侍と忍者の記憶を持ったまま転生した俺は、居合と忍法を組み合わせた全く新しいスキル『居合忍法』で無双し異世界で成り上がる！

第二章 サムジャともふもふ編

第119話 戦いは運任せ？

　マスカが警戒に動き回りながら炎を膨張したダエーワに浴びせ続けていた。ルンも火球を連発する。

　一方で多腕相手にアクロスは決定打を与えられずにいた。

「くそ、待てよ？　相手は動かない――そうだ！　あんた、また俺に力を上げる刻印ルーンを刻んでくれないか？」

　アクロスがルンに刻印を要求する。どうやら先に付けておいた効果は切れてしまっていたようだ。

「わ、わかったわ！」

　ルンがスキルで刻印を飛ばし、力の刻印を付与した。これでアクロスの攻撃力が再び増加する。

「何か手はあるのか？」
「あぁ。本来なら一か八かだがこいつ相手なら――」

　マスカに聞かれ、祈るような表情で答えるアクロス。そして構えを取ったあと、かなり大きなモーションで振りかぶった。

「おい！　腕が来てるぞ！」
「チッ、間に合えよ！　運否天斧うんぷてんぶ！」

　隙だらけにも思えるモーションから腕を振り下ろし天に向けてアクロスが斧を投げ飛ばした。

「は？　ちょ、どこに投げてるのよ！」
「いいんだよこれで、って、グハァアアァアアア！」

　大量の腕がアクロスに迫り、ボコボコに殴りつける。アクロスはふっ飛ばされ家屋の壁に叩きつけられた。

「そんな、アクロス！」

　ルンが叫ぶ。知り合って間もないが、一緒に戦っている仲間が死んでしまっては当然目覚めgた悪い。

「だ、大丈夫だ。ゲホッ！」

　アクロスが立ち上がり親指を立てるが、直後咳と同時に血飛沫が舞った。命に別状はなさそうだがダメージは間違いなく負っているだろう。

「ルン。そっちも来てるぞ油断するな」
「キャッ！」

　液状化した瘴気がルンに迫る。なんとか飛んで躱すが僅かに液の掛かった裾がジュ～ジュ～と溶け煙が上がる。

「こんなの喰らったら洒落にならないわね……」
「だったら気を抜くな」

　マスカに注意され気を引き締める。ただ、よく見ると膨張した体が徐々に縮んで来ていた。おそらく火によるダメージが溜まってきているのだろう。

　もう少し、とルンが気持ちを奮い立たせる。一方で気になるのは多腕のダエーワだった。

「おらッ、こ、こっちだこっちぃ！」

　ダメージは決して軽くないはずだが、アクロスは上手く多腕のダエーワの攻撃を誘導してくれていた。

　おかげでルンとマスカは膨張したダエーワに集中できる。

「ねぇ！　マスカは向こうを手伝った方が……」
「駄目だ。こっちは一人じゃ捌ききれない。もし私が奴の加勢に入ったらこっちの攻撃が分散されより厄介になる」

　それを聞いてルンは口惜しい気持ちになった。ルンの火力にもう少し余裕があったらこうはならなかっただろうが――

「でも、このままじゃ向こうに全然ダメージが」
「その心配は無用だ！　来たぜ！」

　攻撃を避けながらアクロスがニヤリと口端を緩めた。その時だったアクロスが投げた斧が落下してきて多腕のダエーワに命中した。

「ugoあぉじょｌｘぽあおｗぁｌｊｆｌｓｈｆｌｓｈｆｌ！」

　多腕のダエーワから不気味な声が漏れた。これまでに見られなかった異変である。

「これってダメージが通ってる？」
「なるほど。それがお前の奥の手か」
「おうよ！　運否天斧――天高く投げた斧が落下して相手に当たれば大ダメージ。これはそういうスキルだ！」
　
　アクロスが腕に力を込めて言い放つ。このスキルは発動時の隙が大きく、また天高く投げるという性質上、攻撃は避けられやすい。そのため通常は大まかなあたりを付けて投げる。だが多腕のダエーワは動かない。ならば狙いはハッキリしている。

「よっしゃ回収！」

　アクオスが二本の斧を回収し、腕を避けつつ一旦離れて構えをとった。

「今度は二本同時に行くぜ――運否天斧！」

　投げられた斧が二本同時に天を突き抜けた。
　この技は投げたあと落ちてくる間何も出来ない。一本だけならもう一本残るが、二本同時に投げている為今のアクロスは無手の状態だ。

「逃げ回ってやるよ！」

　多腕の攻撃を必死に避けまわるアクロス。一方でルンとマスカももう片方のダエーワに炎を浴びせ続けた。

「G、Gaxa、あぁあぱｈふぁおｌｈぁっｌｓｈｆぁ――」

　そして遂に膨張したダエーワが倒れた。ほぼ同時に空から落ちてきた二本の斧が多腕のダエーワを捉える。

「ぁｌｋらｈｊｒふぃおあｗｌｋふぁｌんｆｋぁｓんｒｆぁｗｈｌｋふぁｗんｆｈｋｌなｋｌなｌｋｆｈんｋぁｗｆｈんぁｆんぁ!?」

　絶叫が響き渡った。仰け反り方といい斧を喰らったダエーワのリアクションが激しい。

「よっしゃ！　これはクリティカルヒットだな！」

　アクロスが右腕を振り上げる。そして二体のダエーワがほぼ同時に地面に倒れ込んだ。

「ふぅ、これで倒せたか？」
「や、やったの？」
「あぁ、多分、な！」
　
　マスカの声色が変わる。ルンも目を見開き驚いた。何故ならルン達が相手していたダエーワの体が急激に膨張していたからだ。

「おいおい縮んでたんじゃないのかよ？」
「い、嫌な予感しか、しないんだけどぉおっぉぉぉおお！」

　そして――パンパンに膨らんだダエーワが破裂し周囲に瘴気が飛び散った……