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第二章 サムジャともふもふ編
第86話 サムジャ、決意の一手
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決め手は新たに覚えたスキルの侍魂だった。このスキルは瀕死状態でもある程度のダメージに耐えられるようになり、更にその状態での戦闘力が大幅に強化される。
しかし、条件が最悪だ。このスキルが発動したということは、まだ立っていられるが俺は事実上瀕死に近い状態だということになる。
スキルの効果で耐えられているが、この状態では体力も精神力もガリガリ削られていく。
このスキルはまさに気合が物を言う。サムライとしての意地をどれだけ保てるか――精神の糸が切れた瞬間、間違いなく俺は死ぬ。
重要なのはあくまでこの状態では攻撃から耐えているだけということだ。別に防御力が上がったとか回復したなどではない。
超強力な強がりみたいなものだ。だが、その分強化され具合は凄まじい。
抜刀影分身もあっさり数が四倍に達した。燕返しも含めて九十六の斬撃がダクネイルに降り注いだ。
これで初めて俺の攻撃でダクネイルが蹌踉めいた。しかし、逆に言えば相手は手負いの状態でも、これぐらいやらなければ蹌踉めきもしないということだ。
「本当、面白いわね貴方。驚きなのは、レベルに対して技術が妙に熟れているところかしら? まるで前からその技術に慣れ親しんでいるかのように」
――もう一つ、俺がこの女に勝っている物があるとすれば経験だ。これでも一応俺はサムライとニンジャの前世持ちだ。
そういう意味で言えば、スキルを使いこなしているという点では、この女に負けていないかもしれない。
ただ、それ以上にレベル差がありすぎだからな。いくら経験があってもこればっかりはどうしようもない。
だが、逆に俺の経験が活きることもある。この戦い、やはり俺がやるべきことは一つだ。
「居合忍法・氷床の術」
居合省略による発動。この忍法は俺の足元から地面を凍りつかせる。範囲が広がり、ダクネイルのいた場所まで地面が氷に変わった。
「……なにこれ? どういうつもり?」
「居合忍法・抜刀雷咆!」
この忍法は本来口から直線状に雷を放出する。だが抜刀と組み合わせた場合は抜いた刀から雷が発射された。雷による閃光と直線する雷。
恐らく今の俺にとって最速の攻撃がこれだ。
「床が凍っている以上、これは躱せまい!」
「甘いわね――」
しかし声が横から聞こえてきた。雷を避けダクネイルが距離を詰めてきたのだ。そして残った右腕を振るう、が、それは予測していた。
「しまった丸太! ――なんてね」
振り向きざまのダクネイルの突きが俺の腹を貫いた。どうやらこの女、俺が変わり身で回り込むのも呼んでいた、だろうな。
「――消えた?」
「居合忍法・堅牢石の術!」
ダクネイルの疑問の声が耳に届き、ほぼ同時に俺の忍法が発動した。ダクネイルの周囲の地面が岩に変わりそして彼女を囲う牢となった。
これが俺の狙いだった。侍魂で持つ時間は限られている。こう言っては何だがこの短時間の間でいくら手負いとは言え30以上もレベルの離れた相手を倒すのは不可能だ。間違いなく俺が先に限界に達する。
ならば考えられる手はこれしかない。相手の動きを封じての――逃亡だ。
情けないように思えるが、最悪なのは俺が死んだ上で、刀まで奪われることだ。あいつらはどうやらこの刀がどうしても欲しいらしいからな。
下手したら優先順位は刀の方が上だったまでありえる。だから俺は絶対にこれは死守する必要がある。
ならば取るべき行動は逃げの一手のみ。だからこそ侍魂の強化はそのためだけに利用した。
床を氷漬けにし、足止めの為にそうしたと思わせ、攻撃を誘発。そこからの変わり身も悟られる前提だった。
