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第二章 サムジャともふもふ編
第81話 ルンの推察
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「はは、そんな顔をするな。胸は残念だが、脚は中々いいものを持っていると褒めてやってるのだから」
マジルの発言にルンが不快そうに顔を顰めた。仮面の奥がどんな顔かは知らないが、きっと意地の悪い顔をしているのだろうと考える。
「はは、さて、今度はどの魔法を使おうか」
マジルは左手は固く握りしめ、右手で仮面を弄りながら何かを考察しているようだった。
「ふむ、なら次はこれは。アシッドシュート!」
そして右手を翳すと、手から液体が撒き散らされた。咄嗟にパピィが影で盾を作りルンを守ろうとしたが全ては防ぎきれずルンの顕になった太ももに命中してしまう。
「くっ!」
「ワン! クゥ~ン……」
「大丈夫よありがとうね」
ジュッと音がなり、太ももの一部が爛れてしまった。そんなルンをみてパピィが申し訳なさそうにしていたが、影で守ってくくれなければもっと酷いことになっていたかもしれない。
それがわかっていたのかルンはむしろパピィにお礼を言った。パピィはルンの傷を心配そうに見ながらペロペロと舐めている。
「仲のいいことだ。だが貴様は犬に守られるばかりか? 情けないな」
「だ、だったらこれよ!」
ルンが杖を振り上げると放たれた火球がマジルの頭上に飛んでいった。
「はは、どこを狙って――」
「狙い通りよ!」
ルンが杖を振り下ろすと同時に、マジルの頭上の火球が破裂し、火の雨が降り注いだ。
「な――ぐぉおおぉおぉおお!」
火に塗れ、マジルが怯んだ。そしてその隙をパピィも見逃さなかった。
爪を伸ばし回転しながらマジルに迫る。旋風爪牙である。
「は、馬鹿が――」
しかし、パピィの突撃は何かに阻まれ途中で動きを止める。
「あれはさっきの風の鎧!」
「そういうことだ。残念だったな!」
「キャンッ!」
風によってパピィが弾き返されてしまった。地面を滑るようにして戻ってくる。
「パピィ!」
「グルゥ……」
駆け寄るルンだが、パピィは立ち上がり、マジルを睨めつけた。まだ戦う気概を失ってはいない。
「ムカつく目だ。だが、幾らやっても無駄だ。私にはまだまだ見せていない魔法があるのだからな」
右手を上げ得意がる。だが、ルンには気になることがあった。
「パピィ、さっきから思ったんだけど、あいつ、確かに色々な魔法を扱うけど、どれも中途半端……」
「ガウ?」
ルンはマジルの魔法を振り返る。さらにその言動もだ。そもそもで言えばなぜこいつはわざわざ自分の天職と特徴を教えたのか。
ダクネイルのように気まぐれでそんな真似をするタイプはいる。だが彼女はそれが自信の表れでもあった。
ならば、こいつもそうなのか? わざわざ自分の力を誇示し、自信を魅せつける?
「違う……そうか」
ルンは一つ思い出したことがあった。ダクネイルの明かしたレベルだ。それによるとヴェムは8でこのマジルは7だった。
問題はこの能力に対してこのレベルが高いと言えるかどうかだ。
見る限り確かに様々な魔法を覚えている。つまりこいつはそれだけ魔法の使い手を殺したということであり、それはとても許せることではない。
だが今はそういった感情を抜きにして考える。そして――
「さて、それじゃあそろそろトドメを」
「あんた、さては格上と戦ったことないわね?」
「……は?」
「それどころか。同レベルの相手すら怪しいわね」
杖を前に突き出しルンがマジルに指摘する。
「……何を言ってる?」
「妙だと思っていたわ。確かにいろいろな魔法を使ってはいる。だけど随分と自分の力を誇示する割にどれも決め手にかける。私を殺して魔法を奪いたいならもっと強力な魔法を使えばいい」
「……」
ルンの推察にマジルの答えはなかった。
「だけどこう考えたら納得がいく。あんたが今まで相手して、魔法を奪った相手は全て格下。つまり確実に勝てる相手だけを狙って狩ってきたと、そう考えればね。レベルがそこまで高く思えないのもそのせいね。そしてだからこそあんたは最初に自分の力を誇示した。そうすることで私を敢えて警戒させたそうやって本来の力よりも自分を大きく魅せつける魂胆だったのね」
「……黙れ」
「ふふ、図星みたいね。ちょっと余裕がなくなったんじゃないの? でも、そう考えたら情けない男ね。私相手に喜んだのもレベルだけみて余裕で勝てるとでも思ったからなんでしょう?」
「グルゥ……」
「黙れと言ってるだろう!」
左手をより強く握り、マジルが叫んだ。苛立ちが外に滲み出ている。
「ほら、パピィもすっかり呆れているわよ。邪天教で闇の天職持ちだか知らないけど、あんたって結局のところ、ただの臆病者ってことでしょう? 情けないわね」
「黙れと言ってるだろうが! だったら見せてやるよ! お前の言う強力な魔法をな! クレイジーダイナマイトぉぉおぉお!」
