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第21話 錬金術師

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 ヒットとメリッサが先ず向かったのは町の錬金術店だ。紹介してもらった優秀な錬金術師の下を訪ねる。

 だが、店の雰囲気はあまりそういった雰囲気はなく。つまりかなり見窄らしかった。看板に店の名前が刻んでなければきっとそのまま素通りしていたことだろう。

 正直店というよりは掘っ立て小屋といった雰囲気の方が強いが、とにかく中に入ってみることにする。

「うわぁ~何か凄いですねぇ」

 店に入った途端、メリッサがそんな声を上げた。外観もかなり見窄らしかったが、中は中で手入れが全く行き届いておらず、所々には蜘蛛の巣が張られっぱなしだ。

 ただ汚いながらも陳列用の棚が存在し、そこには瓶詰めされた薬が置かれていた。棚には札が貼られていて名前と効果が刻まれている。

 薬は薬師店でも購入できるが薬師の店で売られているのは回復系のポーションや状態異常を治す薬などだ。

 一方錬金術師の店では魔法の効果が施された薬が取り扱われている。店は汚いが扱っている商品は手入れが行き届いていた。瓶も染み一つ付いていない。

 正面にはカウンターが見えるが誰もいなかった。奥には開きっぱなしのドアが見えた。その先にも部屋があるのだろう。

「誰かいないのか?」
 
 ヒットが奥の部屋に向かって声を上げた。誰もいないとしたら物騒がすぎるが、耳を澄ますと奥からコポコポと何かを煮詰めるような音が聞こえてきている。

「あれ~? もしかしてお客様かな~? ならちょっと手が離せないからこっちまで来てもらえるかなぁ」

 奥から男性の声が聞こえてきた。気だるそうな声でもあった。ヒットはメリッサと顔を合わせる。小首をかしげる素振りが可愛いと思った。

「とにかく行ってみようか?」
「そうですね。折角だし」

 そして部屋の奥に向かう。

「ふぇ~これはまた……」
「な、何か圧巻されますね……」

 奥の部屋にはフラスコやらビーカーやらが大量に置かれ、ランプで底から熱しられていたり、何かの反応でボコボコ泡立っていたり、妙なガスが天井を覆っていたりした。

 透明な配管らしきものが器具と器具を結び、天井にも皮を剥がされたなんだかよくわからない生物が吊り下がっていた。

 正直かなり独特な部屋だ。何より奇妙なのはこの空間は明らかに外から見た建物より広い。普通はありえないが錬金術とやらで空間のみを上手いこと拡張させているのかもしれない。

 この部屋だけ見ているとそれぐらいは出来そうな雰囲気はある。

「やった! 完成したぞ!」

 すると何やら作業をしていたローブ姿の男が突然叫び声を上げた。メリッサの肩がビクッと震える。

 何か嬉しそうにしている。面長の顔に眼鏡を掛けた男性だ。くすんだ銅の色の髪をしているが、手入れは全くされておらずボサボサだ。着ているローブにしても本来白色なのだろうが、汚れが酷くヨレヨレである。身なりには全く頓着がないタイプなようだ。