雷咆の術は当てるためと言うよりは閃光で相手の視界を一瞬でも妨げるためだった。強化された俺ならその一瞬で影分身を生み出せた。
その上で変わり身で丸太に変わり背後を分身に襲わせる――そうやって動きが増えれば僅かでも足が氷に取られる。ほんの一瞬の遅れでもいい。それが生じさえすれば岩の牢に閉じ込める事ができた。
あの忍法は発動から岩で囲む前に若干の時間を有する。並の相手なら見てからでは反応出来ないだろうが、あの女ならそれも可能だろう。
だからこそ術を成功させるための油断と僅かな隙が必要だった。そしてそれが見事に嵌ってくれた。
手負いのダクネイルならあの岩からそう簡単には抜け出せないだろう。その間に俺はここから離れみんなと合流する必要があった。
「シノ! 良かった無事、なの?」
「そうとも、言えないかな――」
「ワンワン!」
気配察知でルンとパピィの場所はすぐにわかったが、そこで俺も限界が来た。
倒れ込んだ俺をルンが支えてくれた。ヤバいな意識が飛びそうだ。
「グルルルゥウウウ」
「え? う、うそ――」
「冗談だろう……」
「そんな……」
ルンの怯える声がした。続けてメイシルと鑑定師の震える声も。あぁ、気配でわかった。
あの女、もうあの牢から抜けて来たのか……俺の経験でも想定できなかった結果。しかし、参ったなこれは――
「……フフッ。中々面白かったわよ。貴方、見どころがあるわ。だから今は貴方に免じて退いて上げる」
しかし、この絶望的な状況で聞こえてきたのは暗黒姫のそんな思いもよらない言葉だった。
そういえば言われていたな、こいつは気まぐれだって――
「これはハイポーションよ。その傷でもこれがあればそれなりに回復出来るでしょう? ふふ、それじゃあね。今度会う時にはもっと楽しませてよね。それこそ私が惚れちゃうぐらいに、ね――」
そして暗黒姫ダクネイルは宣言通り去っていった。退いてあげると言っていたが、これは見逃されたと言っていいのかもな――どちらにせよ、どうやら俺は何とか命を拾うことが出来たようだ……
しかし、条件が最悪だ。このスキルが発動したということは、まだ立っていられるが俺は事実上瀕死に近い状態だということになる。
スキルの効果で耐えられているが、この状態では体力も精神力もガリガリ削られていく。
このスキルはまさに気合が物を言う。サムライとしての意地をどれだけ保てるか――精神の糸が切れた瞬間、間違いなく俺は死ぬ。
重要なのはあくまでこの状態では攻撃から耐えているだけということだ。別に防御力が上がったとか回復したなどではない。
超強力な強がりみたいなものだ。だが、その分強化され具合は凄まじい。
抜刀影分身もあっさり数が四倍に達した。燕返しも含めて九十六の斬撃がダクネイルに降り注いだ。
これで初めて俺の攻撃でダクネイルが蹌踉めいた。しかし、逆に言えば相手は手負いの状態でも、これぐらいやらなければ蹌踉めきもしないということだ。
「本当、面白いわね貴方。驚きなのは、レベルに対して技術が妙に熟れているところかしら? まるで前からその技術に慣れ親しんでいるかのように」
――もう一つ、俺がこの女に勝っている物があるとすれば経験だ。これでも一応俺はサムライとニンジャの前世持ちだ。
そういう意味で言えば、スキルを使いこなしているという点では、この女に負けていないかもしれない。
ただ、それ以上にレベル差がありすぎだからな。いくら経験があってもこればっかりはどうしようもない。
だが、逆に俺の経験が活きることもある。この戦い、やはり俺がやるべきことは一つだ。
「居合忍法・氷床の術」
居合省略による発動。この忍法は俺の足元から地面を凍りつかせる。範囲が広がり、ダクネイルのいた場所まで地面が氷に変わった。
「……なにこれ? どういうつもり?」
