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第22話 錬金術師からの依頼

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 ヒットは錬金術の店で、錬金術師のレリックから依頼を持ちかけられた。一体どういう依頼なのか? と眉を持ち上げるヒットだったが。

「実は月光美人という花から採れる月の雫が欲しくてね。それでもし良かったら請けてくれないかなと思ったんだ」
「それで合成の代金を賄えるのか?」
「月の雫はかなり貴重な素材だしね。採ってきてくれるなら特別報酬として合成代の代りにしてもいい」

 これはヒットとしてはありがたい話だが問題があった。

「とても良い話だとは思うのだが、冒険者はギルドを通さないと仕事を請けられないんだ。報酬の話も勝手に決められない」
「あぁ、その話なら勿論わかってるよ。でも、報酬を代金とは別な形でなら条件報酬として認められるはずだよ。僕は僕で正規の依頼料をギルドにも支払うしね」

 どうやら金銭のやり取りではなく今回のように依頼を請ける代わりに料金以外で約束するのは構わないらしい。

 だが、だとして疑問に思うことがあった。

「でも、それなら普通に依頼した方がレリックさんにとっては安上がりだよな?」
「確かに本当ならそうなんだけど、実は月光美人は満月の時でないと花が咲かないんだ。そして今日がその満月の日でね。実は以前もギルドに話を持っていったんだけどアルバトロンという魔物がいる間は難しいかも知れないと言われていたんだ。だから一旦様子見してたんだけどね」

 話を聞くに目的の花はあのグラスの森にあったようだ。だが、確かにあそこには最近までアルバトロンがいた。尤もそれはヒットが退治したわけだが。

「だけど、もしかしたらそろそろ倒されてないかなって実は今日聞きに行こうと思っていたんだけどちょっと研究に夢中になりすぎて聞きそびれちゃったよ」

 そんなことを言いながら頭を掻くレリックである。

「だから、基本的にはそのアルバトロンを逃れつつ、月の雫を採取してもらう必要があってね。それが可能ならお願いしてみたいなって」
「え~と、それならとりあえずアルバトロンの件は問題ないかな」
「うん? どういうことかな?」
「自分で言うのもなんだが、俺やここにいるメリッサ、それにネエやソウダナという冒険者と協力して倒したんだ」
「ヒットはかなり強いのですよ。アルバトロンを倒せたのも彼の力が大きいのです」

 メリッサが補足するように言った。あまり持ち上げられるのもこそばゆい気がするヒットである。

「なんとそうだったんだねぇ。いやぁなんとなく只者ではない気がしたんだけど僕の目には狂いはなかったようだよ。はは、いや本当本来なら今からではとても依頼を請け負ってもらえるかも難しい話だったんだ。今日の夜を逃すと暫く採れないからね」

 なるほど、とヒットは顎を引いた。まさかアルバトロンを倒したことがこのような話に繋がるとは。ただ、この依頼は請けるにしても今夜限定となるようだが。

「でも、どうして俺を?」
「う~んなんとなくシンパシーを感じたからかな。それに僕が初めて作った魔物の血のジュースも疑問も抱かず飲んでくれたし」
「……もし飲んでなかったら?」
「あはは、今回は諦めたかもね」

 アルバトロンの件も含めてまるでイベント用のフラグだな、なんてことを思ってしまうヒットである。まだゲームとして見てしまっているところがあるなと一人苦笑した。

「ただ、依頼が依頼だからどうしても夜になってしまって野宿必須だと思うんだよね」
「そうなのか?」
「はい、町の門は日が落ちると閉まってしまい町に入れなくなるので」

 メリッサの話で納得が言った。確かにそれならば野宿も仕方がない。

「それにどっちにしても月の雫は溜めるのに時間がいるんだ。その上夜の魔物も出るから、無理そうなら無理強いはしないけど」
「夜の魔物?」
「うん、特に満月だからワーウルフが出やすいんだ」

 ワーウルフ、つまり狼男である。とは言っても人間から狼に変わるタイプではなく、あくまで人間のように二本脚で行動するタイプの狼といったところだが。

「確か銀以外の武器による攻撃が効きづらい魔物だったかな」

 この手の魔物が銀に弱いのはゲームであった設定だ。更に言えば月の満ち欠けて身体能力が変化する魔物であり、フルムーン、つまり満月時は最大限の力を発揮する。
 
 それだけに中々厄介ではあるが。

「そうだね。銀の武器は持っているかな?」
「持ってないな……」
「私もです……」

 ヒットにしてもメリッサにしても銀製の武器は持っていなかった。そもそも銀の武器は特定の相手以外にはそこまで強くない。

 ただミスリルという魔法の銀製であれば鋼よりは強く靭やかだ。尤もミスリル製の武器はかなり高く、ヒット達の予算では手が出ない。

「それなら、もし引き受けてくれるならこれを上げるよ」

 すると、レリックは部屋の戸棚から瓶を取り出し持ってきた。中には銀色の液体が波打っている。

「これはクイックシルバーという薬で、武器などに塗布することで一時的に銀の効果を得ることが出来るんだ」
「それは助かる」

 この薬があればわざわざ銀製の武器を買う必要がない。とても助かる。しかしこのような薬まであるとはさすがは錬金術師だ。

「僕としては、アルバトロンを倒した程の実力があるなら申し分ないし、ぜひともお願いしたいところなんだけどどうかな?」
「メリッサどう思う?」
「ワーウルフは少し怖いけど、これだけしてくれるなら挑戦してもいいかもしれないね」
「うん、そうだな。わかった、そのお話ありがたく受けようと思う」
「良かった。これを逃したら暫くチャンスがなかったしね。なんか次の満月あたりは雨が降りそうな予感もしてたし」

