただろうがこの盾は多くの衝撃を吸収してくれた。

「ここからが本番だぜ!」
 
 とは言え、スパイクは止まらない。ダッシュでヒットに近づき、盾で防がれ落ちた鉄槌をキャッチ、だがそこからの行動がヒットには理解できなかった。

「オラオラオラオラオラッ!」

 やたらと気合いが入っているが、スパイクはヒットではなく、ひたすら地面を叩いていた。

 何をしているんだこいつは? と首をかしげるヒットだが。

「うしっ! 土竜叩き完了、今回の記録は52だな。中々のものだぜ」

 ここにきてヒットはピンっときたものがあった。土竜叩きにそして記録――しかし、それがヒットの思ったとおりとして一体なんだというのか、だがその答えは明らかになった。
 
 突如ヒットの真上から見えない衝撃が降り注いだのである。

「ぐはっ!」
「ヒット!?」

 メリッサの緊迫した叫びを耳にしながら、地面を転がるヒット。予想外の攻撃に生命力も5割近く持っていかれた。

「どうやら聞いたようだな」

 スパイクのドヤ顔が目に映るようだった。しかし、ヒットとしても注意が足りなかったと言えたか。意味のわからない行動とは言えもっと警戒すべきだった。

 だが、これで終わったわけではない。ヒットは魔法の袋からポーションを取り出し口につける。

「させるかよ!」

 だが、それを見逃すスパイクでもなく、手に持った鉄槌で瓶を破壊しにかかるが――

「な! また!」
 
 しかし、その動きはキャンセルされた。スパイクの動きが止まった一瞬でヒットはポーションを飲み干し、生命力を回復させる。

「もう同じ手は食わない」
「チッ……」
 
 苦々しい顔を見せるスパイク。確かに一度は喰らったが、おかげでどのような武技なのかがわかった。恐らくそのまま土竜叩きという武技なのだろう。そして何もないところに攻撃していたのは
本人だけに見えるターゲットがあったと推測する。

 土竜叩きのルールと一緒なら、ターゲットに当てた分、つまり記録分の攻撃が相手、この場合ヒットに纏めて降り注ぐのだろう。

 だが、そうとわかってしまえば対処は容易い。ようはあのような動きを見せた瞬間キャンセルしておけばいいのだ。

 発動に時間の掛かる技はヒットとは相性が悪い。スパイクの土竜叩きは完全に初見殺しと言えたが、それで倒しきれなかったのがスパイクの失敗と言える。

「今度は俺から行くぞ」
「くそ!」
 
 ヒットはここで決めるつもりだった。後にも相手が控えている以上、こんな相手にもたついている場合じゃない。
 
「な!」

 だがその時、ヒットの足元から茨が伸び、全身に巻き付いてきた。縛り上げられ、身動きが取れなくなる。

「卑怯なんて言わないでよね。戦いってこういうものなんだから」

 見るとほくそ笑み杖を掲げるローズの姿。どうやらスパイクに気を取られていたところで詠唱を完成させていたようだ。

「流石姐さんだ! これで勝てるぜ! 油断したな!」

 スパイクが強く鉄槌の柄を握りしめた。間違いなく武技が来る――が、その時、風の刃が飛んできてヒットを拘束していた茨が切断された。

「何ですって!」
「お前たちこそ油断したな」

 迫るスパイクの破城槌をキャンセルし、慣性だけを残した。

「俺にも信頼できる仲間がいるのさ」

 武技は発動せず、しかしバランスだけはしっかり崩されたスパイクの首目掛けヒットが剣を振り下ろした。

「あ、兄貴――」

 助けを乞うような目をソーンに向けるスパイクだったが、その願い虚しく、髪の毛のないつるりとした頭がスパンっと切れ、そのまま頭が飛んでいった。

 ゴロゴロと転がった球体は、彼が最後に読んだ兄貴、ソーンの足元で止まった。

「……仲間だったんだろ? 祈りでも捧げてやったらどうだ?」
「この脳筋が仲間? 悪い冗談だ」

 向きを変え、静観を続けていたソーンに告げるヒットだったが、忌々しそうに唇を歪め、手持ちの槍で頭を打ち遠くへ飛ばしてしまった。

「それと、あんな見苦しいものを俺の前に寄越すな」
「とりあえず、お前がくそったれな相手で良かった。遠慮しなくて済む」
「はは、なんだそれは。まさか本気出せば勝てるとでも思っているのか?」

 槍を構え、薄ら笑いを浮かべる。かなり自信があるようだ。

「ヒット、あの魔法使いは私が相手します」

 するとヒットの隣まで戻ってきたメリッサがそう宣言した。名指しされたローズが不機嫌そうに鼻を鳴らす。

「随分と舐められたものね」
「メリッサ、大丈夫か?」
「心配しないで。それに、ヒットを助けるにはこれしかない」

 真剣な目でメリッサが答えた。ヒットは頷く。確かに彼女の言うとおりだった。

 この戦いで絶対にやってはいけないのはソーンに自由に動かさせることだ。その場合ソーンはまっさきにメリッサを狙う可能性が高い。

 それを防ぐには、ヒットがソーンを相手する必要があり、そうなると必然的にローズを自由にさせない役目をメリッサが担うこととなる。
 
「いいことを教えてやろう。俺たちを相手にした時点でお前たちはもう終わり、チェックメイトだ!」

 ヒットとメリッサの話がまとまったその時、ソーンがヒット目掛けて迫ってきた――
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