「あぁ、済まなかったね。ついつい実験に夢中になってしまって」

 彼は2人を振り返ると、どこか晴れ晴れとした笑みを浮かべつつ話しかけてきた。何かを成し遂げたような面立ちだ。

「あぁそうだ、よければこれを飲んで見るかい? 今作ったところなんだけど自信作なんだ」

 男は何かの器具に乗っていた容器ビーカーを持ち上げて2人に薦めてくる。中身は液体で煙が立っている。

 男はその中身をカップに注いた。

 赤色をした液体で、シュワシュワと細かい気泡がカップの中に溢れそして弾けて消えていった。

「これは一体?」
「うん、魔物の血液を錬金して作った炭酸ジュースさ。ごくごく、うん旨い!」

 男は自らが率先してカップに入ったジュースとやらを飲み干した。メリッサの笑顔が引きつっている。何せ材料が魔物の血液だ。ドン引きなのだろう。

「どうだい君たちも?」
「……それ飲んで大丈夫なものなのか?」
「勿論! 僕だって平気だったろ?」

 そういいつつ、新しいカップに赤い液体を注いだ。熱心に薦めてくるのでヒットはそれを受け取り、ゴクゴクと飲んでみた。

「ヒット!?」

 メリッサが驚いていた。心配そうにオロオロしている。いくら眼の前で錬金術師が飲んでみせたとは言え不安なのだろう。

「どうかな?」
「……トマトの味がする」
「そう! 赤と言えばトマトだよね!」
「えぇ……」

 メリッサが残念な物を見るような目を男に向けた。血と言えばトマトという考えはヒットからすればわからなくもないが、些か単純すぎる気がした。

「どうだい? 美味しいだろう?」
「いや、俺、そもそもそんなにトマトジュースが好きでもないので……」
「そ、そうなのかい?」

 眼鏡の奥に見える瞳が残念そうに揺れた。だが、その視線が今度はメリッサに向けられる。

「あ、その、私もトマトが苦手で……」
「そうなんだ……くっ、これならイチゴ味にしておけば良かったか!」

 拳を握り、悔しがる。そこかよ! とヒットは一瞬ツッコミたくなったが、止めておいた。

「あの、ところで話をしても?」
「うん? あぁそうだった。君たちはお客さんだったね。いやいや研究に夢中になると周りが見えなくなる質で、あ、僕の名前はレリック。見ての通りここで錬金術師をしている」
「ヒットです。そしてこの子がメリッサ」
「よろしくお願いします」
「へぇ、可愛い彼女と一緒だなんてちょっと羨ましいかなぁ」

 ヒットと隣に立ったメリッサを見て、微笑ましそうにレリックが言った。するとメリッサの頬が紅潮し、ヒットは参ったなという顔を見せた。

「俺たちはそういうのではないんですよ。パーティーを組んでる仲間ではありますが」
「そうなのかい? お似合いに見えたけどねぇ」
「からかわないでください」

 横目でメリッサを見やるヒット。彼女が俯いていた為、こんな勘違いされて迷惑だったろうなと彼は考えた。

「はは、そんなつもりはなかったのだけど悪かったね。わりと思ったことは口にしちゃう方なんだよ。あ、それで今日は?」
「あぁ、実はレリックさんが腕の良い錬金術師だと薦められて、2つの魔法の袋を錬金術で合成して貰いたいんだが可能かな?」
「それはもう。色々なものを組み合わせるのは錬金術の得意分野だからね。良ければ見ても?」
「あぁ、この2つなんだが」
「あ、ヒット良かったら私のも合わせたらどうかな? その方がより性能が上がるんじゃないかなって」
「いや、メリッサはそれ1つだし、自分でも持っていた方がいいよ」

 恐らく気を利かせたのであろうが、薬などはメリッサも持っていた方が良いので、その魔法の袋はそのままの方がいいだろう。

「つまりこの容量50kgの魔法の袋と100kgの魔法の袋2つの合成だね。これだと出来上がりは容量200kgの魔法の袋で価格は50万ゴルドといったところかな」
「え?」

 これは、予定外の結果だ。まさかそんなにするとは思っていなかったからだ。

 手持ちが8万5千ゴルドになったことで喜んでいたが、一気に現実に引き戻された気がする。

「あれ? もしかして足りない? これでも普通に同等の魔法の袋を買うよりはかなりお得だと思うんだけど」
「普通だといくらなんだ?」
「200万ゴルドといったところかな。勿論出回っている数でも相場は変わってくるけど」

 ちなみに50kgのでも25万ゴルド100kgだと80万ゴルドはするらしい。ただ、確かにこれだけの魔法の袋を2つ合成するのに必要な予算がそれだけで済むというのは安いと言えるだろう。

「でも、それだと魔法の袋を2つ購入して合成した方が安いと考える人もいるのでは?」
「そういう人の依頼は受けないようにしているんだ。見れば同時に2つ購入したかどうかぐらいはわかるからね」

 なるほど、とヒットは頷いた。

「ところで合成はどうするのかな?」
「あ、あぁ……ちょっと厳しいから出直すことになりそうだ……」

 これはメリッサと相談するまでもなく諦める他なかった。持ち金が全然足りないのだからどうしようもない。

「う~ん、厳しいというのは予算だよね? それに見たところ2人は冒険者のようだし、腕には覚えがあったりするかな?」
「うん? 腕にか?」
「そう。もし自信があるなら、代金の代わりに1つ仕事を請けてみない?」
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