 月齢が地球と同じなら次の満月は15日後ぐらいになると思われるが、当然雨が降れば雲に隠れて満月の恩恵は得られず、花が咲くこともないそうだ。

「それならこれがクイックシルバーと、あと月の雫を溜めてもらう容器ね。これに一杯にしてきて欲しいんだ」

 容器はポーションの瓶と同程度の大きさだ。しかし月の雫は一滴ずつ零れ落ちる為、容器一杯にするにはかなりの時間が必要だろう。

「それじゃあ僕はこれからギルドへ依頼しにいってくるね。指名依頼という形にしておくから少ししたらギルドに顔を出すといいよ」
「わかった。俺たちはこれから装備を見て、それからいくとするよ」

 そしてレリックと別れ、今度は2人でストーン工房へ向かった。
 
 錬金術師の店からストーン工房までは徒歩で20分程の距離があった。コンクリートを素材に建てられた工房のようで箱型の建物と塔のような建造物がくっついたような造りだった。

 恐らく奥にあるのが炉だろう。確かゲームでは魔導反射炉などと呼ばれるものが存在した。

 入口の扉を開けるとモワッとした熱気が漂ってきた。奥からは鉄を打つ音が聞こえてくるが、2人が店に足を踏み入れるとその音も止んだ。

 奥からドシドシという足音が近づいてくる。

「何だ? 客か?」

 姿を見せたのは話に聞いていたとおりドワーフだった。背が低く、しかし筋肉は膨張してるかのようであり筋肉だるまといった印象。

 黒と灰色の中間のような色合いの髪とハの字型の口ひげを生やしておりどちらの毛量も豊富だ。

 そんなドワーフの主人が白目の中に埋もれるような小さな黒目を動かしヒットとメリッサを交互にみやったが。

「うちにようがあるのはお前だな」
 
 そうヒットを指さして言った。この店で購入を考えているのはどちらかということなのだろう。

 指を向けられたヒットは視線だけで店の中を確認。様々な武器や防具が並べられているが、確かにこの中にはメリッサが好みそうなもしくは似合いそうなものはない。

 彼女は重たい防具や武器を好むタイプでもなければいかにも戦士といったタイプの装備を着こなすタイプでもない。

 どちらかと言えば魔法職が好みそうなローブ系を選びそうな少女だ。武器に関しては弓矢があるが、この店では弓は扱ってないようである。

「そうだな、ここには防具を見に来たんだ」

 ちなみに先にストーン工房にきはしたがメリッサの防具も新調できればなと考えている。なのでそれも踏まえて予算を組まなければいけない。

「ふん、だろうな。持っているその剣は中々のもんだが、防具がまるでなっちゃいない。装備ってのはバランスが大事だ。武器だけいいもんを揃えたり防具だけ揃えてるうちはまだまさひよっ子よ」

 なるほどとヒットはうなずく。ゲームでもこだわる人は装備品全てに拘っていた。似たような系統をセットで揃えることに情熱を燃やすプレイヤーもいたのだ。

 尤も後者はコレクター的意味合いも強いが。

「しかし、見たところお前はあまり重い装備が似合いそうにないな。鉄よりは革製がいいってところだろう」
「凄いな。流石ドワーフだ。やはり下手な職人とは見る目が違う」
「……へ、おだてたって、何も出やしないぜ」

 そういいつつも少しだけ口元が緩んでいるのがわかった。基本ぶっきらぼうとされるドワーフだが、こういったちょっとした変化をみると親近感が湧く。

「品を見せてもらっても?」
「当然だ。買ってもらうためにつくってるんだからな」

 ストーンが、ふんっと鼻息を荒くして答えた。なのでヒットは店の中を見て回るが、飾ってあった革製の装備に目を奪われた。

「それに興味があるのか?」
「……あぁ、何か惹かれてな」
「なるほど。中々見る目があるようだな。確かにそれはお前みたいなタイプにはうってつけな銀狼シリーズだ」
「銀狼シリーズ……」

 銀狼の名の通り、銀色の毛がポイントポイントに備わっている防具だった。
 
 銀狼の革鎧、銀狼の篭手、銀狼の脛当てと靴、それに銀狼の円盾なんてものもある。

 全て銀狼シルバーウルフと言う魔物の皮などを素材に使われているようだ。

  革製ではあるが元の皮がそうなのか色は銀に近い。

 試しに持ってみたがかなり軽かった。その上銀狼から作成した革は固く靭やかという。

「ついでに銀狼は銀との相性がいい。だから急所の位置には銀を材料にしたクロムシルバーという合金で保護してあるのさ」

 銀狼の革だけでも十分な防御効果があるが、それだけでは気がすまないのがドワーフ言う種族なのだろう。素材を更に活かすこだわりの作りだ。

「どうだい? こういうのは気に入った時が買いどきだぞ」
「確かに可能なら欲しいが、いくらなんだ?」
「おう、なんとこの一式で100万ゴルドだ。お得だろ?」

 値段を聞き頭がクラクラしてくるヒットであった。
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