「居合忍法・抜刀雷咆!」
この忍法は本来口から直線状に雷を放出する。だが抜刀と組み合わせた場合は抜いた刀から雷が発射された。雷による閃光と直線する雷。
恐らく今の俺にとって最速の攻撃がこれだ。
「床が凍っている以上、これは躱せまい!」
「甘いわね――」
しかし声が横から聞こえてきた。雷を避けダクネイルが距離を詰めてきたのだ。そして残った右腕を振るう、が、それは予測していた。
「しまった丸太! ――なんてね」
振り向きざまのダクネイルの突きが俺の腹を貫いた。どうやらこの女、俺が変わり身で回り込むのも呼んでいた、だろうな。
「――消えた?」
「居合忍法・堅牢石の術!」
ダクネイルの疑問の声が耳に届き、ほぼ同時に俺の忍法が発動した。ダクネイルの周囲の地面が岩に変わりそして彼女を囲う牢となった。
これが俺の狙いだった。侍魂で持つ時間は限られている。こう言っては何だがこの短時間の間でいくら手負いとは言え30以上もレベルの離れた相手を倒すのは不可能だ。間違いなく俺が先に限界に達する。
ならば考えられる手はこれしかない。相手の動きを封じての――逃亡だ。
情けないように思えるが、最悪なのは俺が死んだ上で、刀まで奪われることだ。あいつらはどうやらこの刀がどうしても欲しいらしいからな。
下手したら優先順位は刀の方が上だったまでありえる。だから俺は絶対にこれは死守する必要がある。
ならば取るべき行動は逃げの一手のみ。だからこそ侍魂の強化はそのためだけに利用した。
床を氷漬けにし、足止めの為にそうしたと思わせ、攻撃を誘発。そこからの変わり身も悟られる前提だった。
雷咆の術は当てるためと言うよりは閃光で相手の視界を一瞬でも妨げるためだった。強化された俺ならその一瞬で影分身を生み出せた。
その上で変わり身で丸太に変わり背後を分身に襲わせる――そうやって動きが増えれば僅かでも足が氷に取られる。ほんの一瞬の遅れでもいい。それが生じさえすれば岩の牢に閉じ込める事ができた。
あの忍法は発動から岩で囲む前に若干の時間を有する。並の相手なら見てからでは反応出来ないだろうが、あの女ならそれも可能だろう。
だからこそ術を成功させるための油断と僅かな隙が必要だった。そしてそれが見事に嵌ってくれた。
手負いのダクネイルならあの岩からそう簡単には抜け出せないだろう。その間に俺はここから離れみんなと合流する必要があった。
「シノ! 良かった無事、なの?」
「そうとも、言えないかな――」
「ワンワン!」
気配察知でルンとパピィの場所はすぐにわかったが、そこで俺も限界が来た。
倒れ込んだ俺をルンが支えてくれた。ヤバいな意識が飛びそうだ。
「グルルルゥウウウ」
「え? う、うそ――」
「冗談だろう……」
「そんな……」
ルンの怯える声がした。続けてメイシルと鑑定師の震える声も。あぁ、気配でわかった。
あの女、もうあの牢から抜けて来たのか……俺の経験でも想定できなかった結果。しかし、参ったなこれは――
「……フフッ。中々面白かったわよ。貴方、見どころがあるわ。だから今は貴方に免じて退いて上げる」
しかし、この絶望的な状況で聞こえてきたのは暗黒姫のそんな思いもよらない言葉だった。
そういえば言われていたな、こいつは気まぐれだって――
「これはハイポーションよ。その傷でもこれがあればそれなりに回復出来るでしょう? ふふ、それじゃあね。今度会う時にはもっと楽しませてよね。それこそ私が惚れちゃうぐらいに、ね――」
そして暗黒姫ダクネイルは宣言通り去っていった。退いてあげると言っていたが、これは見逃されたと言っていいのかもな――どちらにせよ、どうやら俺は何とか命を拾うことが出来たようだ……
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