上 下
7 / 68

第7話 ギルドの受付嬢

しおりを挟む
 町は徒歩で40分ほど歩いた先にあった。一本、うねりながら連綿と続く川沿いにある町だ。メリッサによるとこの川はコンベア川というらしく、源泉のある北の伯爵領から南の男爵領まで続き、そこで転回し西の子爵領を横切りつつ伯爵領まで戻り循環し続けているらしい。
 
 このコンベア川を利用し水運が盛んに行われているようで、周辺の領地間の関係も比較的良好だそうだ。このあたりはシーマス子爵の治めるシーマス領だが、コンベア川の流れの中心に位置するため、特に得られる恩恵は多いようだが、同時にシーマス子爵領は肥沃な土壌が特徴で穀倉地として有名なようだ。畑の数も多く、余剰分の穀物を水運で各地へ輸出することで利益を上げている。

 ちなみに北の伯爵領はダンジョンが存在しそれを礎に発展していったようだ。元がゲームの世界にそっくりとは言えダンジョンの扱いも一緒なのかもしれない。ヒットの記憶通りならダンジョンはお宝の宝庫だからだ。

 南の男爵領は鉱山を抱えており、それが主な収入源になっているようだ。これから向かう町の武器も材料は主に男爵領から輸出されてくる金属がつかわれているらしい。

 西の子爵領に関しては果樹園が豊富で良いワインも作られているらしい。

 そんな説明を聞いているうちに町に到着した。話によると旅人にもそこまで厳しくないようで門番は立っているが盗賊であったり罪人ではないかの確認程度で、特に後ろめたいことがなければ町に入るのは難しくないようだ。

「メリッサ! お前、無事だったのか!」

 だが、どうやら今回は様子が少し違ったようだ。町の入口にいた若い男の門番は、メリッサの姿を確認するなり驚き声を上げたのである。

「ふむ、無事というのは?」
「あ、あぁ。いや、先に戻ってきていた冒険者連中に聞いたら、メリッサはゴブリンから逃げ遅れたと言っていたからてっきり……」
 
 なるほど、とうなずくヒット。あの森で見かけた3人が戻り、彼に聞かれて答えたというわけだ。
 ただ、話を聞くに見捨てたということは話してないようだ。自分から評判を落とすような真似はしたくなかったのだろう。

「て、そういえばあんたは?」
「彼はヒットと言って、私がゴブリンに襲われていたところを助けてくれたんです。ヒットがいなければどうなっていたことか……」
「なんとそうだったのか! いやいや冒険者が揃って逃げ出すような相手を、すごいな君は」

 門番に称賛され、少し照れくさくもあったヒットであり、その後はすんなりと町に入ることが出来た。

 壁に囲まれたここはリバルトという名称の町で3000人ほどが暮らしているようだ。

 歩き街並みに注目する。田舎町といった雰囲気が漂っていて、木造住宅が多く平屋と2階建ての住居が混在していた。

 町中を走る道はそこまで本格的なものではなく、雑草を取り除き土面を顕にした程度だ。地面を叩いて均す程度のことはしているかもしれないが、基本は自然のままそこまで手はつけてないと思われる。

「門番の方に言われたことが気になるので、先にギルドに向かってもいいですか?」
「あぁ、構わないよ。俺もギルドに登録したいし」
「ヒットならきっとギルドも大歓迎ですよ!」

 どうやらメリッサからはかなり評価されているようである。食い入るように身を乗り出してヒットの登録を喜んでくれた。

 メリッサの案内で冒険者ギルドの前までやってくる。木造家屋が多い中、冒険者ギルドは赤煉瓦造りのしっかりとした建物であった。ギルドの奥には持ち込まれた魔物が解体出来る解体所と素材を保管しておく倉庫があるようだ。

 ギルドに入る。壁には柱時計が掛けられていて時刻は午後1時を回ったところだった。

 冒険者の数は思ったよりは少ないが、時間によるところもあるのだろう。多くの冒険者は朝依頼を請けてそのまま夕方まで戻ってこないことが多いし、ある程度ランクの高い冒険者であれば長期間留守にすることもある。

「あれ? おい、メリッサじゃないか?」
「なんだ、生きてるじゃんか」
「死んだとか言ってなかったか?」

 ただ少ないながらも、いやそれほど多くないからこそ逆に周りの声が耳に入ってくる。
 
 周囲にいる冒険者の反応を見る限り、やはりメリッサは死んだと報告されたようだ。

「にゃん! メリッサにゃん! 幽霊かにゃん!?」
「あはは、生きてますよ~」

 そしてカウンターにつくなり、受付嬢が警戒心を顕にしてメリッサに問いかけた。毛が逆立ち、爪を立てきそうな雰囲気がある。なぜなら彼女は猫耳を生やしていた。

 その様子からゲームにも存在した獣人だろうとヒットは判断する。

「でも、メリッサの仲間からは死亡届が出ていたにゃん」
「死亡届って、ただ出されるだけで受理されるのか?」
 
 不思議に思い、ヒットが口を挟んだ。猫耳の受付嬢が目を丸くさせる。

「こいつ誰にゃん?」
(こいつって……)

 いきなりのこいつ呼ばわりに眉をしかめるヒットである。

「彼はヒットと言って、私の命の恩人なのです」
「命の恩人?」
「実は……」

 そしてメリッサがヒットとの出会いを含めて掻い摘んで受付嬢に話して聞かせる。

「へぇ、ゴブリンに襲われて危なかったところをこのヒットが助けたかにゃん。とても強そうに見えないけどにゃん」
 
 訝しげに見てくる猫耳嬢。実際強さに関してはヒットもあまり実感していない。元が不遇のキャンセラーというのもあるからだ。こっちの世界ではキャンセルの効果はゲームより大きいので戦えてはいるが、強いと自信をもってはいえない。

「それで死亡届の件だけど」
「あぁ、そうにゃんね、届け出があれば素直に受けるにゃん。冒険者は危険の多い仕事にゃ。それなのに一々ギルドが死亡したかどうかなんて確認していられないにゃん。だから死亡した冒険者のギルドカードも添えてくれば受けるにゃん」
「え? でも、私ギルドカードありますけど」
「にゃ……?」

 メリッサがギルドカードを提示した。それを見て小首をかしげる受付嬢だったが。

「あ! そうにゃん! 確か途中でギルドカードを紛失したと言っていたから仕方ないからなしで受けたにゃん!」
「おい……」

 ヒットが呆れ目で受付嬢を見た。流石にいい加減がすぎるだろうと思う。

「それで、これはどうなるんだ?」
「にゃん、勿論死亡届はすぐに取り消すにゃん。でも、ゴブリン相手にそこまで苦戦するなんてそんなに数が多かったにゃん?」
「数はよくわからないけど、ゴブリンシャーマンとホブゴブリンがいたな」
「にゃはは、何を馬鹿なにゃん。そんなのがいたらF級じゃ話にならないにゃん。依頼もD級クエストまで跳ね上がるにゃん」
「証明ならあるぞ」
 
 メリッサはゴブリンを相手にしたとしか言ってなかったからが、ヒットの話を鼻で笑い飛ばす受付嬢である。

 だが、ヒットが魔法の袋からゴブリンシャーマンとホブゴブリンの頭を取り出し、カウンターに乗せると目の色が変わった。

「にゃにゃにゃ! これはゴブリンシャーマンとホブゴブリンの頭にゃ~~~~!」

 その途端、周囲からどよめきが起こった――
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...