そしてマジルが右手を前に突き出したその時、ルンとパピィの立っていた場所を中心に激しい爆発が生じたのだった――
マジルの発言にルンが不快そうに顔を顰めた。仮面の奥がどんな顔かは知らないが、きっと意地の悪い顔をしているのだろうと考える。
「はは、さて、今度はどの魔法を使おうか」
マジルは左手は固く握りしめ、右手で仮面を弄りながら何かを考察しているようだった。
「ふむ、なら次はこれは。アシッドシュート!」
そして右手を翳すと、手から液体が撒き散らされた。咄嗟にパピィが影で盾を作りルンを守ろうとしたが全ては防ぎきれずルンの顕になった太ももに命中してしまう。
「くっ!」
「ワン! クゥ~ン……」
「大丈夫よありがとうね」
ジュッと音がなり、太ももの一部が爛れてしまった。そんなルンをみてパピィが申し訳なさそうにしていたが、影で守ってくくれなければもっと酷いことになっていたかもしれない。
それがわかっていたのかルンはむしろパピィにお礼を言った。パピィはルンの傷を心配そうに見ながらペロペロと舐めている。
「仲のいいことだ。だが貴様は犬に守られるばかりか? 情けないな」
「だ、だったらこれよ!」
ルンが杖を振り上げると放たれた火球がマジルの頭上に飛んでいった。
「はは、どこを狙って――」
「狙い通りよ!」
ルンが杖を振り下ろすと同時に、マジルの頭上の火球が破裂し、火の雨が降り注いだ。
「な――ぐぉおおぉおぉおお!」
火に塗れ、マジルが怯んだ。そしてその隙をパピィも見逃さなかった。
爪を伸ばし回転しながらマジルに迫る。旋風爪牙である。
「は、馬鹿が――」
しかし、パピィの突撃は何かに阻まれ途中で動きを止める。
「あれはさっきの風の鎧!」
「そういうことだ。残念だったな!」
「キャンッ!」
風によってパピィが弾き返されてしまった。地面を滑るようにして戻ってくる。
「パピィ!」
「グルゥ……」
駆け寄るルンだが、パピィは立ち上がり、マジルを睨めつけた。まだ戦う気概を失ってはいない。
「ムカつく目だ。だが、幾らやっても無駄だ。私にはまだまだ見せていない魔法があるのだからな」
右手を上げ得意がる。だが、ルンには気になることがあった。
「パピィ、さっきから思ったんだけど、あいつ、確かに色々な魔法を扱うけど、どれも中途半端……」
「ガウ?」
ルンはマジルの魔法を振り返る。さらにその言動もだ。そもそもで言えばなぜこいつはわざわざ自分の天職と特徴を教えたのか。
ダクネイルのように気まぐれでそんな真似をするタイプはいる。だが彼女はそれが自信の表れでもあった。
ならば、こいつもそうなのか? わざわざ自分の力を誇示し、自信を魅せつける?
「違う……そうか」
ルンは一つ思い出したことがあった。ダクネイルの明かしたレベルだ。それによるとヴェムは8でこのマジルは7だった。
問題はこの能力に対してこのレベルが高いと言えるかどうかだ。
見る限り確かに様々な魔法を覚えている。つまりこいつはそれだけ魔法の使い手を殺したということであり、それはとても許せることではない。
だが今はそういった感情を抜きにして考える。そして――
「さて、それじゃあそろそろトドメを」
「あんた、さては格上と戦ったことないわね?」
「……は?」
「それどころか。同レベルの相手すら怪しいわね」
杖を前に突き出しルンがマジルに指摘する。
「……何を言ってる?」
「妙だと思っていたわ。確かにいろいろな魔法を使ってはいる。だけど随分と自分の力を誇示する割にどれも決め手にかける。私を殺して魔法を奪いたいならもっと強力な魔法を使えばいい」
「……」
ルンの推察にマジルの答えはなかった。
「だけどこう考えたら納得がいく。あんたが今まで相手して、魔法を奪った相手は全て格下。つまり確実に勝てる相手だけを狙って狩ってきたと、そう考えればね。レベルがそこまで高く思えないのもそのせいね。そしてだからこそあんたは最初に自分の力を誇示した。そうすることで私を敢えて警戒させたそうやって本来の力よりも自分を大きく魅せつける魂胆だったのね」
「……黙れ」
「ふふ、図星みたいね。ちょっと余裕がなくなったんじゃないの? でも、そう考えたら情けない男ね。私相手に喜んだのもレベルだけみて余裕で勝てるとでも思ったからなんでしょう?」
「グルゥ……」
「黙れと言ってるだろう!」
左手をより強く握り、マジルが叫んだ。苛立ちが外に滲み出ている。
「ほら、パピィもすっかり呆れているわよ。邪天教で闇の天職持ちだか知らないけど、あんたって結局のところ、ただの臆病者ってことでしょう? 情けないわね」
「黙れと言ってるだろうが! だったら見せてやるよ! お前の言う強力な魔法をな! クレイジーダイナマイトぉぉおぉお!」
そしてマジルが右手を前に突き出したその時、ルンとパピィの立っていた場所を中心に激しい爆発が生じたのだった――
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