上 下
32 / 68

第32話 信頼たる仲間

しおりを挟む
「オラッ! さっさと死ね!」

 両手のナイフを巧みに操り仮面の男はヒットを狙ってきた。男のナイフには常に毒が付き纏う。

 毒を喰らうのは得策ではない。ヒットのキャンセルは回復には使えないからだ。受けた傷や毒をキャンセルで取り除くことは出来ない。

「チッ!」

 再びヒットに向けて銀色の光が降ってきた。ただでさえ厄介なヴァイパーの毒攻撃にこの魔法による援護は鬱陶しいことこの上ない。

「魔法に気を取られ過ぎだぜ! 毒ノ乱投!」

 仮面の男が指の間に挟んだナイフを一斉に投げてきた。横に広がる投げ方だ。毒が含まれているが故、一発でもあたれば勝ちと踏んでいるのだろう。

 それは間違いではない。今のヒットには毒に対処する術がない。

 すぐさまヒットは地面を蹴った。上に逃げることで飛んできたナイフを避ける。だが、男はそれを読んでいたようだ。

「馬鹿が! もう逃げ場は無いぜ! 蛇毒追撃刃!」

 仮面の男も地面を蹴った。毒が蛇のようにその腕に巻き付き、突き出したナイフが牙を向いた蛇の如く姿に変化した。

 聞き覚えのない武技だ。指南書絡みの技かもしれない。どちらにせよこれは受けてはいけない代物だ。

「キャンセル!」

 当然のようにスキルを行使。男の腕から毒蛇が消えた。ただ跳ぶという行為は中断されていない。いまの技は攻撃が毒蛇のように変化するという技であり、行動とはセットではないのだろう。

 とは言え強力は技は連続では使えない。今の技を喰らう心配はとりあえずないだろうが。

「それが来るのはわかってたぜ! だが俺に気を取られすぎたな!」

 その瞬間ヒットの全身に強い衝撃が降り注いだ。銀色の光だ。どこかに潜んでいる仲間の魔法が空中にいるヒットに命中したのだ。

「はっは! これで終わりだ! テメェの心臓を抉ってやるぜ!」

 銀光の衝撃によって地面に叩きつけられたヒットを見て愉悦に浸る仮面の男。
 
 そしてヒット目掛けて落下を始め、両手でナイフを構えた。仰向けに転がるヒットの胸に、重力に任せた凶刃が叩きつけられる。

 だが、ヒットは咄嗟に刃と胸の間に盾を滑り込ませその一撃を防いだ。

「な! お前まだ!」
「……読んでたのはお前だけじゃないってことだ」
「な、なんだと? それは一体どういう――」

 その時仮面の向きが変わり、まさか、と声が漏れた。恐らく仮面の奥に潜む瞳は驚愕に見開かれていることだろう。

 仮面の男が見たのはメリッサだった。弓を構えたメリッサだった。

「十中八九、仲間はそう遠くない場所にいると、踏んでたのさ!」

 盾を力強く押し付け、ヒットの上で跨る体勢になっていた男を押しのけた。更に剣で切るがそれは避け男は飛び退いた。

 ヒットは立ち上がり、メリッサに向けて親指を立てた。

 メリッサに攻撃が行かないようにキャンセルを設置し続けていたのは、ただ守るためだけではない。理由があった。

 そもそもただ守るだけならメリッサには一旦逃げてもらった方がいい。だが、メリッサはそれを望まないであろうし、ヒットにとってもメリッサはただ鑑定の為だけにいるわけではない。お互い信頼しあえるパートナーを目指しているのだ。

 突然のことであった為、お互い特に示し合わせたわけではない。だが、メリッサならばヒットの意志を組んで行動してくれるであろうことは彼にも察しがついた。

 だからこそ、この状況でもメリッサは黙って隠れ潜むのではなく移動を繰り返していた。それはもう1人の仲間の位置を探り当てるために他ならなかった。

 鑑定持ちのメリッサは洞察力にも優れている。それに弓も扱うだけあって目もいいのだ。狙い撃ちも併用すれば射程は軽く500mを超える。

 そしてこの男の仲間は魔法系。それでいて扱う魔法は位置指定。つまりヒットたちが目視出来る場所にいなければ成立しない。

 この状況でヒットとメリッサの位置を把握できる場所は非常に限られてくる。先ず地上はありえない。ヒットたちが戦っている場所はまだ開けているが少し離れれば草木に阻まれ安定して位置を掴むことは不可能。そうなれば考えられるのは彼らの位置より高い場所を陣取る以外ありえず、そうなった場合可能性は必然的に木の上となる。
 
 だからこそヒットはもう1人の相手をメリッサに託した。そのうえで相手の居場所を特定させるため、ヒットも位置を変え、最後は空中で敢えて相手の作戦に乗るようにして魔法を受けた。これが相手にとっては致命的となった。なぜならあの場所を狙える位置はそれほど多くはなく、更に他の可能性はとっくにメリッサが潰していた。

 だからこそメリッサはヒットがやられた姿を目にしても動じず、限界まで狙いを定め、木の上から見下ろしている相手を見つけ、狙い撃ちで射抜いたのだ。

「間違いなく急所を捉えました! もう魔法は来ません!」
「助かったメリッサ! 君と組めて本当に良かった!」
「そんな、もったいないよ……」

 感慨深そうな表情でメリッサが呟く。その言葉はヒットには届いていないが、しかしメリッサの行動を無駄にはしたくないという意思ははっきりと現れていた。

「これで形勢が逆転したな」
「何を馬鹿な!」

 ヒットの鋭い攻撃が続く、仮面の男は強気な態度を崩さないが動きに僅かな動揺が見られた。

 それにヒットの言う通りでもある。今までは相手の魔法をヒットが警戒する必要があったが援護がなくなった今、今度は相手が警戒しなければならないのだ。

「ぐ、くそ!」
 
 迫る2本の矢。その内1本はナイフで叩き落とすも1本を肩に喰らってしまう。

 苦悶の声が仮面の奥から漏れた。

「はぁ、はぁ、くそ、確かにこれはちぃとばかし不利か。だが、これでどうだ!」

 男がナイフを投擲する。奇妙な挙動であり、一旦落ち地面スレスレを飛んだかと思えばホップしてヒットの顎を狙ってきた。

 だが無駄な動きが多い分、避けるのはそう難しくはなかった。

 上半身を使ってナイフを躱すと、そのまま上空へと飛んでいく。

「はは! その間に俺は逃げるぜ!」

 だが、どうやら今のナイフはヒットの気を逸らす為のものだったようだ。仮面の男は踵を返し逃走を始めている。

 ヒットたちが倒したメタリックスライムは残されたままだが、あいつはもう1匹のメタリックスライムの死骸を手にしている。何に使うつもりかはわからないが、ろくな目的のためではないことは想像に容易い。

「逃がすかよ」
「いいや逃げるね。俺の攻撃は続きがあるからな!」
「何?」
「ヒット! 上!」

 メリッサが叫んだ。ヒットが軽く顎を上げると、頭上から数多のナイフが降り注いできた。

「さっきのアレか!」
「正解だ、褒美に教えてやるぜ! 毒ノ刃雨だ!」

 広範囲に及ぶ武技だった。流石にこれをキャンセルすることは出来ない。ヒットは盾を構え何とかし凌ぐ、しかしこの状態で仮面の男を追いかけることは不可能であった――
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...